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「いい加減元気出せ。」
イリアと劇的な再会を果たした後、アキ達は足早にエルモアに戻り、「おかえり!」と喜ぶベル達を馬車へと押し込んでリスルドまで帰還した。何事かとベル達は目を丸くしていたが、説明したらすぐに理解、納得してくれた。そしてその翌朝、ステラと爺さんに簡単な報告だけ済ませ、エスペラルドに向かって馬車を進めている。
「……無理ですわ。」
ミルナが元気のない声で返事をする。ソフィー、エレン、レオもすっかり意気消沈していていつもの元気がない。ベルがアキにどれだけ甘えても、一言も文句を言ってこないくらいに重症だ。そんなベルも張り合いがないのか、甘えるのを控えている。不思議なものだ。いつもお互い喧嘩しているのに、4人に元気がないとアリア達まで影響を受けるようだ。
「イリアね……よかったじゃないか。」
「どういうことよ!なんでよかったのよ!」
エレンは本気で怒っているようで、アキを睨みつけてくる。ミルナ達もアキの言動が不満なのか、怒っているように見える。
「よく考えなよ。今までイリアが生きているか死んでいるのかわからなかったんだ。生きているってわかっただけでも良かったじゃないか。」
生きているのであればどうとでもできる。あとはアキやミルナ達の努力次第だ。
「あ……確かに……そうね……。うん。そうよね。」
「だろ?だから怒らないでね。エレンに怒られるのは結構悲しい。」
自分の言葉選びが悪かったとはいえ、エレンやミルナ達に怒気を向けられるのは結構凹む。改めて実感した。
「……ごめん。アキ、ごめんね。」
エレンが抱き着いてくる。
「大丈夫。」
「ふふ、アキさんのそんな表情初めて見ました。」
くすくすと笑うベル。ミルナ達も確かにとアキに視線を向けてくる。
「うるさい、この腹黒王女。」
「あら、可愛いアキさん。照れ隠しで罵倒されてもまったく怖くないですよ?」
ベルが珍しく弄ってくる。きっとこの空気を少しでも柔らかくしようという彼女なりの配慮なのだろう。
しかし何も返す言葉が思いつかないのが悔しい。
「アキさんが言い返せないのは珍しいですね。」
セシルまで耳をぴくぴくさせながら楽しそうに絡んでくる。
「しょうがないだろ。たまには弱音くらい吐かせろ。」
アキはそっぽを向く。ミルナ達に見放されても、見捨てられても、自分ならばしょうがないと割り切れると思っていた。でもどうやらそんな簡単に気持ちは切り替えられないらしい。いや、そんな事はわかっていた。ただわかっていただけで自覚してなかっただけだ。
「ごめんなさい。そしてありがとうございます。アキさんに想われてる……こんなに嬉しい事はありませんわ。」
ミルナが嬉しそうに微笑む。
「僕達らしくなかったね。そしてアキ、嬉しい。」
「えへへ、私はやっぱり笑顔の方がいいですよね?」
レオとソフィーも大分いつもの調子が戻ってきたようで、元気よく笑う。
「そうね!アキ!イリアのことなんとかしなさいよね!」
エレンもアキから離れると、照れ臭そうに笑う。ベルのおかげですっかりいつものミルナ達だ。
「ああ、俺に任せろ。必ず何とかするから。」
アキの言葉にミルナ達が力強く頷く。彼女達を復活させてくれたベルには感謝だ。アキではこう上手く出来なかっただろう。女心は難しいからな。
「やっぱりミルナ達はその調子じゃないとな。そしてその元気を取り戻してくれたベルとセシルにはご褒美をあげよう。」
ご褒美と聞いて嬉しそうな顔をする2人。
「ルティア。」
「なに、アキ。」
どこからかルティアの声がする。
