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異世界の観察者  作者: 天霧翔
第十七章 十六夜の洞窟
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8

「あ、あそこです。洞窟の入り口が見えました!」

 

 リネットが指差した先に数メートルはあろうかという巨大な洞窟の入り口がみえる。もっと小さいものかと思ったのに、意外にも大きくて目立っている。なんでも魔獣が通れるようにしてあるとの事らしい。確かに魔獣を転送出来なかった場合、出入り口を確保しておかないと洞窟が使えなくなる。集落への被害を考えるなら、入り口を小さくして魔獣を洞窟内に閉じ込めるようにするのがいいとは思うが、やはり重要なのは集落の安全より魔獣召喚なのだろう。


「中には村の人間がすでに3人来ているはずです。今日の召喚担当ですね。」


 どうやら担当制で、1組3人で魔獣召喚を管理しているらしい。


「これから中に入りますが、アキさん達にもこれ渡しておきますね。」


 リネットがカードのような物を渡してくれた。おそらくこれが識別信号を発信しているカードだ。通行許可証や冒険者証等とは少し違うが、大きさが一緒なので間違いない。囮になる役の1人以外はこれを持っていないと召喚の邪魔になるから持たせてくれたのだろう。アキが持っているSランク冒険者証でもある程度襲撃は防げるとは思うが、冒険者証の識別刻印は不完全なものだ。識別信号を発していない時間帯だと魔獣には襲われる。

 

 まあリネットはそこまでわかっていないはずなので、単純に来訪者が来た時は渡すように言われているのだろう。


「これを持っていると魔獣に襲われないんだよね?」

「あれ?知っているんですね。その通りです。」


 リネットが説明しましたっけと首を傾げている。


 説明はされていないが、アキは閲覧禁止文献を閲覧しているし、魔法印の解析も行ったので知っているだけだ。


「王女殿下から聞いたけど、囮になる1人はこれ持ってないんでしょ?」

「はい、その通りです。中にはいったらどの人が囮役か教えますね。」


 アキ達が見学に行く事は事前に連絡してあるらしく、召喚のプロセスを一度止め、色々と説明してくれるらしい。それは丁度よかった。何も知らずに中に入ってふらふらと囮の人間に近づいたら、転送や命令付与の邪魔になる。まあ案内人としてリネットを付けてくれているのはその為もあるのだろう。それにアキとしても彼らの仕事の邪魔をするつもりはない。いくら魔獣制度を廃止すると言っても強硬手段はとりたくない。リネット達に迷惑をかけるのは避けたいところだ。


「それでは早速いきましょう。」


 リネットが先陣を切って洞窟へと入っていく。アキはミルナ達に目配せをして先にいかせる。昨日と同じ配置になるようにとあらかじめ指示しておいた。当然アキがルティアと連絡を取る為の処置だ。


「ルティア。」

「いるよ、アキ。」


 どこからかルティアの声がする。洞窟の中だから隠れるところはないはずなのに姿は一切見えない。さすがだ。


 ちなみに最近は、ルティアがどこにいるのかを想像するのが一つの楽しみになっている。ただアキがそういう事を考えているのが彼女には全部ばれていて、怒られるのが日課でもある。


「だから考えちゃだめっ。」

「はいはい。それで今、見ているやつはいるか?」

「うん、いる。でもまだ特定できない。」

「そうか、無理はするな。」


 ルティアとは簡単な情報交換だけをして、会話を切り上げる。そして足早にリネット達へと追いつく。あまり長くルティアと話していては、監視者にはアキが独り言を話しているように映り、不自然だ。


