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「おい、そこのたわわに実った果実。」
「な、な、何でそれを知ってるんですの!?」
ミルナが顔を真っ赤にしながら叫ぶ。
「いいや、もうそんな事はどうでもいい。なぜ部屋が散らかっている。」
爺さんの屋敷から戻り、明日から旅行に行くから準備するようにと伝えた。そのついでに部屋の抜き打ちチェックをルティアにさせたら、ミルナだけが散らかしていたので早速リビングで説教しているところなのだ。
「ソフィーは綺麗にしてるのに、また構って貰いたかったのか、このおっぱい。」
「ち、違うんですの!あとおっぱい言わないで!!!」
ミルナが必死に言い訳してくる。なんでもお気に入りの服がなくて探していただけなんだとか。いや探しにしても散らかさずに探せ。なんでこんな惨状になるんだ。
ちなみにソフィーは「綺麗にしてたご褒美に撫でてくださいー!」と纏わりついてきて、やはりうっとおしかったので、いつものように頭を引っ叩いておいた。
「それでミルナ、探していた服はなんだ。」
そんなに見つからないのであればアキが特徴を聞いて召喚してやろう。探し物にも便利な召喚魔法だ。
「え……あのー、いや……その……。」
ミルナが気まずそうに視線を逸らす。この反応を見る限り、どうやら探していたのは服じゃないな。まさかいつものあれか。
「アキ。」
声がしたのでふと隣をみると、そこにはいつの間にかルティアが立っていた。
「どうしたの、ルティア。」
「ミルナの探し物は黒の下着。温泉が勝負だって張り切ってた。」
さらっとミルナの秘密を暴露してしまうルティア。だがやはりそうだったか。
しかし相変わらずこのポンコツお姉さんは碌な事を考えない奴だ。慰安旅行だと言っているだろうが。
ちなみに秘密を暴露されたミルナは引き攣った笑みを浮かべ、無言で佇んでいる。
「そうかそうか、ミルナ。特別に俺がその下着を見つけ出してやろう。そしてその下着を着て『たわわに実った果実食べてくださいませ。美味しいですわよ』ってみんなの前でやれ。」
「何でですの!?おかしいですわよね!?絶対嫌!!!っていうか嫌がらせとかいうレベルではありませんわ!謝りますから!ごめんなさいですわ!!!」
なんか逆切れされた。偶にはアキも理不尽や要求をしてみたかったのだが、逆効果だったようだ。
「わかった、許してやるから2つ約束しろ。」
ミルナに「もう余計な誘惑の練習しない」「部屋も片付ける」の2つを約束すれば許してやると伝える。ただ部屋を片付ける事には素直に了承したのに、誘惑の練習に関しては、物凄く渋々頷いていやがった。どれだけこの子はそんな練習がしたいんだと呆れた。
「だ、だって!私のお姉さんとしての魅力を取り戻さなければいけませんもの!」
「そんなものは元々ない。幻想だ。夢だ。幻だ。」
「そこまで言わなくてもいいじゃないですの!ばかー!」
すっかり拗ねていじけてしまったミルナ。
そういう態度を取る時点で、「お姉さん」とは程遠いのだといい加減理解して貰いたいものだ。まあこんなミルナが彼女らしくて好きなので別にこれはこれでいいんだが。
そんな事よりそろそろ夕方だ。出発の準備やら部屋の抜き打ちチェックやらで随分時間を使ってしまった。
「そろそろエリザ召喚してやる時間だ。」
アキは早速オリハルコンを抜刀する。
エリザは今日荷物を大量に持ってくるはずだ。少し広いスペースのほうがいいだろうと思い、アキは庭にでる。別についてくる必要はないのだが、ミルナやアリア達も律儀に庭に出てきた。
「出でよ、俺の猫。」
別に詠唱は必要ないが、唱えたほうがなんか魔法っぽいので、今回はあえて唱えてみた。これで「よんだかにゃ?」とか言って登場してくれたら完璧なのだが、さすがにないか。
