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「それで私に話したい事ってなに?」
イリアが首を傾げる。
「うん、とりあえず話しを聞いて納得したら殺さないで欲しいな。納得できなかったら殺してもいいけど。」
「う、うん。わかった。そ、それでいいよ……。」
頬染めてどこか恥ずかしそうに呟くイリア。そして俯いて何かぶつぶついっているが、上手く聞き取れない。聴覚強化魔法を使って盗み聞ぎしてもいいが、聞くのは無粋な気がしたのでやめておく。
「まずはイリアが何者かって言う話をしたい。そしてイリアの目的は何なのか。まあ色々予想したけど、さっきの襲撃のおかげで大体わかった。その答え合わせをしたい。」
アキは早速本題を切り出す。
イリアは特に肯定も否定もせず、軽く相槌だけ打ってくれている。とりあえずアキの話を全て聞いてからという事だろう。
一呼吸おいてアキはイリアに核心を告げる。
「イリアは……この世界の観察者だよね?」
それがアキが予想したイリアの正体だ。おそらくこれで間違いないだろう。
もしこの大陸で魔獣召喚に対する何かしらの実験を行っているのだとしたら、当然それを観察し、観測する人間が必要だ。だからそういった人物は必ず存在すると考えていた。そしてイリアの事を調べていくうちに、彼女がそうである可能性が高いという結論に辿り着いた。
「へえ……なんでそう思ったの?」
イリアは興味津々な顔で尋ねてくる。正解とはまだ言ってくれないらしい。
「そうだね、思い当たる節はいくつもあるんだけど……。」
実力があるのにずっとBランクでいた事や冒険者拠点変更をして滞在する国を変えていた事など、イリアが観察者だと予想できる材料はいくつかある。
ただ気づいた切欠はそれじゃない。
「ミルナ達の発言が切欠だった。」
ミルナ達がアキをメルシアに迎えてイリアの説明をしてくれた際、「性格は全然違うけど、アキはどこかイリアと似ている」と言っていた。性格は違うのに似ているというのはどういう事か。当然2人の外見は全然違う。ではなにが似ているのか。それはつまり雰囲気や考え方がイリアに近いという事に他ならない。
「イリア、俺はね、この世界の人間じゃないんだ。」
アキは自分が別世界から来たことをイリアに説明する。
「そうなんだ!アキは別世界からきたんだね!」
イリアがくすくすと笑う。驚いた様子は一切ない。やはりイリアもそうだからだろうか。だがまだ答えを教えてれる気配はない。
「ああ、俺はこの世界の生まれじゃない。」
つまりそんなアキと雰囲気や思考が似ているという事は、イリアも別世界の人間ではないか。いつしかそんな考えが頭を過ったのだ。ミルナ達はイリア以外の人間でアキと似ていると言ったことは一度もない。アキに似ているとはっきり言ったのはイリアだけだ。
「そうなるとイリアも別世界の人間じゃないかなと思ったわけだ。」
「なるほどね!あの子達らしいかな!」
イリアが納得したのかうんうんと頷く。
「それで?話を続けて欲しいかな!」
どこか楽しそうな表情でもっと話してと催促してくるイリア。そんな彼女を見ているとミルナ達がこの子を慕う気持ちがなんとなくわかる。彼女と話していると不思議と心が弾む。
「まあイリアの正体が分かった経緯はそんな感じかな?そして次にイリアが俺を襲ってきた理由。最初は2つの可能性を考えてた。」
まず1つ目は、観察者として魔獣召喚を廃止しようとしているアキを阻止する為。彼女のお役目を考えるのであれば、この可能性が一番高かった。観察者としてこの世界を常に監視・観察しているのだから。
「ただ俺はそうじゃないと思った。イリア、魔獣召喚とか正直どうでもいいんでしょ?自分の世界に帰りたいって思ってるんじゃない?」
そう、アキを襲った理由、それはイリアが自分の故郷へと帰る為だ。だから魔獣召喚を廃止しようとしているアキを止めようとしてきた。おそらくイリアは召喚印の詳しい原理などはわかっていない。だから召喚印が無くなれば、イリアは自分の世界に帰れなくなる。つまり彼女にはあれが必要なのだ。
「というのが俺の予想だね。それに今襲われた事からもこの予想が正しいと裏付けできる。あれは俺じゃなくイリアを狙っていたからね。」
魔獣召喚廃止を阻止するのが目的ならアキを襲う。そもそも観察者というお役目に彼らが就いているなら、アキの企みを断固として阻止するはずだ。だがあの襲撃者達は「男は関係ない」と言った。つまり彼らはアキが何をしようとしているかを知らないという事になる。まずそれがおかしい。イリアはアキの目的を知っている。なのに仲間である彼らは知らない。それはイリアが自分の仲間にはアキの事を一切話しておらず、彼女1人で動いているという事に他ならない。
