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では全力であの子達と向き合う為に何が出来るのか。
「そうだな、とりあえず四字熟語辞典でも読むか。」
アキはその第一歩として語学力を鍛える事にした。くだらないと思われるかもしれないが案外重要な事だ。何故ならミルナ達を褒めるのに「可愛い」「美人」だけだと語学力が乏しすぎる。あの子達に対してこれからもそれらは間違いなく口にするだろう。今はそれでも喜んでくれているが、そのうち新鮮味は絶対になくなる。だからその時の為に可愛いや美人に変わる様々な言葉を詰め込んでおきたい。「ミルナ可愛い」「エレン可愛い」「ベル可愛い」「ソフィー可愛い」などと呪文のように褒め言葉を羅列する状況になるのは避けたい。
「何より代わり映えのしない言葉を使い続けるのが俺としては許せないからな。」
少しでも彼女達を褒める語学力を鍛えよう。最近読書をする暇なんてなかったから丁度いい。優雅な夜の読書と洒落こもう。まあ読書と言っても辞書だが。
そんな事を考えつつ、アキは電子タブレットを開く。
「アキ。努力の方向おかしい。ばか?」
急に声がしたので顔を上げ部屋を見回す。するといつの間にか隣にルティアがちょこんと座っていた。
「ルティア、気づかなかったよ。どうしたの?」
「アキが気づかないのは珍しい。考え事してた?」
確かに物思いに耽っていた。どうやらアキはこの子達の事になると、どうしても深く考え込んでしまう傾向があるようだ。
「まあね。でもバカって酷いな。」
「だって、バカ。『可愛い』で嬉しい。」
それにそんな褒め言葉すらいらないのだとルティアは言う。なんでもアキがいるだけで十分なんだとか。そしてそれはルティアだけじゃなく、ミルナ達全員の総意なのだとはっきりと告げてくる。
「俺が嫌なんだよ。ちゃんとルティア達の為に頑張りたいんだ。」
「アキらしい。でも……そういうとこが……す、好き。」
ルティアが恥ずかしそうに俯く。
しかしルティアが呼んでもいないのに出て来るのは珍しい。勿論ダメなわけではない。ただ本当に珍しいのでちょっと驚いただけだ。
それにしてもアキに用事でもあるのだろうか。
「ん……アキの過去聞いたから。家族だから……。用事は……ない。」
「そういうことか。ありがとう、ルティア。」
どうやらアキの過去を聞いて側にいてあげたいと思ったらしい。うちの小動物は可愛いなと優しく撫でてやる。
「そうだ、ルティアの過去も教えて?」
せっかくだし聞いておこう。
彼女が過去に何を見て、何を感じてきたのか。是非知りたい。
「うん、アキならいい。何でも話す。」
ルティアが少しだけ微笑む。
一見いつもムスっとした顔をしてるようにしか見えないが、実は感情豊かなルティアだ。意外に表情が顔に出る。まあ微かにしか表情が動かないので、わかるのはアキやミルナ達くらいだろうが。
「私はサルマリア出身。普通の家庭で育った。」
ルティアが早速自分の過去を語り始める。
冒険者でもなんでもない普通の両親の元に生まれたルティア。小さい頃は活発で、人見知りなど全くしなかった。誰とでも仲良くなれる元気一杯の子供だったらしい。今の極度の恥ずかしがり屋の彼女からはとても想像が付かない。
「でも大きくなると……男に媚びているとか言われた。」
元々女の子と遊ぶより、男の子と遊ぶ時間の方が多かったルティア。男の子達と戦闘ごっこするのが楽しかったのだとか。まあ冒険者時代はAランクまで上り詰めたのだから、小さい頃から運動神経や戦闘センスは抜群だったのだろう。
「女の子からは無視された。そして男の子からはその……」
「ああ、いいよ言わなくて。わかるから。」
これだけの美少女だ。男の子達がルティアに夢中になるのは当然だろう。そんな視線を受け、男の子たちと遊ぶのが嫌になった。そして女の子達からは男に媚びを売ってると言われ、無視される。自然とルティアは孤立した。
