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弦月の山からミスミルドの屋敷へ戻って来て2日がたった。シャルの事もあったので、早々にミスミルドに引き上げたのだ。それに弦月の山にいると、サーシャからのアプローチがしつこかったというのもある。
イリアが戻ってくるまで1週間。それまではのんびりと過ごす予定だ。
とりあえずイリアの件はこれでひと段落着いた。魔獣召喚廃止にはまだ少し時間がかかるだろうが、まずは1つ片付いた。ミルナ達もイリアと話せてどこか安心した様子だ。ずっと背負っていた重荷を下ろしたそんな雰囲気。まあこの数年必死に探していたイリアがやっと見つかったのだ。そうなるのも当然だろう。
「アキさん!チューしましょー!」
「ええい、帰ってきて早々暴走すんな。この駄エルフが。」
ソフィーが強引にキスしようとしてくるので引っ叩く。人がせっかくリビングで寛いでいるんだから邪魔をするんじゃない。イリアが見つかってこの子達は安心していると言ったが、どうやらこの駄エルフに関してはそんなレベルじゃなかったようだ。制限という首輪が外れてさらに自由になっている。不味い、これはいよいよ手に負えなくなってきた。
「だって、アリアさん達だけずるいですー!」
ソフィーが頬を膨らませる。さてどうしたものか。
とりあえず一緒にリビングで寛いでいたミルナ達に聞いてみる。
「え、ミルナやエレンもしたいの?」
「そ、そんなことありませんわ!」
「そうよ!だ、誰があんたとなんか!」
2人は顔を真っ赤にして否定する。まあこの2人の反応は予想通りだ。
「ほら、ソフィー。別にずるくないみたいだよ。」
「この2人はヘタレだから無視してくださいです!」
ミルナとエレンなんて放っておいていいからさっさと自分にキスしろとせがんでくる。さすがソフィー。しかしそんな言い方をしたら暗黒物質と猛獣が黙っていられるわけがない。
「誰がヘタレですか!」
「ヘタレじゃないわよ!」
無事3人で言い合いを始めてくれた。これで暴走エルフの突撃は一先ず阻止出来ただろう。相変わらず扱いやすい子達で助かる。
ちなみにレオはいつも通り少し離れた位置で「あはは」と苦笑している。
「ところでレオ、いやリオナ。もう『レオ』はいらないだろ?」
「え……あ、うん……そうなるのかな……?」
今後の事はまだわからない。それはイリアが異世界から戻ってきてから決める事になるだろう。だが「イリアとの再会」という当初の目標は達成した。つまり彼女がこれ以上レオでいる必要はない。
「だったらリオナになってこい。さあ着替えておいで?」
「……!うん!そうする!アキ、待ってて!」
レオは嬉しそうに尻尾を揺らしながら自室へ駆けて行った。一体どんな服を着てきてくるのか楽しみだ。ミルナ達もいつの間にか言い争いを止め、レオの様子を嬉しそうに見つめていたる。きっとレオがリオナに戻る日を誰よりも楽しみにしていたのは彼女達だ。
「アキ……。」
暫くするとレオは着替え終わったのか、リビングの扉からちょこっと顔をのぞかせる。早く入ってくればいいのにどうしたのだろうか。
「リオナ、着替えたのか?」
「う、うん……。」
恥かしそうに頷くレオ。多分久々に女の子らしい格好をしたから照れ臭いのだろう。中々踏ん切りがつかず、部屋に入れないようだ。
仕方ない。ここは手伝ってやろう。そう思い、アキはレオの元へ近づき、彼女の手を掴んで強引に部屋の中へ引き摺り込む。
「ち、ちょっと待ってよ!」
「大丈夫。リオナは可愛い。」
レオはいつもの少年らしい格好ではなく、深紅色のフレアスカートに白のペプラムトップスを着ている。ミレー王国でアキがレオに選んであげた服だ。予想通りレオの紫色の髪と琥珀色の瞳によく似合っている。うちの狼が凄く可愛い。きっとわざわざアキに見せる為、これを着てきてくれたのだろう。
「ほんとに?」
「うん、抱きしめていいか?」
「うん!」
アキが聞いたのに、レオのほうから抱き着いてきた。尻尾がぱたぱたと嬉しそうに揺れている。
「リオナはいい匂いがするな。」
「えへへ、アキから貰った香水つけたんだよ。」
以前ミルナ達には香水をあげたが、当然レオにもあげていた。少年の格好をしているのだからいらないと遠慮していたが、この日の為にと無理矢理押し付けておいたのだ。
「そっか。でも何もつけてないリオナの匂いも好きだったけどな。」
「ほんと?嬉しい。」
アキが褒めると尻尾がさらに激しく揺れる。相変わらずわかりやすい尻尾だ。
「もう今日からはリオナでいいのか?レオは終わり?」
「うん。レオはもういない。私は……リオナだよ。」
はっきりと「リオナ」がそう告げる。
「おかえりなさい、リオナ。」
「リオナです!やっと呼べるですー!」
「ええ、そうね。リオナ。」
口々にリオナの名前を呼ぶミルナ達。まるで自分達にこれからは「リオナ」と呼ぶように言い聞かせているようだ。