アキが呼ぶと、馬車の中だろうとどこだろうと、ルティアはちゃんと反応してくれる。さすがルティア。しかし相変わらずどこにいるのかわからない。エリスとエレンは毎度の如く「何故わからないの」と悔しそうにしているのが面白い。
「今俺はベルとセシルに弄られた。だからご褒美に2人の秘密をばらしなさい。」
ベルとセシルが何が起こったのかわからないといった表情を浮かべる。
「わかった。」
ルティアが端的に答える。その声で我に返ったベルとセシルが必死に叫ぶ。
「「なんで!?」」
ベルとセシルはルティアを止める為に必死に車内を見回すが無駄だ。そんな少し探したくらいでうちの影は見つけられない。諦めろ。
「アキさん、なんでええええ!まってええええ!」
「おかしいです!どこがご褒美ですか!」
ルティアが見つからないとわかると、今度はアキに詰め寄ってきた。必死過ぎてちょっと怖い。だからこそ2人の秘密が余計気になる。
「俺を弄るとはいい度胸だ。諦めて暴露されろ。ルティア、早く言いなさい。」
アキを掴んで「やめて!」と揺らしてくるがもう遅い。アキではなくルティアを止めない限り、秘密の流出は防げない。
「セシルは最近耳を動かす練習してる。『こう動かせばアキさんはいちころです!』って言ってた。この前聞いた。」
「ち、違うからああああ!」
セシルが顔を真っ赤にして否定する。
どうやらこの兎耳、無意識に動いていたわけじゃなく、意図的に動かしていたらしい。まさかの事実だ。レオの尻尾もそうなのかと彼女の方を見るが、「僕のは無意識だから!」と訴えてくる。どうやらセシルだけのようだ。
「セシル恐ろしい子。」
可愛いけど。うちの兎可愛い。
「だってええええ!」
アキにしがみついて「そういう事じゃないんです」と言い訳してくるセシル。
しかしこういう時、普段なら「あざとい兎です」とかベルが茶々を入れてくるのだが、今の彼女にそんな余裕はないようだ。次は自分の番だと理解しているのか笑みが引き攣っている。
「ベルは部屋で『アキを暗殺から守って命を落とした悲劇の王女様ごっこ』の練習してる。見てた。あれ結構面白い。」
「なにそれ面白い。ベル、やって。」
ベルは悲劇のヒロインに憧れでもあるらしい。そしてそんな悲劇のベルは俯いて耳まで真っ赤にしてぷるぷる震えている。
「ばか、ばか、ばかー!し、してないから!そんな事してないもん!」
「ベル……落ち着け。大丈夫だ。ごっこ、今度一緒にやろうな。」
「やらない!絶対やだー!やらないっ!」
ベルは両手で顔を覆って、馬車の端っこで丸くなってしまった。アキが声をかけても「うるさい、ばかっ!あっちいけ!」と暫くは口を聞いてくれなさそうだ。
そしてベルとセシルの秘密を聞いていた他の子達は気まずそうな表情を浮かべている。やけに静かだ。珍しい。
「あれ?なんでみんな黙ったままなの?なんなら皆の秘密も言っ……」
「「やめなさい!」」
アリアとミルナが叫ぶ。駄目らしい。
「そうなる気がしたから黙ってたんですの!わかってくださいませ!」
ミルナの言葉に激しく同意する面々。どうやら余計な事を言うと自分の秘密も暴露されると思い黙っていたらしい。
しかし何故いつもこの子達はばらされたくない秘密がそんなにあるのだろう。
「ほんとみんな1人の時間何してんの?」
呆れた声で呟くアキ。既に秘密をばらされているベルとセシル以外が凄い勢いで視線を逸らした。どうやら相当な秘密があるらしい。
「呆れるね、ルティア。」
「うん、呆れる。」
「と言いつつも必死に馬車にしがみつくルティア可愛い。」
「ばかっ!なんでそういう事言うの!」
アキの指摘に慌てて叫ぶルティア。やはり図星なのか。
