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「メルシアSランク5名、依頼内容を確認。通行を許可します。」
衛兵による冒険者証と依頼書の確認が済み、立ち入り禁止エリア内へと進む。
衛兵がこの先の道を知っているかはわからないが、一応確認したところ、どうやらこのまま道なりに真っ直ぐ1時間程進めば管理小屋があるらしい。アキ達は衛兵に礼を言い、関所を後にする。
ちなみに馬車はここまでだ。御者は通行を許可されていないから仕方ない。馬車は関所に置かせてもらう事にした。馬車の扱いを知っていれば、アキやミルナ達で御者をすればいいのだが、馬単体ならともかく馬車を扱った事はない流石にない。
「こういう事もあるから御者技術を学ぼうかな。」
「そうですわね、私も覚えますわ。」
ミルナが同意してくれる。歩きでの旅も悪くないが、時間短縮を考えるのであれば御者技術は必須だ。それに毎回誰かに御者を頼むのも面倒だし、何よりアキ達だけで旅が出来ない。
「この件が終わったら色々旅したいしね。皆で覚えようか。」
「そうね。うん、いいわよ。」
エレンが嬉しそうに笑う。きっと色々冒険するのが楽しみなのだろう。
「でも今回の旅も楽しいです!この5人で旅するの久々ですー!」
「確かにそうだな。」
ソフィーの言う通りだ。本当に久々だ。
「でもイリアに会えるかな……?」
ただレオは少しだけ不安そうだ。アキが大丈夫だと頭を撫でてやると、嬉しそうに尻尾を振っている。
こうしてうちの子達だけで旅をしていると、彼女達に出会って過ごした最初の3日間を思い出す。
あの頃はこの子達とここまで仲良くなり、ましてや慕われるとは微塵も思っていなかった。この世界の事を教えて貰い、その対価として彼女達のイリア探しに協力する。そんな利用して利用するだけの関係。その程度で終わる予定だった。それがいつの間にか大事な仲間、そしてかけがえのない存在になっているのだから人生は本当に不思議なものだ。
ただ、もしイリアが見つかって、あまりよくない方向に話しが転がった場合、彼女達はどうするのだろうか。アキはミルナ達に自分の側にいて欲しいと思ってはいるが、もし彼女達がイリアかアキのどちらかを選ばないといけなくなった場合、果たしてこの子達はどっちを取るのか。
いや、その時はアキが消える方がいいのかもしれない。彼女達はイリアといるべきだ。
そうなったら地球に戻ってもいいかもしれない。オリハルコンを使えば自分を転送することも可能だろう。少し寂しいが、仕方ない。
「もしイリアと俺、どちらかとしかいられないってなったらどっちを……。」
そこまで言ってアキは言葉を引っ込める。これは聞いてはダメだ。つい口に出してしまった。らしくもないと反省する。
この子達に選択させる意味はない。自分が身を引くべきだ。結論は出ている。彼女達はイリアの為だけにここまで頑張って来たのだ。アキが邪魔していい物ではない。
「どっちもよ。次そんな事いったら本当に殺すわ。バカ……。」
エレンに本気で怒られた。揶揄った時の怒り方とは違う、本当の怒りだ。彼女はこうやって本気でアキに怒る時、少しだけ寂しそうな顔をする。だからすぐにわかる。
そしてそれはエレンだけじゃないようで……
「イリアがいてもアキさんがいないなら意味ないです。」
「2人といられる方法を探すだけだね。」
「そういう事ですわ。何か文句ありますか?」
ミルナ達にも次同じことを言ったら許さないからと怒られた。いい子達だ。自分には本当にもったいない。
「いや、ないよ。ありがとう。」
だが正直イリアとアキ、両方をとる事は多分難しいだろう。アキの推測通りなら、どちらかになるはずだ。もしこの子達がイリアといられないのであれば、アキは彼女達の側にいるつもりだ。ただ、イリアといる事を彼女達が選ぶのであれば、それはおそらくアキとはいられない事を意味する。
なんとなくそうなる気がするのだ。まあこれはあくまでアキの勘なので、当たらない事を祈るばかりだ。
「でもまあ……地球に戻るのはやっぱり無しだ。その時はアリア達と一緒にいよう。」
誰にも聞こえないように呟く。
