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「森は意外にも静かで気持ちよかったね。」
十六夜の洞窟での1日目を終え、アキ達は借家で寛いでいる。今日は特にもう予定はない。ちなみに明日は何故か集落の人達が歓迎会をしてくれるらしい。今日は疲れているだろうとの配慮で明日らしいが、別に歓迎会までしてもらう必要は正直ない。ただ集落の人達がどうしてもしたいんだとか。なんかお祭り騒ぎが好きらしく、こういう時でもないとバカ騒ぎできないので付き合って欲しいとリネットに申し訳なさそうに言われた。
「そうですわね。いい森林浴でしたわ。」
ミルナがもたれかかって甘えてくる。彼女にしては珍しい。
「珍しいな。」
「いえ……その……いつもはちょっと気後れしてしまいますの。」
恥かしそうに呟くミルナ。多分アリア達の目があるからだろう。
「普段から好きにしていいんだぞ。」
「え、ええ……わかってはいるんですけど。」
なんか色々葛藤があるらしい。まあきっと時間が解決してくれる問題だと思うので深くは追及しないでおく。
「エレンとリオナもくるか?」
さっきからちらちらとこっちを見ている2人にも声をかけてやる。エレンは恥ずかしがり屋だし、レオは遠慮しがちだ。こうしてアキが声をかけなければ来れないだろう。
「し、しょうがないわね!」
「やった!尻尾触る?」
嬉しそうに近寄ってくる2人。とりあえずエレンを膝の上にのせ、レオの尻尾を空いている手で撫でてやる。ちなみにソフィーはとっくにミルナとは逆側からアキにもたれかかって甘えてきている。うちのエルフは誰がいようがこんな感じで基本的に自由なのであまり心配してない。
「最初の頃を思い出すな。まあ……ここまでみんなくっついてこなかったけど。」
気づいたらアリア達、エリザ、ルティアがいて、こうやってミルナ達とだけで過ごす時間は自然と減っていた。だからこそこの時間が懐かしい。
確かミルナ達と出会った切欠は水晶地竜だった。アキが乱入して、討伐。その後、この世界の事を教わり、戦闘訓練をしてくれって頼んだ。そこから数日、彼女達とゆっくり初めての異世界旅を楽しんだ。そして気づいたらすっかり仲良くなっていた。アリステールではそんなこの子達の気持ちを利用し、Sランクになる覚悟をしてもらう為、最終的には人殺しまでさせた。
「大体こんなところだよね。そのあたりからアリア達が加わった。」
「つい最近の事なのになんか懐かしいですー。」
ソフィーもどこか遠い目をして思い出している。
「そうね、色々ありすぎよ。全部アキのせいよ?」
失礼な事を言う猛獣め。イリアを探す為だ。
「それにしてもよ。なんで知り合う人全員王族やら商会長なのよ。おかしいでしょうが。」
「それは否定できんな。」
意図していた事ではないとはいえ、知り合った人物は各国の王族、商会長、協会長と要人達ばかりだ。
「それにすぐ女の人落としてくるんだから。僕は悲しいんだよ?」
レオが頬を膨らませて文句を言ってくる。だがアキとしても反論はある。そもそも意図して落とした女性など1人もいない。
「アリアはミルナのせいだぞ。あの依頼をミルナ達が受けてなかったら出会ってなかったんだから。」
「そ、それは!まあ……否定できませんわ……。」
ミルナはあの時の失態を思い出したようだ。
「セシルについては冒険者の温度感を調べて貰う為に接触しただけ。情報を収集する為に信用できる人物が欲しかった。それがセシルしかいなかっただけだ。」
「そうね、確かにアリステールの冒険者協会では彼女しか信用に値する人物はいなかったわ。」
エレンが頷く。
そして紆余曲折あり、アリアとセシルには気づいたら懐かれていた。ただこの2人
は、ミルナ達に人殺しをさせる為の計画に必要な人員だったから協力して貰っただけで、それ以上の意図は特になかった。
