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「第一王女のアイリーンベル・エスペラルドです。みなさん、本日より数日間よろしくお願いします。」
エスペラルドの王女であるベルが代表して弦月の山の管理者一族に挨拶をしてくれている。
アキ達はあれから無事立ち入り禁止エリアに到着。一族が暮らす村へと辿り着いた。王女であるベルが来るとだけあって、村人総出で出迎えてくれているというわけだ。
弦月の山は、文字通り、山1つが立ち入り禁止エリアとして指定されている。魔法印はこの山のどこかにあるらしい。そして山の麓から5キロ程離れた場所に立ち入り禁止エリアを区切る壁が建設されていて、弦月の山を取り囲んでいる。
一族の集落はその山の麓のちょっと開けた場所にあった。十六夜の洞窟の時とは違い、立派な屋敷が立ち並んでいたのには驚いた。集落どころではない。小さな街といった感じだ。てっきり十六夜の洞窟の時の様に、山中にひっそりとあると思っていたので、この堂々ぶりは意外だった。
「ようこそお越しくださいました、アイリーンベル王女殿下。お会いできて光栄でございます。ところで……そちらの方々のご紹介していただけるのでしょうか。」
村長らしき初老の男性がアキ達の方を見て訝しげな表情を浮かべている。まあアキやミルナ達は王女の従者という出で立ちではない。誰か気になるのは当然だ。
「はい、勿論です。アキさん、こちらへ。」
ベルが隣にきてくださいと手招きするので、言われた通り彼女の横に立つ。すると腕を絡めて嬉しそうに体を寄せてくるベル。
「こちらはアキさんです。私の大好きな夫です。」
「な、なんと、そうでしたか!アキ様!これは失礼いたしました!私はこの村で村長をまかされておりますグスタと申します。以後お見知りおきを。」
グスタがアキに向かって深々と凄い勢いで頭を下げてくる。
まあ本当にアキがベルの夫であるなら未来の王だ。そんなアキに不快な思いをさせては不味いと思ったのだろう。
「いえ、こちらこそお邪魔してしまい申し訳ありません。あと夫ではないので畏まらなくて大丈夫です。私はただのSランク冒険者。お気軽にアキとでもお呼びください。」
やんわりと否定しておく。そしてうちの女性陣は当然、大層不満そうだ。本当はアキとしても、夫として紹介されるのはどうかと思ったのだが、一応これはアキを含めた全員が了承済みの事なのだ。
到着前にベルがアキの事は夫と紹介すると宣言した。勿論ミルナ達はぶーぶー文句を言い続けていたのだが、ベルがそう宣言する事により、アキは王家に関わる重要な人物として丁重な扱いを受ける。さらにはアキの指示や命令にも素直に従うだろうとの事で、便宜上そう紹介するのが最適だとベルが断言した。アキとしても確かに一理あると思ったので、渋々この紹介方法を了承したと言う訳だ。
「わかりました、ではアキさんと呼ばせて頂きます。そして残りの方々はどなたですか?」
グスタが今度はミルナ達について尋ねてくる。
「はい……えっと、私の嫁達です。」
「なんと、そうでしたか。わかりました。」
驚いたような、呆れたような表情を浮かべるグスタ。
ちなみにミルナ達がベルの紹介方法を了承する条件として、自分達の事は「嫁」と紹介するように強要されている。そしてそう紹介されたミルナ達は、今度は一転して満足気な顔で頷いている。そんなにこれが嬉しいのか。相変わらず手のかかる子達だ。
「グスタ村長、滞在は今日から3日の予定です。ではアキさん、予定を説明してください。」
後はまかせましたよとベルが微笑む。
ベルは何を話すにしても、決めるにしても、必ずアキに一度確認してくれる。王女である自分より、アキの方が立場は上だと認識してもらう為だろう。
「ベル、ありがとう。ではそもそも私達がここに何をしに来たかを説明しましょう。」
全てを話しても大丈夫だとベルから事前に了承を得ているので、魔獣制度を廃止する為に動いている旨を説明する。
アキの話を聞いた一族はやはり驚きを隠せないようだ。だがアキの隣でベルが平然としている事から、すべては王家公認の計画だと彼らには無事理解して貰えた。
「もし反対意見などがあれば遠慮なく言ってください。」
グスタ村長や一族全員に対して、忌憚のない意見を述べるようにお願いする。
「何を言っても大丈夫です。不敬罪にはなりません。」
彼らが何を言っても黙っていろとベルには命令してある。
「我々のお役目がどれほど重要な事かは理解しています。ただ王家の方々がそれを止めるというのであれば文句などございません。このお役目が無くなってどうやって生きて行けばいいか若干不安ではありますが……。」
グスタが代表して意見を言ってくれる。他の村人達も、村長の意見に概ね同意のようだ。やはり魔獣制度廃止に対して大きな不平不満はない。この仕事から解任された後の身の振り方さえちゃんと支援してあげれば大丈夫という事だろう。
「安心してください。外の世界に順応出来るまで、仕事の斡旋から衣食住、全てを支援するようベルに約束させます。わかってるね、ベル?」
「はい、アキさん。皆さんの支援はエスペラルド王国第一王女としてお約束致します。」
