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その後はエリザの部屋だけ決め、解散とした。
「本当にしょうがないな、ソフィーは。楽しいからいいけど。」
うちの可愛い暴走エルフに苦笑しつつ、アキは自室のソファーでのんびりと1人の時間を過ごす。寝る前の日課になっている瞑想の時間だ。まあ瞑想といっても、修行僧がするような大層なものではなく、自分の考えをまとめる為に思考に浸るだけだが。
とりあえずイリアとの話し合いが上手くいったのは本当によかった。
だが正直自信はあった。何故ならイリアは自分と同じでミルナ達に影響された人間だからだ。あの子達には他人を変えてしまう不思議な力がある。
「凄い子達だ。」
本当に凄い魅力をを持っている子達だと思う。まあアキやイリアの心が隙間だらけだったというのもあるが。アキは世界に絶望していて、人生なんてつまらないと思っていた。イリアはお役目だけで終わるかもしれない自分の人生に絶望していた。そんな自分達に「絶望する必要なんてないんだよ」と気づかせてくれた。自分の人生なんだから好きに楽しく生きるべきなんだと。もちろんミルナ達にそんな自覚はないだろう。全部あの子達が無意識にやっている事だ。
「そんな2人だから気が合ったのかもな。」
アキと似たような境遇のイリア。話していてどこか心が安らいだ。楽しかった。やはりミルナ達の言う通り、アキとイリアは似た者同士なのかもしれない。
そんなイリアは故郷である異世界で上手くやっているのだろうか。
「とりあえず元気で無事ならそれでいいが。」
まずは彼女が無事でいてくれることを切に願う。1週間後に呼び戻した時、何事もなかったと元気な姿を見せて欲しい。
「そして平和な世界なら尚更いいんだが。そしたら気軽に物見遊山に行けるしな。」
果たしてイリアの世界はどんなとこなのだろうか。平和に越したことはない。だがそうでない場合は少し面倒くさい事になりそうだ。文明が滅びているとか戦時中とかでない事を祈るばかりだ。
どちらにせよ、こっちの世界への干渉がなければなによりだ。それがわかれば、ベルに魔獣召喚廃止を実行させ、改革を進めさせられる。
「そういう意味では、報告書を転送してた位置へイリアを送り込めたのはよかった。」
もちろん危険は伴う。ただこの世界への干渉の有無についての確認は素早く済む。もし転送先にイリアの報告書が放置されているのであれば、この世界への干渉は「今」は無いと言える。長年誰も利用していないのであれば、そう言う事だ。ただもし誰かが定期的に回収しているのであれば、その限りではない。
「最悪の可能性を一応考慮しておくか。」
それはイリアの世界が混沌としている事だ。そしてこの世界での魔獣実験も継続中であり、やめる気はない場合。さらにはイリアが転送先で拘束されてしまっている。おそらくこれが考えうる一番最悪のパターンだろう。
ただ万が一捕虜の身となっていたとしても、1週間後に召喚するので救出は出来る。まあイリアがそう簡単に捕まるとも思えないが。
そしてもしそんな世界だったとしたら、イリアを呼び戻した際、彼女はきっとアキに助けを求めてくるだろう。
「その時は全力で助ける。」
個人的にはイリアの事はとても気に入っているのでなんとか助けてやりたい。それにアキとしても、この世界に干渉してくる可能性がある限り、どのみち傍観はできない。
「その時は俺自身が向こうの世界に乗り込む事になるだろうな。」
とりあえず、ある程度の予想は出来た。後はイリアの報告を待ってからだ。
平和ならよし、平和じゃないならアキがなんとか助ける。
「でもな……向こうの世界で俺がどの程度通用するか。それが問題だ。」
イリアの世界にも魔素があるのであればなんとかなるだろう。もちろん大気魔素濃度がこの世界と同じと仮定した場合だが。もし違っていたりしたら、アキは何の役にも立たないかもしれない。そもそも地球のように魔素自体が存在しない可能性だってある。その場合アキに出来る事なんてないだろう。まあこの世界で魔獣召喚による実験を行っていたのだから、魔素がある可能性は高いとは思うが。
「そして……果たして本当に異世界なのか?」
召喚魔法印の転送座標指定の術式の複雑さから、異世界である可能性が高いとアキは結論づけたが、何もそれが正しいとは限らない。術式自体は依然不明なので、別大陸の可能性だって十分にある。もし召喚印の向こう側にも魔素が存在しているのであれば、尚更この世界の別大陸かもしれない。
「俺が行けば早いんだがな……。」
アキが乗り込めれば、環境条件や気象条件などから、同一世界かの見定めはできるだろう。そして行くこと自体は容易だ。ただ戻ってくることが出来るかがわからない。だから躊躇してしまう。
アキが向こうに行ってしまった場合、誰がアキをこの世界に再召喚してくれるのか。多分自分以外にはできない。つまりもし向こうに魔素が無ければ、戻っては来られないという事だ。
地球から渡航して来た時に使った装置を作る手もあるが、向こうの世界の文明が地球と同レベルじゃないと、材料が揃わない。それにもし文明レベルが一緒だったとしても、地球とは間違いなく気象や環境が違うだろう。だから同じ装置を作ってもこの世界への門を開く事は難しい。
「魔素がありさえすれば簡単な話なんだがな。」
