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「まったく……これだから一人でお出かけさせられないのですわ。それで依頼についてちゃんと教えてくださるんですよね?」
お説教を終えた満足顔のミルナが尋ねてくる。
「そうだな、メビウスからの手紙以外にもう1通ある。こちらにはステラからの依頼内容の詳細が書かれている。」
アキはステラからの依頼の内容を全員に伝える。
調査依頼と銘打っているが、十六夜の洞窟ではアキの好きにすればいいらしい。単純に王家がこうして依頼することで、十六夜の洞窟の管理者が正式な客人としてアキ達を受け入れてくれるようになるらしく、気を利かしてステラが依頼してくれたのだ。Sランクであれば、王家の依頼がなくとも自由に出入りはできる。ただ現地の管理者がアキ達を快く思うかどうかはわからない。だからステラの依頼であれば、色々と都合がいいだろうとのことだ。確かに客人待遇して貰えるのであれば助かる。多分これで野宿をする必要もないだろう。
「エルモアでの宿も手配してくれたみたいだ。探す手間が省けるな。ステラの手配であれば安心だろう。」
寧ろうちには王女であるベルがいるから、ステラが手配してくれたのかもしれない。彼女がベルを大好きなのもあるが、それよりもサルマリア王家としてエスペラルドの王女を適当な宿に泊めるわけにはいかないのだろう。
「多分そうですね。逆の立場でも屋敷か宿を手配するでしょう。」
「ベルのおかげだね。」
「ふふ、たまには王女という立場が役に立ちました。」
嬉しそうに微笑むベル。彼女の王女としての力には偶にはどころかしょっちゅう助けられている。本当に王女さまさまだ。
「ステラさんもさすがですね。アキさんが動きやすいようにしてくれて感謝です。」
ベルが見直しましたと満足そうに頷いているが、それは少し違う。確かにアキ達の為でもあるだろうが、依頼を出した本当の理由は間違いなく別にある。
「え?そうなんですか?」
ベルが不思議そうに首を傾げる。
「手紙の最後に『ちゃんと報告にきてくださいね!』と力強く太字で描かれているからな。他にも色々我儘が書いてある。あらかさま過ぎて引くレベルだよ、ほら。」
みんなに手紙を見せると、全員が「あー……」と言った呆れた顔になる。
王家が依頼をする事で、ステラへの報告が必須になる。つまり帰りにリスルドに立ち寄る必要が出てくる。アキ達がリスルドに戻ってくれば、ステラはまたベルに会える。彼女はここにいる時、本当に楽しそうにしていた。だから依頼云々ではなく、単純にベルやみんなに会いたいだけなのだ。
「ステラさんはまったく……。」
ベルがしょうがない人ですと頭を抱えるが、どこか嬉しそうだ。
「まあどのみちリスルドに立ち寄って爺さんに報告する必要があるし、丁度いいだろう。大した手間ではない。」
アリアがイリアナから受けた連絡だと、爺さんはリスルドで待っておくとの事だ。まあその方が確かにいいだろう。エルモアには爺さんの屋敷はないし、そもそもリスルドからそんな遠い距離でもない。だから色々と人を動かせるリスルドにいて貰った方が何かと都合がいい。
「ところでみんな準備は終わった?」
アキが確認すると、全員が「はい」と頷く。いつもの2人を除いて。
「ミルナ、ソフィーの部屋見に行こうか。」
「「待ってー!」」
今から準備するところですと必死に言い訳してくるミルナとソフィー。しかしいつもいつもどうやったらそんなに汚せるのだろう。不思議だ。そしてどのくらい実際に汚れているのか気になる。
だから今回はルティアにこっそり依頼しておいたのだ。
「ルティア。」
アイリが来ていたので、影に戻っていたルティア。アキが呼ぶと、いつもように瞬時に姿を見せてくれる。
「ばっちり。はい、アキ。」
ルティアはアキのタブレットを持っており、それを渡してくれる。どうやら上手くやったらしい。さすがルティア。
ミルナとソフィーは何か嫌な予感がしたようで、どういう事なのかとアキに詰め寄ってくる。相変わらずこういうところだけは勘がいい。
「部屋を見せてくれないからルティアに2人の部屋の写真を撮ってもらった。それを今から見ようかと。」
ミルナとソフィーがそれは絶対にダメと必死にタブレットを奪い取ろうとしてくる。だが指示するまでもなく、ちゃんとエリスが2人を押さえつけてくれた。
「さすが、エリス。」
「任せるのだ。」
「「待って、見ないで!それだけはダメ!」」
ミルナとソフィーがやめてお願いと必死に懇願してくる。そんな2人の姿を見ると、そこまでなのかと逆に気になってしまう。だから今回ばかりは諦めてもらう。それにこの子達には正攻法は通じないと学んだ。強引にでも改善してもらおう。
「違うんですわ!ダメ!ダメ!」
ミルナの言葉を無視して早速写真を見る……見るが……まさかの惨状、ではなくとても綺麗な部屋だった。ソフィーの部屋の写真も見たが、埃一つないくらいに綺麗に片付けられている。
「ルティア?部屋間違えてない?」
「ない。2人の部屋。とても綺麗。」
どういう事だとミルナとソフィーを睨む。すると2人は気まずそうに視線をアキから逸らしてきた。そもそもこんなに綺麗なら、別にアキに見られても問題ないはずだ。なら何故あんなに焦ったのだろうか。
アキは手を顎に当ててしばし逡巡する。そして1つの可能性に気づく。
「え、まさか汚れている振りしてただけ?あれは全部演技?」
「いえ、アキさん。私が見る時は毎回酷い状態でしたよ。」
