↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の観察者  作者: 天霧翔
第十八章 最後の時間
284/1143

4

「ちょっとイリアの件で確認したい事があるから数時間自室で魔法印の解析してくる。」


 アキがそう言うと、ミルナ達はわかりましたと素直に頷く。これで邪魔は入らない。


「アリア、後でお茶だけ持って来てくれるか?」

「かしこまりました。」


 アキがお茶を頼むのはいつもの事なので、みんな特に不思議には思っていないようだ。これでアリアを自然と部屋に呼ぶことが出来た。ちなみにルティアは基本影に潜るので、ミルナ達にルティアの居場所はわからない。それがアキ達の日常だ。だからルティアがいなくてもどのみち不自然には思われないだろう。


 アキは早速自室へと戻ると、久々に隠し部屋への通路を開き、地下室への階段を下る。とはいっても特に研究する事は今はない。今日はただの打ち合わせ。アリアとルティアの到着を待つばかりだ。


 30分程したころ、階段を誰かが下りてくる音が聞こえる。アリアだ。基本的にアリアはメイドとして主人を邪魔しないよう、足音や物音に細心の注意を払って行動する。だが地下室への階段を下るときだけは、急に現れてアキを驚かせないよう、わざと階段で足音を立ててくれる。さすが優秀なメイド、気遣いが申し分ない。


「アキさん、お待たせしました。」


 予想通りアリアが姿を現し、一礼してくれる。そして淹れてきてくれた紅茶を椅子で寛いでいたアキの前に置いてくれた。


「ルティア。」


 ルティアの事も呼んでおく。


「うん、アキ。」


 スッと地下室の一角から姿を現すルティア。もう屋敷の中なので外套は被っていない。見惚れるような綺麗な赤紫色の髪の毛を揺らしながらタタタと駆け寄ってきてアキに抱き着いてくる。


「そうか、ルティアはしばらくずっと影にいてくれたんだったね。」

「うん。」

「じゃあ好きなだけそうしてなさい。」


 相変らずの寂しがり屋だ。


「それでアキさん、お話というのは?」


 アリアが早めに終わらせましょうと切り出してくる。確かにあまり時間をかけるのはよくない。長時間アリアがアキの自室から戻って来ないとミルナ達に不自然に思われるし、焼きもちを妬いて突撃してくる暴走エルフをうちでは飼っている。まあルティアがいる限り、事前に察知はできるだろうが。


「イリアについてちょっと話しておこうとおもって。」

「本当は何者か推測がついているんですよね?」

「うん、さすがアリア。」


 早速アキはイリアが何者なのか、そして彼女の目的がなんなのかを2人に説明する。イリアの目的……可能性としては2つ程考えられる。おそらくそのどちらかで間違いないだろう。


「なるほど、そういう事なんですね。」

「凄い。さすがアキ。」


 アキの考察に感心したように頷くアリアとルティア。


 続いて、何故弦月の山へ行く事にしたのか、そして何を計画していて2人に何をして欲しいのかを伝える。


「はあ……アキさんはまたそういう事を……。」

「でも、危ない。アキ、ダメ。よくない。」


 確かに危ないが、ルティアと接触を図ろうとしたあの時のように、自分で自分を傷つける事はしない。それにアリステールで襲われるように画策した時よりも遥かにアキの戦闘能力は向上している。


 危険ではあるが、怪我をするつもりも死ぬつもりも毛頭ない。


「だから怪我はしない……はずだ。危ないのはわかっている。でも必要な事だ。だから2人には俺のサポートをお願いしたい。やってくれる?」


 アキがそう言うと、ルティアは眉間に皺を寄せ、難しそうな顔をしている。小動物のような彼女のそんな表情がちょっと可愛い。


「ルティア、やれ。いいな。」

「わかった。やる。」


 アキが命令すると、ルティアは顔をあげて力強く頷く。


「アリアもいいよね。2人にとっては俺が正義なんでしょ?」

「ええ、もちろんです。やります。でも怪我したら許しませんから。絶対に。」


 アリアも同意してくれたのでこれで下準備はできた。


 後は明日爺さんとの打ち合わせをして、3日後に現地へ向かう。そして現地ではどんな屋敷に泊まるか等を確認して、計画に修正を加え最終調整を行う。


「だから最近はあの4人を特に構っていたのですね。」

「まあね、それはあるかな。」


 うちの子達をいつもより過剰に構っていたのは、イリアの事を慰めると言う意味もあった。だがそれとは別に、イリアの件が終わった時の事を考えて構っていたというのが大きい。全てが終わった後、必ずしもアキとイリアの両方といられるとは限らない。もしミルナ達がイリアといる事を選んだとしたら、今が彼女達と触れ合える最後の時間になるかもしれない。だから余計にミルナ達との時間を過ごしておきたかったのだ。まあ簡単に言うならアキの都合だ。