「その時くらいに両親が亡くなった。病気。」
両親が亡くなった事で独り身となったルティア。行く当てもなく、信頼できる友人もいない。幸いにも戦闘は出来たから、冒険者となり日々の糧を稼ぐことにした。ただ小さい頃のトラウマから、人と話したくないし、誰とも接したくなかった。だから常に一人で行動し、ひっそりと生きてきた。そして気付いたらいつの間にか影に徹するようになり、影が薄くなっていたんだとか。
「それからしばらくして依頼でこの世界の秘密を知った。」
イリアの後釜として受けた依頼の事だろう。
ルティアは正直どうでもいいと最初は思った。でもルティアの両親はこの世界の事が大好きだった。だからこんな制度、無くさなければいけないと思いなおした。でも何をしていいかわからない。とりあえずオリハルコンを消して、王族を消すしか思いつかなかった。
ルティアは不器用だが、本当に真面目な子だ。普通そんな考え方は出来ない。彼女のそういうところは本当に尊敬できる。
「そしてアキと出会った。運命の出会い。」
ルティアが小さく微笑む。
「俺はそんな大層な人間じゃないよ?」
「そうだもん。私にはそうだもん。」
アキと出会えた事が何よりの幸運で、人生最大の幸せなんだとルティアが力説してくる。
そこまではっきりと言われるのはさすがに恥ずかしい。光栄な事ではあるが。
「それにアキと出会ってやりたい事が見つかった。」
「なに?」
「アキだけの影になる。……そしてお、お嫁さんになる……。」
もじもじしながら恥ずかしそうに呟くルティア。可愛い。小動物みたいで可愛い。
アキとしてもルティアとの出会いは最高の出来事だ。この子が影にいてくれるから色々と無茶ができる。背中を守ってもらえると言うのは本当に心強い。
「そして何よりこんな美少女が俺のお嫁さんになってくれるんだからな。」
「は、恥ずかしい事言うのダメっ!」
ルティアがそっぽを向いてしまう。
そんな彼女の腕を掴み、強引に抱きしめる。ルティアの髪から仄かなシャンプーの優しい香りが漂ってくる。きっとお風呂上りなのだろう。
アキはそのままルティアをそっと撫で、真正面から見つめる。彼女の赤紫色の瞳が吸い込むかのようにアキを見つめかえしてきた。
そしてルティアは意図を察したのか、静かに目を瞑る。
「……んっ。」
優しい触れるだけのキスをする。
「ごめん、嫌だった?怖い?」
ルティアが少し震えている気がした。
「ううん、嬉しい。ちょっと緊張した。」
「それならよかった。」
女の子とのキスはマシュマロやレモンの味がするとよく表現される。ルティアのがまさにそれだ。彼女とのキスはイチゴのような甘い味がした。
やはりルティアもそうなのかと、彼女に女の子らしさを感じたが、よく考えれば違うとすぐに気付いた。ルティアの場合はむしろ逆だ。イチゴのような味がすると言う事は、さっきまで本当に木の実でも食べていたのだろう。
「ルティア、さっき何か食べた?」
「うん?……えっと、ふるーつけーき。」
予想通りすぎて苦笑してしまう。だがまあそれでこそルティアだ。
「これからもよろしくね、ルティア。」
「うん。ずっと一緒。」
ルティアが力強く頷き、アキの胸に顔を埋めてくる。
何か凄くいい雰囲気になった気がする。それなら丁度いい。どうしても彼女には言っておきたいことがあったのだ。
「ルティア……。」
「な、なに……アキ?」
頬を赤くしながら顔を上げ、アキの方を恥ずかしそうに上目遣いで見つめてくるルティア。また口付けされると思っているのだろう。
「俺の嫁になりたいのなら俺の服や下着の匂い嗅ぐのは止めなさい。」
「……っ!な、なに、いきなり!なにっ!」
ルティアが目を見開いて慌てている。
