7
エレンは悔しくて泣きそうだ。
自分が情けない。またアキが勝手に危険な事をしようとしてる。自分達の為に。
アキを守ると言ったのは自分だ。それなのに結局何も出来ていない。今もまたこうやって指を咥えて見ているだけ。
そんなのは嫌。もう絶対嫌。
「ふ、ざけないでよね……!」
アキに対して沸々と怒りがわいてくる。おもいっきり怒鳴って殴ってやりたい。勝手なことするな、危険な事するなって。自分達の為とはいえ、アキが死ぬかもしれない事なんてして欲しくない。そんな事は望んでない。
「なぐってやる……。」
今回こそ本気で殴ってやる。全てを背負おうとしてくれているあのバカを。大好きな、大好きな、あのバカを殴ってやる。そしておもいっきり抱きしめたい。ひたすら怒った後、抱きしめてアキに甘えたい。自分も彼に愛しているって言いたい。この前言われた時は恥ずかしくて言えなかった。だからちゃんと伝えたい。
でももしこれでアキが死んじゃったら……?自分の気持ちを伝える前に死んじゃったらどうしよう。
可能性がないわけじゃない。イリアは実力者だ。いくら対人特化しているアキと言えど、万が一はある。和解できなかったら大事なイリアが大好きなアキを殺してしまうかもしれない。そんなのは絶対に嫌だ。なによりそんな状況で自分は寝ていたなんてなったら生きていけない。そんな情けない自分は絶対許せない。
「ア……アキは!私が!守る!のよ!大好きなアキは私が!守るの!」
エレンは心の底から叫ぶ。
そして構えていた朧月を持ち直し……自分の太ももへ突き刺す。
「くっ……!」
全身に激痛が走る。痛い。でもこんなのは平気。全然平気なんだから。
自分を刺したのに深い理由はない。眠いなら痛みを与えれば目が覚めると思ったから。ただそれだけの理由だ。果たしてこれが効果あるのかわからない。でも何もしないで寝てしまうくらいならやってみようと思った。
「ち、ちょっとは……目は覚めたわ……!体はまだあまり動かないけどね……!」
そんなエレンにアリアとルティアは驚いたのか、わずかに表情が動く。「まさか、本当に?」といった様子だ。
「な、なに驚いてるのよ……!ルティアならわかるわよね!アキはこれと同じことをあんたの前でしたんでしょ!」
アキがしたのなら自分だってする。大好きなあの人の背中を追いかけたいから。
「アキのとこへ行くのよ!私の!私の邪魔をするなああああ!!!!」
床を這うようにして必死に扉へと向かう。短剣で太ももを刺したから当然上手く歩けない。でも床を這ってでも、足を引きずってでも、絶対アキの元へ行ってやる。どんなにみっともなくてもかっこ悪くてもいい。何もしないで寝ているよりは遥かにましだ。
「アキ……!今いくわよ……!」
エレンの叫びを聞いたミルナは自分自身が情けなくなった。彼女は躊躇なく短剣で自分を刺した。目を覚ます為だけに。ミルナもその考えは確かに頭を過った。ただそんなことをしても動けなくなるだけだからと理性的に考えてしまい、結局行動に移せずにいた。
「エレン、貴女は凄いわ。」
ミルナは小さく呟く。
大好きなアキの為に後先考えずに動けるエレンは凄い。自分なんかより全然凄い。彼女は這ってでもアキのところへ行くつもりだった。自分が躊躇した事をエレンはあっさりと実行に移した。悔しい。自分も彼女に負けないくらいアキの事が大好きなのに。ここにいる誰よりも彼を愛しているはずなのに。
いつも見栄や下らないプライドに拘って素直になれない。今回だってそうだ。
負けたくない。
「かっこわるくてもいいのね。うん、そうよ。私だって……!」
やり直そう。そうよ、今からでも自分の感情に素直になればいいのよ。お姉さんとしてのプライドなんてどうでもいい。そんなものに拘ってアキが死んだら自分を一生許せない。だったらそんな下らない物は今すぐ捨ててやる。
「それにアキさんはポンコツお姉さんである私が好きなのよね。」
アキが言ってくれた言葉を思い出す。彼は素のミルナが大好きだと言ってくれた。ポンコツなところが可愛いと。だったら無理に自分を着飾る必要はないじゃない。自分が出来る事をただ必死にやればいい。ポンコツでもいいんだ。
「私だって!アキさんのとこに行くの!誰にも邪魔させないんだから!」
もう躊躇はない。ミルナは自分の愛刀のカトレアを振り上げる。後は自分の太ももへ突き刺すだけだ。別に傷が残ってもいい。きっとアキはそんな自分でも愛してくれる。余計色気が出たとか言って褒めてくれるに違いない。
「くっ……。」
目を瞑り、ミルナはカトレアを一気に振り下ろす。
「待ってください。」
アリアがミルナを止める。短剣がミルナの太ももに刺さる寸前、アリアが待てと制止してきた。いまさらどうしたのだろうか。さっきまで諦めなさいと冷淡な表情を浮かべていたのに、一体なんのつもりなの。
