18
ミルナ達との買い物の翌日、午前中は予定通り魔法印の解析に精を出した。こちらの進捗は順調なので、確実に明日で終わらせられそうだ。
そして午後はアリア達との買い物だ。
アリアとセシルはミレーで買った服を着てきてくれた。きっとアキを喜ばせようとしてくれたんだろう。エリスもアキが選んだものを着用している。そしてベルも、街を出歩く用にとアキが以前用意したお忍び服を着てきてくれた。この子達はほんと自分が喜ぶ事をよくわかっている。さすがだ。
「みんな可愛いね。」
アキとしては自分が選んだ服をこうやって着てきてくれるのはやはり嬉しい。
「じゃあ早速行こうか。」
そう言って街に繰り出したのはいいが、ものすごく目立った。すっかり忘れていたが、アキは昨日既にミルナ達といる事で注目を集めていたんだった。まああの子達に街中を引きずられて屋敷まで帰ったんだから当然だろうが。
ただミルナ達の時は今日ほど注目されてはいなかった。レオは少年として見られていたし、エレンは妹くらいにしか思われていなかった。そこにミルナとソフィーが加わり、結果として男2、女2、絶壁1くらいにしか思われなかったと思う。それでも、エレンは絶壁だが美少女だし、ミルナとソフィーの美貌もあるしで、ある程度の注目は浴びたが。
しかし今日ほどではない。まあ昨日注目を浴びていたアキが、昨日の今日で別の美女を4人も連れて歩いていたら、それはもう目立つのは当然だろうが。それにベルやエリスは誰もが振り返るような美人だ。アリアとセシルもとても顔立ちが整っていて間違いなく綺麗に分類される。それに昨日とは違い、確実に男1女4とみられている。
いい感じにヘイトがアキに集まっている。そろそろ自分の履歴書の特技欄に「ヘイト集め」と記してもいいレベルだ。
「アキさん辛くないですか……?」
ベルが心配そうな表情を浮かべている。
「うん?別にどうでもいいから大丈夫だよ。」
気にしてくれるのは嬉しいが、アキにしてみればこの類の視線は正直どうでもいい。注目を浴びているくらいにしか思わない。絡まれたら面倒くさいなとは思うが、多分それも大丈夫だ。さっきから男が近寄ろうとする度に女性陣がものすごい殺気を放ち「邪魔したら殺す」と脅している。
実際、昨日のミルナ達の時も誰1人声をかけてこなかった。エレンとソフィーの殺気が特に凄かったからだろう。エレンは元々猛獣だから想定の範囲だったが、ソフィーのゴミを見るような目は恐ろしかった。確か以前、アキが襲われた時もソフィーはあんな目をしていた。アキには絶対向けない類の視線だが、怖い。あのエルフは怒らせたら多分絶対駄目なやつだ。
「それならいいんですが……。」
アキが気にするなと言っても、ベルはまだ申し訳なさそうな表情を浮かべている。
こういう時はさっさと話題を変えてしまうに限る。
「それより早く買い物いくよ。今日はどこ行こうか。」
どの店に行こうかと街を見渡す。
するとベルがアキの袖を掴んで慌てた様子で声をかけてくる。
「アキさん!エリスさんとお弁当つくってみたんです。今日はピクニックに行きませんか?」
「え?でも買い物は?買い物いかないの?」
必死に買い物をアピールするが、アキの言葉は無視された。そしてベル達に引っ張られ、近くの公園のような場所に連れてこられた。また街中を美少女に引きずられてしまったじゃないか。
まあもうどれだけ注目されようが変わらないからいいんだけど。
とりあえずこの場はこの子達に任せることにする。彼女達がしたい事をするのが一番だ。それに時間はある。買い物は後でいいだろう。
「アキさん、そこに座ってください。」
アリアが敷物を地面に敷いてくれたので、言われた通りそこに座る。そしてベルとエリスが作ったというお弁当を早速食べる。まさに至れり尽くせりだ。
「ベルも作ったんだ、凄いね。」
エリスは元々料理が出来たが、ベルもすっかり料理を覚えたようだ。しかしこの向上心をうちのダメ人間1号と2号にも見習って欲しい。まあ一生無理だろうが。
「頑張りました!」
ベルが可愛らしくガッツポーズしている。しかし王女のお手製弁当なんて贅沢だ。それにエリスの手料理だというのもやはり嬉しい。
「エリスはほんと家庭的だね。」
「そ、そうか?」
「いいお嫁さんになるよ。」
「な、何を言ってるのだ!」
頬を染めて照れるエリス。初心な彼女が微笑ましい。
そんなエリスとのやり取りが羨ましかったのか、ベルがお弁当を食べさせてくださいと口をあーんと開ける。しょうがないので肉団子を掴みベルの口に放り込む。それを嬉しそうに頬張るベル。
「毒殺王女様ごっこする?」
「し、しませんから!もうそれは忘れて!」
「えー、したい。」
「イヤです!絶対イヤっ!」
残念。また今度頼んでみよう。
そんな雑談をしてたらいつの間にか弁当を食べ終わっていた。よし、次はいよいよ買い物に……と思ったのだが、今度はアリアとセシルがケーキを用意しだした。