魔素があるなら行き来は自由。アキが一度向こうの世界に行って、その世界をイメージ出来るようにさえなれば、好きに転送・召喚をする事が可能になる。この世界に地球の物を召喚出来ているのだから、一度行きさえすれば大丈夫だろう。
「なんにせよ、本当にイリアの報告待つしかないな。もどかしい。」
向こうの世界の事があまりにも不明すぎるので、明確な計画が立てられない。予想は出来るが、それはあくまで予想だ。
そんな状況だからこそ、アキはミルナ達に温泉旅行を提案した。この屋敷に居れば今みたいに結論が出ない事を延々と考えてしまう。だからこの旅行はミルナ達の為と言うよりは、自分の為だ。
「それにうちの子達とちゃんと向き合う時間を作らないとな。」
さっきエリザを召喚して全員集合させたのにはちゃんと意味がある。うちの猫で遊ぶ為ではない。あれは改めて「これだけの女性を養わなければならないんだ」という覚悟を自分自身にさせる為だ。
いくらハーレム万歳と開き直っても、さすがに10人も娶るとなれば気後れしてしまう。覚悟が無かったわけじゃない。ただ自信がないだけだ。あんないい子達をちゃんと大事にしていける甲斐性が自分にあるのかが不安なのだ。
「それでもあの子達は大丈夫と言ってくれそうだけどね。」
彼女達はアキにそこまで求めていない。一緒にいるだけでいいと言ってくれるとは思う。
でもそれではアキが納得いかない。
せっかくできた家族なのだから、全力を以って大事にしていきたい。節操がないとか、女たらしとか、誰に何を言われようがそんなものはどうでもいい。彼女達を幸せに出来るのであればどんな道化にだってなってやる。甘い言葉が欲しいと言われれば言ってやりたいし、構えと言われれば構ってあげたい。それくらいしか今の自分にはしてあげられることが思いつかない。ならばそれを全力でやるだけだ。
「でも全員集めて実践してみたけどあれは大変だ。っていうか無理。」
彼女達を集めたのには、実はもう1つ理由がある。全員同時にちゃんと構えるかを試したかったのだ。まあ当然のように無理だったわけだが。ルティアを甘やかしたら、ミルナ達も甘やかさなければいけない。ベルを撫でたら、アリア達も撫でなければならない。これは手がいくつあっても本気で足りない。猫の手を借りたいどころではない。
「まあうちには本物の猫がいるけど……。って現実逃避してどうする。」
それにこんな状況、周りからみれば女をとっかえひっかえしてる最低の屑野郎だ。
「それなのにあの子達は嬉しそうだからな……。どうしたものか。」
アキの節操のない行動に彼女達は一喜一憂してくれる。とても嬉しそうに笑ってくれる。そんな彼女達を見ていると、もう止めるわけにはいかない。ひたすらあっちで撫でたり、こっちでキスしたりするしかない。
「俺死んだら嫉妬地獄へいくんだろうな。うん。」
間違いなくそうなる気がする。現世で美少女に囲まれた分、死後はとんでもない苦痛を味わいそうだ。
「ただ今も結構大変なんだけど。」
いや、結構どころではない。めちゃくちゃ大変だ。
おかしい。ハーレムってこんな大変な物だったのか。
アキが読んだ事のある小説だと、主人公は何もしなくても、女の子達が甲斐甲斐しく世話を焼いてくれていた。それなのにアキの場合は甲斐甲斐しく全員の世話を焼いている。何故だ。大体アキ1人であの10人を世話をするのは体が持たない。どう考えても持たない気がする。
「でも自分を慕ってくれる子達だ。何もしないのは主義に反する。全員平等に愛して、大事にしてやらないといけない……と思う。」
まあ結局、アキが東奔西走するしかないということだ。疲れるし、果てしなくしんどい。でもあの子達が嬉しそうに笑っているのであれば、それも悪くない。それが何よりの癒しになる。
「頑張るしかないか……今更1人にしますとか言えないしな。」
もしそんな事言ったら世界大戦規模の戦いが始まる気がする。怖い。そして終戦後は、敗戦兵によるアキ暗殺計画が実行されるに違いない。特にソフィー辺りが「えへへ、アキさん。一緒に死にましょうですー。」とか笑顔で刺殺してきそうだ。もうめっちゃ怖い。
「でもまあ……うん誰もいなくならなくて本当によかった。ソフィーが、ミルナが、エレンやリオナがいてくれる。そういう意味ではイリアの件は最高の結果だ。」
ミルナ達がいなくなる可能性は1割くらいだと考えていた。うちの子達は9割方「両方!」と意地でも言い張るだろうとは思っていた。9割なのであれば、あんなに寂しがる必要はなかったかもしれない。でも逆を言えば、1割はその可能性があるという事だ。そして人生ってのは意外とその1割に偏る事が多い。もしその1割が選ばれてしまったら、ミルナ達はアキの元から去ってしまう。そう考えるとどうしても切なくならずにはいられなかった。9割もあるから大丈夫という楽観主義者にはなれない。特にこの件に関しては絶対に無理だ。
「ミルナ達がいなくなるって考えただけで心が震える。」
自分はこんなに弱かったんだと思ってしまうくらいに。
「だから本当によかった。」
もしかしたらこれからもこういった事があるかもしれない。その時の為に今のこの気持ちだけは忘れないようにしておこう。忘れなければきっと何とかなる。あの子達がいてくれる事を当然とは思わず、これからも全力で彼女達と向き合っていこう。




