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「イリアの件はそういうわけだ、爺ちゃん。」
翌日、エスタートの屋敷を訪れ、弦月の山での経緯を報告した。
ちなみに当然1人ではない。そもそもアキが1人で来させて貰えるわけがない。案の定、ミルナやアリア達は全員「行く!」と騒いでいた。だが全員を引き連れてぞろぞろと大名行列なんてしたくなかったので、留守番させきた。その代わりにちゃんと保護者としてルティアを連れてきている。これであの子達も文句は言えない。そういう意味でもうちの影は本当に素晴らしい。恥ずかしがり屋だから表には出てこないし、余計な事も言わない。
爺さんとの話も円滑に進む……はずだった。
「なるほどの。それで嫁は10人になったんじゃな!もう増やすんじゃないぞ!」
「違います。イリアさんが入るので11人。私で12人です。さあ、アキさん、私をどうぞ。食べごろです。」
まったく進まなかった。爺さんとイリアナがこんな調子なのでもうミルナ達を連れて来ようが来まいがあまり関係ない気がしてきた。
「おい、糞ジジイにど変態メイド。俺はそんな話してねえ。」
イリアの報告をした後の第一声が何故嫁の数なんだ。
大体イリアナは相当美人だ。アキの嫁になんてならなくても、いくらでも貰い手はいるだろう。たかが1金の賭けの為になに人生を棒に振ろうとしているんだ、このメイドは。
「なんじゃイリアナじゃ不満か?」
「不満とかそういう事じゃないだろうが。俺はアリアが嫌がる事はしたくないんだよ。それだけだ。それにあの子達で手一杯なんだ、これ以上増やさないでくれ。」
これ以上娶るのは多分無理だ。もちろん金銭的な意味ではない。単純にアキの体がもたない。あの子達を構うだけで大変なのに、またミルナ達のようなのが増えたら死んでしまう。まあイリアナの場合、それほど手間はかからないだろうが。
コンコン。
そんなくだらない話をしていたら、爺さんの書斎の扉が開く。お茶を運んできたメイド達だろう。普段であれば爺さんやアキの世話はイリアナの役目だ。だが今日は一緒に談笑しているので、別のメイドにやらせているようだ。
扉の方に目を向けると、アキの予想通りそこにはメイドが2人立っていた。リカとミントだ。爺さんのメイド達の名前もこうしてすっかり憶えてしまった。
「アキさん、お久しぶりです!」
ミントが声をかけてくる。彼女達の間でもアキの事はしっかり認識されているらしい。まあこれだけ爺さんと交流していれば当然だろう。
「ミントさん、どうも。リカさんも元気そうだね。」
「はい、おかげさまで元気にやらせてもらってます。」
そう言いながらリカが小さくお辞儀してくれる。
しかしイリアナと違ってこの2人は非常に礼儀正しい。そもそも変態じゃないというだけで好感度はかなり高い。
「そうだ、2人とも温泉旅行いかないか?本当はイリアナと爺ちゃん誘うつもりだったんだけど、この2人話聞かないからもういいや。」
アキがそう言った瞬間、椅子から勢いよく立ち上がるエスタート。
「またんかアキ!イリアナはともかく、わしはちゃんと話を聞いておったぞ!」
「さらりとご自分のメイドを見捨てないでください。アキさん、このクソジジイを連れていくくらいなら私を是非。ほら、私のほうが華がありますよ。」
必死にアピールを始めるエスタートとイリアナ。まあイリアナは面白がって悪乗りしているだけだろうが。
「華ならミントさんとリカさんのほうがあるし。それに変態はいらない。」
ちなみに誘われた当の本人達は大慌てだ。まさか自分達に話しが来るとは思っていなかったらしい。まあそれもそうか。
「あ、あの!お誘いは嬉しいんですが……で、でもでも!私達なんかが行ってもいいんでしょうか……?」
遠慮がちに聞いてくるミント。隣でリカも必死に頷いている。
「そうじゃぞ!主人を置いてアキと温泉旅行なんて行ったら暇を与えちゃうぞ!」
爺さんが権力を振りかざしはじめた。子供か。
「その時は俺が2人を雇おう。」
「「いきます!」」
あっさりと爺さんを見捨てたミントとリカ。爺さんに対する忠誠心0だ。まあ爺さんもさっきあっさりと2人を切ろうとしたしお互い様か。
「なんじゃと!迷うことなくわしを見限るじゃと……!」
「自業自得かと。」
頭をかかえるエスタートにイリアナが冷静に突っ込む。
とりあえず冗談はこれくらいでいいだろう。ちゃんと爺さんを招待してやろう。さっさと用事を終わらせて屋敷に戻らないとうちの子達に何を言われるかわからない。
