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「だめ。」
いつの間に移動したのか、ルティアが扉の前に立ち、道を塞ぐ。どうやらミルナ達を部屋から出す気はないらしい。
「ルティア!どきなさい!!!」
エレンが叫ぶが、ルティアも退く気は一切無いようだ。
「なら強硬手段よ!」
朧月を抜刀するエレン。
「エレン!待ちなさい!」
ミルナは慌ててエレンを止める。さすがに仲間内での斬り合いは洒落にならない。
「やるなら……相手になる。」
ルティアは静かに呟き、愛刀の太刀である無月を抜いて構える。
これはおかしい。ミルナだけでなく、全員がおかしいと気付く。いくらエレンが抜刀したからといっても、ルティアはそれに感化されて剣を抜くような性格ではない。そんな彼女が抜刀したという事は、戦闘になったとしても、ミルナ達をアキの元へ行かせる気はないという確固たる決意の表れだ。こうなったら仕方がない。ルティアがそうである以上、対話での説得は難しい。
ミルナも自分の短剣であるカトレアを抜く。強硬手段だ。
「仕方ないですわ……ルティアさんには気絶してもらいますわ。」
「先に抜いたのはルティアだからね。」
ミルナに続き、レオも月白を構える。
「ミルナさん、エレン、レオ、ちゃちゃっとやっちゃうですー!」
3人もいれば十分と判断したのか、ソフィーは参戦する気はないらしい。
いくらルティアが強敵とは言え、確かに4人は過剰戦力だ。それにこんな狭い部屋で大人数が抜刀しても、同時には戦えないので意味はない。それを判ってか、ソフィーは万が一に備え、ベル、エリス、セシルと共に一歩後ろに下がる。さっきまであんなに慌ててたのに、驚くほどに冷静だ。
「さすがソフィーですわ。」
ボソッと呟くミルナ。やはり彼女もメルシアの1人。普段はどうしようもない暴走エルフだったとしても、戦闘に関しては状況判断も的確。さすが自慢の仲間だ。勿論それはエレンやレオも同じ。彼女達がいればルティアなんて目じゃない。
さらに自分達はSランクだ。毎日エリスやアキと訓練もしている。3人がかりでルティアに負けるなんて絶対ありえない。
「ふふ、覚悟してくださいませ。すぐに終わらせて差し上げますわ。」
「残念……『影縫い』。」
だがルティアはミルナ達に怯むことなく、不思議な言葉を口にする。そしてミルナ達の足元目がけ、彼女のもう1つの武器である短剣のユキツバキを投げてきた。
「な、なにを……!」
一瞬身構えてしまったが、短剣の軌道を見て、当てる気は無いのだと直ぐにわかった。むしろ狙ってすらいなかった。
投げられた短剣は、予想通りミルナ達に当たる事はなく、床に突き刺さる。
何の為だろう。わからない。だが次の瞬間、すぐに自分の体の異変に気づく。
「か、体がうごかないわ!」
「どういうことなのだ!」
エレンとエリスも気付いたのか、声を上げる。
そう、2人の言う通り、体の自由が利かない。動かない。いや、動かないというより筋肉が全く言う事を利かない。一体どういうことなの。
ミルナは必死に頭を回転させて何が起こったのか理解しようとする。でもダメ、頭が回らない。体中が痛い。立っていられない。
ミルナ達は全員倒れ込むようにして蹲ってしまう。
「体の自由を奪う魔法。」
自分の技が成功したのを見て、ルティアが無月をそっと納刀して呟く。どうやらあの太刀を構えたのは、この短剣を投げる為のカモフラージュだったらしい。完全に油断した。
「アキに教わった。」
その言葉聞いてさらに驚く。だが確かにアキが考えた魔法なのであれば、こんなバカみたいな効果も不可能ではない。
「い、一体どういう原理ですの……。」
必死に口を動かしてルティアに問う。魔法職のミルナですら、こんな魔法、どんな現象理解で発動させているのか予想もつかない。
「うーん。筋肉が伸びなくなる。縮むだけ。筋肉がつる。そう言ってた。」
