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予定通り、3日後の昼下がりにエスペラルドの屋敷に到着した。到着時刻を連絡したわけでもないのに、シャルは玄関の外で待っており、ちゃんと出迎えてくれた。さすがアリアの妹。優秀なメイドだ。
「アキさん、お姉ちゃん、おかえりです!」
シャルが笑顔で駆け寄ってくる。しかしアキとアリアにしかおかえりと言わない辺り、シャルは相変わらずだ。うちの子達も既に彼女の性格については諦めているのか、特に気にした様子はない。でもアキとしてはきちんと挨拶して欲しい。シャルには綺麗な大人に育って欲しいのだ。どっかの腹黒メイドの様にはなって欲しくない。まあ血が繋がってるから望みは薄いが……。
「シャルちゃん、ただいま。でもちゃんとお姉ちゃん達にも言ってあげようね。俺の大切な仲間だからね?」
「はい、ごめんなさい。お姉ちゃん達もおかえりなさい!」
「ありがと、シャルちゃん。」
ただ何故か不機嫌になるミルナ達。アキは良い仕事ならぬ良い教育をしたはずなのに、おかしい。
「お話ですー!」
そしてソフィーが元気よく叫ぶ。何故だ。みんなにちゃんと「おかえり」と言うよう、シャルを教育したアキを褒めるべきではないだろうか。それなのに何故お話コースなのか。
「え、なんで。」
「ふふ、わかってますわよね?お話か言い直すか早く決めてくださいませ。」
ミルナが不敵な笑みを浮かべる。やはりそう言う事か。アキは溜息交じりに言い直す。
「お前たちは俺の大事な女だから……ってこれでいい?」
アキの言葉に「それでいい」と満足したように頷くミルナやベル達。しかし言い直すだけでいいのだから単純な子達だ。でもそんなに「俺の女」と言われるのがいいのだろうか。やはり女心はよくわからない。
「うーん?」
「どうしたのシャルちゃん?」
アキの発言を聞いて何かを悩んでいるシャル。「俺の女」発言に対して思うところがあるのか難しい顔をしている。
しかしすぐに何かを理解したようで、ポンっと手を叩く。
「なるほど!これが前にイリアナさんが言ってた『都合のいい女』ってことですね!」
「アリア、ちょっとイリアナ連れてこい。」
あの駄メイドは余計な事をシャルに吹き込んだらしい。アキ達と一緒に爺さんもサルマリアからミスミルドに戻ってきていたので、爺さんの馬車にいたイリアナをアリアに連れてこさせた。
「アキさん、それに都合のいい女の皆様、ごきげんよう。」
開口一番に喧嘩を売ってくるイリアナは相変わらずいい度胸をしている。
「シャルちゃんに変な事教えんな、この人間失格メイドが。」
「最高の誉め言葉です。でも確かにシャルちゃんに言う事ではありませんでした。謝罪いたします。」
この世界のメイドは総じて毒舌でどMなのだろうか。まあ素直に非を認めて頭を下げたから許してやろう。
「でもアキさんも『都合のいい女だなーチョロいなー』って思ってますよね?」
「うん。」
あ、つい馬鹿正直に頷いてしまった。
「「「「「ちょっとー!?」」」」」
うちの子達とベルが一斉に叫ぶ。
ちなみにアリア、セシル、エリスは都合のいい女という認識でも特に文句はないらしく、「俺の女」発言以降、ずっと嬉しそうにしている。それでいいのかと呆れるが、まあこの3人のこれは今に始まった事じゃない。
「アキさん、その認識はいただけませんわ!」
「そうです!私はそんな簡単な女ではありません!」
ミルナとベルがぶーぶー文句を言ってくる。とりあえず2人を撫でて甘い言葉で慰めてみる。
「ミルナは可愛いね。ベルも美人だ。2人とも優しくて最高の女だね。」
「「えへへー。」」
あっという間に破顔する2人。
「やっぱりチョロくて都合のいい女ですね。」
イリアナが淡々と告げる。
「「はっ!?今のは違います!」」
必死に言い訳を始めるベルとミルナ。だがもう何を言っても説得力はない。エレンとレオは気まずそうな顔で「お願いだから私達にはそれやらないで」と見つめてくる。自覚は一応あるらしい。
