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翌日、早朝にリスルドを出発し、無事エルモアに到着した。
ステラの言う通り、馬車で1日程の距離だ。少し急いだので、夕刻前には到着する事ができた。道中は魔獣に襲われる事もなく、平和で、まるで波乱の前の静けさのようだった。
ただ途中の風景は最高だった。サルマリアは高原地方なだけあって、どこを見渡しても緑に覆われている。のどかな草原や森林が四方に広がっていて、窓の外を見ているだけであっという間に時間が過ぎていった。
そんな森林の合間に、エルモアの街は作られていた。街の周囲や街の中は草木の緑で溢れかえっている。まさに大自然の中にある街だ。ちなみに街の広さはアリステールくらいで、構造は一緒。特筆すべき点はない。サルマリアの特性は出ているがそれくらいだ。
ステラが手配してくれた宿は商業地区の中でも閑静な場所にあった。居住地区のすぐ隣にある宿だからかもしれない。そして一般的な宿とは違い、明らかに高級感が溢れ出ている。エントランスを入ってもそれは顕著だ。豪華な内装、完璧な接客。もしかしたらステラ達が利用するような王族御用達の宿なのかもしれない。
「そういえばこの世界に来て、宿に泊まるのは初めてだな。」
「確かにそうですわね。私達もアリステールでは屋敷を借りていましたし。」
ミルナが頷く。
しかし初めての異世界の宿なのに、こんなに豪華でいいのだろうか。確かにこれはこれで悪くないが、宿は旅の醍醐味でもあるし、簡素な宿にも泊まってみたい。
「みんなの故郷に行くときは普通の宿にも泊まってみたい。ベルには悪いけど。」
「いいえ、アキさんがいればどんな宿でも最上級です。」
ベルが微笑む。そんな恥ずかしいセリフを公共の場言うのはやめなさい。
とりあえず宿の受付だけ済ませ、さっさと部屋へ向かう。
「しかしステラ、こんなとこまで余計な気を使わなくいいものを。」
アキは今ミルナ達と同じ部屋にいる。なんとステラは人数分の部屋を手配してくれず、スイートルームのような大部屋を1つ手配してくれていただけだった。アキだけでも他の部屋を用意してくれていると思っていたのにどういうことだ。
さすがに同室はどうかと思い、空き部屋を宿に確認したのだが、今日はこの部屋以外は空いてないそうだ。うん、多分嘘だ。
何故ならアキが別部屋を1つくれと言った時……
「ダメです。アキさんだけ別部屋はダメですー!」
……と、ソフィーが絶対にダメと言い張ったのだ。しかもソフィーだけでなく、ミルナ達全員が、宿の人に対してものすごい殺気を放っていた。「空き部屋無いって言え」と無言で脅していた。そんな圧力を受けた宿の受付は、しどろもどろになりながら、この部屋しかないと言ってきた。宿の人を脅すのはやめなさい。
「皆はいいの?個室ないけど。女の子なんだしさ。」
アキが尋ねるが、全員が構わないと頷く。
彼女達が構わないのであればいいのだが、本当にいいのだろうか。確かにこの部屋は広くて豪華ではあるが、ベッドはさすがに10人分もない。リビングのような大部屋の隣に寝室が一つあり、そこに大きめのベッドが1つあるだけだ。ベッドに寝られるのはせいぜい3人くらいだろう。残りはリビングのソファーや床で雑魚寝になる。
「俺はこっちで寝るから……」
「「「「ダメ!」」」」
ベッドは女性陣に譲るべきかと思ったが、これもダメらしい。アキがベッドを使う事はむしろ確定で、誰がアキの隣で寝るかの争奪戦がいつのまにか始まっている。ちゃっかりルティアも参加している辺りさすがだ。抜け目がない。
「じゃあみんなでこっちで寝ようよ。それならいいでしょ?」
さすがに自分だけがベッドを使って、彼女達を床で寝させるのには抵抗がある。それなら全員こっちで寝たほうがいい。それにそれの方がお泊り会みたいになって楽しいだろう。
アキの提案は彼女達にとっても魅力的だったようで、すぐさま採用してくれた。
「でも誰が隣で寝るかの話は別です!」
「そうですわ!その権利、この私が頂きますわ!」
ベルとミルナが宣言すると、改めて誰がアキの隣で寝るかの争奪戦が始まった。結局この展開は避けられないらしい。もう好きにすればいい。アキは成り行きに任せる事にする。
「こうなったらアキさんに決めてもらいましょうー!」
なかなか決着がつかなかったのかソフィーが提案してくる。おい、やめろ。それが一番嫌なパターンだ。
「そうですわね、それが一番いいですわ!」
「うむ、良いと思うぞ!」
エリスまでその案に納得してしまった。これは間違いなくアキが決める事になりそうだ。
「アキ、決めて。私だよね?」
ルティアがタタタと寄ってきて抱き着いてくる。うん、可愛い。
「アキさん、早くこの優秀なメイドである私を選んでください。」
アリアもいつの間にかアキの隣に来て耳元で妖艶に囁いてくる。こっちも可愛い。
「ちょっとルティアにアリア!抜け駆けはずるいわよ!」
エレンが猛獣の如く叫ぶ。あ、猛獣なんだった。しかしこれはさっさと選ばないと余計面倒な事になりそうだ。
「じゃあエリスとアリア。」
「ほ、本当に私なんですか?」
「私なのか!」
まさかアリアは選ばれると思ってなかったようで、目を見開いて驚いている。エリスも同様だ。そして他の子達はかなり不満そうな顔で不貞腐れている。どうせ誰を選んでもこうなるから選びたくなかったのに……。
「理由聞く?」
「ええ、是非。お願いしますわ。」
納得いかなかったら選びなおしですとミルナが言っているが、なら自分に選ばせるなよと言いたい。
「まず、ミルナ達やルティアを選ばなかったのは明日から一緒に行動するからだ。そしてベルやセシルはリスルドで会談に同行して結構一緒に過ごしただろ。だからアリアとエリスだ。」
アキの説明は一理あったらしく、全員渋々納得してくれた。
「大体俺に選ばせるなよ……選べるわけないんだから。」
アキの呟きに苦笑するミルナ達。自分達でも我儘を言っている自覚はあるらしい。
まあこれがアキ達の日常だ。本当に手が掛かる子達だが、これが何より居心地いい。