「そんなわけで本題だけど。前に言ってた温泉旅行に誘いにきた。一応色々とひと段落したし、4日後まで余計な事は考えたくないからね。誰を連れてくるかは爺さんに任せるよ。でも4人くらいにしてく欲しい。俺の方がそもそも大人数だしね。」
アキの方はエリザを加えて10人。さらに今回はシャルもつれていくので11人だ。移動用の馬車はベルが手配してくれるので問題はないが、それでも結構な人数になる。そこに爺さん達も加えたらと考えると、4人くらいにしてもらうのが妥当だろう。
「来るよね?」
「もちろんじゃ!」
爺さんが満面の笑みを浮かべる。嬉しそうでなによりだ。アキとしても爺さんにはかなり世話になっているから、少しくらいは爺孝行しておきたかったのだ。
「温泉はあそこか?なんじゃったかの……イリアナ?」
「もうボケがはじまったんですか?ミスミルドの東にある温泉街はマリミアでしょう。」
イリアナが辛辣な言葉を爺さんに浴びせる。しかしこのメイド、日に日にエスタートに対する扱いが酷くなっている気がするんだが。
「アキよ……このメイドいらんか?」
「いらん。」
メイドは本当にアリアだけで十分だ。大体隙あらば既成事実を作ろうとしてくるメイドなんていらん。
まあ爺さんはなんだかんだイリアナの事は相当気に入っている。それに辛辣な部分を除けばアリア以上に優秀なメイドだ。だから手放すなんてことはまずない。
「ところで爺さん、宿は取ったほうがいいか?」
「そうじゃな……あの街に屋敷はないの。かまわん、わしが宿を手配しよう。」
屋敷はないが、ミレンド商会の店は多少あるらしいので、爺さんの顔が利くらしい。なら爺さんにまかせよう。これだけの大所帯だと、宿を取るのも大変だ。
「でも金は俺が出すからね。」
「そうか!ならわしは手ぶらでいくぞい!」
野暮な事を言わないあたりはさすがだ。素直に支払いはこちらに任せてもらえた。
「ふむ……アキ達は大部屋のほうがいいかの?」
「なんでだよ。別で頼む。」
あの子達と同じ部屋なんかにすると、誰がアキの隣で寝るか戦争が間違いなく始まる。それにあの子達は際限なく構え構えと言ってくる。せっかくの旅行なのにそれだとアキが休まる暇がない。
「では、アキさんは私と同じ部屋ということで。」
「おまえは来なくていい。」
イリアナが茶々をいれてくる。
だが来るなとは言っても、爺さんは間違いなくイリアナを連れてくるだろう。何故なら側仕えとしてイリアナの域に達しているメイドは他にいないからだ。一応育てようとはしてるらしいが、まだまだなんだとか。
「爺さん、さっき誘っちゃったしミントさんとリカさんを連れていってあげなよ。」
さすがに一度誘っておいてやっぱり行けませんだと可哀そうだ。そもそもアキがその話を振ったのだから口添えしてやるべきだろう。
「うむ、そのつもりじゃぞ。」
爺さんは当然のように頷く。アキが言うまでもなかったようだ。
そんなアキと爺さんの話を聞いていたミントとリカは手を取り合って喜んでいる。そしてすぐさま皆に自慢してきますと部屋から飛び出して行った。こんなに喜んでくれるのなら誘った甲斐もあるというものだ。まあ他のメイド達には悪いけど、今回はこの2人だけにしてもらおう。
「急で悪いけど出発は明日でいい?2泊3日。確か馬車で半日だったよ。」
イリアを異世界へ送還して今日で3日。この旅行計画だと、6日目の夜にはミスミルドに戻って来れる計算になる。7日目の朝にはイリアを召喚しなければならないので、丁度いい。
「うむ、多分大丈夫じゃ。イリアナ、宿の手配頼むぞ。」
「はい。」
イリアナは一礼すると、書斎から出ていった。早速色々と手配しに行ってくれたのだろう。
「じゃあ伝える事も伝えたし、俺はこれで。」
そろそろ屋敷に戻ろるかとソファーから腰を上げる。
「アキ、一つだけいいかの。」
するとエスタートが声をかけてきた。何か伝え忘れでもあったかとアキは首を傾げるが、どうやらそう言う事ではないようだ。
「とりあえず、ご苦労じゃったの。よくやった。」
単純にアキを労いたかったらしい。
「ありがと。色々助かったよ。」
爺さんには多分相当心配をかけた。今回の旅行はその詫びも兼ねている。しっかり感謝を伝えるという意味で楽しませてあげたい。
「うむ、困った事があればいつでもいうがよい。」
エスタートが満足そうに笑う。
アキは改めて爺さんに礼を伝え、屋敷を後にした。
せっかくの旅行だ。全員が楽しめるようにさっさと帰って旅行計画でも練ろう。それにうちの子達に明日の準備をさせなければ。どうせミルナやソフィーは時間が掛かるのだから。