「もう少しのんびりしましょう。デザートは私とセシルさんで作りました。」
「いつも作って貰っているのでお礼です。たまには……ね?」
そう言われたら食べないわけにはいかない。紅茶と共に食後のデザートを楽しむ事にする。
「セシル、耳。」
「はいはい、しょうがないアキさんですね。」
屋敷でも食後はいつもセシルの耳を堪能する事が多い。だからついつい無意識に要求してしまった。セシルもそれをわかっていたようで、兎耳をぴくぴく動かしながら待ち構えていてくれたようだ。
大好きな兎耳を触っていたら、急激に眠気が襲ってきた。サルマリアは、エスペラルドに比べて少し気温が低いとはいえ、日中は割と温かい。ぽかぽかの陽気がとても気持ちいい。兎耳と心地よい気候が混ざれば当然眠くなる。
「アリア……膝枕。」
「はい、どうぞ。」
横になりたい気分になったので、アリアに膝枕してもらう。ベルでもエリスでもなくアリアだったのに深い理由はない。単純にアリアがアキの一番近くにいたからだ。
アキは兎耳愛でつつ、アリアの膝で目を瞑る。うん、最高の昼下がりだ。
「ちょっとしたら起こして。」
「はい。」
アリアは基本的に余計な事は一切言わない。主人であるアキの言葉に忠実に従って動いてくれる。ど変態スイッチが入っている時は別だが。
そんな事を考えていたらうとうとしてきた。連日の会談や魔法印解析やらで疲れていたのかもしれない。こうやって本気で昼寝しようとするなんてどれくらいぶりだろう。この世界に来てからは目を瞑るくらいしかしてなかったと思うし、地球にいた頃も覚えてないくらいにはしていなかった。最後に昼寝というものをしたのは、中学の頃、体育の授業を体調不良と言ってさぼった時だっただろうか。
「寝ました?」
ベルは小さな声でアリアに尋ねる。アキはよく寝たふりをしているので、念の為に確認しておく。
「ええ、間違いなく。」
アリアがアキの頭をそっと撫でながら答える。
「みなさんはこの過ごし方でよかったのですか?」
セシルが尋ねてくる。
「うむ、アキはたまにはゆっくりすべきなのだ。」
エリスが微笑みながら呟く。彼女の気持ちはよくわかる。ベルも全く同じことを思っていた。アキはいつも一生懸命だから少しくらいはゆっくりしてほしいと。
「それにこんな無防備なアキさん見られるのです。役得です。」
なかなかアキの寝顔を見る機会なんてないのでベルとしては嬉しい。
「私はアキさんが楽しいのであればそれでいいです。」
アリアも文句の一つもないらしく、淡々と答える。
「ミルナさんに提案された時はどうしようかと思いましたけど、やっぱりこの予定にしてよかったです。」
ベルは大好きなアキを見つめながら、彼を起こさないよう、小さく呟く。
昨日ミルナ達が買い物から帰ると、話があると言われ、アキが風呂に行っている間に女性陣だけで話をした。ミルナはアキが家具屋でしようとしたことを話し、ベル達にも家具を買わせないようにとお願いしてきた。そしてこのお出かけプランを提案してきたのだ。
それを言われた時、ベルは、そんなのはアキの自由だし、アキが稼いだお金だから好きなようにさせたいと反論した。勿論アリア達もだ。ベルを含むこの4人は、アキ絶対主義なので、まあ当然の反応だ。
それでもミルナは頭を下げてお願いしますと頼んできた。彼女がそこまで頼むなんて珍しい。いったいどうしたのかしらとベルは首を捻った。
「買い物だとアキさんがゆっくりできないと気づいたんですわ。」
ミルナが説明する。
結局アキは「お出かけ」といっても、ミルナ達が楽しめるように行動している。服を選ぶのだって彼女達が喜んで欲しい一心でやっている事だ。家具を買おうとしたのだってミルナ達がもっと快適に過ごせるようにと思っての事だとミルナが必死に語る。
「アキさんが自分の物を買っているところ見た事あります?」
ミルナにそう言われ、ベルは初めて気づいた。確かに彼が自分達と出かけて自分用に買った物など一つもない。ミレーで楽器を買ったのだって皆で楽しむのを目的としていた。アリアやセシルと出かけたときも、ベルと出かけたときも、彼女用のアクセサリーや服を買っただけだ。勿論エリスの時も同じ。アキ自身が服や嗜好品を買った記憶はない。
「そういえば……アキさんは自分の物は大抵アリアさんに買ってくるようにお願いしてますよね?」
「ええ、セシルさん。その通りですわ。」
自分の買い物にミルナ達を付き合わせたくないのだろう。自分達との時間は全て自分達の為に使いたいのだとアキは考えている。ミルナにそう言われ、はじめてベルは気付いた。
「私も気づかなかったわ。今日まで全然。」
「私もです……。妻失格ですー!」
あのエレンとソフィーさえもベル達に買い物以外でお出かけを計画してくれと頭を下げてきた。あのエレンやソフィーがだ。誰が妻だと突っ込みそうになるのを忘れるくらいに衝撃だった。