ミルナ達と同じくらいあの子達の事は大事だ。だからミルナ達がイリアを選ぶのであればアキはアリア達の側にいてあげるべきだろう。ミルナ達がイリアを選んで、アキがミルナ達を選んだら、アリア、セシル、エリス、ベルを見捨てる事になるかもしれない。それは絶対に出来ない。というかそんな事をしたら殺される。
「まあそうならないよう全員でいられる方向に何とかするけど。」
可能性がないわけではない。だから最後の最後までは諦めるつもりは一切ない。見苦しいかもしれないが足掻いてみよう。それで駄目ならしょうがない。頑張った結果駄目なら自分への言い訳もつく。
「ねえ、1つ聞いていい?」
「なんですかー?」
ソフィーが首を傾げる。
せっかくなのでこの機会に彼女達に聞いてみよう。ベルには少し前に聞いた。でも肝心のうちの子達にはまだ聞けていない事がある。
「みんなが俺を慕ってくれているのは知っている。でも俺のどこがそんなに好きなの?」
「え……あの……い、言わないと駄目ですの?」
まさかそんな事を聞かれるとは思っていなかったようで、驚くミルナ。そして恥ずかしそうに頬を染めて俯く。
「うん、聞きたい。」
一度ちゃんと聞いておきたかったのだ。こんな自分のどこがいいのかを。ミルナ達は出会った時からずっと一緒にいて自分を助けてくれた。きっとイリアの件がなくてもこの子達はアキといてくれただろう。
「私は……その……いつも側で支えてくれるところとか……。」
ミルナが恥ずかしそうに教えてくれる。誘惑とかはドヤ顔でやるくせに、こういう事は恥ずかしいらしい。
「優しいとこもですー!変な目で見てこないですし、普通に女の子扱いしてくれますー!」
「我儘な僕達なのにいつも優しくしてくれるしね。」
ソフィーとレオがミルナの言葉を補足する。
そしてエレンは静かに傍に寄ってきて、そっと手を握ってきた。てっきり「あんたなんか好きじゃないわよ!」とでも言ってくるのかと思ったが、今日は違うらしい。
「一生懸命なところよ。私達の為にいつも一生懸命頑張ってくれるわ。あとこんな私なのにいつも構ってくれるし……その……女の子として見てくれるところが好きよ。」
素直なエレンが可愛い。でも最近、エレンは本当によく笑う。そしてこうやって素直な時が多い。すっかり猛獣は鳴りを潜めてしまった。
「でも俺は意地悪だし、他人を利用する事ばっか考えてるし、そんな立派な人間ではないよ?それでも俺がいいのか?」
アキの言葉を聞いてそれは違いますと首を振るミルナ。
「ええ、私達にはそうじゃないですもの。私達の為に利用する事はあっても、私達を利用したりはしていませんわ。」
確かにミルナの言う通りだ。うちの子達の目的の為に他人を利用したり、ミルナ達自身の気持ちを利用したりは何回もした。だが自分や他人の為に彼女達を利用したことはない。最初に接触した時はそのつもりだったけど、いつの間にかそれが出来なくなっていた。彼女達だけは何故か利用したくないという気持ちがどこかにあり、スパッと割り切れなくなっている。本当にらしくない。この子達といると、らしくない。
「確かに意地悪よ……でもそれがいいの。それにこんな自分を鬱陶しく思わず、大事にしてくれるだけで嬉しいもの。」
エレンがアキの手をギュッと握りながら呟く。
きっとアキが彼女達を利用出来ないのは、この子達がこうやって真剣に自分を好いていてくれるからだろう。そしてそんな自分も彼女達の事を慕っている。中々自分のそういう感情には素直になれず、見て見ぬふりをしてきた。誰かを好きになり、誰かに好かれるという事にあまりに慣れていなかったからだろう。
でも心のどこかではずっとわかっていた。
「アキさんは私達の事好きですか?」
ソフィーがちょっとだけ不安そうな顔で尋ねてくる。
「ああ、大好きだよ。」
建前とか社交辞令とかではなく、今はもう自信を持ってはっきりと言える。彼女達が好きだと。
「やったー!どこが好きですかー?」
今度はアキがミルナ達の好きなところを答えなければいけないようだ。まあ自分も聞いてしまったからギブアンドテイクだろう。
「そうだね。ソフィーの笑顔が好き。あと真っ直ぐに俺だけを見てくれるとこかな?」
「えへへ、こうですかー?」
ソフィーが嬉しそうに笑う。うん、可愛い。
「ぼ、僕は?」
次はレオだ。
「尻尾!」
「なんで!?しかも無駄に力強いし!」
レオが尻尾を膨らませて拗ねている。
