19
リスルド滞在最終日。
今日は午前中に魔法印の解析を完全に終わらせる。そして午後はルティアとお出かけだ。多分遅れたらものすごく拗ねられそうなので、何としてでも予定通りに終わらす必要がある。それに今日こそは買い物だ。昨日は結局ベル達に終日上手く誘導されて買い物が一切出来なかった。
「まあ解析の方は問題ない。もう大方終わった。」
テーブルに並べた魔法印の模写を見て呟く。
アキは5種の術式に共通する模様を少しずつ比較、そして情報収集から推測した命令付与の内容や実験で分かった大気魔素の使用方法などを当てはめ、魔法印を解読していった。その結果、魔法印や装置に使われている全ての術式をほぼ翻訳出来た……はずだ。
識別印刻印装置の術式は「体内魔素を集約。後述の魔法を使用。『』」と記されている事がわかった。依頼受託装置と許可証発行装置で『』内の内容は若干違う。ちなみに依頼受託装置のほうは「識別信号を○時間おきに発信するのを〇日の間繰り返す。その後識別信号を完全に消滅」と書かれており、証明書発行装置の方は「識別信号を付与。〇日後に識別信号を完全に消滅」と書かれている。〇は数字。流石に数字までは特定できなかったので虫食いのような状態になっている。
そして魔法印の術式は「魔素をオリハルコンで集約、後述の魔法を発動『』。魔法発動後オリハルコンに集約した魔素を解放」と基本的には書かれているとわかった。召喚印、命令付与印、転送印ともに大体こんな感じだ。違いは『』内の魔法部分のみ。その肝心の魔法術式部分についてだが、次の通りだ。
召喚印:魔獣と定義された生物を『』より召喚。召喚する魔獣はランダム。
召喚印の『』には召喚元の座標が入る。座標特定までは難しかったので虫食いになっている。
命令付与:魔法印内の生物の脳に「後述の識別信号を発信するものには攻撃をくわえない事。ただし反撃された場合は応戦を可とする。」の命令を強制付与。識別信号は『』。
命令付与印については識別信号の形が最終的には不明の為、その部分は空白にした。
転送印:魔法印内に存在している物を『』内のランダムな位置に転送。ただし『』の場所は除く。
転送印の最初の『』には各国の座標が入る。2つ目の『』には街の名前が入り、街には魔獣が転送されないようになっている。ベルに聞いたら魔獣が街中に転送されてた史実は一度もないそうだ。そしてさらにベル曰く、ここ300年は街の名前も変わっておらず、増えてもいないという。よって各国の立ち入り禁止エリアの命令付与印にはその国の街の名前が除外指定として記述される。エスペラルドなら『ミスミルド、アリステール』、ミレーなら『レスミア』、サルマリアなら『リスルド、エルモア』などだ。街の数は多くて1国10程度らしいので、たいした情報量ではない。
各術式の細かい数値や座標を定義出来なかったのは残念だが、仕方のない事だ。ただ、転送印と召喚印の座標指定は大きく情報量が異なっていた。召喚印の方が明らかに記述量が多い。よって召喚元は別世界の可能性が高くなった。この世界の別大陸が召喚元なのであれば、転送印と同じ、又は少し多いくらいの記述量で済むはずだ。これはあくまでアキの推測なのでなんの確証もないが。
それよりもっと重要な事は、術式に特殊な詠唱は隠されていないのがわかった事だ。つまり立ち入り禁止エリア内の魔法印自体には特殊な効果は存在しない。今すぐ召喚や転送を停止しても何の影響もないという事だ。まあ召喚元が何もして来ないとも限らないので「じゃあ停止」というわけにもいかないのだが。ただ一歩前進だ。もし召喚元が干渉してこないと確証が持てたなら、魔法印の発動は即座にやめてしまえばいい。オリハルコンはアキが全て地球にでも転送してしまえば二度と使われる事はないだろう。
後は立ち入り禁止エリアに赴き、現地で実際に魔法印を観察して、召喚元に関する情報収集だ。そして同時にイリアを探す。アキの予想だと、もしまだ生きていれば、どこかの立ち入り禁止エリア内に隠れていると思っている。おそらくサルマリア、エスペラルド、リオレンド。ミレーを除外した理由はルティアが先日まで忍び込んでいたからだ。さすがに不審な人物がいればルティアは間違いなく見つけているだろう。
イリアが立ち入り禁止エリアに身を潜めていると推測できる理由は色々あるが、人目を避けるならそれ以上の適した場所はないというのが大きな理由だ。現地の管理者に見つかればすぐさま王家に報告が上がるが、見つかりさえしなければ誰の目にも止まる事はない。ルティアが未発見で月夜の森に忍び込んだ事からも隠密は可能だと証明されている。
「これでイリアの目途もついた。最終確認は結局現地になるだろう。」
立ち入り禁止エリアにミルナ達を同行するように言った本当の理由はこれだ。別に戦闘力や隠密性を考えるのであればアキ、エリス、ルティアだけの3人でも十分。ただこの3人ではイリアらしき人物を発見したとしても本人か判断できない。本人確認の為、そしてイリアに早く再開させてやる為、ミルナ達を同行させるのだ。
「上手くその辺りを隠せたのは重畳だな。」
ミルナ達にイリアの話をまだするつもりはない。会えたとしてもハッピーエンドになるかどうかはわからないからだ。アキの推測がもし正しいなら、可能性は半々と言うところだろう。だから上げて落とすような真似はしたくない。会えると喜ばせておいて、実際に行ってみたらバッドエンドでしたは避けたい。それなら言わなかった事を後で怒られたほうがましだ。
ただ誰にも言わないと、アキに何かあった際、情報が闇に葬られるので、爺さんだけには手紙で記しておいた。爺さんは数件隣の屋敷にいるので直接言いに行ってもよかったのだが、ミルナ達やベルに勘繰られるのが嫌だったので手紙にした。手紙はアリアに出して貰っているのでその事実は誰にも漏れない。アリアはそういうメイドだ。
「さて、そろそろ準備しないとルティアに文句言われそうだ。」
とりあえずは午後のルティアとのデートを楽しむ事にしよう。ルティアとの初めてのお出かけだ。明日からはまたしばらくドタバタだろうから、のんびりできる内にのんびりしておこう。