「エリスに関しては完全に予想外だ。模擬戦中に『お前は私の物になれ』とか言って斬りかかってくるんだから。」
それに対してアキが軽口で返したら見事に落ちた。まさかあの一言でエリスがアキに懐いてくるようになるとはさすがに思わない。ただSランクとしての腕はあったし、ミルナ達の練習相手には最適だったので、そのまま是非にと居座ってもらったんだが。まあ実際、それ以降も彼女の実力には幾度となく助けられて来たから、その選択は間違っていなかった。
「ですねー、エリスさんと訓練できたから闘技大会余裕でした。」
ソフィーの言う通りだ。エリスがいなければもう少し苦戦していたかもしれない。
「ベルに関しては向こうからの接触だしな。王家と繋がれたのはありがたかったけど。」
「そうだね、でもさすがにちょっとびっくりした。」
レオが苦笑する。吃驚したのはアキも一緒だ。王家と繋がれるだけでいいと思っていたのに、ベルにまさかあそこまで慕われるとは思っていなかった。「アキといる為なら王女なんて肩書いつでも捨てます」とか言い始めるし、困った王女様だ。
「ミレーではエアル、ミリー、そしてエリザだな。エリザに関しては正直ごめん。」
「ほんとだよ。獣人ってなったらすぐに目の色変えるんだから。」
レオが自慢のモフモフ尻尾でアキの事をパシパシ叩いてくる。まあこれには返す言葉もない。エリザに関しては別のやり方もあったはずだ。魔法組合の情報を集める為にどのみちある程度懇意にはしていただろうが、獣人だからとつい調子に乗っ
た結果、見事に懐かれた。うん、あれはアキが悪かった。それは認めよう。
「でもエアルさんとミリーさんには手を出さなかったですわね?あと一押しだったと思いますわよ?」
ミルナが「うふふ」と微笑む。手を出すとか言うな、人聞きの悪い。
まあでもミルナの言う通り、あと一押しだったのかもしれない。だがエアルとミリーに対してそれは絶対無いと思っている。その理由は明白だ。
「先生が生徒に手を出すわけにはいかんだろ。」
「アキさんって見境あったんですねー!」
「黙れ、この駄エルフが。」
ソフィーが酷い暴言を吐いてくるのでとりあえず殴っておく。失礼な話だ。
「それで最後はルティアだな。彼女は本当に凄い。」
「そうですわね、あの子のおかげで一気に情報収集が捗りましたし、何より影で見守ってくれているので安心ですわ。」
ただ情報収集はルティアがいてもいなくても出来ていたとは思う。ミルナ言う通りルティアが居たおかげで捗ったのは間違いないが。それより注目すべきなのは彼女の隠密性だ。彼女の隠密能力は群を抜いて優秀なので、保険としていてくれるというだけで大胆な行動が可能になる。自分を囮にする事だって出来る。今までは危険だから出来なかった事が「ルティアがいるから」という事で可能になる。
「彼女にまで懐かれるとは思わなかったけどね。」
「それだけアキさんが魅力的なんですわ。ルティアさんだけじゃなくアリアさん達も間違いなくそう思っています。何故か一緒にいて落ち着く、楽しい。アキさんはそんな人なんですのよ。」
本当にそうなのだろうか。自分では微塵もそうは思わないが……まあミルナ達がそう言うのであればきっとそうなのだろう。少なくとも彼女達にとっては。
「んふふ!イリアの件が片付いたら覚悟してくださいですー!」
ソフィーがわかっていますよねと笑顔で宣言してくる。きっと遊びに行ったり、旅行したりと色々要求してくるつもりなのだろう。
「わかってるって。でもイリアの件が終わったら暇になり過ぎて逆に何していいかわからなくなりそうだな。どうするかね。」
「そうですわね。ずっとドタバタしてて先の事なんて考えていませんわ。」
「うん。とりあえず今考えてる予定としては……」
