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「アキさん、そのおばさんは誰ですか?」
質問があると言っての第一声がそれとはさすがシャル。空気を一切読まない辺りが凄い。そしてシャルが発言した瞬間、「それは言っちゃダメな奴」ってミルナ達は冷や汗を垂らしているし、おばさんと呼ばれた張本人であるエリザは引き攣った笑みを浮かべている。
「ア、アキ君?その失礼極まりないおこちゃまは誰なのかしら?」
シャルに対して必死に反論するエリザ。頑張れうちの猫。
「私はアリアお姉ちゃんの妹です!そしておこちゃまじゃないです!おばさん!」
「お、おばさんいうなあああ!お姉さんなの!おねーさん!私はまだ26歳なの!」
そうなのか。それは知らなかった。はっきりとエリザの年齢は聞いていなかったので今初めて知った。どうやらエリザは26歳らしい。しかし26歳と13歳が言い争っているってのはどうなんだろう。しかも26歳が負けそうになってるし。
「えー、私の『倍』じゃないですか。」
「だからなによ!……わ、私はぴちぴちよ!」
「腐りかけの間違いでは?」
シャルの攻撃に段々と涙目になるエリザ。そろそろ止めてやらないとエリザが泣かされそうだ。
「シャルちゃん、そういう事は言っちゃダメだよ。お姉さんって言ってあげなさい。エリザは俺の大事な仲間だからね?」
「そうなんですね!ごめんなさい!エリザお姉さん!」
シャルがわかりましたとエリザに謝る。アキには素直なシャル。そして一応謝罪はされたエリザだが、納得はいってない様子だ。ただここで言い返すのは大人げないとわかっているらしく、頭を抱えてなんか色々葛藤している。
「エリザもお姉さんなんだから許してあげようね。ちなみにシャルちゃんは俺の新しいメイドさん。アリアの妹だから一緒に居た方がいいって爺さんの計らいで雇う事になったんだよ。」
「そうなのね。ま、まあ、私はおねーさんだから!寛大な心で許すわ!」
強がっているうちの猫が微笑ましい。
そしてミルナ達は早速シャルの犠牲になったかと同情の目でエリザを見ている。実際この子達は全員シャルの餌食になっている。この中でシャルの被害に遭ってないのはアキとルティアくらいだ。
「話が逸れたから戻すけど、アイリス女王に諸々の報告を頼めるか?」
「ええ、わかったわ。やっておくわね。」
これでミレーへの報告は大丈夫だ。エスペラルドやサルマリアへの報告はベルに任せておけばいいだろう。
しかし召喚魔法は便利だ。これでいつでもエリザを呼べるようになった。これからはもっと彼女との時間も取れるだろう。
「エリザ、学園の方は順調?」
「ええ、問題ないわよ。」
世間話がてらエリザの近況を聞く。どうやら特に問題はなさそうだ。うちの猫が息災のようで安心した。
「で、エリザ。本題なんだけど、いいか?」
「あれ?さっきのイリアさんのお話じゃないのかしら?」
エリザが不思議そうに首を傾げる。勿論それも本題だ。ただそれとは別にエリザに聞いておきたい事がある。重要な事だ。
「エリザ、俺の嫁になりたいか?」
「にゃ……なにを急にいってるのかしら!」
今絶対「にゃ」って言おうとした。可愛い。
ちなみにミルナ達に驚いた様子はない。どうやらアキがその話をする事はわかっていたようだ。
「召喚使えるようになっただろ?毎晩こっちにくる?ってことで聞いたんだ。」
恋人や嫁でもない女性を毎晩勝手に召喚するのはおかしい。それに呼んでもいいと取り決めをしていたとしても、毎日呼ぶものでもない。エリザはアキの事を慕ってくれているとは思う。ただ言葉で何かを約束したわけではない。だからちゃんとはっきりさせておきたい。それによってエリザと今後どう接するかは変わってくる。
「うー……理屈はわかるけど……。ち、ちなみにアキ君は私の事を……そ、そのお嫁さんにしたいのかしら!?」
