10
「アキさん!怪我!怪我はー!」
アキがミルナ達の元へ戻ると、うちのエルフが心配そうな顔で駆け寄ってきて、アキの体をべたべた触ってくる。
「ええい、そんな触るな鬱陶しい。見てわかるだろうが、この過保護エルフめ。お前は俺の母さんか。」
とりあえずソフィーの頭を引っ叩いておく。
「ひゃん……アキさん……暴力ダメですー……。」
「それに俺の心配より、まずはリネット達だろうが。」
おまけでもう一発引っ叩く。ミルナ達もアキに怪我がないのを見て、ほっとしたような顔をしている。でもまあ心配して貰えるのは嬉しいことだ。
「リネット、あれ食べられるか?」
呆気に取られていたリネットに声をかける。アキの声をきいて正気に返ったのか、慌てて返事をするリネット。
「た、多分?そ、それよりアキさん凄いです!」
「そう?Sランクならあんなもんでしょ。それよりあの肉は今日のパーティーに寄付しよう。」
討伐方法についてあまり根掘り葉掘り聞かれても面倒なので適当に話題を逸らす。
そしてリネット達は肉と聞いて嬉しそうにはしゃいでいる。そこまで喜ぶものなのかと不思議に思っていたが、リネット曰く新鮮な肉は久々らしい。食材は基本王家から定期的に輸送して貰っており、食うには困ってない。だが毎日届くわけでもないので好き勝手飲み食いはできない。それに定期的に輸送される食材は保存食が中心なので、新鮮な肉はめったに食べられないのだと力説してくるリネット。
「とりあえず肉運ぶ?あと今日は召喚どうするの?」
「そうですね。召喚はこのまま続けます。あれは特殊な個体のようなので。」
リネットが記録係に確認したところ、見た事がない魔獣だったらしい。つまり未確認の個体ということだ。ある意味転送されなくて正解だろう。
「でも何故命令付与ができなかったのでしょうか?」
リネットが首を傾げる。
「外皮が硬かったから魔法が内部にまで到達できなかったんじゃないかな?」
アキはリネットが納得するだろう適当な理由を述べておく。本当の事を説明してもわからないだろうし、彼女達にそこまで明かすべきではない。
おそらく命令付与が出来なかった本当の理由は、単純に魔素の量が不足していただけだ。脳に直接命令を書き込む魔法なので外皮は正直関係ない。命令付与印に使っているオリハルコンは2本だ。あの魔獣にはオリハルコンが3本か4本くらいは必要なのだろう。魔獣によって命令付与に必要な魔素の量は間違いなく違うはずだ。魔獣には個体差もあるし、種別もある。全ての魔獣が同じ魔素量で命令付与できるわけがないのは当然だ。
「それより、ああいう未確認の個体ってよく現れるの?」
「いえ、1年に1回あるかないかでしょうか。以前も1年くらい前ですし。」
なるほど。運がいいのか悪いのかよくわからないなと苦笑する。リネット達にとってはアキ達が偶然来ていたからある意味運がいいと言える。ただあのような個体が召喚される事は運が悪いともいえる。そして見事にそのタイミングに居合わせたアキ達の運も相当なものだ。
「そうか……まあ、俺達がいるときでよかったと思おう。」
「そうですね!ありがとうございます!助かりました!」
リネットに続いて担当者の3人も頭を下げてお礼を述べてくる。
その後はみんなで魔獣を解体し、集落へと運んだ。
ただ今日は他にやる事ももうないので、集落に戻り次第リネットは帰らせた。
「早めに終わったな。夕方までごろごろしようか。」
歓迎会の準備ができたら呼びに来ますねとリネットが言っていた。それまでは自由時間だ。
「そうですわね。たまにはいいんじゃないでしょうか。」
ミルナも同意してくれる。ルティアも呼んであげたいが、万が一監視者に見られていたら厄介なので、申し訳ないが立ち入り禁止エリアを抜けるまでは影でいて貰おう。
「明日はどうするんですかー?」
「そうだね、見る物は全て見たし、エルモアへ戻ろう。」
ソフィーが聞いてくるので明日以降の予定を伝えておく。エルモアに戻った後はリスルドへ帰還する。そしてステラやエスタートに状況を報告だ。
「その後はすぐにエスペラルドに戻って、ミスミルドの屋敷で少し休む。数日空けて弦月の山へ出立しよう。」
シャルも寂しがっているだろうし、2,3日は屋敷にいてあげたい。アリアもきっと妹との時間を持ちたいだろう。なんなら弦月の山へ行くときはアリア達には屋敷で留守番してもらってもいいかもしれない。
「何言ってるんですの、来るに決まってますわ。」
「やっぱりそう思う?」
ミルナが当然ですという顔で頷く。まあアキも同じ意見だ。試しに提案してみたが、やはりするだけ無駄だ。アリア達は必ずついて来る。ベルも間違いなく来る。しかもエスペラルド国内であればベルの権力が及ぶので、下手したら弦月の山までついて来るつもりかもしれない。
「まあ、皆もいた方が楽しいから……いいか。」
「うん、僕は5人も好きだけどやっぱりみんな居た方がいいと思う。」
レオが尻尾を振って甘えたそうに見つめてくる。昨日はエレンだったので今日はレオでいいだろう。アキはレオを抱き上げて膝の上においてやる。
「うーん、尻尾……思いっきり引っ張ったら痛いのかな?」
目の前で揺れていた尻尾を見ていたらふと気になったので聞いてみた。
「い、いきなり何言うの!?やめてよね!」
レオが焦って尻尾を抱きかかえる。必死に尻尾を守るレオが可愛い。とりあえず冗談だと伝え、アキに尻尾を撫でさせるよう催促する。
「もぉー……アキだからいいけど。はい。」
「うむ、よき尻尾かな。」
そのまま夕方までレオの尻尾を愛でつつ、昼寝したりしてのんびり過ごした。ただリネットが呼びに来た頃にはすっかりレオの尻尾がモサモサになっていて、触り過ぎとめちゃくちゃ怒られた。




