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「よし、じゃあ弦月の山へ出立するけど準備はいい?」
出立の朝、リビングに集まった面々に確認する。今回はミルナ達だけじゃなく、アリア達も立ち入り禁止エリアへ同行させる。エリスは元々Sランクだし、ルティアは影から侵入させるので問題はない。アリアとセシルに関しては、ベルが従者として連れていける手配をしてくれた。というより今回はベルが同行するから正直なんでもありだ。エスペラルド王国内なので、ベルは権力を使いたい放題というわけだ。まあさすがにシャルはお留守番だが。
「王女権力乱用しまくってるな。おかげで助かるけど。」
「こういう時くらいしか役に立てませんから。頑張りました!」
褒めて褒めてとベルが腕を絡めてくるので撫でてやる。
職権乱用はあまり好きではないが、今回ばかりは助かった。いや今回どころではない。この子がいるおかげで本当に色々と捗る。ベルがいなかったらどれ程面倒な手続きが多かったことだろうか。
「そういや弦月の山までどれくらい?」
「1日半ほどです。今日はどこかで1泊ですね。」
「まあいつも通り野宿でいいだろ。ベルごめんね。」
謝った事が不満なのか口を膨らませるベル。
「ベル、ありがとう。」
「はい!」
つまり王女扱いはするなという事だ。ミルナ達と同等の扱いをしろと最近はうるさい。まあ彼女がそれでいいのならそうしてやろう。それにおそらくエルミラやルベルシアもベルを王女扱いしなくても文句は言ってこないだろう。寧ろ「なんでしないの?」と言ってきそうだ。あの2人はベルを完全にアキに嫁がせる気だからな。
「あれ?どうしたんですか?」
アキが苦笑していのが気になったのか、首を傾げるベル。
「いや、こんな美少女が俺の女でいいのかなって。」
「えへへ、いいんです。」
ベルが嬉しそうに抱き着いてくる。すると今度はミルナ達が当然の如く拗ねる。
「もちろんミルナ達もだよ?言わせるなよ、恥ずかしいんだから。」
「うふふ、わかっていますわ。」
ミルナが楽しそうに微笑む。
「アリア、一応聞くがベル、ミルナ、ソフィーの部屋はどうだった?」
さすがにもう大丈夫だとは思うが、アリアとシャルに確認しておく。
「はい、問題ありません。」
「綺麗でした!」
素晴らしい。今回はミルナとソフィーも問題ないようだ。やはりちゃんと片付けられるようで安心した。だがこの子達をその事で怒れなくなったのが正直少し寂しい。なんだかんだあれはあれで楽しかった。
「んー?やっぱり部屋汚したほうがいいですー?」
ソフィーが首を傾げる。
「汚すな、この自堕落エルフが。……でもまあ……たまにはいいかもね。」
アキの言葉にミルナとソフィーは少しだけ微笑む。今度は汚しておくので怒ってくださいねという顔だ。しょうがない子達だ。
これからもこんな時間が続くだろうか。それはアキにもわからない。
「じゃあシャルちゃん、しばらく留守をお願いね。」
「はい!いってらっしゃいませ!」
ベルが用意してくれた馬車に乗り込み、弦月の山へ出立する。
今回は馬車で直接乗り込めるから楽だ。御者も弦月の山に入れるよう、ベルが手配してくれたおかげだ。さらには管理者一族にも使いを出しておいてくれた。これで現地でも問題なさそうだ。流石ベル。
「爺さんからの支援物資も積んだし、忘れ物はないかな。」
爺さんは爺さんで約束通りの物を昨晩届けてくれた。あの量を1日かからずと集めてくるのだからさすがはミレンド商会だ。イリアナが結構無理して融通したと言っていたので、今度爺さんには改めて礼を言わねば。丁度いい機会だし礼を兼ねて慰安旅行でも計画して招待しよう。きっと喜んできてくれるはずだ。
まあでもそれは弦月の山での事が片付いてからだ。とりあえずはまずこの旅を楽しむことにしよう。
「ミルナ、おいで。」
「はい、なんでしょう?」
膝枕でもお願いされるのかと思ったのか、ミルナがアキの隣に腰掛けようとする。