「冗談だ。レオの良いところは……真面目で、素直で、真っ直ぐで、一生懸命で、努力家で……」
「わ、わかったから!うん!もういいから!」
要望通りレオのいいところをひたすら挙げたのに、止められた。まあ褒められるのが恥ずかしかったのだろう。すっかり顔を赤くしてしまっている。
「それと可愛いところ。女の子らしくて可愛いとこが好き。」
「ほ、ほんと?嬉しい。」
レオもソフィーに負けないくらいの最高の笑顔を浮かべる。
久しぶりにレオの女の子らしい一面を見た気がする。
イリアの件終わらせなければレオは前へ進めない。少年の時間はもう十分過ごしただろう。少しでも早く片付けてあげなければ。
「次は私よ!私のどこがいいのかいいなさい!」
「エレンか……ぜっぺ……」
「それ言ったら殺すわよ!絶対殺す!!!!」
猛獣が牙をむくようにして睨んでくるエレン。
「ごめん、絶壁って渾名は可愛くないよな。だから新しいのを考えた。つるぺた。これをエレンに授けよう。」
「いらないわよ!余計な渾名増やさないでよね!大体そういう意味じゃないわ!それに言っている事は一緒でしょうが!ほんと死ね!ばか!ばか!」
エレンがもう許さないと飛びかかってくるので、そっと受け止めてやる。そして優しく抱きしめて、うちの猛獣を落ち着かせる。
「こういうところかな。俺の言葉にいつもちゃんと反応してくれる。一緒にいて楽しいんだよね。あとは絶対俺を傷つけないように気遣ってくれるとこが好き。」
「ば、ばか……そんなの当然だから……」
エレンとこうしてじゃれ合うのは本当に楽しい。そしてそれはエレンもそうなのだろう。アキが絶壁と言おうが、猛獣と言おうが、エレンが本気で怒ったことは一度もない。最初はイライラしていたようだけど、最近は嬉しそうにすらする。中々素直になれないエレンにとって、アキとふざけ合うのは大事なコミュニケーションなのかもしれない。
「うふふ、さあアキさん。最後はわたしですわよ?私の魅力を教えてくださいな。」
どこを褒められるのか楽しみのようで、ミルナは早く早くとドヤ顔で急かしてくる。本当に一々面白いなこの暗黒物質。だから苛めたくなるのだが。
「胸?」
「なんでですの!?おかしいですわよね!」
「冗談だ。顔?」
「あんまり変わりませんから!ちゃんとお願いします!あと疑問形はやめて!!!」
とりあえず身体的特徴から褒めてみたのだが……納得いかないようだ。
「詠唱や魔法の決めポーズがかっこいい。家事が壊滅的なとこが好き。あと誘惑が下手なくせにお色気使いたがるとことか。」
「ただの悪口じゃない!アキさんのばかー!もう知らないんだから!」
すっかり涙目になって拗ねてしまった。本当に打たれ弱いミルナお姉さんだ。
「本当はダメダメなお姉さんなのに、必死に頑張ってるところがかっこいい。ソフィー達の前ではしっかりしようとしているとこは本当に凄いと思う。でも心配なんだからあまり無理はするな。弱虫で泣き虫な素のミルナが俺は可愛くて好きだ。」
正直にミルナの可愛いところを挙げてみた。これで満足してくれるだろうか。
「なんか納得いかない……。でも言いたい事は伝わるからいい。」
一応は満足してくれたようだ。
そして彼女達を好いている理由は実は他にもある。今言った事はもちろん本当だが、アキが一番惹かれているところは彼女達の素直さだ。自分自身を偽らないで、感情を素直に出せるのが彼女達の長所だ。自分にない部分だから余計に惹かれるし、羨ましくも思う。そしてミルナ達のそんな性格があったからこそ今のアキがある。地球の頃に比べたら考えられないくらいに素直に感情を出せるようになった。
「俺を変えてくれたミルナ達は本当に凄いと思う。」
アキは本気で褒めたのだが、ミルナは頬を膨らます。何かが気に入らなかったらしい。
「だから変えてません。アキさんはずっと変わってませんわ。」
なるほどと苦笑する。確かにそれは前にもミルナに言われた。アキは感情を出すのが下手だっただけで、変わってはいないと。ただ自分にとって感情を出せるようになった事は変わったのと同意義なので、つい変わったと表現してしまう。
「それでもですわ!アキさんは変わってないんです。ずっと真面目で優しくて一生懸命なアキさんです!わかりましたか!」
ミルナは必死に説明してくるが、アキ自身は変わったと思っているので、つい適当に相槌をうってしまう。