「ただいまにゃ……!こうかしら……?」
エリザが両手を猫のように丸めて何かを練習していた。まあ猫のようにではなく猫なんだが。しかしうちの猫は毎度毎度なんの練習をしているんだ。それに本当に「にゃ」って言いながら出てきてくれた。さすが期待を裏切らない猫だ。
そして案の定大量の荷物を背負っている。あまりにもその姿形が面白いので、アキはつい無意識に写真を撮ってしまった。
「エリザ、おかえりにゃ。」
とりあえず彼女の挨拶にならって声をかけてやる。
するとエリザは石のように固まり、恐る恐る後ろを見る。
エリザは暫く引き攣った笑顔のまま固まっていたが、アキが手を振ってやると正気に戻ったのか、顔を赤くして叫ぶ。
「なんでよおおおお!いつもいつも変なタイミングで召喚しないでよ!」
叫びながら何時ものように丸くなってしまうエリザ。ただあまりにも背負ってる荷物が大きいので、荷物が丸まっているように見えてしまう。ちょっと可愛い。
「うちの猫は可愛いな。」
「うぅ……もうお嫁にいけない。」
「俺の嫁になるんだからいいじゃん。」
「そうだけど違うの!察しなさい!」
エリザがすっかりいじけている。
「しかしすごい荷物だな。」
自分の荷物を全部持ってきたと言ってもいい量だ。どうやらこちらを生活に中心にするつもりなのだろう。仕事の時だけミレーに行って、その他の時間は全部こっちの屋敷で過ごすつもりか。まあそれは別にいいんだが、ずいぶんと思い切った選択をしたものだ。
「まさにこの写真がすべてを物語っている。」
アキはみんなにさっき撮ったエリザの写真を見せる。大量の荷物を抱えて召喚された猫だ。
「な、なんで撮ってるのよ!」
撮られていた事を知らなかったエリザは当然のように文句を言ってくる。
「題して『26歳の猫、初めての家出。遅れてきた反抗期。』だ。どうだ。素晴らしいだろう。」
アリアとシャルが「素晴らしいネーミングです。さすがアキさん」と大絶賛してくれる。だが適当に冗談で言っただけなのにそんなに褒められると逆に恥ずかしいからやめて欲しい。
「やめて欲しいのはこっちよ!?変なタイトルつけないで!そ、そんなじゃないんだから!」
「すまんエリザ、冗談だ。それより明日から温泉旅行なんだけど大丈夫か?」
写真は適当に消しておくと伝え、話を進める。昨日の今日で急に旅行の出発が決まったのは申し訳ない。多分エリザは学園の休みをまだ手配していないだろう。
ただアキの心配は杞憂だったようで、エリザが問題ないと頷く。
「ええ、大丈夫よ。実はイリアさんを呼び戻すまではお休みにしたのよ。そのほうが何かとアキ君のお手伝いできるでしょ?」
「さすがエリザ。助かるよ。」
素晴らしい。アキがお願いするまでもなく必要な手配などを進めてくれている。ベル並みの気配りだ。学園長と組合長を務める手腕は伊達じゃない。
「アキさん!私も!私も頑張ってますわ!」
「そうです!私も頑張ってるですー!」
ミルナとソフィーが懸命に自分達の凄さをアピールしてくる。何故一々この2人は対抗心を燃やしてくるのか。
「いやお前らは部屋の片づけを頑張ってるだけだろう。」
「「違うもん!」」
仕方ないのでこれ以上拗ねる前に撫でてやる。エリザとベルを褒めたんだから、自分達の事も褒めろという事だ。これがまさに昨日言っていた、猫の手でも借りたいというやつだ。
「ん……?」
ただよく考えれば、エレンやリオナは構えとは言ってこない。アリア達も一歩引いて静かに見守っているだけだ。アキに迷惑をかけないよう気遣ってくれている。ミルナとソフィー以外はいい子にしている。
「まさか……?」
この子達はアキの苦労をちゃんと理解してくれている。だからあまり我儘を言ってこない。2人を除いて。もしかしたらこの気苦労は全てミルナとソフィーのせいではないかだろうか。いやそうと言っても過言ではない気がする。