「違う違う。」
アキはミルナの手を掴んで強引にミルナを膝の上に座らせる。
「ア、アキさん……!?」
「まあ偶にはいいでしょ。」
いつもはエレンやレオを乗せているから今日はミルナにしようと思っただけだ。
そんなミルナからは落ち着いた穏やかな大人の香りがする。エレンやレオとは違った大人の女性の匂いだ。
しかし女性というのはどうしてこうもいい香りがするのだろう。
「アキさん……そ、その……重くないですの?」
ミルナが心配そうに声を掛けて来る。いい匂いがするなとか考えていただけなのに、ミルナは変に勘違いしたようだ。
「エレンよりはね。でもミルナ細いし軽いよ。あ、でも胸が重いか。」
「胸は余計ですわ!?」
頬を膨らませて拗ねるミルナ。
「でも……嬉しいです。」
ミルナがもたれかかってくる。ただミルナは長身なので、アキの膝上にいると、多少不格好な感じになってしまう。まあでもミルナ本人は喜んでくれているようなのでいいだろう。
「それならよかった。あ、ミルナの次はソフィーだからね。」
うちのエルフが羨望の目で見ていたので、安心しろと声を掛ける。
「やったー!最近はアキさんがあまあまですー!私の魅力に気付いたですー!」
すぐに調子にのるソフィー。この能天気さはある意味尊敬だ。
「また下着ばらまくぞ。」
「それはやめてくださいですー!」
ソフィーがもう探すのは嫌だと両手を合わせて祈るように懇願してくる。反省してますと必死に口にしているが、多分嘘だろう。このエルフがそう簡単に反省して態度を改めるわけがない。まあでもそれでこそアキが好きなソフィーだ。
そんなミルナ達の様子を羨ましそうに見ているエリス、セシルとベル。そういや最近この子達をあまり構ってない。特にエリス。だが今は我慢して貰おう。うち子達が優先だ。それにどのみちエリス達とはこれからも一緒にいれるだろうからいくらでも構ってあげられる。まあそれでも寂しそうにしているのは事実なので、道中のどこかで少しは構ってあげたほうがよさそうだ。
「それでアキさん、弦月の山に着いてからの予定を教えて頂けませんか?あのその……イリアの事もありますので。」
膝上にいるミルナ目を伏せながら尋ねてくる。
「そうだね、まずは十六夜の洞窟と同じように、到着したら一族に挨拶。2日目に魔法印の見学。そして3日目は自由に行動させてもらおうか。」
基本的な予定は十六夜の洞窟の時と一緒だ。ただ違うのは、今回はイリアの襲撃を予め予定しているという事だ。
「そうだ、ベル。一族の人達に1日休日を与えたり出来ないかな?」
彼らを出来るだけ巻き込みたくない。その為の提案だ。
「大丈夫です、私の権限でなんとかします。」
余裕ですと頷くベル。うちの王女様はやはり頼もしい限りだ。
「なら3日目には一族の人達に1日休息してもらい、俺達は山の中を適当に散策しよう。そうすればきっとイリアは襲ってくる。その襲撃を抑え込んで彼女を説得する方向でいこうか。」
だがこれはあくまで表向きの予定だ。実際アキが考えている計画とは少し違う。当然まだ内緒だが。
「わかりました。アキさん、イリアがご迷惑をおかけしてすいません。」
ミルナが申し訳なさそうに謝るので、そっと抱きしめてやる。
「謝らなくていい。俺に任せておけ、いいな?」
「は、はい。」
アキの言葉を聞いて少しは安心してくれただろうか。
「まだ緊張してるのか。リオナ。」
だがやはりそう簡単には緊張はほぐれないらしい。レオを見ればわかる。
「な、なんでそう思うの?」
「尻尾で丸わかりだ。大丈夫だって言ってるだろ。」
「う、うん。ごめん。もう……この尻尾め……。」
自分の尻尾を大事そうに抱きしめるレオ。
「あとで尻尾、もふもふさせて。」
「う、うん!いいよ!」
まあこんなところか。イリアが目前に迫っていて緊張するなという方が難しいだろう。でもある程度は落ち着いてくれたので重畳だ。
しかしレオの尻尾は見ていると無性にモフりたくなるから不思議なものだ。