「ルティアさん、影縫いとやらを解いてください。」
「わかった。」
アリアがそう言うと、ルティアはあっさりと魔法を解除し、ユキツバキを回収する。
「か、体が動きますー!」
ソフィーが自分の手足をぱたぱたさせながら、体の自由が戻ったと騒いでいる。ミルナも改めて手を開けたり閉じたりして確認する。確かに体が動く。痛みは一切ない。
せっかく足止めする為にかけた魔法をどうして解いたのだろうか。いまさらどうして。ミルナはアリアを見つめる。教えなさいと睨む。
「眠ってしまう前に、まずは治癒魔法をかけてはどうですか?」
アリアに指摘され、ミルナは自分の意識がまだ少し朦朧としてる事に気付く。確かに体の痛みは無くなったが、まだどこか気怠い。
「あ……そ、そうですわね。」
これは薬の効果だとアリアが言っていた。ならルティアが魔法を解いたからといって消える効果ではないのは当然だ。そんな事にも気付かないなんて冷静じゃなかったと反省する。
ミルナは治癒魔法を自分に発動させる。自分の体から毒を抜くようなイメージだ。すると即座に意識がはっきりとしてきた。無事成功したようだ。
ミルナは続けてソフィーやベル達に治癒を施す。エレンは最後だ。彼女を最後にしたのは足の治癒も必要だったから。
「エレン、傷は残らないように魔法をかけますわ。でももしかしたら……その……少しは残るかもしれません。」
「別に残ってもいいわ。そしたらアキを殴る。それにアキは傷があってもきっと私を大事にしてくれるもの。」
エレンは動けるようにさえなればそれでいいらしい。でもその気持ちはわかる。アキ以外にどう思われようがどうでもいい。アキがいいならそれでいい。
まあそれにアキならどんな傷でも地球の知識を使った魔法で治してくれそうだ。ミルナの治癒が不完全で傷が残っても、心配はいらないだろう。
「それでなんで僕達を自由にしたの?」
レオがアリアに問う。まだ少しアリアを警戒しているようだが、殺気は感じない。
「こうなった場合は全て話せとアキさんから言われています。」
アリアの言葉にミルナを含めた全員が驚く。まさかアキはこうなる事を想像していたのだろうか。
「つまりここまで……?」
「ええ、全て計画通りです。エレンさんが真っ先にそうするだろうという事も疑っていませんでした。アキさんはそれだけ貴女達を信頼しているのです。わかるでしょう?」
アリアの言葉にミルナはつい苦笑してしまう。もう怒りなんてすっかりどこかに飛んで行ってしまった。本当に一体どこまでアキに読まれているのだろう。もうこんなのお手上げだ。
エレンやベル達もミルナと同じ気持ちのようで、苦笑いを浮かべて顔を見合わせている。
「詳しくはリビングでお話しましょう。とりあえずアキさんからの正式な伝言です。『まずはアリアから話を聞け。それを聞いた上でどうするか決めろ』です。」
そもそもアキはミルナ達が何が何でも追ってきてくれると信じて疑っていなかったのだ。きっとそれを踏まえた上で今回の計画を立てたのだろう。
なによそれ。ほんとに仕方のない人なんだから。でもちょっと嬉しい。
とにかくそれならばアキの事を信じるしかない。それに彼は自分達の事を誰よりも慕ってくれている。これからもミルナ達が望むならずっと一緒にいるって言ってくれた。それだけは何があっても絶対に信じられる。だからきっとアキは大丈夫だ。アキがアリアの話を聞けというのならそうしよう。それから彼の元へ向かえばいい。
「わかりましたわ。」
「はい、私もそれでいいです。」
「ええ、いいわ。」
「うん、僕も大丈夫。」
ミルナ、ソフィー、エレン、レオがそれぞれ頷く。
「ではアキさんの計画をお話します。」
リビングに着いてミルナ達がソファーに腰掛けると、アリアが待ってましたといわんばかりに話を切り出してくる。冷静を装ってはいたが、なんだかんだアリアもアキが心配なのだろう。
いくら計画を全て知っているとはいえ、彼を1人で行動させて心配しないわけがない。ルティアもさっきからどこかソワソワしている。今すぐにでもアキの元へ駆け付けたいに違いない。彼女達だって恋する乙女。ミルナ達と一緒。そう思って当然だ。
「でもその前にイリアさんの事について少しお話しますね。」
アリアがアキから聞いた事を語る。
イリアが何故アキを襲ったのか。彼女の目的はなんなのか。アキは全くわからないと言っていたが、実は予想がついていたらしい。しかもかなり以前からある程度は気づいていたのだとか。
「そんな!なんで言ってくれなかったんですの!」
また自分達に内緒にしてた。ムカつく。なんでアキはいつもそうなの。
「ミルナさん、落ち着いてください。それも話を聞けばわかると思います。ではイリアさんについてですが……。」