これで「レオ」は完全にいなくなった。今まではアキだけがリオナと呼んでいたが、今日からはミルナ達もリオナとして彼女を扱う。1人の女の子としてリオナを扱うのだ。
「リオナ。」
そっと彼女の名前を口にするアキ。
「なに?アキ……んっ!」
リオナが顔を上げた瞬間、アキは彼女に優しく口付けをしてやる。
「んっ……!?」
急な出来事にリオナは目を見開き、尻尾の毛を全部逆立てて吃驚している。
だがこれは当然の流れだ。もう彼女達に対して遠慮することはない。イリアの事があったから色恋についてはアリア達を優先してしまった。でも今日からはもう何も気にしなくていい。なら約束していた口付けをしてあげようと思っただけだ。
アキはさらにリオナを強く抱きしめ、彼女の柔らかい唇の感触を楽しむ。
「んっ……。」
リオナが妖艶な吐息を漏らす。最初は驚いていたリオナだが、今は目を閉じて、満たされたような表情でアキに全てを委ねている。尻尾が優しくパタパタと左右に揺れている事からもリオナが喜んでくれているのが分かる。
「急にごめんね。」
長い口付けの後、リオナに一応謝る。
「ううん。謝らなくていい。嬉しかったもん。」
今度はリオナ方から短い唇と唇が触れるだけのキスをしてきた。恥ずかしいのか、リオナの顔が真っ赤だ。
ちなみに事の成り行きを見守っていたミルナ達は、ぽかんとアホの子のような顔をしていたのだが、やっと正気に戻ったようで、全力で叫ぶ。
「な、な、なにしてるんですの!?」
「そ、そういう事は人前でするなあああ!」
ミルナとエレンはリオナ以上に顔が真っ赤だ。やはり初心な2人だ。
「リオナ!ずるいですー!私もきせーじじつが欲しいです!」
ソフィーだけは口を尖らせて拗ねている。あと既成事実とか言うのはやめなさい。このエルフは乙女の恥じらいとやらをどこに落としてきたのだろうか。今すぐに拾ってきて欲しい。
一先ず暴走するソフィーを宥め、改めてリビングで寛ぐ。
「アキ……」
何故かリオナはアキの隣に座ってずっと寄り添ってくる。もう我慢しなくてよくなった分、思いっきりアキに甘えようという事なのだろうか。
まあすっかり女の子しているリオナはとても可愛いので、彼女の好きにさせよう。
「他の3人はまた今度な。」
「わ、私は別に!」
「そうよ!別にしたくないわよ!」
相変わらず素直になれない様子のミルナとエレン。表情を見てれば「いいなぁ……私も……」というのはバレバレなのに。
「俺がしたいんだ。ダメか?」
「ダ、ダメじゃないですわ……。」
「べ、別にアキがしたいのなら……いいわよ……?」
自分達はそれほど興味はないですよとすまし顔だ。これで上手く誤魔化せてるつもりらしい。まあこの2人は自分から素直に言う事は出来ないだろうから、今回はアキの方から言ってやることにした。
「ぶーぶー!」
一方、ソフィーの機嫌がなかなか直らない。何故自分が1番じゃないのかとさっきからひたすら文句を言ってくる。
「いや、ソフィーよく考えろ。初めてのキスくらい雰囲気欲しくないか?」
さっきから「キスですー!」しかこのエルフは言ってないから、雰囲気なんて出来る訳もない。そんな適当な感じでソフィーだってして欲しくはないだろう。
「雰囲気より事実ですー!」
ダメだこのエルフ。やはり乙女心とか全くないらしい。美少女で女の子らしくてとても可愛いのに、中身はただのおっさんだ。
「ミルナ、エレン。この駄エルフなんとかして。」
「無理ですわ。」
「無理よ。」
2人がはっきりと宣言する。この子達でも無理らしい。
「でもミルナとエレンは雰囲気欲しいよね?俺がおかしいだけじゃないよね?」
「え……ええ。そうですわね。出来たらその……部屋で2人きりの時が……。」
ミルナが顔を真っ赤にして俯く。この暗黒物質はなんだかんだ純情だ。
「……その、できたら綺麗な夜景とか見ながらがいいわ……。」
エレンも頬を染めながら小さく呟く。やはりエレンも同じだ。
ちなみに余談だが、エレンの部屋はぬいぐるみだらけで、とても女の子らしい。うちの素直じゃないツンデレの猛獣が可愛い。
「そんなくだならない事はどうでもいいのです!とりあえず、きせーじじつですー!」
この駄エルフ、ミルナとエレンの理想のシチュエーションをくだらないとか言いやがった。よくもまあここまで何も考えずに発言出来る物だ。ある意味尊敬する。
「「あんたちょっと来なさい。」」
「あれ?なんですかー?ミルナさん、エレン?あれー?」
ミルナとエレンが無表情でソフィーを引きずって隣の部屋へと消えていった。
まあ当然そうなるだろう。見事なまでに空気の読めないエルフだ。あれは相当怒られる。まあ自業自得だが。
「ソフィーは馬鹿だね……。」
さすがのリオナも呆れ声だ。
「まあ、ソフィーだしな。でもリオナは理想な展開にしてやれなくてごめんね。」
「ううん。リオナの時にしてくれた。それだけで十分幸せ。」
リオナがここぞとばかりに抱き着いてくる。そして「ソフィーが怒られている間はアキを独り占めできるね」と嬉しそうに笑っている。
どうやらうちの狼もすっかり強かさを覚えてしまったようだ。




