2
「じゃあ話を戻そうか。」
「アキ、さっきの消したよね?よね?」
レオが尻尾を悲しそうにぱたぱたと揺らしながら確認してくる。
「消したよ、だから安心しなさい。」
そう言ってレオを撫でる。さすがにあの写真を残しておくのは可哀そうなので本当に消した。少しもったいなかったが仕方がない。
「しかしミルナ、普段からポンコツなんだから寝相くらいはだな……。」
「言わないでくださいませ……。今私自分の存在価値について途方にくれているんですの……。」
ミルナが本気で凹んでいるので弄るのはやめておいてやる。
「じゃあとりあえずイリアの事な。」
下らない話を挟んだおかげで、ミルナ達はある程度気力を取り戻してくれた。これなら今後の事を話しても問題ないだろう。うちの子達がお通夜のような状態で進めてもちゃんとした話は出来ない。ミルナ達復活の代償に多大なる精神的被害がベルやセシルには出たけど……まあ終わりよければ全てよし。
ちなみにアリア達には十六夜の洞窟であった事の顛末はリスルドに戻る馬車の中で話してある。魔法印を見学し、一族と協力体制を取った事、そしてイリアに襲われた事まで、全てを伝えた。
「なぜイリアはアキを襲ったの……?」
エレンが悲しそうに聞いてくる。
「明確な理由はわからない。だが推測は出来る。」
疑問は2つある。まずイリアは立ち入り禁止エリア内に潜んでいた。それは何故か。これが1つ目の疑問だ。そしてイリアはアキが魔獣制度を廃止すると言ったら襲ってきた。つまりその事から言えるのは、彼女は制度の廃止に反対だという事だ。では何故反対なのか。これが2つ目。
「この2つの疑問が解ければイリアが襲ってきた理由は見えてくるはずだ。」
「なるほど。ではそれは何故ですの?」
ミルナが全くわからないですと首を傾げる。
「これは俺の予想だが、やはりイリアは俺たちの知らない何かを知っている。」
ミルナ達の前から嘘をついて姿を消したのも、それに関係しているのだろう。
「まずミルナ達に聞きたい。イリアはどんな性格だ?」
今まで確認してこなかったが、イリアとの邂逅を果たした今、彼女の事を詳しくミルナ達に聞いておく必要があるだろう。
「そうですわね……彼女はまっすぐな子です。」
ミルナ達から見たイリアは、自分の信念をはっきりと持っており、それに従って真っ直ぐに突き進むタイプだという。良い意味で言えば芯があって猪突猛進な人間。悪い意味で言うと、頑固であまり柔軟に物事を考えられない。まあ実際、アキを襲ってきた時も聞く耳を持っていなかった。ただ逆を言えば、説得出来てさえしまえば、アキ達を信じて動いてくれるようにはなるはずだ。
「まあそういう性格なら執拗に俺を狙ってくるだろうな。」
「大丈夫なのか!アキ!」
エリスが心配そうな表情を浮かべる。みんなにイリアの実力の程は説明してあるので、エリスと同等の戦闘能力があるかもしれないイリアは強敵だと思っているのだろう。だがアキは心配するなと伝える。
「でも最初の不意打ち、下手したら死んでたな。」
「だったら余計危ないのだ!」
「逆だ。今、生きてるだろう。だから大丈夫なんだ。俺にはルティアがいる。彼女が俺の影にいる限り、不意打ちは効かない。」
ルティアがいなければ死んでいただろう。でも彼女がいたから無事だ。そもそもルティアという保険があったからあの場でイリアを炙り出そうという強硬手段に出たのだ。彼女がいなかったら、あの手段はとっていない。
「私、凄い?」
自分の話題が出て気になったのか、呼んでないのにルティアが姿を見せる。
「ああ、最高の影だな。」
アキが褒めると嬉しそうにやったやったと喜んで、これからも影としてもっと頑張ると抱き着いてくる。うちの小動物可愛い。まあこの子がアキの側にいてくれる限り、アキが不意打ちで怪我を負う事はほぼないだろう。
「ルティアがいるから強引な手も使える。それに正面からの敵にはエリスがいる。そうだろ?」
「ああ!影としては守れないが、表なら私が守るのだ!」
アキには心強い影と騎士がいる。実力もSランクの中でもトップクラス。うちの子達全員のお墨付きだ。
「イリアは立ち入り禁止エリアに何かしらの関りがある。そして俺を殺したい。なら予定通りエスペラルドの弦月の山へ行こう。そしたら必ずそこで俺に接触してくるだろう。俺の安全は今言った通り大丈夫だからいいよね?」
「は、はい。」
ミルナが頷く。ソフィー達も渋々ではあるが納得してくれる。本来であるならアキが狙われている時点で外出禁止と言うだろう。いくらルティアやエリスがいても駄目というのがミルナ達だ。でも今回はイリアが関わっているので、行かせたくない気持ち半分、行って欲しい気持ち半分と言ったところだ。
「ベル、イリアはおそらく無断で国境を越えて弦月の山へ侵入する。見逃せ。」
「わかりました。アキさんの言う通りに。」
ベルが頷く。
「エスぺラルドの屋敷まであと3日。屋敷で2,3日休息と準備。その後、弦月の山へ。ミスミルドから現地へはどれくらいだ?」
「1日半程南南西へ下ったところです。最寄りの街はありますが、立ち寄る必要はないでしょう。私が管理者一族の集落の屋敷を借りられるよう手配します。」
ベルが全て段取りはしてくれるようだ。助かる。