「エレンとリオナはいつもいい子だよね。アリア、セシル、エリスは慎ましやかだし、ベルは奥ゆかしい。ルティアもエリザも控えめだ。それはつまりさ……俺がいつもいつも大変なのってミルナとソフィーが元凶なのでは?」
もしかしてミルナとソフィーがいなければ、アキは平和なハーレムが作れるのではないだろうか。他の子達を構っていると突撃してくるのは基本的にこの2人。たまにエレンやベルが加わるくらいで、何時も決まって暴走するのがミルナかソフィー。
「じゃあポイしましょう!」
シャルが元気よく叫ぶので、ついつい頷いてしまった。
「「待って!それはダメ!!!」」
ミルナとソフィーが叫ぶ。そして我儘を言わないようにするから、いい子にするからと力説してくる。
「なら2人の事はあんまり構わなくてもいい?」
「「それもダメ!」」
つまり口では我儘は言わないでいい子を装うけど、それとなく不満は示すから、察して今まで通り構えという事だろう。なんだそれは。余計面倒臭いだろうが。それなら今のほうが遥かに楽だ。
「ポイのほうが楽ですよー?」
シャルは何が何でもミルナとソフィーを投げ捨てたいらしい。
「待ちましょう!アキさん!早まってはいけませんわ!」
「そうです!私をポイすると後悔します!私の笑顔!笑顔がなくなりますよ!」
ミルナとソフィーは本気で不味いと思ったのか必死に自分の良さをアピールしてくる。だがまあソフィーの言う通り、彼女の笑顔が無くなるのは寂しい。
ただ笑顔はソフィーの専売特許だ。ならミルナは何をアピールしてくるのだろうか。ちょっと楽しみだ。
「わ、私も!ええっと、その、こ、この豊満な胸がなくなりますよ!ほら、ファイナルインパクトできますわよ!」
この暗黒物質は何を言ってるんだ。頭がおかしくなったのか。後、その技を使うのはやめなさい。見ているこっちが悲しくなる。ほら、アリア達の表情が哀れみを通り越して恐怖に染まっているじゃないか。人間わけのわからない者を見ると怯えると言うが、どうやらそれは本当だったようだ。
「それに胸は正直別にどうでもいい。」
大体ミルナのアピールポイントは本気でそこなのか。ただアキがどうでもいいって言った瞬間、この世の終わりのような顔で絶望していたし、どうやら本気のアピールだったようだ。
「ミルナは頑張り屋で、いつも一生懸命だろ。優しくて、美人だし、笑顔も可愛い。いくらでもアピールポイントあるだろうが。何で胸なんだよ。」
「だ、だってー!ばか!ばか!」
さすがに恥ずかしくなったのか、顔を両手で覆って隠してしまう。まあミルナの一番のチャームポイントはこのポンコツさだ。これが無くなるのは少々寂しい。
「安心しろ。俺はミルナが大好きなんだ。ソフィーもな。だからポイしたりしません。いくらでも構うし、気にするな。」
この子達のせいで大変とは言ったが、言っただけだ。アキが疲れる程度ならどうでもいい。この子達全員がミルナとソフィーのように、構えって言ってきても気にしない。その程度の事で彼女達が喜ぶならいくらでも構ってやる。
「は、はい……アキさん。私もお慕いしておりますわ……。」
「やったー!アキさんじゃあチューしましょー!チュー!」
ミルナが可愛らしく呟いたのに比べ、ソフィーにとってはムードとか雰囲気とかは一切関係ないらしい。和やかな空気を考え無しにぶち壊してくるソフィーが恐ろしい。
「エリス、その空気読めない駄エルフをさっさと捨ててこい。」
エリスは「わかったのだ」とソフィーの首根っこを掴んで庭へと放り出す。
「やだー!アキさんー!なんでー!」
ソフィーがなんか叫んでいるが、どうせすぐに戻ってくる。どこへ捨てても戻ってくるし、どこへ逃げても地の果てまで追いかけて来る。まあそれでこそソフィーだ。