「大丈夫ですの……?」


 アキの様子をさっきからチラチラ伺っていたミルナが小声で尋ねてくる。


「うん、特に問題ないよ。」

「ほっ……それならよかったですわ。」


 ミルナが安堵の表情を浮かべる。そんな様子を見て、相変わらずこの子達はアキに対しては過保護だと、つい苦笑してしまう。






 洞窟内の通路は薄暗く、気をつけないと転びそうになる。この暗さだと灯りを灯さないと調査は難しい。本当に召喚場所には充分な明るさがあるのだろうか。


 そんな事を考えながら暫く洞窟内を歩くと、大広間のような場所に出た。おそらくここが魔獣召喚の中枢だろう。


 しかし確かに明るい。リネットの言っていた通りだ。


 吹き抜けのおかげか、十分日の光が降り注いでおり、照度はしっかりと確保されていた。先ほど歩いて来た森林の中くらいだ。


「こちらが魔獣召喚する場所です。今は召喚を止めてもらっているのでその間に手順を説明しますね。」


 大広間は縦長の長方形のような部屋になっており、魔法印が等間隔で3つ並んでいる。入口は短辺の一角にあり、リネットの説明よると、奥から召喚印、命令付与印、そして手前の魔法印が転送印だ。魔法印はチョークのような物で描かれていて擦れば消えてしまいそうだ。てっきり地面に彫ってあるのかと思っていたが、違うらしい。


「緊急の場合は消せるようにしています。」


 なるほど、消去可能にしてあるということらしい。


 しかし魔法印を消したりできるのであれば、術式を変更することも可能だ。ルティアがオリハルコンを地球に転送した時も転送印の場所指定の部分が偶々変更されたのだろう。多分オリハルコンを転送印に乗せる際、ルティアがまとめて武器を引きずった。その時に偶然書き換えられたかもしれない。魔法印解析していた時にどうやって術式が変更され地球に転送されたのか気になったが、魔法印が物理的に変更可能なのであれば納得がいく。小柄なルティアの事だ、どうせ両手に大量のオリハルコンを抱えて一生懸命引きずったのだろう。その姿を想像するだけでちょっと和む。


 それはともかく、この魔法印の保守もリネット達がしているらしい。確かに消せる素材なのであれば、時間経過と共に薄くなっていくから適度なメンテナンスが必要になる。ただ、そんな消えやすい物質なのであれば、魔獣が上を通過するだけでも消えてしまうのではないだろうか。だがリネット曰く、その心配はないとのこと。魔法印を描いている物質はただのチョークではないらしい。多少擦っただけでは消えない特殊な素材で出来ていて、削るような勢いで擦らないと消えないのだとリネットが説明してくれた。


「魔法印の内容は理解してる……というか覚えてるの?」


 リネットに確認する。保守をしているという事は、魔法印を描き直しているという事だ。ルティアがオリハルコンを地球に転送した後も転送印を描き直しているはず。もし彼女達がこれの内容を理解しているのであれば、色々と情報が聞けるからありがたいのだが……。


「いえ、魔法印の写本があります。それを元に描き直しているだけです。理解はしていません。お役に立てなくてすいません。」


 リネットは申し訳なさそうに頭を下げるが、アキは気にするなと伝える。多分そうだろうなと予想していたので問題はない。そもそもこれを理解しているのであれば、魔法印の運用をもっと効率的に行っているはずだ。


「そういえばオリハルコン、少し前に消えたよね?」


 一応オリハルコン消失の時の事も聞いておく。リネット達は当事者なのでアキが知らないさらなる情報があるかもしれない。


「サルマリア王家から聞いているのですね?はい、あの時は吃驚しました。」


 朝洞窟に来たらオリハルコンが無くなっていると大騒ぎになったらしい。その後すぐにサルマリア王家に報告、代わりのオリハルコンが届けられた。王家からは魔法印の誤作動で消えただけだから気にするなと言われたのだとか。


「誤作動なんてあるんですね。誰かが侵入したのかと思いました。」


 その通りだ。ルティアが侵入してた。そもそも誰かが魔法印を弄ってない限り、誤作動なんてあるわけがない。イルが彼らを安心させる為に適当な嘘を言ったのだ。まあ実際の犯人は今影に隠れているうちの可愛い小動物だから危険はない。ただリネット達に真実を明かす必要はないので、アキはとりあえずその話に乗っておく。


