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「では行きましょう!……あれ?アキさんなんか疲れてません?」
リネットが時間通りに迎えにきてくれた。
彼女はアキが30分休憩していたと思っているだろう。でもアキはひたすら文句を言われ続けていただけなので休憩でもなんでもなかったのだ。まあミルナ達にとっては休憩だったかもしれないが……。
「気のせいだ……。行こうか。」
「そ、そうですか?では洞窟までの道とその周辺を案内しますね。」
こちらですとリネットが村の裏手にある獣道へと案内してくれた。ここから魔獣召喚が行われている洞窟へといくらしい。
とりあえずアキ達はリネットを先頭にそのまま森の中へと歩みを進める。ただ森に異様な雰囲気は特になく、程よく木漏れ日が降り注ぎ、気持ちのいい森林浴といった感じだ。とても立ち入り禁止エリアの中とは思えないくらいに心地よい。きっと立ち入り禁止エリアといえど、魔獣召喚をしているという事以外、普通の場所なのだろう。
「アキさん、こんな感じの案内でいいんですか?」
「ああ、大丈夫。今日は適当に森を散歩するだけでいいよ。」
リネットが最後尾にいるアキに声をかけてくる。
万が一の魔獣襲撃に備え、エレンとレオを先頭を歩くリネットの少し後ろに配置。そしてミルナとソフィーはその2人の後ろに置いた。
アキが最後尾にいるのにはちゃんと意味がある。表向きの理由はリネットを守る為の配置だが、本当の理由はルティアと会話する為だ。うちの子達はアキが一番後ろを歩くのを危ないと反対したのだが、ルティアと連絡を取るからとお願いした。ミルナ達がリネットの注意を引いていれば小声でルティアと会話することは可能だろう。
「ルティア。」
「うん、アキ。」
姿は見えないが、近くからルティアの声が聞こえる。
「大丈夫か?寂しくないか?」
「寂しい。でも大丈夫。」
ルティアに連絡を取ったのは、彼女に指示を出す為というのもあるが、寂しがり屋のうちの影を構ってあげなければならないからだ。
「終わったらいっぱい遊ぼうな。」
「うん、遊んで?」
「ああ。」
そのままルティアと適当な雑談をしつつ森の中を歩く。リネットは一生懸命色々とエリア内の事について説明してくれているが、アキはルティアとの会話を続ける。彼女には申し訳ないが、まあミルナ達が率先して会話してくれているので大丈夫だろう。
「ルティア、何か不審なことは?」
アキが見渡す限り、辺りに不審な様子はない。おそらく今日はこのまま平和に終わる気がする。本番は明日、実際に洞窟の魔法印を見てからになるだろう。
「今はない。」
「今は?」
ルティアの言葉に引っ掛かりを覚えたので聞き返す。
「少し前、見られていたと思う。確証はない。」
なるほど。まあルティアがそう言うのであれば間違いないだろう。
しかし見られていたのか。一体誰にだ。集落の人間がアキ達の監視をしているのだろうか。いくら王家の客人だといっても、立ち入り禁止エリアにわざわざ来るのは稀な事だ。管理者として警戒するのは当然だろう。ただもし集落の人間でないのであれば、侵入者でもいるのかもれしない。もしかしたらイリア……。
それだったら好都合なんだが、まあそう上手くはいかないだろう。
「ルティアの事には気付いていたか?」
「絶対ない。アキ達は見られてたはず。でも私は大丈夫。安心して。」
それならいい。アキは別に隠密行動するつもりはないので、いくらでも監視して貰って結構。ルティアが気づかれていないのであれば問題ない。
「さすがルティア。頼りになる。」
「うん。私はアキの影。私えらい。」
えっへんと誇らしげにしているルティアの姿が目に浮かぶ。そんな彼女を想像するとつい和んでしまう。
「アキ楽しそう?」
「ルティアが今必死に隠れているのかと思うと。」
「ばか!それ!いっちゃだめ!」
「ごめんごめん。ちなみに今はどうやって隠れているの?どこかは言わなくていいから教えて?」
完全に拗ねているうちの影だが、参考までに聞いてみた。
「……木の枝に……ぶらさがってる。」
「ふっ。」
なんだその可愛い生き物は。あの小動物のような美少女が必死に木の枝にぶら下がっているのを想像したらつい笑ってしまった。
「ばかっ!ばかっ!もうしらないっ!」
「ごめん、許して?」
「やだっ。」
「ルティア。」
「……。」
返事が返ってこなくなった。ちょっと弄り過ぎたようだ。
「嫌われたかな。」
「そ、それはない。アキは好き。」
ルティアが焦ったように慌てて返事をしてくる。声色が必死だ。どうやらアキに勘違いされたくないらしい。
やはりルティアはうちの子達並みにチョロい。異性への免疫がないし、褒めたりするだけで凄く喜ぶ。ずっと1人で生きてきたのだからしょうがない事ではあるが。
「ありがとう。でも俺より優しい人やいい人はいくらでもいるよ?」
そんなルティアに手を差し伸べた初めての相手がアキだったと言うだけで何か特別な事をしたわけではない。ただの偶然だ。だからそれなのにこんなに慕われていいのだろうかとつい思ってしまう。
「わかってる。でも私はアキじゃないと嫌。ダメ?」
「ルティアがいいならいい。俺は嫌じゃない。」
彼女自身が選んだ事なのであればアキがこれ以上どうこう言ういわれはない。
しかしこれで9人目……。本当に爺さんの言う通り、10人くらい娶る事になるのだろうか。まあもうハーレムを作るかと開き直っているので別にいいのだが。それにミルナやアリア達は既にルティアを数に入れてるみたいだし問題はない。というか今更1人だけにするとか言ったら殺されそうだ。
とりあえずこれでルティアの事は十分に構えた。
「ルティアとの進捗確認も終わったし、リネットの方に集中するか。」
ただ集中するといっても、こちらは予想通り、特筆すべき点は特にない。いくら十六夜の洞窟で魔獣を召喚しているといっても、各地への転送までが一連の流れなので、基本的には平和だ。何かしらの理由で魔獣が転送出来なかった場合は、この地域に魔獣が放たれる事になるが、そうでもない限り、ここに魔獣は存在しない。そしてエリア自体が壁に囲まれているので魔獣が侵入してくる事もない。つまり、魔獣転送が除外されている各国の街を除くと、このエリアがもっとも安全といっても過言ではないだろう。
今日はこんなところか……いや、1つ忘れていた。
「とその前に……ルティア。」
大事な事をルティアに伝え忘れていた。アキは虚空に向かって声をかける。
「うん。なに?」
「監視していた人物を調べてくれ。おそらく明日また監視しにくる。ただ絶対に気づかれるな。もし気づかれそうならすぐに中止して報告しにこい。」
「わかった。任せて。」
少しでも情報が欲しい。せめて外見の特徴がわかればいいんだが。集落の人間かそうでないかを判断したい。集落の人間であればおそらくただの監視だ。リネットを連れまわしているし当然の処置だろう。問題は集落の人間じゃない場合だ。もしそうなら面倒事は避けられなさそうなので、早めに手を打ちたい。
とりあえずは後者の場合だと仮定して色々準備はしておいたほうがいいだろう。




