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「それでは十六夜の洞窟に案内しますね。」
翌朝もリネットは時間通りに迎えに来た。
今日は朝から十六夜の洞窟を見学させてもらう。何を調査したいのかは昨日のうちに簡単に伝えてある。アキがまずしたい事、それは各魔法印を自分の目で確認する事だ。ルティアが模写してきてくれた月夜の森の魔法印と相違ないかをまず見比べたい。その後、実際に魔獣召喚から転送までの流れを見せて貰いたい。
「洞窟の中にあるんだっけ。」
「はい、そうです。」
十六夜の洞窟という名の通り、魔法印の設置場所はこの立ち入り禁止エリア内にあるとある洞窟らしい。そしてその洞窟の場所はアキが予想した通り、エリア内の山の麓、集落から歩いて30分程度のところにあるのだとか。
「中は暗いの?」
色々と観察するには明るいほうがいいのだが、洞窟と言うくらいだから薄暗いのかもしれない。しかしリネットによると、洞窟と言っても上部は吹き抜けのような形になっており、日光はそれなりに入ってくるそうだ。
「なので十分明るいです。森林の中にいるような感じですね。」
「そうか、必要なら魔法で光源を作ろうかと思ったけど必要なさそうだね。」
実際試したことがないからわからないが、電球のような光源を作ることくらいは多分出来る。そうでなくても辺りを照らすだけなら炎魔法で火を灯せばいいだけだ。照らすという効率を考えるのであれば、炎魔法では電気に遥かに及ばないが、洞窟内の探索程度ならそれでも十分だろう。
「そんな魔法あるんですか?」
火以外の光源生成方法が気になったのか、リネットが尋ねてくる。仕方ない、特別に教えてやろう。
「ああ、その魔法を使うとそこのミルナの胸が光るんだ。」
アキはそう言ってミルナの豊満な胸を指差す。
「さ、さすが大きいだけあるんですね……!」
ただただ適当な事を言っただけなのに、リネットはすっかり信じてしまっているようで面白い。そしてその対象となったミルナは顔を真っ赤にして必死に文句を言ってくる。
「私の胸にそんな神秘的な性能はありませんわ!?」
「え、ないの?」
「あってたまりますか!私をそんな得体のしれない生物にしないでくださいませ!」
あれだけ無駄に豊満だときっとわけのわからない性能を持っていそうなものだが、どうやら違うらしい。なんとも使えない胸だ。
「なんで私が悪いみたいになるんですの!あと無駄とか言わないで!」
「わかった。じゃあ光るように魔法開発してやるから安心しろ。」
きっとこれでミルナも喜んでくれるだろう。
「いりませんわ!というか本当に開発しないでくださいね!アキさんなら出来ちゃうんだから!」
そろそろ本気で拗ねられそうなのでこのくらいにしておく。しかしこれで皆の緊張もほぐれた事だろう。朝からミルナ達は少し表情が強張っていたから心配していたのだ。まあイリアがいるかもしれないという期待と不安があったのかもしれない。
「皆さん仲いいですね。羨ましい。」
「あまり同年代の知り合いはいない?」
リネットが羨ましそうに呟いたので尋ねてみる。
「はい。まあ仕方ないんですけどね。」
ずっとこの集落で暮らしているから出会いがない。見知った顔だけなのでつまらないのだとか。国から与えられているお役目はとても重要な事だと理解しているが、やっぱりどうしても集落で一生を終える事が寂しいのだとリネットが説明してくれた。
「あ、でも不満があるわけじゃないです!」
誤解しないでくださいねと必死に弁解してくるリネット。きっとアキがサルマリア王家から依頼を受けている事を思い出して不味いと思ったのだろう。
まあ実際は王家もこの仕組みをよく思っていないので、リネットが何を言っても責められたり、罰せられたりはしない。ただそれを今は教えてあげる事はできないので、アキは安心しろとだけリネットに伝える。でももし彼女達の一族全員が制度の廃止を望んでいるのであれば、アキ達がやろうとしている事を話してもいいかもしれない。ステラからは全てアキに任せると言われているので、もう少し様子を見てからその辺の判断をしよう。もしこの一族にも協力をお願いできれば、魔獣召喚を止める際、何かと手伝ってもらえそうだ。
「外に出られるってなったらリネットは何がしたいの?」
「アキさん達みたいな冒険者です!私はこの集落しか知らないので色々世界を見て回りたい!色んなところへ行って、色んな景色を見て、色んな人に出会ってみたいです!」
後で外の世界の話を聞かせてくださいと目を輝かせるリネット。やはり彼女に関してはこの制度を廃止したら喜びそうだ。婆さんのような年配の人はもう割り切れているのかもしれないが、リネットのような若い子は、外の世界に憧れのような物があるのだろう。
「そっか、一族の皆も外に出たいと思ってるのかな?」
「そうですね、口には出しませんけど心のどこかでは思っていると私は思います。」
そしてリネットが言うには、それは若い子だけじゃなく、両親や婆さんからもその意思を感じるらしい。
「ただお婆様は自分がと言うよりは私達に外の世界を見せたいといった感じです。」
リネットの話が事実なら、どうやらこの一族はアキ達のしようとしている事を知っても反対する事はなさそうだ。ただもちろん全員が賛成というわけではないだろう。まあリネットや婆さん辺りは確実にこちらの味方なってくれそうだが。もしアキ達が何をしに来たかを話すとしても、リネットや婆さんくらいに留めておいたほうがいいのかもしれない。
ここで気になるのはルティアの言っていた監視についてだ。リネットにアキ達の目的を説明するところを聞かれたら、面倒な事になる可能性は十分にある。しかし逆に敢えて聞かせて監視者を炙りだすと言う手もある。
まあその辺はルティアの報告を待ってから考えればいい。今のところ調査を中止したとは報告しに来てないので、問題なく調査続行中という事だろう。監視者が姿を見せていないだけかもしれないが、それならそうとルティアは報告しに来るはずだ。
とりあえず一旦ここで考えを打ち切り、アキはリネットとの会話に戻る。
「じゃあ後でいっぱい外の世界の話をしてあげよう。俺達は結構色々見てきたからね。」
「ほんとですか!やった!」
リネットが嬉しそうにはしゃいでいる。ミルナ達もそんなリネットを優しい目で見つめている。彼女の話を聞いてうちの子達も多分同情しているのだろう。この小さな集落で人生を終えないといけない寂しさや不自由さ。うちの子達は冒険者として自由に生きる事を求めて世界に飛び出した。ミルナなんかは特にそうだ。領主の娘として決められた道を歩むのが嫌で家を飛び出して来た。だからしたくてもそれができないリネットに人一倍思うところがあるのかもしれない。
「あ、あそこです洞窟の入り口が見えました!」