アリアがそれはおかしいですと言ってくる。確かにそうだ。だがもしかしたら……と思いアリアに改めて尋ねる。
「どんな惨状だ。詳しく言え。」
「ええ、服や下着があちらこちらに散らばっていました。」
「下着や服だけ?埃とかごみは?」
「そ、それはなかったです。綺麗でした。」
アキの言いたいことに気づいたのか、アリアが目を見開く。まあ多分そういう事なのだろう。
「最初の数回は本当に汚かったんだと思う。でもそれ以来は綺麗にしていたんだ、ミルナとソフィーは。」
やはりそうか、正直おかしいと思っていんだ。あれだけアキに怒られて改善しないわけがない。いくらポンコツお姉さんのミルナや駄エルフのソフィーでも、アキの言う事にはいつも素直に従ってくれる。そんな2人が部屋を片付けないわけがない。おそらくちゃんと改善したのは、ミレーで買い物に連れてかないといかさまクジでお仕置きをしようとした時あたりだろう。あれには2人共相当に堪えていたし。
「アリアやルティアが確認しそうな時、意図的に散らかしたんだな。あとわざと下着だけはいつも適当においてるんだろう。俺の召喚魔法にひっかかるように。」
部屋を汚していれば、アキがこうやって2人を構う。それを狙っての事なのだろう。怒られようが、お仕置きされようが、アキに構ってもらいたくて、部屋を汚している振りをしていた。そしてアキが召喚を覚えた時などは、きっと下着を召喚して遊ばれるだろうとまで読んで、数枚だけわざと散らかすようにしていたに違いない。
「ある意味凄いな……。力の入れる方向を明らかに間違えているけど。」
よくもそこまで頭が回るものだ。正直感心する。下手したら2人の推測と予測はアキ以上だ。こういう事に関してだけだが。
「よくもまあ、そんな事思いつくわね……。」
「ほんとだよ……ミル姉にソフィー……。」
エレンとレオは呆れを通り越して逆に尊敬している。アリアはミルナ達に上手く使われていた事に気づき、少し落ち込んでいるようだ。「逆に利用されていたなんて一生の不覚です。」とか呟いている。確かにこのアリアを利用するなんてミルナとソフィーは恐ろしい。そう、恐ろしいが……今の今までアキは無駄に怒るという労力を使わされたという事になる。
「俺を騙すとはいい度胸だ。言い分はあるか?」
「か、構って欲しかったんですー!」
「ご、ごめんなさい……つい!出来心でしたの!」
ソフィーとミルナは許してくださいと手を合わせて拝んでくる。アキはそれを無視して、2人の頭にそっと手を近づける。殴られると思ったのか、目をギュっと瞑る2人。
だがアキは殴るのではなく、ミルナとソフィーを優しく撫でてやる。
「……え?」
「ア、アキさん?」
恐る恐る目を開いて不思議そうにアキを見上げるミルナとソフィー。
「ちゃんと片付けていて偉いね。」
多分2人は片付けるのが本当は苦手だ。普段の自堕落な生活態度を見ていればわかる。最初の頃は本当に片付けられなかったのだろうし、今でも必死に頑張って綺麗にしているのだろう。ちゃんと改善していたのだからアキとしては嬉しい。だからその事に関しては褒めてあげなければならない。それに構って欲しかっただけなのもわかる。ミレーやサルマリアではミルナ達と冒険に行く事もなくなっていたのだから。
「でもね、そんな事しなくても大丈夫だから。ちゃんと言ってくれれば好きなだけ構うから。だから遠慮せずに言いなさい。」
「……はい、ごめんなさいです。」
「私もごめんなさいですわ。」
しょうがない子達だと呆れる。でもそこまでしてまでアキに構って貰いたいのだから愛らしい子達だ。
「はい。じゃあ次はお仕置きね。正座2時間。」
「「えっ?」」
ミルナとソフィーが見事に固まる。
「当然だろ。怒るという無駄な労力を俺に今まで使わせてたんだ。それに自分達だけ構ってもらおうとする根性はいただけない。エレンとリオナが可哀そうだろ。2人もそう思うでしょ?」
エレンとレオに聞いてみた。
「確かに!そうね、ずるいわ!」
「僕達まで騙していたのはいただけないね。」
「だよね。ミルナ、ソフィーさっさと正座しろ。」
2人の頭を撫でるのをやめて鷲掴みにする。
「「待って!」」
「文句言うなら4時間にするぞ。」
それだけはと即座に正座する2人。素直なとこが可愛い。でもこの光景を見るのもこれが最後かと思うと少々名残惜しい気持ちになる。綺麗にしているのだからもう怒る必要もないだろう。
「アキさん、感傷に浸ってるとこ申し訳ないですけど。」
ベルが苦笑いしながら声をかけてくる。
「どうしたの?」
「この2人の事だから多分またよからぬ手段考えると思いますよ?」
ああ、うん、知っている。間違いなくそうなるだろうと思っている。少し感傷に浸ってみただけだ。ミルナとソフィーはもともとスペックが高いのだから、いくらでもよからぬことは思いつく。ミルナはお姉さんとしてメルシー時代、みんなを率いてきている実績があるし、ソフィーはタブレットのパスワード解析をしてくるくらいだ。しかしこの暗黒物質に駄エルフ、少しは違う方向に頭を使って欲しいものだ。
「あはは、アキも大変だね。」
レオが尻尾触っていいよと慰めてくれる。
「みんなはミルナやソフィーみたいになっちゃダメだよ?」
ここまで手間がかかるのはこの2人だけで十分だ。
「ダメ人間みたいに言わないでくださいませ!」
「そうですー!」
とりあえずぶーぶー文句を言っている2人の事は放置して、アキも自室に戻って出立の準備をする事にする。当然2時間後、足の痺れで悶えている2人で思う存分遊んだのは言うまでもないだろう。