しばらくはのんびりして、皆の故郷へ旅行だろう。後は爺さんを連れて温泉旅行にもいかなければ。前にチラッと言ったのをあの爺さんなら絶対に覚えている。連れてかなかったらもの凄く拗ねられそうだ。爺さんの拗ね顔なんて見たくもないのでちゃんと招待してやろう。
その後はミレーの音楽祭に参加だろうか。ただそれが終わったら本当に何もなくなる。各国は改革で忙しくなるだろうが、アキは逆にすることがなくなる。ベルが正式に王位を受け継ぐのであれば手伝う事も多いだろうが、エルミラもルベルシアもまだまだ健在だ。だから当分はそれもないだろう。
「海を越えるかな。ベルが王位を引き継いだら色々手伝わされそうだし冒険するならそれまでにしておかないとかもな。」
「そうだね。でもあと20年くらいは余裕あるんじゃない?」
レオの言う通り、アキの予想でもそのくらいだ。ベルが王位を受け継ぐのは10年から20年先くらいではないかと考えている。
「ふふ、でもあと数年したら結婚させられそうですわね?アキさん?」
ミルナがくすくすと笑う。
「あの王と王妃ならそう計画してそうだ。頭が痛い。」
「あら、嫌なんですの?」
「ミルナ達こそ嫌なんじゃないの?」
逆にミルナに聞き返す。
「いえ。もうまとめてその時に結婚しようという計画がアキさんの知らないところで動いているんですのよ?うふふ、覚悟してくださいね?」
何それ、聞いてない。うちの子達怖い。
でもまあ多分「ベルとするなら私達ともしなさい」的な理由をつけて迫られるんだろう。容易に想像がつく。こういう時はチームワーク抜群なうちの女性陣だ。普段は喧嘩ばかりしているくせに。
「ソフィー、エレン、リオナもその計画に入っているの?」
「当然ですー!正妻は私ですー!」
ソフィーが元気いっぱいに叫ぶ。
「そうですか……。」
この駄エルフには何を言っても無駄なのはわかっているのでもう好きに言わせておこう。
「ぼ、僕はそうなったら嬉しいな……。」
「わ、私は別に!」
レオはいつも通り素直でいい子だ。エレンは相変わらず天邪鬼だが。
「じゃあエレンだけは計画に入ってないんだな。」
「な、なんでよ!私もいれなさいよ!」
知るか。アキに言われても困る。自分の知らないところで計画されているものに「エレンも入れてあげてほしい」とか言えないだろうが。入りたいのならエレン自身で言わなきゃダメだ。
「しょうがないな……。エレン、計画に入っとけ。そして俺といろ。俺の家族になってくれるんだろう?」
まあこの子は素直になれないだろうからアキが切欠を与えないと駄目だろう。手間のかかる猛獣だ。
「そ、そうよ!しょうがないから入っておいてあげるわ!」
「ありがとう。世界に解き放たれたつるつるぺたぺたの猛獣よ。」
「はああああ!?わけのわかんない渾名はやめなさい!ほんとぶっころすわよ!」
そんな文句を言いつつも、膝の上で嬉しそうにツインテールが左右に揺らしているエレン。もしかしたらこの渾名を案外気に入っているのかもしれない。
「それだけは絶対ないわ!」
アキ以外が言ったら冗談抜きで本当に殺してやるとエレンが呟く。どうやらエレンを好きに弄れるのはアキだけに許された特権らしい。しかしそろそろ猛獣や絶壁もマンネリ化してきたので別の遊び方を考えなければならない。何かないだろうか。
「あんたまた余計な事考えてるわね!」
「そんな事ないぞ。我が最強の刃よ。」
「まだ覚えてたの!それはいい加減わすれろ!」
ちなみにその名でエレンを呼んだ時、ミルナ、ソフィー、レオが全力で視線を逸らした。
「さあ、そろそろ寝ようか、我が弓に盾に癒しの光よ。明日が本番だ。」
「「「だからそれもう忘れてってば!」」」
一生忘れてやらない。だってあの時皆が言ってくれた言葉は本当に心に響いたのだから。生きてきた中で一番嬉しかったと言っても過言ではない。あれを聞いてこの子達の為に命がけでこれからも頑張ろうと思ったのだから。