そしてそんなイリアが襲われた。つまり彼女の「お役目を放りだして、自分の世界へ帰還する」という目的を阻止するのが彼らの襲撃理由という事になる。彼らにとってはイリアの企みも断固として阻止すべき事案だ。
こう考えると全て筋が通っている。
「なるほどね。でもじゃあなんでアキは最初から私の目的は帰還だと思ったの?あ、襲撃の前の話ね。さっきので色々ばれちゃったのはわかってる。でも教えてほしいな。アキがそもそもそう推測した理由。」
イリアが小さく微笑む。まるでアキの推測が全て正しいよと言われているようだ。
「わからない部分も多いよ?なんでイリアが1人で動いているのかなんて今でもわからないし。目的だって本当はちょっと違うかもしれない。そこは後で説明してね?」
アキはそう前置きし、推測の理由を話す。
「今までBランクで目立たないように動いていたイリアが急にAに上げたから。」
そしてAになったイリアは立ち入り禁止エリアの依頼を受け、ミルナ達の前から姿を消した。
「それだけで?」
イリアは不思議そうに首を傾げる。
「それだけ。でもそれだけで十分だ。ミルナ達と出会ってイリアは変わったんだろう?自分自身の何かに気づいたんだろ?だから自分の世界へ帰りたいと思うようになった。そしてその為に色々と1人で動き始めた。」
「なんでそう言い切れるの?」
この結論には本当に簡単に辿り着いた。イリアはまだよくわかっていないようだが、こんなのは至極簡単だ。推測も何も必要ない。
「あの子達には人を変える不思議な力がある。だって俺がそうだったんだから。それなら別世界出身であるイリアも絶対そうだろ。」
「あはは!うん、なるほどね!それは説得力あるかな!」
イリアがそっかそっかと納得したように笑う。ミルナ達の事を話すと本当に嬉しそうに笑うイリア。でもその気持ちはわかる。アキとしてもミルナ達のよさをわかってくれる子とこうやって話すのは凄く楽しい。
「なるほどね!じゃあ答え合わせしてあげようかな!」
イリアは満足したのか、答えを教えてくれるらしい。
「それは嬉しいけど、まだ何を協力できるかを説明してないよ?」
てっきり答え合わせはアキの話を全部聞いてからだと思ったのに、どうしてこのタイミングなのだろうか。
「ううん、いい。私の悩み……アキなら何とかしてくれそうだな……って思ったから。」
何故かイリアにすっかり信頼されている。まあ確かにイリアの事は何とかするつもりでいるから別にいいんだが。
「えっとね……大体は合ってるよ。アキの予想で合ってる。細かい部分は少し違うけど大体アキの言う通りかな。」
やはりイリアは別世界の人間だったようだ。
「私のお役目を詳しく説明するとね……」
イリアの仕事はこの世界の魔獣、犯罪、政体などの関係や状況を観察して記録する事らしい。彼女というより彼女達。そして代々その役割は子孫に受け継がれており、イリアの両親もそうだったのだとか。
「さっき殺った連中がそうなのか?」
「そうだよー、っていうかあれで全員かな?今もう残っているのは私だけ。」
それは好都合だ。正直イリア以外の観察者がいた場合はどう対処しようかと悩んでいた。だがイリアを襲ったから殺したという正当な理由で上手い具合に排除出来た。最高の結果だ。しかしそんな大事なお役目を背負っているのに、普通全員で襲うだろうか。何も考えてないのかと計画性の無さに呆れる。
「あ、でも1個だけ訂正するね。私の故郷は確かに別の世界。でも『帰りたい』じゃないんだ。『行ってみたい』んだ。自分のいるべき場所はきっとその世界だから。」
「行った事ないのか?」
「うん、ないんだー。」
なんでもイリアはこっちの世界で生まれ、ずっと観察者として生きてきたのだという。いわゆる立ち入り禁止エリアの一族と同じような運命だ。両親から受け継いだお役目を全うし、それだけの為に生き、死んでいく。
「そしてアキの言う通り、ミルナ達に出会って私は変わった。いや気づいたんだ。」
ミルナ達の何にも縛られない自由な生き方に憧れた。思いのままに発言し、行動する、自分の感情に素直に生きる彼女達に。ひたすら自由なミルナ達に。
「凄くわかる。俺もそうだったからな。あいつら自由すぎるんだよ。」
あの子達といると、不思議と自分もあの自由さに引き摺り込まれてしまう。
「ほんとほんと!あはは、でも楽しいよね!」