エリザが顔を真っ赤にしながら聞いてくる。そして言い終わると、両手で顔を覆ってしまう。ありったけの勇気を振り絞っらしい。どんだけ初心な26歳だ。
「どちらかというと俺の猫にしたいけど?」
「なんでペット枠なのよ!?おかしいでしょ!」
斜め上の回答が返って来たことで大層不満そうな顔をするエリザ。勇気を振り絞って聞いてくれたのにこれは少し意地悪だったようだ。
「冗談だ。俺はエリザの事は慕ってる。だからまあエリザが望むならね?」
「そ、そう……?じゃあ……その……し、してください!私をお嫁さんに!」
顔が爆発しそうなくらい真っ赤だ。26歳なのに。
「年齢は関係ないの!さっきから『26歳なのに』ってつけるのやめなさい!!!しょうがないじゃない!今まで恋したことないんだもん!」
すっかり吹っ切れたらしく、自分の恋愛遍歴をヤケクソ気味に語り始めるエリザ。
今までずっと魔法研究ばかりで、誰かと付き合った事すらない。言い寄られた事は数えきれないくらいにあるが、よくわからなかったし興味もなかったので無視していた。でもミレーでアキが構ってきた時はなんか心が動いた。そしていつの間にかアキの事を慕っていた。自分でもなんで急にそう思ったのかわからないとエリザが必死に説明してくる。
「だ、だからその……好きなの!」
26歳の一世一代の告白だ。シャルが何かを言おうとしたが、アリアが止めてくれた。さすがに女の子の告白を邪魔するのは野暮だと思ったようだ。
「えー、『好きなのにゃ』って言ってくれないとやだ。」
「ちょっとおおおお!頑張ったまさかの返答がそれなの!?」
エリザが尻尾を逆立てて文句を言ってくる。
そしてアリアからは「せっかく私がシャルを止めたのになんで自分から野暮な事するんですか」と冷ややかな視線を送られている。ミルナ達も「やっぱりこの人外道だ」って鋭い視線を突き刺してくる。
おかしい。これではまるでアキが悪いみたいではないか。
「いや、さすがにアキが悪いと思うのだ。」
「ええ、私もそう思います。」
エリスとベルが溜息を吐く。
「まあ……ほら、おいで、エリザ。」
言葉で伝えるのは少し恥ずかしいので、返事は行動で示す事にする。
素直に近づいて来てくれたエリザを抱きしめ、そっと尻尾を撫でてやる。そういや彼女の尻尾を触るのも久々だ。やっぱりこの子の尻尾はふさふさでとても触り心地がいい。
「ありがとう、エリザ。」
「ううん、こんな私を貰ってくれて嬉しいわ。」
エリザが幸せそうに尻尾を揺らす。
「それで、どうする?夜はこっちにくるか?」
「いいのかしら?私としては嬉しいけど。」
部屋はまだ余っているし何も問題ない。むしろアキとしてはエリザがこっちにいてくれたほうが嬉しい。うちの大事な猫は常に手元においておきたい。
「そ、そう……なら来るわ。」
「それはよかった。じゃあ毎晩18時くらいにこちらへ来て、朝の7時くらいにミレーに戻る感じで大丈夫か?」
「ええ、それでいいわ。」
エリザは学園での職務があるので、毎朝出勤しなければならないのは仕方ない。うちの猫さんは立派な社会人だ。
「じゃあ今日はこちらへ泊っていけ。」
「ええ、もちろん!」
これでエリザも正式にアキの嫁だ。きっとさらにこの屋敷が賑やかになる事だろう。
しかしこれで嫁の数は10人となる。爺さんの予想だとこれで終わりだが、イリアナの予想だとあと2人らしい。果たしてどうなることか。
「あれ?アキさん、イリアいれたら11人じゃないですかー?」
だから11人ですよとソフィーが訂正してくる。
だがイリアを嫁にすると決めているのはソフィー達だけで、正式に娶ると決まったわけではない。何よりイリアがその気でないならアキは増やすつもりはない。
「イリアはそれを望むとは限らない。」
「えー、望んでますー!」
そんなのは当然ですとドヤ顔で宣言するソフィー。
「彼女の意思を堂々と無視するのはやめてあげなさい。」