「頼もうとしていた事を先読みして色々手配してくれるのは嬉しいけど、ベルに頼み事する必要がないのは寂しいな。」
言葉にして頼むまでもなく、ベルは全てを察して動いてくれるので、楽ではあるが少し物寂しい。アキとしてはちゃんとベルに頭を下げたいのだ。
「わ、私とした事が……なんという不覚でしょう……。」
「え、どうしたの。」
ベルが絶望したような表情を浮かべている。
「アキさんとの会話や構ってもらう時間を自ら減らしていたなんて……!アキさん!私これから物分かり悪くなります!お馬鹿になります!」
確かにその通りだが、面倒になる事間違いないのでやめなさい。アキとしては「お願い」「わかりました」のやり取りをしたいという意味で言っただけなのに、どうしてこうなった。アホの子はエリスだけで十分だ。
「アキ、今なんか余計な事考えただろう!」
「気のせいだぞ、エリス。」
「そ、そうなのか?ならいいのだ。」
無駄に勘のいいエリス。ただやはりアホの子だ。まあそこが可愛いんだけど。
それより本題だ。
「それで、ベル。弦月の山への立ち入り許可、屋敷の手配、全て任せていいよね?」
「えへへ、ベルよくわかんなーい。」
なんか無性に苛ついたので、おもいっきりベルの頭を引っ叩く。
「ひゃっ……うぅ、痛いです!なんで叩くんですか!」
ベルが涙目で睨んでくる。
「自分の胸に聞け。余計な事すんな。ベルにはバカは似合わない。」
「むぅ……しょうがないですね……。」
致し方なしといった表情をするベル。やはり聡明で物分かりのいいベルが一番だ。
「とりあえずこれからの予定はそんな感じだ。後は弦月の山に到着するまでに、何故イリアが魔獣制度廃止に反対なのか考えよう。」
アキの言葉に頷くうちの子達。
だが本当はそんな事をするまでもなく、イリアの考察は終わっている。考えなければいけないのは、どうイリアを説得するか、そしてその下準備だ。ミルナ達にはまた「なんで言ってくれないの」と怒られるだろうが、これは譲れない。まだこの子達には言えない。
爺さんやルティアとその計画の打ち合わせをして、細かい調整を行う。2,3日もあれば十分だろう。ミルナ達に悟られないようにだけ気を付けなければいけない。今までも彼女達に内緒で色々とこっそり計画して来たから、アキの勝手な行動や計画には敏感になっているだろう。特にアリア辺りは感づいてきそうだ。今も少し訝し気な目でこっちを見ている。変に勘づかれる前にアリアには全てを話して計画の一端を担ってもらった方がいいかもしれない。むしろアリアなら安心して任せられるし、それがいいだろう。頭の中の計画に修正を加える。
とりあえず今は適当な話題で話を逸らしておこう。
「そして重要な課題が残っている。イリア奪還の為の魔法開発だ。」
「な、なんですの?」
魔法と聞いてミルナが身を乗り出して聞いてくる。
「ああ、なんとしてもこの2,3日中に完成させなければならない。」
「新魔法ですか?教えてくださいませ。」
ミルナが私も覚えられるなら覚えますと意気込んでいる。
「うむ、ミルナ専用の特別魔法『おっぱいバズーカ』だ。」
一瞬何を言われたかわからないぽかんとした表情を浮かべるミルナ。
「合わせて『おっぱいフラッシュ』も開発してやろう。ミルナの胸が光って飛んでいけばイリアもビックリして思考停止する。どうだ、効果的だろう?」
これぞ至高の魔法ではないだろうか。
「こらっ!何が至高ですの!そんなの彼女じゃなくても思考止まりますわよ!私をそんなビックリ人間にしないでくださいませ!ばか!」
ミルナが顔を真っ赤にして一気に捲し立てる。そんなに嫌なのか。
「わかった。なら『ファイナルインパクト』ってカッコイイ名前に変えてやろう。そしてさらにカッコイイ決めポーズも付ける。」
「そこじゃないですわ!名前がかっこよくても飛んでいくのが私の胸とか頭おかしいでしょうが!誰が憧れるんですか!そんな魔法!」
憧れそうな人……。顎に手を置いて逡巡する。
「エレンだな。ほら、飛ばせるものがないから憧れるんじゃないか?」
「あきいいいい!ぶっころおおおおおす!なんか言われる気がしたのよね!でもほんとにいうなあああ!この変態!ばか!あほ!しねええええ!」
ミルナを弄った段階で、エレンが飛びかかる準備をしていたのは知っていた。きっと自分も弄られると予想していたのだろう。そんなに期待してくれていたのなら弄ってあげなければと思い弄ったのに、怒られた。不愉快だ。
「不愉快なのは私よ!死ね!今すぐ死ね!」
「ほら、エレン、おいで。」
文句を言うくせにアキが呼ぶといつも素直に側に来るエレン。そのまま抱き上げて膝の上にのせてやる。サルマリアでは、肌寒いのもあって、エレンかレオを膝に乗せるのが日常になっていた。
「これで、許して。」
「し、仕方ないわね……。」
表情は見えないが、嬉しそうに揺れるツインテールを見れば、喜んでいるのがすぐにわかる。うーん、いつも通りチョロい。
「あまり落ち込むな。」
「うん。大丈夫よ。」
エレンは小さく頷いてアキの手に自分の手をそっと重ねてくる。
イリアの件はある程度吹っ切れたようでよかった。それに結果として話しも上手く逸れた。多分誤魔化せただろう。