「その後は特になにもない?」

「はい、特にありません。」


 大丈夫ですとリネットがグッっと拳を握る。


「それはよかった。今何か起こったら俺が何とかするから安心してね。」

「はい!アキさん優しいです!」


 アキの言葉に嬉しそうに喜ぶリネット。だがその傍ら、うちのエルフがいつものように口を尖らせる。


「なるほどです、こうやって女性を落とすんですかー。そうですかー。」

「その考え方やめろ、この駄エルフが。あの世へ転送するぞ。」


 思いっ切りソフィーの頭をひっぱたくと、蹲って痛そうに頭をさするソフィー。そしてチラチラとアキを横目で見てくる。


「痛そうな振りなのはわかってるから慰めないからな。」

「ぶー!アキさん酷いですー!」


 構って欲しいからと痛がる演技までするこの駄エルフの根性にはある意味脱帽だ。大体この子達の方が強いのだから、アキの力でどうこうなる事はないだろうが。


 そんなうちのエルフを見て苦笑しているリネット。しかしどこか羨ましそうな表情だ。きっと自由に生きているアキ達がうらやましいのだろう。


「あ、それで今日の召喚の担当者は、ここにいる彼らです。」


 リネットが召喚担当者であろう男性3人組を紹介してくれた。確か昨日集落で見かけた気がする。どこか見覚えがある。


「1人が魔獣誘導、1人が召喚管理、もう1人が記録係です。」


 誘導担当はその名の通り魔獣を命令付与印や転送印へ誘導する係。つまり囮役だ。召喚管理は魔獣召喚後、オリハルコンを抜いて召喚のタイミングを制御する役割を担っている。


 ただ記録係は初耳だ。ルティアの調査ではそう言った報告は聞いていない。


「記録係は召喚された魔獣の種類を記録するのです。それを王家に報告します。」


 なるほどとリネットの説明を聞いて納得する。


 その王家への報告がそのまま冒険者協会へと連絡され、魔獣討伐依頼へと姿を変える。そして討伐されたら、討伐された分を召喚するようこの一族へ通達が来るのだろう。


 こうして冒険者への仕事は作られている。そしてこうして各国は魔獣の全体数数を把握し、犯罪者駆逐の為に魔獣がいなくならないように魔獣の数をコントロールしている。おそらく討伐依頼がでてない魔獣も冒険者がついでで討伐する事もあるだろうから召喚数は少し多めに設定されているはずだ。実際アキ達も旅の道中では依頼されていない魔獣を討伐しているのだから。


「見た事ない魔獣が召喚された時は?」

「その旨を記録して未確認魔獣として報告します。」


 おそらくそういった魔獣はSランクに処理させるのだろう。未確認の為、どの程度の難易度かわからない。念には念を期してSランクに依頼する。


「もし転送に失敗した場合は?」

「逃げます!そして王家に報告してアキさん達のような冒険者さんに来てもらいます。あ、前回は協会長が自ら来てくださいました。」


 イリアとルティアが受けて放棄した依頼の事だろう。最終的にメビウスが出張って討伐しに来たとかアイリが言っていた。


「なるほど、リネットありがとう。召喚を再開する前に少し魔法印を見せてもらってもいいかな?」

「はい、どうぞ。」


 無事許可も得たので、ルティアが模写してくれたミレーの魔法印と見比べてみる。

 

 ちなみにルティアの直筆の手紙はおいてきた。そのまま持って来てもよかったのだが「こんな場所で私の手紙を出さないで」と怒られそうだったので、アキが模写し直したものを持ってきている。


「召喚印、命令付与印に相違なし。予想通りかな。」


 そして転送印については転送指定場所と除外場所の術式部分だけが異なっている。これも推測通りだ。ミレーの転送印の術式部分には、ミレー王国内が転送指定場所として、そしてミレーの各街が除外場所として記されている。そしてサルマリアの物はサルマリア王国が転送指定場所、サルマリアの街が除外場所として指定されているはずだ。


 うん、素晴らしい。これで魔法印の解析は一通り終わった。


 エスペラルドのも一応確認はしに行く予定だが、特に目新しい情報は得られないだろう。後は召喚元や転送場所の記述方法くらいだが、それは今の情報では到底解明は無理なので、今はおいておく。次はイリアの捜索に注力する予定だ。十六夜の洞窟か弦月の山にいる可能性が高いと推測しているのだが、果たして。


 その前にリネットにお願いしていた召喚を見せて貰おう。


「俺の方はもう大丈夫。召喚お願いできる?」

「はい、特別です!」


 リネットが元気よく返事をする。彼女が召喚担当者に合図をすると、担当者3人はそれぞれの配置につく。囮役が召喚魔法印と転送魔法印の間に立ち、記録係と召喚担当は召喚印の奥で待機だ。召喚担当がオリハルコンを手にしているので、準備ができたらあれを魔法印に突き刺すのだろう。


「それではお願いします!」


 リネットの合図と共に召喚がはじまる。

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