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異世界の観察者  作者: 天霧翔
第十九章 イリア
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「1回話をまとめると、イリアはこの世界で生まれたが、この世界の人間ではない。そして自分の世界に行った事はなく、行きたいと思っている。って事でいいか?」

「うんうん、それでオッケーかな!」

「なるほど、じゃあ少し確認させて。多分協力できる。」

「うん、いいよ。」


 なんでも聞いてと頷くイリア。


 アキは早速イリアにいくつかの質問を投げる。彼女の故郷はどんな世界なのか、名称はあるのか、何かわかる事はあるのか。


 その世界の状況がわからないと魔獣召喚を廃止する事ができない。イリアは向こうからは何も連絡はないと言っているが、イリアの報告書が届いているから連絡がないだけかもしれない。もしこの世界の報告を送るのを止めたら何かしらの干渉が始まるかもしれない。


「ごめんね。何もわからないんだ。全部両親から聞いただけ。文献も何も残ってない。証拠は残さないのが私達の掟だからね。本当になんでこんなことしているかも知らない。」


 イリアは申し訳なさそうに目を伏せる。だがそれは想定の範囲内だ。


「気にするな。それより母親が月夜の森で命を落したってのは本当なのか?」

「あ、それね!本当だよ!足滑らせて頭打ったんだよねー!」


 イリアはドジだよねと特に悲しむ様子もなく話す。


「そうなのか……。」

「うんうん!」


 あの情報にまさか何の意味もなかったとはさすがに思わなかった。母親が命を落したのは本当だが、今回の件には何の関係もなかったようだ。


「じゃあイリアが今やろうとしてる事は両親とは何の関係もないのか?」

「うん、ないよ?あ、でも家族がいなくなって1人になったからこそ動こうと思ったのはあるかな?ちなみに父親は私が小さい頃に病気で死んじゃったよ。」


 両親を亡くし、1人になったイリア。そんな時にミルナ達と出会い、観察者として生きる毎日が嫌になった。彼女達を見習い好きに生きようと決め、まずは自分の故郷である世界へ行きたいと思った。そう言う事なのだろう。


「なるほどね。それであいつらはなんでイリアを襲ってきたわけ?」

「あー……あはは。言わなきゃダメかなー……?」


 イリアはどこか言いづらそうに視線を逸らす。


「いや、言いたくないならいいよ。」


 別に無理に聞き出そうとは思わない。そこまで必要な情報でもないだろう。


「うーん……でもアキならいいや……うん。あのね、ほら私達って観察者として代々生きてきたわけで……そ、その、子孫をね?」


 イリアは恥ずかしそうにぼそぼそと呟く。全て聞き取れなかったが彼女の言いたい事は大体わかった。


「あいつらの誰かを夫にして子孫を残せと?」

「誰かとって言うより全員かな?今の世代、女って私しかいないからね。」


 イリアがえへへと気まずそうに笑う。


 なるほど。それもあったからイリアは自分のお役目が尚更嫌になったのかもしれない。仕方ない事とは言え、年頃の女の子が納得出来る事ではないだろう。


「まあ、もう始末したから気にするな。大丈夫だ。」


 イリアを優しく撫でてやる。すると嬉しそうに目を細めて微笑むイリア。


「うん、ありがとう。あはは、アキに撫でられるの好きかも。もっと、もっとして。」


 イリアとの時間はどこか懐かしい気持ちにさせられる。何故だろう。


 暫くの間、アキは彼女を撫で、その一時を楽しむ。しかしあまりのんびりもしてられない。早く話を終わらせないと、うちの子達が突撃してきて大騒ぎになるのは間違いない。ミルナ達が来る前にある程度の結論は出しておかなければならない。


「大体わかったよ。でもイリアは何であいつらに俺のしようとしている事を報告しなかったの?」


 報告していればもっと面倒な事になっていた。こんなあっさりとイリアと話す時間を作れなかっただろう。そもそもイリアのお役目を考えるなら、報告されていてもなんらおかしくはない。


「ふふ、それはね……ミルナ達が慕ってるんだからアキは悪い人のわけがない。それにあいつらの事、嫌いだったもん。そもそもお役目自体が嫌になってたのもある。だから報告しなかったかな。まあ……アキを襲っちゃったけどね?えへへ、それは許してほしいかな……なんて。だめかな?」


