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「じゃあ行ってくる。」
一夜が明け、十六夜の洞窟へ出発の朝。朝早くにも関わらず、アリア、セシル、エリス、ベルはちゃんと起きてきて見送ってくれた。
「ベル、あまり出歩くなよ。」
「はい、大丈夫です。」
ベルが素直に頷く。正直どれくらいで戻れるかはわからない。1日で調査が終われば、今日中には戻る予定だが、長引くなら数日は十六夜の洞窟にいる事になるだろう。まあただどんなに長くても3日のつもりだ。3日経ったら調査の途中でも一度切り上げる予定だ。この子達が心配だしな。
「アリア、セシル。留守を頼む。」
「「はい。」」
2人は丁寧にお辞儀をしてくれる。
「エリス、3日経って戻らなかったら探しに来てくれ。そしてこの3人を頼む。」
「ああ、わかったのだ。」
エリスが頷く。
アキ達に何かあった場合、エリスが動いてくれる。ただ日数をあらかじめ決めておかないと、初動が遅れる。3日と期限を区切ったのはこの為だ。
「まあ心配するな。俺はまだ死にたくないんでな。大丈夫だ。」
「はい、アキさん。いってらっしゃいませ。」
ベルが夫を見送る妻のようだ。まあこの子は意識してそのように振る舞っているのだろうが……。
「「アキさん、ご武運を。」」
「何かあったらすぐに行くから安心するのだ!」
セシルとアリア、そしてエリスも心配そうにしながらも、アキの事をしっかり見送ってくれた。
ベル達と別れの挨拶を済ませ、アキはミルナ達を連れて馬車に乗り込み十六夜の洞窟へと出発した。馬車で数時間とのことなので、この子達と雑談していたらあっという間につくだろう。ちなみに馬車の中にはうちの子達とルティアがいる。ルティアには現地に着くころには影に潜ってもらう予定だ。
「立ち入り禁止エリアは壁で囲まれているんだよな?そこの関所に着く前にルティアは影に入ってくれ。一緒に行動できなくてごめんね。」
「大丈夫。任せて。」
まあ嫌でも影に入ってもらうしかないのだが。そもそもルティアはSランクではないので、表立って同行させられない。堂々と十六夜の洞窟に連れて入る事はできない。だが彼女の影としての能力は必ず役に立つ。だから、正式に連れてこれるSランクのエリスではなく、ルティアを連れてきたのだ。
「関所の兵士は何も知らないんだったよな。」
「ええ、ベル王女様はそうおしゃってましたわ。」
以前爺さんに聞いた情報だと、立ち入り禁止エリアは周囲が壁で囲ってあり、正式に中に入るには関所を通過しなければならない。そこには当然衛兵がいて、出入りの管理を行っている。衛兵にどの程度まで情報が開示されているのかベルに確認したところ、衛兵は立ち入り禁止エリア内で何が行われているのかは何も知らないとの事だった。あくまで彼らは通過する人を管理する為だけに配置されている。中の事を全て知っているのは魔獣召喚などを実際に実行・管理する一族だけ。
そしてその一族の生活は全て立ち入り禁止エリア内で完結している。
「管理も世襲制なんだな。」
「ですねー、びっくりですー!」
エリア内で魔獣召喚を管理する人間は完全世襲制で、ここ290年変わってないらしい。その一族は国と契約を結んでおり、何不自由ない生活を約束する対価として、一生を立ち入り禁止エリア内で終えるのだ。一族の規模は大体20~30人くらいで完全に世の中から隔離されている。日本の田舎に存在する排他的な集落のような物だろう。まあエリア管理者の一族達は望んで排他的にしているわけではないのだろうが。でもそれも秘密保持の為には仕方のない事だ。
「この制度を廃止したら一族の人達は喜ぶかな。それとも恨むかな。」
「難しいわね。でも……私だったら喜ぶわ。」
「僕もだね。外の世界にでて好きな事をできるし。」
エレンとレオが「だからそんな事は気にしなくていい」と励ましてくれる。まあ各国も廃止には賛成なのだから、確かに気にする必要はないかもしれない。だが魔獣召喚しかしてこなかったそんな人達が急に世の中に放り出されたら……と考えると少し心が痛む。
「アキ。大丈夫。私だってできた。」
「うん、そうだな……。」
確かにルティア自身、極度の人見知りで、ずっと他人とは関わってこなかった。それが今はアキだけでなく、ミルナ達とも普通に接している。人間、環境に順応していけるという証明だ。実際アキもこの世界で問題なく生きていけているわけだし、きっとその一族も大丈夫だろう。まあ自分の場合、ミルナ達がいなかったらどうなっていたかわからないが。でも逆を言えば、支えてくれる人間がいれば大丈夫という事だ。だから各国に頼んで一族のフォローをするようにお願いしておこう。とはいってもアキが言うまでもなく、ベル、アイリス、ステラはその辺は抜かりなくやるだろうが。
「あれが立ち入り禁止エリアを囲む壁か?」
馬車の窓から遥か遠方に、広大な石壁が見える。よくもあれだけの壁を作った物だと感心する。このまま道沿いを走れば関所だろう。あと数十分もすれば立ち入り禁止エリア内に入れるはずだ。
「ルティア。」
「うん、わかっている。またね。」
ルティアはそれだけ言い残して姿を消す。車内なのにたいしたものだ。でも車内で姿を消すと言うことは、馬車のどこかにしがみついているという事になる。その姿を想像すると少し微笑ましくなる。必死に馬車にしがみついているルティア。可愛い。
「だからそれは考えちゃダメっ!」
どこからかルティアの拗ねた声がする。図星と言うことなのだろう。しかしどうやらルティアにもアキの考えている事を見抜かるようになったらしい。
「さて、ミルナ、ソフィー、エレン、リオナ。久々5人での旅だ。色々大変な事はあると思うけど、おもいっきり楽しんでいこう。」
アキがそう言うと、彼女達の表情から硬さが抜ける。この子達が少し緊張していたのはわかっていた。イリアの事については彼女達には何も言ってはいないが、なんとなくイリアに近づいていると直感的に感じているようだ。
「ええ、そうしましょう。」
「はい!久々ですー!」
「そうね、それがいいわ。」
「そうだね、無駄に肩に力入れても仕方ないよね。」