ルティアが理論を説明してくれるが、さっぱりわからない。むしろ使った本人であるルティアもよくわかっていないようだ。
多分……なんらかの制御命令を魔素を通して強制的にミルナ達の体に与えているのだろう。今までアキから教わった知識を総動員して、ミルナは必死に答えを導き出す。ただ導き出せたところで魔法の解除はできない。治癒魔法をかければ治るのかもしれないが、体中の痛みで魔法発動に集中できない。
「どうして……!ですかー!」
「アキに頼まれたから。」
ソフィーの悲痛な叫びにも淡々と返事をするルティア。
「詳しく……いいな、さいよ!」
「……。」
エレンが全て教えなさいとルティアを睨むが、返事はない。無言だ。もうこれ以上ミルナ達にしゃべる事はないと言われているようだ。
ルティアとミルナ達の間に緊迫した空気が流れる。誰も言葉を発しない。
「では私が代わりに説明しましょう。」
その沈黙を破るかのように、背後から落ち着いた抑揚のない声が聞こえてくる。
「アリアさん……!どうしてあなたは……!」
ミルナが目を見開く。どうしてアリアはこの魔法の影響を受けていないのか。
「私もアキさんから頼まれていたので。それだけの事です。」
アリアは颯爽とルティアの横に立つと、いつもの仏頂面で淡々と告げてくる。
「王女様とセシルさんには少々辛いかもしれません。ただ命に別状はありませんのでご安心を。」
「そ、そんなことはどうでもいい……です!教えてくだ……さい!」
体の痛みなんてどうでもいい、それよりアキの事を教えなさいとベルがアリアを問いただす。
「そうですね、端的に言えばアキさんはイリアさんを何とかする為に1人で行動されているのです。私とルティアさんは皆さんの足止めを頼まれまして。」
アリアが不敵な笑みを浮かべながら説明する。どうせミルナ達には何も出来ないんだから諦めろと言われているようだ。悔しい。
だがそれよりもミルナにはわからない事が1つある。足止めをするにしても何故アリアなのか。ルティアはわかる。影としての隠密性があるし、戦闘力も申し分ない。
「何故私なのかという顔ですね。ふふ、みなさん……眠くはありませんか?」
アリアに言われ、自分の体のさらなる異変に気づく。
体の自由が利かない事に気を取られていたが、少し意識が朦朧としている気がする。会話がままならないのも多分その為だ。
どういう事なのかとアリアを睨む。
「アキさんから貰いました。睡眠導入剤というお薬です。アキさん曰く『睡眠時の緊張や不安を取り除き、寝付きを良くするなどの作用がある。』そうですよ?先ほどの紅茶です。これで答えになっていますか?」
そう言えばアリアが先ほどミルナ達に紅茶を勧めてきた。よく考えればあれはありえない。不自然過ぎる。いかにもな理由をつけていたとはいえ、アリアがアキのいないところでメイドらしい事をミルナ達にするわけがない。アキが来ない事に気を取られていて不自然な事に気づかなかった。
なんで。少し考えればわかる事なのに。なんで気づかなかったの。
「はい。それも計画通りです。あの状況で勧めれば、あまり深く考えないだろうという事まで。アキさんの計画通りですよ。」
悔しい。でもアキが考えたのであれば納得はいく。アリアやルティアがここまで計画できるわけがない。これはミルナ達の性格まで織り込んでの計画だ。アキでなければ無理だ。
「何で……アキさんは……!教えて!」
ミルナは叫ぶ。アリアを少しでも動揺させられればと全力で叫ぶ。だがそんな努力空しく、アリアは表情を一切変えることなく、目を伏せて冷静に呟く。
「教えません。ただアキさんからの伝言です。『ゆっくり寝てろ。起きる頃には全部終わらせておいてやる』とのことです。それでは皆さん、おやすみなさいませ。」
アリアが軽く一礼する。もうミルナ達の意識が持たないだろうと判断して話を締めたのだろう。ルティアも戦闘態勢は完全に解除して、ミルナ達をただただ静かに見守っている。