 イリアが許してと可愛らしく首を傾げる。


 まあ襲われたのは正直仕方ない。アキがそうするように仕向けたのだから。襲われるような行動を取っていたアキにも責任はある。それにイリアが仲間にアキの事を報告しなかったおかげで面倒事が色々回避できた。だからお互い様という事だ。


「気にしてない。それよりイリアは自分の世界に行けたとして何がしたいんだ?」

「えっとね、まずはこのお役目を私にさせた人をぶっ飛ばすかな!あとは故郷を見て回りたい。その後どうするかは……まだわからないかな。こっちに戻ってくるか、そのまま向こうにいるか。」


 戻って来られるかもわからないしねと呟くイリア。


「それでも自分の故郷である世界はどうしても見たい。だから片道切符でも構わないかな。で……アキは私の力になれそう……?かな?」


 イリアは少し不安そうな目でアキを見つめてくる。


「イリアを転送すればいいんだろ。今からやるか?」

「はい?」


 間抜けな声を出すイリア。目をぱちぱちさせて驚いている。


「魔法印の解析は終わってるんだよね。」

「ええええええ!?うそおおおおお!!!!」


 アキの服を掴んで「ほんとなの?」とイリアが叫ぶ。近い。そんなに顔を近づけるな。美少女に迫られるとドキドキするだろうが。


「落ち着け。まずは落ち着け。」


 とりあえずイリアを落ち着かせる。まあアキの切り出し方も悪かった。ちょっと驚かせてやろうかと思っただけなのに、まさかこれほど取り乱すとは。


「う、うん……ごめん。」


 とりあえずアキは集めた情報を元に、魔法印を解析した事を伝える。


 術式の詳細な意味までは分からないが、魔法印の構造は把握しているし、別の言語での再現も実証済みだ。実用化には成功している。


「ちなみにオリハルコンって何の為に使われてるのか知ってる?」

「ううん。わからない。」


 続けてイリアに、オリハルコンの説明する。何故魔法印にオリハルコンが必要で、どのような役割を担っているのか。そしてアキならば、魔法印を使わずしてオリハルコンの力を使用する事が可能だとも付け加える。


「え、じゃあさっきの魔法はそういう事なのかな?」

「そうだよ。驚いてなかったからてっきり知ってるのかと。」


 アキが襲撃者を撃退する為に魔法を使った時、イリアは特に驚いていなかった。だからアキが何をしたのかは理解していると思ったが、そういったわけではないようだ。なんでもアキの魔法の特殊性は以前剣を合わせた時に見たから、それと似たような物だと思ったらしい。


「だから魔法印とオリハルコンの使い方はわかってる。」

「す、すごいね……。なんだ、それなら最初からにアキにお願いすればよかったんだね。」


 無駄な事をしたと苦笑するイリア。だがそれを言うならアキだってそうだ。そもそもイリアに対して「故郷に戻してやるから出ておいで」と最初から言えばよかっただけだ。でもそれをしなかった。まあしなかったのには理由があるんだが。


「それで俺の目的なんだけどね。なんでこんな事をしてるのか。」


 アキは何故魔獣召喚を廃止しようとしてるのかをイリアに説明する。ベル、アイリス、そしてステラと出会い、この制度廃止の為に尽力している事を話す。魔法印を解析した。オリハルコンを使えるように研究もした。全ては魔獣制度廃止の為だ。


「あれ?じゃあなんでまだ廃止してないの?アキなら出来るんじゃないかな?」


 全ての解析や情報収集が終わったのに、何故まだ魔獣召喚を廃止してないのかがイリアにはわからないようだ。確かにアキなら出来る。というか魔法印を撤去すればいいだけの話だ。


 だがそれはまだ出来ない。


「何故ならイリアの世界の人間が干渉してくる可能性があるからな。」


 イリアから今聞いた話を加えたとしても、魔法印を撤去して、その世界が干渉してくるかどうかは依然不明。イリアの世界がどんな文明で、何が目的でこんな事をしているのか、それらをまずは調べる必要がある。