イリアとアキは顔を見合わせて苦笑する。ここに2人はミルナ達に変えられた、気付かされた人間だ。彼女達のおかげで自分自身の深層心理を知れたと言ってもいい。
「それでね、あの子達を見てると自分が何の為にお役目しているのかわからなくなっちゃった。こんな意味のないお役目で一生終えるのが嫌になった。」
好きに生きたい。ミルナ達を見てそう思うようになったイリア。まず何がしたいのか考えたところ、自分が本来いるはずだった世界を見てみたい。そう思ったらしい。そしてその為には、召喚魔法陣で召喚元を割り出し、自分自身を転送すればいいと思った。だから冒険者ランクをAに上げ、立ち入り禁止エリアの依頼を受けたのだとイリアは語る。
「でも全然わからないんだ!困ってたんだよね!そんな時にアキが魔法陣を廃止するとか言っているんだもん!そりゃ殺すでしょ!」
イリアがあははと笑いながら言ってくる。
「嘘つけ。最初から大して殺気出してなかっただろうが。」
「あはは、バレてる!まあ脅して手を控せようと思ってた……が正しいかな!」
ミルナ達が慕っているアキを殺すなんて出来なかったと語るイリア。ただ他に方法も思いつかないし、とりあえず襲っちゃえと思ったらしい。不器用な子だ。
「イリアは魔法印の術式の意味はわからないんだ?」
「わからないね!全然わからない!この世界で生まれたんだもん!わかるわけないよ!」
本当に八方塞がりなんだと頭を振るイリア。
「そういう知識って受け継がれないのか?」
「うん、私達下っ端は何もしらないよ。さっき殺された連中もわからないって言ってた。私達は受け継がれたお役目ただただ全うしているだけかな。」
「ちなみにその集めた情報はどうするの?」
教えてくれるかはわからなかったが、とりあえず疑問に思っている事をイリアに聞いてみた。
「えっとねー……」
幸いにもイリアはアキに隠し事をする気はないようで、素直に教えてくれた。
イリアによると、彼女達は集めた情報を、転送魔法陣で転送するのだと言う。そしてその転送魔法陣はイリア達一族しか知らない場所にあり、代々秘密にされてきたのだとか。
「でもその魔方陣は書類くらいしか送れないんだ。人間とかは無理かな。」
書類を転送するのが精一杯の魔方陣。それはきっと魔素の量が足りないからだ。使用する魔素を増やせば生物も転送できるようにはなるだろう。
しかし何故イリアがその事実を知っているのか。
「まさか、試したのか?」
「あはは……うん。」
気まずそうに頷くイリア。
「危ないことするね。まあ……俺も色々危険な実験したから人の事は言えないんだけどな。」
「あはは、ミルナ達に怒られちゃうね!」
2人がそんな危険な人体実験をしていたのがうちの子達にバレたら、めちゃくちゃ怒られる。間違いなく全員に「お話です」と長時間説教されるのが目に浮かぶ。
「そうだな。それで転送した記録は?向こうからなんか連絡とか来ないのか?」
「全っっったく来ないの!酷いと思わないかな!だから私も嫌になったんだよ!」
イリアが頬をぷくっと膨らませて不満気に叫ぶ。
ずっと真面目にお役目を全うしていたイリア。この世界の記録を取り、その情報をちゃんと送信し続けた。だがそれに対してなんの連絡も来ない。始めはそんなものだと、何も疑わずにやっていた。でもミルナ達と出会い、段々とそれが馬鹿らしくなった。なんでこんな事をして一生を終えなければならないのかと。
「立ち入り禁止エリアにいる管理者一族と一緒だな。」
「あの人達も可哀そうだよね。でもまだましかな?彼らは大事なお役目だって誰が見てもわかるじゃない。王家からも感謝されてるし、それなりの見返りもある。でも私はずっと一方通行なんだからね!」
イリアがさらに頬を膨らませながら怒る。まるでうちの子達を見ているようだ。そんなイリアが微笑ましくて、気付いたら彼女の頭を無意識に撫でていた。
「ちょっと!アキ!な、なにをしてるのかな……!」
「あぁ、ごめん。イリアは頑張ってたんだなって思ったら、つい。」
「べ、別にいいけどね!もっと……してもいいよ?」
やるならもっと撫でてよねとそっぽを向きながら呟くイリア。
この子はどこかミルナ達と似たような雰囲気を感じる。確かにこの子はうちの子達と仲良くなる。間違いなくそう思える。素直で真っ直ぐで可愛い女の子。でも昔のイリアは多分こんな性格ではなかったのだろう。彼女の言うように、今ここにいるイリアは、ミルナ達が引き出した素のイリアに違いない。
「うちの子達はほんと……さすがだな。」