「アキさん!私はどうなんですー?」
「ソフィーは最高に都合のいい女だな。可愛いぞ。」
「やったー!!!」
この駄エルフはそれでいいのか。というかソフィーにとって「都合のいい」言葉しか耳に入っていない。そういう意味での都合のいい女じゃないんだが。確かエルフは聴覚が優れているとか言っていたのに。とにかくこの子の能天気さには誰も敵わないだろう。ミルナ達が騙されていますわよと必死にソフィーに説明しているが、本人は首を傾げて不思議そうな顔をしている始末だ。
「アキさんのところは相変わらず賑やかですね。私も是非メイドとして……。」
「あなたを雇う余裕はありませんから。」
アキの隣でイリアナとアリアが醜い言い争いをしている。こっちはこっちで女の戦いがあるらしい。ただこれはあくまで彼女達の演技だ。多分演技だ。そう信じたい。
とりあえずアキの側までさりげなく来てくれたこの子達はちゃんとわかっている。
「爺ちゃんと話があるから手配してくれ。」
もちろん話とはイリアの件についてだ。立ち入り禁止エリアでの経緯は既に話したが、細かい計画などがまだだ。
「かしこまりました。」
イリアナが小さくお辞儀をしながら答える。アリアも静かに頷いている。
アキがわざわざイリアナを連れてこいと言った時点で、この2人ならアキの真意に気づいている。今回はシャルの言動を利用したが、アキが大抵イリアナを呼び出す時、無駄な用事で呼ぶ事は一切ない。爺さんが馬車で待機して出てこないのも、アキがイリアナを呼び出した理由を察してだ。
「アリアはあとで話がある。キーリもだ。いいね?」
彼女達以外に聞かれないよう囁く。この程度の声量でもルティアはちゃんと聞いていてくれるだろう。
「はい。」
「わかった。」
アリアが小さく頷く。ルティアもやはりちゃんと聞いていたようで、どこからか返事が返って来た。
こんな七面倒なやり方を取っているのも、うちの子達にアキが裏で色々動いてると感づかせない為だ。あの子達は勘だけは恐ろしく鋭い。
「それでは私はこれで。」
イリアナが頭を下げ、エスタートの馬車へと戻る。
イリアナが馬車へ消えたのを確認し、アキはミルナ達に声をかける。
「さっさと屋敷に入ってのんびりするぞ。3日後にはすぐに出発だからな。のんびりできる時にのんびりしておこう。」
アキはミルナ達を連れ、屋敷へと引き上げる。
ただ丁度そのタイミングでイリアナが再び現れ、声を掛けてきた。
「アキさん、エスタート様が新商品についてお伺いしたい事があるようです。」
まあただの茶番だ。あたかも別件で用事があるかのように見せかけてくれたのだ。
「今から?」
「いえ、明日馬車を寄越すので私がお迎えにあがります。2時間程お時間を頂戴できますでしょうか。」
「わかった。」
イリアナと爺さんはアキが1人で行動できるように取り計らってくれたようだ。「馬車でイリアナが迎えにくる」この一言があれば、アキは1人での外出が許される。そして「新商品についての話」と銘打っているので、イリアの件ではないと誤魔化せる。商品の話であれば訪問するのはアキでないといけないし、他の者が来ても意味がない。これで明日は変な勘繰りをされず自由に動ける。それでもダメと言われたら、最悪アリアだけでも同行させればうちの子達は納得するだろう。
しかしここまでしないと自由な外出すら許して貰えないとか、この子達は過保護すぎる。まるで親バカな母親のようだ。実際一度そう指摘したのだが、「アキはすぐに女を落としてくる前科が一杯あるからそんな事言ってもダメなものはダメ」と頑なに1人での行動を許してくれなかった。しかも最近はアイリという兎を拾ってきたので尚更1人でのお出掛けは禁止らしい。
「まあ気持ちは嬉しいけどね……でも今後俺の自由はないんだろうな。」
アキは苦笑しつつそう呟いて、久々に自分の屋敷へと足を踏み入れる。