しかし今回のルティアはただ怒るだけじゃなく、仕返ししてくる気らしい。そんな不敵な笑みを浮かべている。まあ影に潜んでいて姿は見えないので、本当に笑っているのかはわからない。ただそんな雰囲気をひしひしと感じる。
「ふんっ。いじわるなアキの秘密。ばらす。」
「俺の秘密?」
なんかあったかなと逡巡する。特に1人の時間に怪しい事をした覚えはない。だがアキの秘密と聞いてベルとセシルは瞬時に復活する。本当にめげない元気な子達だ。
「言ってください!アキさんはいつもいつも私達を苛めていますからたまにはいい薬です!そうですよね、セシルさん!」
「そうです!言いましょう!私の兎耳も聞く準備万端です!」
ミルナ達までもが興味津々のようで、早く言えとルティアを急かす。
「まあ秘密とかないし。別にいいけど。」
「うふふ、覚悟するといいですわ、アキさん!今日はみんなでアキさんを苛める日です!その余裕もすぐになくなりますわ!」
ミルナが馬鹿でかい胸を張りながら偉そうに宣言してくる。
「馬鹿でかいとか言わないでくださいませ!!!もう許しません!ルティアさん早く言ってくださいませ!」
「わかった。アキの秘密。」
ルティアがコホンとひとつ咳払いをする。
「エルモアの宿で皆の寝顔の写真?というのを撮っていた。」
「うん?ああ、あれか。確かに撮った。いつも眺めて楽しんでるぞ。」
ルティアの言う通り、エルモアの宿では大広間で雑魚寝だったので、みんなが寝静まったあと勝手に撮影会を開催した。別に秘密でもなんでもない。ミルナ達やアリア達の可愛い寝顔を写真に収めたのだ。でもなぜルティアがそれを知っているのか。ルティアの寝顔もばっちり収めてあるから間違いなく寝てたはずなのだが。
「なんでルティア知ってるの?ルティアのも撮ったよ?寝てたよね?」
「気づいてた。寝たふり。」
どうやら普通に起きてたようだ。じゃあ何故アキを止めなかったのかと思ったのだが、ルティア曰く、別に寝顔くらいアキが見たいのなら好きなだけ見ていいらしい。
「アキならいい。」
「まあ、ルティアの寝顔可愛かったもんな。」
「そ、そう?それは嬉しい……。」
恥ずかしそうにルティアが呟くのが聞こえる。
ちなみに他の子達は何が起こったのかまだ理解できていないようで、完全にフリーズしている。面白い。
しかしこれのどこがアキの秘密なのだろうか。
「あれ?秘密じゃない?」
「別に?ばらされても俺は恥ずかしくないし。」
「しまった、失敗。」
ルティアが残念と悔しそうにする。
「「「「ちょっと!?ほんとなにしてんの!」」」」
やっと再起動したらしいミルナ、エレン、レオ、ベル、セシルの5人が一斉に叫ぶ。どうやらアキの秘密とやらを暴露されて余裕がなくなったのはアキではなくこの子達のようだ。
「馬鹿ですかアキさん!何してるんですか!」
まずはセシルが兎耳を逆立てて怒ってきた。
「みんな幸せそうに寝てたからな。撮影会を開催したんだ。素晴らしいだろう。」
隣に美女の寝顔があったら撮影するのが普通だろう。
「ばかですか!ほんと何してるんですか!アキさんは頭おかしいんですか!それを聞いて私達が『わあ、アキさん素敵』とでも言うと思ってるんですか!」
「王女様の言う通りですわ!何が『素晴らしいだろう』ですか!」
今度はベルとミルナだ。早く写真を出せ、そして消せと脅迫してくる。
「消すとか勿体なくない?」
「勿体なくないわよ!この変態!!!馬鹿なの!?」
「アキ酷いよ!なんでそんなことするのさ!僕は悲しいよ!悲しいよ!」
エレンが本気で殺すわよと短剣をちらつかせてきた。レオも尻尾を逆立てて威嚇してくる。全員必死過ぎて怖いどころか逆に面白い。