「アキさんはイリアさんの目的の可能性を2つ上げましたが、どちらの可能性が高いとお考えですか?」

「ミルナ達から聞いているイリアの性格を考えるのなら……。」


 アキの考えを説明する。


 もしアキの推測通りであった場合、ミルナ達はイリアと姿を消すかもしれない。そしたらミルナ達とは一緒にいられない。


「それでミルナさん達がもしイリアさんを選んだとしたら、アキさんはどうするのですか?彼女達を追いかけますか?」

「そうなるのであれば今が彼女達との最後の時間だ。俺はアリア、そしてベル達と一緒にいる事を選ぶよ。ミルナ達も大事だけどアリア達も大事だ。ミルナ達にはイリアがいるから心配はいらない。」


 自分にはアリア達が居る。だから無理にミルナ達を追いかけようとは思わない。


「本当ですね?」


 アリアの声にどこか不安の色を感じる。


 そういえばアリアには今まであまり何もしてあげられていなかった。いつもメイドとして一歩ひいていてくれるから、つい頼るだけになってしまい、みんなのように甘やかしたり構ったりあまりしていない。


 だから今くらいはいいだろう。言葉で返事する代わりに行動で示そう。


「アリア。」


 そっとアリアを強引に抱きよせる。


 アリアも自分を慕ってくれている女性の1人。ただメイドとしての立場があるからか、ミルナ達のように抱きついてきたり、甘えてきたりしてこない。ただしたいと思っているのは何となく気付いていた。他の子達がアキに甘えている時のアリアの羨ましそうな表情を見ればわかる。


「な、なにを……・!」


 こうしてアキから動いてあげないと、アリアは遠慮して我儘を言わないだろう。

+

「ありがとう。そしてごめん。アリアの事はあまり構ってなくて。」


 アリアの優しさに甘えて彼女の扱いをおざなりにしてしまっていた。


「わ、わたしはその、アキさんのメイドですから!してもらわなくて当然です!」


 アリアはそう言うが、問答無用とアキはさらに彼女をしっかりと抱き締める。


「嫌か?」

「そんなことはないです……。嬉しいです。」


 少しだけ照れ臭そうに、そして少しだけ嬉しそうに、穏やかに微笑むアリア。彼女のそんな表情と、優しい淡藤色の瞳が相まって、とても美しく儚げに見える。


「俺はいなくならない。だからこれからも俺の側にいてくれ。」

「うん。ミルナさん達がいなくなったとしても。私はずっとあなたの側にいつまでも。」


 アリアが安心してくださいと小さく呟く。


「だってアキさんは私を、私達を選んでくださるんですよね。勿論みんなで居られるに越したことはないです。でもミルナさん達はどちらを選ぶと思いますか?」

「どうだろうね。わからない。」


 それは彼女達が決める事だ。アキの事を選んでくれそうな気もするが、イリアを選びそうな気もする。可能性は半々と言ったところだろうか。まあアキがあれこれ考えたところで結果が変わるわけではない。


 今はアリアとの時間が優先だ。


「ちゃんとつけてくれてる。」


 アリアを抱き締めて気づいた。彼女の綺麗な黒髪の隙間から、耳元に小さく光るイヤリングが見えた。ミレーでアキがアリアにプレゼントしたものだ。


「もちろんです。いつも必ずつけております。アキさんこそつけてくれています。」


 アキもアリアから貰った従者の指輪は常につけている。まあ彼女達から貰ったものだから当然だ。


「大事なものだからね。」

「ふふ、アキさん。私、アリアは貴方を本当に心からお慕いしております。だ、だから……あの……えっ……っ!?」


 彼女の言葉を遮るように、アリアの唇を自分の唇で塞ぐ。


 急に何をされたのかわからずに驚いていたようだが、口付けされたのだと理解したアリアは耳まで真っ赤にしている。


「駄目だった?」

「ううん、ダメじゃない……けど……私でよかったの?」

「アリアがいいんだよ。」

「うん。」


 嬉しそうに頷くアリア。仏頂面の彼女がこんなにも幸せそうに笑ってくれている。


 まあでも……こんなことをすれば、激しく不機嫌になる影が当然1人いるわけで。


「ずるい。」


 頬を膨らましてすっかり拗ねてしまったルティア。


「ルティアもいい子だよ。」


 うちの小動物も少し構っておこう。アキはアリアを離してルティアをそっと撫でる。


「……もっと。」


 ちょっとだけアキの方を見てすぐにそっぽを向くルティア。これはもっと構えという合図だろう。


「はいはい、ルティアは可愛いし、いつも役に立ってくれるし、俺の大好きな影だよ。」

「アキの女?」


 この子もどうやらそれが望みらしい。ルティアは恋人希望だとは正式には言ってこなかったので、彼女に対しては言葉を選んでいたのだが、どうやら無駄な足掻きだったようだ。


「ルティアはそうなりたいの?」

「うん。私もアキの側に、ずっと、ずっといるから。安心して。」

「そうか、ありがとう。じゃあルティアも俺の女だね。」


 アキがそう言うと、満足そうに頷くルティア。一応キスをせずとも満足してくれたらしい。よかった。まあいつか要求されそうだけど。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。