ベルが優雅にカーテシーを行う。
「そこまでして頂けるのでしたら反対意見などありません。私としても、若い連中には自由に生きて欲しいのです。苦労はするでしょう。でもここで一生を過ごすよりは遥かに良いはずです。」
弦月の山の一族も、十六夜の洞窟のリネット達と同じ意見らしい。まあ元々ベルが「多分彼らも同じ考えです」と言ってくれていたので、それほど心配はしていなかったが、予想通りでとりあえずは一安心だ。
「ありがとうございます。では今日はこのまま休ませてください。明日は魔法印の見学と山の案内を。明後日は山の調査を本格的にします。その日は皆さんには1日休養を取って頂きます。ベルから許可は貰ってます。」
「そうですか……。でもお休みと言われても……。」
困惑した表情を浮かべるグスタ。おそらく何をしていいのかわからないのだろう。
休みといっても村の中で過ごすだけだ。彼らにとっては普段の日常と何も変わらない。むしろする事がないので、何をしていいかわからない、困るといった様子だ。
確かにここまで閉鎖的な環境だと、何か仕事でもしていないと気が狂いそうだ。
「少量ですが物資を持ってきました。新鮮な食材が沢山あります。よければこちらでパーッとやってはいかがでしょう?」
支援物資を馬車から運び出すようミルナ達に指示をする。
爺さんに用意してもらった食料はおおよそ100人分。村人全員が好きなだけ飲み食い出来る量は十分にある。
「なんと!これは嬉しいです!ありがとうございます!一生ついていきます!アキ様!」
グスタが今日一番の歓喜の声を上げる。
だが一生はついて来なくていい。それに呼び方がアキ様に戻ってるだおうが。落ち着け。
だが他の村人達もかなり嬉しそうだ。やはり食料を持ってきたのは正解だった。これで3日目は間違いなく宴会になる。アキ達の現地調査に余計な邪魔は入らない。
「それでは貸していただけるお屋敷に案内していただけますか?あと明日、山を案内して頂ける方を1人つけてもらいたいのですが。」
「もちろんです!ではアキさんは女性がお好きの様ですし、うちの若い者をつけましょう。屋敷の場所もその者に案内させます。サーシャ、きなさい!」
別に女性が好きと言う訳ではないのだが……嫌いではないけど。
でもまあそう誤解されても仕方がない。そしてその最たる原因であるミルナ達は引き攣った笑みを浮かべている。そもそも自分達を「嫁」と紹介させたせいでアキがそのように見られているのだ。自業自得だとわかっているらしい。
グスタにサーシャと呼ばれた若い娘が前に出て来て、アキ達に一礼する。
「サーシャです。アキさん、王女殿下、よろしくお願いします。」
亜麻色のショートヘアの可愛らしい女の子。年は16くらいだろうか。エレンやレオよりは少し大人びて見える。
「よろしくね、サーシャさん。」
「サーシャでいいです。ところでアキさん、アキさんのお嫁さんになるにはどうすればいいのですか?」
うーん、まさかの求婚宣言。うちの子達とはまた違ったタイプ。しかしこの子も相当癖が強そうだ。
「なれません。そんな日はきません。諦めなさい。」
ベルが威圧的な目でサーシャを諫める。
「こらベル。王女の力をそんなとこで使うな。」
うちの王女様の頭を軽く小突いておく。
「うぅ……だって、だってー!」
頬を膨らませて文句を言ってくるベル。
「私達のお役目はなくなるんですよね?そしたら外の世界に出られます。だからアキさんのような夫を持っておけば安泰かと思いまして。私じゃダメですか?」
悪びれもせずサーシャが自分を売り込んでくる。打算的というかなんというか……凄い子だ。
「ダメに決まってるわよ!当たり前でしょうが!」
「さあアキさん、早くいきますわよ!」
エレンがアキとサーシャの間に割って入り、ミルナがアキの腕を強引に引っ張る。なんかこう、悪い虫がつかないよう過保護な両親に守られている、そんな感覚だ。さらにはレオとソフィーまでいつのまにかアキの前に仁王立ちしてサーシャの視線を遮っている。
「皆さんには聞いていません。私はアキさんに聞いているんです。」
うちの子達に一切臆しないサーシャ。いい度胸だ。
お互い一歩も引く気はないようで、ずっと睨み合っている。これは案内人の人選を激しく間違えてないだろうか。
「ま、まあ、こんな子ですが悪い子ではありませんので……。」
グスタがすいませんと謝ってくる。
「いえ、案内人をつけてもらえただけでも助かります。ありがとうございます。」
アキは改めてグスタに礼を述べる。そしてミルナ達の頭を引っ叩く。
「4人でよってたかってサーシャを苛めるのはやめなさい。」
「だってアキさんは私のものなんです!この雌犬にわからせないといけないですー!」
この口の悪い駄エルフめ。今度は思いっきり引っ叩く。
「誰がソフィーの物だ。この駄エルフが。後サーシャ、気持ちは嬉しいけど遠慮させてくれ。見ての通り俺はこの子達だけで手一杯だ。それより屋敷に案内してくれないかな?」
「残念です……。わかりました、それではこちらになります。」
いい加減話が進まないので、うちの子達を諫めるよりサーシャをどうにかした方が早いと思い、求婚を丁重にお断りした。
元々サーシャも冗談で言っている事だ。……多分。