もうベルに彼女達の頼みを断る理由はみつからなかった。
「言われるまで気づかないなんて正妻失格です。」
ベルが悔しそうに呟く。誰が正妻だとセシルは文句を言いそうになったが、喧嘩するとアキを起こしてしまうので心にしまっておく。
「それを言うなら私、セシルさん、エリスさんも気づいていませんでした。」
アリアの言う通りだ。それにミルナ達だって気づいてなかっただろう。昨日、アキがミルナ達を見つめる表情で気づいたのだとミルナは言っていた。それも偶然気づいただけ。アキが彼女達の後ろを歩いていた時、ミルナが偶々、本当に偶々、通り過ぎた店が気になって振り返った際、彼のそんな表情が目に入ったのだと言っていた。
「まったく、私達に気づかれないように上手く表情を隠していたんでしょうね。」
セシルは自分に呆れる。少し前に「アキさんの感情は自分達にはわかるのです」とドヤ顔で豪語したのが恥ずかしい。
だが今となってよく考えれば、それはアキが多分ばれても問題ないと思っている感情だから自分達でもわかったのだろう。今回のように本当に隠そうとしている時、自分達ではまだまだ読めない。もしかしたら今回のピクニックに連れ出した理由もアキはわかっている可能性だってある。彼女達が望んだお出かけプランだったから素直に従っていてくれているだけかもしれない。
「そうですね、読まれているかもしれないですね。」
「アキの事だからどうせわかっているのだ。」
ベルとエリスが苦笑する。
「こんな人だからこそ、こうやって全員が慕っているんでしょうね。でもほら、気持ちよさそうに寝てますし、いいんじゃないでしょうか。」
アリアもアキには敵いませんと白旗を上げる。
「そうですね、アリアさん。」
セシルも概ね賛成だ。結局読み合いでアキに敵うわけがないので、少しでも自分達の気持ちが伝わっていればそれでいい。
「私達、これでいいんででしょうか、アキさん?」
優しく寝ているアキにベルが問いかけているのをセシルは穏やかな気持ちで眺めていた。
「いいんじゃないか?」
独り言のつもりで言ったのに、返事が返ってきて焦っている様子のベル。セシルとエリスも驚いて唖然としているようだ。うーん、面白い。
しかしすぐに何が起こったか理解したベルは、顔を真っ赤にして非難してくる。
「だ、だからいつもいつも言ってますけど、独り言に返事しないでってば!!!」
ベルの叫びを聞いてセシルとエリスも我に返ったようだ。
「い、いつから起きていたのだ?」
エリスが慌てた表情で確認してくる。
「え、最初からだけど?」
眠気が襲ってきたというだけで、別に寝てはいない。とうかいつも本気で昼寝しようとするのに、結局この子達がすぐ話し始めるので、意識が飛ぶまでは行かず、うとうとするだけになってしまうのだ。
「で、でもアリアさんが寝てるって言ってましたよ!」
今度はセシルだ。アリアは確かにアキは間違いなく寝ていると言った。なのに何故最初から起きているのだと兎耳を揺らしながら必死に説明してくる。兎耳可愛い。
「あれは嘘ですけど。」
さらっと答えるアリア。
「「「なんでよ!」」」
まさかアリアがそこを誤魔化しているとは夢にも思わなかったらしい。雰囲気的に4人で仲良くアキを眺めて楽しんでいる感じだったのに、何故あそこで嘘を吐いたのかとアリアを問い詰めるベル、セシルとエリス。
「メイドのお茶目な冗談です。」
「さすがアリア、よくわかってる。」
「当然です。アキさんのメイドですから。面白い方に転がします。」
誇らしげな顔をするアリアだが、ベル達は当然納得がいっていない様子だ。
ならアキが一言いってやろう。多分この子達が一番気にしている事を。果たしてアキが話を全部聞いていたのかどうか。
「あ、もちろん話は全部聞いてたぞ。言うまでもないと思うけど。」
「「「ばかー!」」」
改めてアキには敵わないどころか、この腹黒メイドにも敵わないだろうと思い知ったセシル。ベルとエリスも似たような表情だ。でも確かに自分がアリアの立場だったら同じ事を間違いなくする。だからアリアを強くは糾弾出来ない。
「まあ……俺がどうとかは気にするな。アリア、セシル、エリス、ベル。4人は遠慮しすぎだ。もっと自由にしろ。俺はそれがいい。」
アキが自分の兎耳を撫でながら優しく告げてくる。ずるい。こんなのずるい。アキに撫でられてそう言われたら頷くしかないじゃない。
でもまあいいか。これがアキだ。こんなアキが自分は好きなのだ。それに自由にしろとか言っているけど、行動といい発言といい、よく考えればなんだかんだ一番自由なのはアキだ。真面目に考えた自分がバカらしくなってくる。ベルやエリスも似たような事を考えていたのか顔を見合わせて苦笑いしている。
「アキさんのばか。兎耳……1時間禁止!」
でもちょっとくらいは仕返ししておこう。