「なるほど……確かにアキの言う通りかな。」


 イリアが納得したよと頷く。


「ああ、でも一番の目的を言い忘れていた。」

「ん、なにかな?」

「ミルナ達の為にイリアを探す事だな。」

「あはは!そっかそっか!なるほどね!」


 イリアがそれなら目標達成だねと楽しそうに笑う。


 確かに達成はした。だがミルナ達の望み通りの結果になるかはまだわからない。それはイリアがどうするか、ミルナ達がどうするか次第だ。


「ねえ、話を進める前にさ……アキの世界の事教えてくれないかな?」

「うん?ああ、別にいいよ。」


 そのくらいの雑談をする時間はまだある。


 アキが地球でどんな人生を送っていたか、何故この世界に来たかをイリアに話す。そしてこの世界でミルナ達と出会い、アキがどう変わったのか。ミルナ達に救われた事や彼女達を好きになった事。この世界に来て心から良かったと思っている事。全てを包み隠さず、イリアに語る。


「そっか……アキも色々あったんだね。でもあの子達が私とアキが似ているって言ったの少しだけわかる気がする。」


 イリアはこの世界でのお役目に辟易していた。ミルナ達と出会い、自由に生きる事の素晴らしさに気づいた。そして故郷である別世界へと行きたくなった。一方アキは、地球での人生に絶望していて、この世界に来た。そしてミルナ達に出会った。彼女達に人生の素晴らしさを教わり、この世界で生きてく希望を、新しい人生を貰った。


「やってる事は逆だね。でもミルナ達から貰った物は同じ。あはは、私達似た者同士なのかな!」

「そうかもな。」


 アキはイリアと見つめ合う。ミルナ達を慕う者同士、何か通じ合った気がした。


「私の世界はどんなところなのかな。この世界みたいに綺麗な世界だといいな。まあ……こんな実験するくらいだから碌でもない世界なのかな?」


 イリアがどこか遠い目をしている。まるでまだ見ぬ自分の世界に思いを馳せているかのようだ。


「それは行ってみてのお楽しみでいいんじゃないか?楽しみはとっておけって。」

「あはは、そうだね!うん、そうする!」


 嬉しそうに頷くイリア。


「それで……どうする?俺を殺すか?」


 アキは改めて尋ねる。納得がいかなかったらアキを殺すというのがそもそもの話だ。


「もお……ばか。何でそう言う事聞くかな……出来るわけないから!」


 少しだけ頬を染め、そっぽを向くイリア。ちょっと意地悪だったかと反省する。


 さて話も大詰めだ。後はイリアにこの後どうするかを決めて貰うだけだ。


「さてイリア。俺が魔法印を改竄出来る事はわかったな?」

「う、うん。」

「そこでイリアにはいくつか選択肢がある。どうするか選んでくれ。」

「わかった。」


 イリアが真っ直ぐに見つめてくる。「早く聞いて」と言わんばかりの表情だ。


 覚悟は出来ているようだ。なら問題はない。


 アキは一息吐いて、その選択肢を告げる。


「1つ目、俺の女になる。2つ目、俺の嫁になる。さあどっちがいい?」

「へっ?……ええええええ!?」


 イリアがアホの子のように口を開け、金魚のようにぱくぱくさせている。美少女が台無しだ。うん、面白い。


 とりあえずアキは黙ってイリアが正気に返るのを待つ事にする。


 数十秒後、無事再起動したのか、イリアが顔を真っ赤にしながら叫ぶ。


「な、な、なにかなそれー!そもそも選択になってないよね!おかしいよね!?っていうか今の長いお話はなんだったのかな!かな!」

「イリアとのキャッキャウフフじゃないの?」

「おかしいよね!違うよね!ばかなのかな!?」


 イリアがなんでそうなったのと頭を抱えている。でもしょうがない事なのだ。この選択肢はしょうがない。そう、何故ならこれがソフィーの意思だったからだ。


「うちの駄エルフに言われたんだよね。イリアを嫁にして来いって。」

「はああああ!?相変わらずあのアホエルフは!!!私の意思完全無視よね!!!」


 ソフィーに対するイリアの評価も「駄エルフ」らしい。まあどうせイリアといた時もあのエルフは暴走癖丸出しだったのだろう。同情を禁じ得ない。


「アキもいちいちあの子の暴走に律儀に付き合うな!!!」

「俺の嫁になるの嫌だったか?」

「そ、そういうことじゃないから!わ、私には!ほら!目的があるというか!」


 しどろもどろになりながら必死に言い訳するイリア。どうやら嫌われている訳ではなさそうだ。


 まあ冗談はこれくらいにして、そろそろ真面目な話をしよう。


「悪乗りした、ごめん。それでだけど……。」

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