「本当にわかっていますの!?次変わったとか言ったら許しませんわよ!」
許してくれないらしい。
なんかもう変わったとか変わってないとかどっちでもよくなってきた。大事なのはこの子達がいたらから今のアキがある。それだけは紛れもない事実だ。重要なのはそこだけ。
でもミルナから罰を与えられるというのはなんか面白そうなので、この会話は掘り下げてみよう。
「じゃあどう許さないのか言ってみて?」
「えっ……?あの、そのえーっと……。」
何も考えていなかったようで、しどろもどろになるミルナ。
「俺の事ポイするとか?嫌いになるとか?」
「そ、そんなのありえませんわ!アキさんがどれだけ『変わった』と言ってもそれはないです!」
ミルナの隣にいるエレンやレオも必死に頷いている。
しかしそうなると、うちの子達がアキに罰を与える事なんて出来ないのではないのだろうか。なんだかんだミルナ達は弱点が多い。つまりどうしても立場的にアキの方が強くなってしまう。この子達にポイすると言われたら絶望するかもしれないが、絶対しないとミルナ達が言い切ってしまっている時点で逆に恐れる物がなにもない。
「そんな事ないわよ!私達を怒らすと怖いわよ!恐れなさい!」
エレンが叫ぶが、全く説得力がない。
すると隣にいたソフィーが何か思いついたようで、「これならどうです」といったすまし顔で告げてくる。
「じゃあアキさん!買い物付き合ってあげません!ふふ、これでどうですかー!」
「じゃあベルやアリアと行くわ。」
アキがさらっと告げると、一転して絶望の表情になるソフィー。
「だ、ダメです!それはダメ!だったら私と行きましょう!!!」
結局何も罰になっていない。自分と行けと自ら懇願してどうする。
「じ、じゃあ尻尾禁止にするよ!」
次の挑戦者はレオらしい。
「じゃあその分エリザの尻尾とセシルの耳を触るかな?」
「ずるい!僕のも触って!」
レオも結局自分から尻尾を差し出してくるので、罰としては成り立たない。しばらく禁止にされたらそれなりに凹むのに。どうやらうちの子達は心を鬼にするという事ができないらしい。
「不味いです……そう考えると私達、手札が全くありませんわ……これじゃ完全に……」
「都合のいい女?」
「言わないで!本当にそんな気がしてきたから言わないでくださいませ!」
ミルナが頭を抱えている。
でも傍から見たら完全にそう思われてもおかしくない。まあこれはミルナ達だけじゃなくアリア達にも言える事だが。ただアリア達の場合、都合のいい女でいたいと思っている節があるから、多分何も気にしてない。アキ絶対主義だからどこまででもついて来るだろうし、逃げたら地の果てまで追っかけてきそうなのがアリア達だ。怖い。
「私は別に都合のいい女でもいいですよー?」
ソフィーがなんでダメなのと首を傾げる。まあソフィーはそうだろう。感覚的にアリア達に近い気がする。というよりメンヘラ気質や暴走癖があるからある意味アリア達より恐ろしい。アキが他の女性と駆け落ちなんてしたら追いかけてき殺されそうだ。いや、間違いなく殺りに来るだろう。このエルフやばい。
「ダメよ!ソフィー!私達が優位に立たないとだめよ!」
エレンが必死にソフィーを説得しようとしている。
「えー無理じゃない?アキさんには多分敵わないもん。」
「た、確かにそうなんだけど……・。」
だが逆にソフィーに諭されてしまったようだ。
「はい、おしゃべりはここまで。気持ちを切り替えようね。」
彼女達との雑談は楽しいが、そろそろ管理小屋が見えてくるはずだ。アキは無理やり話を終わらせる。
でも最後に飴くらいは与えておいてやろう。
「あー……そうだな……もう何でもいい。俺の女なら黙って俺の側にいろ。わかったな?」
少し強引な物言いだが、うちの子達はこれに弱い。アリアが前にこっそり教えてくれたのだが、「アキさんに所有物的な言い方されるのが皆好きなんです」との事らしい。なんでもアキは普段そういう事を一切言わないので、逆に言われたいのだとか。強引な男は嫌い、でもアキにはそうされたい。よくわからん。女の心は難しい。
「は、はい!」
「わかりましたー!」
「し、しょうがないわね!」
「うん!うん!」
案の定うちの子達は嬉しそうにはしゃいでいる。うん、本当に女心は難しい。