ただエリス、ソフィー、アリアだけは平然としている。
「私は前にも撮られたし別にどっちでもいいのだ。」
「私もアキさんになら別にみられてもいいですー!」
「その通りですね、それで喜んで頂けるならメイドとして至極恐悦です。」
まあこの子達はそうだろう。エリスは以前にも寝顔を撮った。ソフィーも出会った当初は恥ずかしがっていたが、今は逆に見てくださいと言ってくる。アリアは自分で下着を差し出してくるレベルの変態だから寝顔なんでどうでもいいのだろう。
「ルティアは消さなくてもいいと思う?」
「アキの好きにすればいい。それに……み、見たいならいっぱい見ていい。」
寝顔が可愛いと褒められて満足気のルティア。これで消して欲しい派5人に対して消さなくてもいい派5人となった。
「つまり消す必要はないのだよ。」
「そのめちゃくちゃな理論はなんですの!?通用するわけないでしょう!」
ミルナの反論は無視して、アキはタブレットを取り出し、寝顔写真を皆に見せる。みんな穏やかな寝顔でとても美少女だ。
「これがルティア、アリア、エリスとソフィーだ。ね、可愛いでしょ?」
4人ともちょっと照れ臭そうにしているが、可愛いと言われて嬉しそうだ。
「そしてこっちはエレンだ。凄く美少女だと思わないか?」
「た、確かに可愛いですわ。」
エレンの寝顔を見て納得するミルナ。エレンは何か言いたそうにしているが、みんなが可愛い可愛いと褒めるので、怒るに怒れないようだ。
「ま、まあ……でも……アキが消したくないのならそれでもいいわ……。」
さすがエレン、チョロい。これで1人攻略できた、後は4人だ。
「あっ……ミルナ、ベル、セシル、リオナのは消しておくね。うん。」
アキは4人の写真を見て攻略するのを早々に諦める。うん、そうだった。この子達のは消してあげた方いいと思ってたんだった。
「ちょっと!『あっ』ってなんですか!急に態度変えられても逆に気になりますから!どんな寝顔なんですか!」
ベルが慌てた様子で詰め寄ってくる。セシルやレオも冷や汗をだらだらとかいているようだ。
「えっ……?」
「なんですの!その『本気で見るの?』みたいな顔は!怖いですわ!」
ミルナが私達も可愛いですよね、大丈夫ですよねと必死に聞いてくる。
「そうだね、可愛いよー。それより他の話しようか。」
「棒読み!棒読みはやめてくださいませ!そして話題逸らさないで!」
しょうがない。そこまで言うなら見せてやろう。この子達の寝顔を。
「これだ。」
ミルナとベルはだらしない顔でよだれを垂らしていた。よほど幸せな夢をみているのだろう。顔がにやけていて美少女が台無しだ。セシルとレオはさらに酷いもので、腹を見せてほぼ半裸状態。お淑やかさの欠片もない寝相だ。普段物静かな2人だからこそ逆にこの酷い寝相に驚いたくらいだ。
「あれ?どうした?」
4人の反応が無になったので不思議に思っていると、うちのメイドのアリアが丁寧に説明してくれた。
「そうですね、4人とも精神的に死んでしまいました。あちらをご覧ください。あれが乙女とは程遠い寝顔や寝相を見せられた女の末路です。」
今度はベルだけじゃなく、ミルナ、セシル、レオが馬車の端っこで蹲っている。
「ひ、酷いわね……これは。」
「びっくりですー……。」
エレンとソフィーは4人の寝顔を見て呆れを通りこして同情している。
「まあみんな元気になったしよかったよかった。さあ話を戻そう。」
「さすがアキさん、さらっと全てなかったことにするんですね?」
アリアがさすがですと褒めてくる。まあなかった事にしてあげたほうが彼女達の為だろう。うん、それがいい。