実はルティアがよくアキの洗濯物の中から出てくるとシャルとアリアから報告を受けている。それを聞いた時はこの子はいったい何やっているんだと頭を抱えたくらいだ。
「ち、違うの!アキ!聞いてっ!」
必死に言い訳を始めるルティア。
なんでも洗濯物に隠れていたのは、影として潜んでいただけなんだとか。
「そんなわけないだろうが。」
もしそれが本当だったとしても、影として潜む場所を激しく間違えているだろう。大体隠密性に長けているんだから見つかるなよと言いたくなる。なんでシャルやアリアに見られているんだ。
「で、ほんとは?」
アキが軽く睨むと、ルティアは観念したのか、素直に理由を言ってくれた。
「アキの匂いが……好きだから……。」
ルティア曰く、とても落ち着くらしい。
「アキの洗濯物の中でお昼寝。日課。」
いや、やめて欲しい。そんなところでの昼寝を日課にしないで欲しい。
自分の事を慕ってくれているからこその行動だから気持ちは嬉しい。「あなたの匂いは落ち着く」と言われて嬉しくないわけはない。ただそんなところで昼寝されるのは複雑な気分だ。まあアキも匂いには敏感なので、ルティアがそういう事をする気持ちはわからなくもないが……。
「じ、じゃあアキも私の下着……嗅ぐ?」
「嗅ぎません。だから着物を捲ろうとするのはやめなさい。」
なにが「じゃあ」なのだろうか。とりあえずルティアに着物の裾を掴むのを止めさせる。こんな史上最低のギブアンドテイクは嫌だ。それにここでアキが「是非嗅がせてくれ」とか言ったらソフィーに殺される未来しか見えない。いやむしろあの暴走エルフの事だ、自分の下着を窒息死するまで顔に押し付けてきそうだ。どちらにしろ死には変わりないが。
「私のは……い、嫌……?」
「そんなわけないだろ。俺も男だし興味はある。そういう事じゃないから。」
ここで嫌と言ったらルティアが悲しむ。好きと言ったらただの変態。これこそまさに究極の2択ではないだろうか。
一先ずルティアにはそういうのは男女の関係になってからと無理矢理納得させる。
「わかった。……じゃあ、えっと、うーん……?」
一応納得してくれたみたいだ。ただそれを聞いたルティアは可愛く首を捻って何かを悩んでいる。
嫌な予感しかしない。
「私の事食べて?私のたわわに実った果実美味しいよ?」
ルティアが胸を押し付けながら耳元で囁いてくる。
「後であの暗黒物質はぶっとばす。」
こんなことを言うのはあのおっぱいお化けしかいない。余計な事をルティアに教えやがって。
「……なんでわかるの?」
どうやら正解らしい。というかクイズにもなっていない。どうせミルナの事だから、「誘惑の練習」と称してそんなセリフを自室で言っていたに違いない。
しかしあの子の誘惑は相変わらず壊滅的だ。センスがおっさんすぎて笑う。
「あれ?効果ない?」
ルティアがちょっと悔しそうな表情を浮かべる。
「いや、ルティアは可愛いから効果あるぞ。でもあれを参考にするのはやめておけ。効果が半減する。普通に誘惑した方が絶対いいと思う。」
「むぅ……失敗。」
多分この子は誘惑の仕方がわからないから、ミルナを参考にしたのだろう。「たわわ」の意味すら分かってなさそうだ。まあ参考にする人を激しく間違えているが。
しかしルティアやソフィー達はこのあたりの知識に乏しいので助かる。それに知識があるミルナはセンスが壊滅的だし、ベルやアリアはなんだかんだ恥ずかしがり屋で奥手だ。おかげで無事アキの貞操は守られている。
あの子達は皆美人だ。もし普通に迫られたら、断れる自信はない。下手したらとっくに既成事実を作られていただろう。ただあの子達は普通に迫ってこない。斜め上の方向から誘惑しにくるから、毎回ネタになってしまっている。そのうち正しい知識を覚えそうだが、ミルナがこんな事を練習しているうちはまだ大丈夫だろう。
とりあえず新しい黒歴史を作ってくれた暗黒物質で明日はおもいっきり遊んでやるとしよう。