この駄エルフは「この世の全ての女性はアキに惚れて当然」という考えているらしい。なんだそれは。そんな事があってたまるか。
大体その理論でいくなら、アキはあのレイアのババアにすら惚れられているという事になるだろうが。なんかそれは死んでも嫌だ。
「あの……気持ちはわかりますけど、それ私のお母さんですから……。」
セシルが苦笑しながら告げてくる。だが気持ちはわかるらしい。
そういえば……と思いアキは辺りを見回す。さっきからルティアの姿が見当たらない。
「ルティア。おいで。」
「なに?アキ。」
多分彼女の事だから、気恥ずかしさで影に潜ってしまっていたのだろう。エリザとはちゃんと話した事もなければ、素顔も見せなかったはずだ。その証拠に今も恥ずかしそうにアキにしがみついている。アキが呼んだから頑張って出てきてくれたのだろう。
とりあえずエリザにちゃんとルティアを紹介する。するとやはりエリザもあの影がまさかこんな美少女だったとは思っていなかったようで、目を見開いて驚いていた。
「それでアキ?どうしたの?」
ルティアがなんで呼んだのと聞いてくる。
「うん、大事な事を思い出してね。」
嫁の話をしている時に気づいた。ルティアにもちゃんと聞いていなかった事に。
「ルティアを勝手に数にいれちゃっていた。ごめんね。」
「……?何のこと?」
ルティアが不思議そうに首を傾げる。
さっきアキは嫁の数は10人だと言った。その数に自然とルティアもいれてしまっていたのだ。はっきりと彼女に確認したわけではないのに。
「ごめんね。」
「謝らないで。……聞くまでもないのに。」
ルティアは頬を膨らませて小動物のように拗ねる。まあルティアなら頷いてくれるのはわかっている。彼女の懐き具合を見ていれば一目瞭然だ。でもちゃんと聞くのが筋だと思っているので、こればかりは譲れない。
「俺はルティアが好きだよ。だから俺の嫁になってくれるか?」
「当然。お嫁さんなる。私もアキが好き。」
ルティアは力強く頷き、抱き着いてくる。
これで今度こそ10人だとちゃんと言い切れる。
「よかった。」
「ばか。アキから離れるわけない。」
何時の間にかルティアは完全に外套を投げ捨て、アキの膝に頭を乗せてごろごろしている。恥ずかしさはもうどうでもいいらしい。それよりアキに甘えたいようだ。ミルナ達はアキがルティアを膝枕しているのにどこか不満気だが、ルティアだからともう半分諦めている。
「でもアキさん、もしイリアをお嫁さんにするなら11人になりますわね?」
ミルナが嫁の数に話を戻す。戻さなくていいのに。
しかしうちの子達はイリアが嫁になると信じて疑ってないようだ。まあ別にそれでもいいのだが、正直これ以上嫁は増やしたくない。勿論イリアが嫌なわけではない。そういう意味で増やしたくないのではないのだ。
「どういうことですの?」
ミルナはわからないようで手を顎にあてて考えている。
「いや……イリアナの予想は12人だろ?11人になったら、あの駄メイドが絶対自分で自分を立候補してくるだろ……。」
アキの発言を聞いてイリアナの性格を知っているミルナやアリア達は「あー……」と悩まし気な表情を浮かべる。
そう、あのメイドなら絶対そうする。間違いない。そしてその状況は果てしなくめんどくさい。想像するだけで頭が痛くなる。だからアキとしては10人でもいいと思っているのだ。
「アリア、あの屑メイド、止まると思うか?」
「無理ですね……申し訳ないですが、私には止められません……。」
困った表情を浮かべるアリア。ミルナ達も彼女に同意するかのように激しく頷いている。
「もういいや、考えるだけで疲れるから止めよう。今は現実逃避しておこう。」
「そうですね……そうしましょう。」
珍しくアリアも現実逃避して忘れる事にしたようだ。
そう、せっかく久々に全員が揃っているのだから、他の話をしよう。どうすればイリアナを嫁にしなくていいかなんて話しても仕方ない。




