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異世界の観察者  作者: 天霧翔
第十五章 サルマリア王国
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 サルマリアに入って1日、馬車の移動も明日で終わりだ。ちなみに移動中、魔獣の襲撃は2回ほどあった。ミルナ達やエリスがあっさり片付けてくれたので問題はない。相変わらずアキは魔獣相手には役に立たないので、ベルの側で待機していた。オリハルコンを使って大気魔素で魔法を発動すれば魔獣も一瞬で殲滅できるだろうが、そんなものを公の場で使うわけにはいかない。ミルナ達もそれをわかっているのでアキに何かしろとは一切いわなかった。むしろアキの役に立てるのが嬉しいようで「アキさんは何もしなくていいです!」と何もさせてもらえなかった。


 オリハルコンは隠し部屋においてこようとも思ったのだが、今後の行動を考えると所持しておく方がいい気がしたので持って来た。おそらくサルマリアでの情報収集の後、事態は急速に動く気がする。なんせイリアに例の依頼をした国なのだから、きっと何かがわかるはずだ。


「やっぱりミルナ達は頼りになるな。」

「えへへ、もっと褒めてくださいー!」


 ソフィーが褒められましたとぴょんぴょん跳ねている。


 屋敷にいると食って寝の自堕落エルフも、旅だとやる事があって嬉しいのか、誇らしげだ。ミルナも「やっとダメ人間から脱却ですわ」と嬉しそうにしている。ただ、また屋敷に戻ったらダメ人間に逆戻りな気がするのはアキだけだろうか。


「ねえ……なんで僕ここなの?」


 レオが恥ずかしそうに頬を染めながら尋ねてくる。まあ照れている理由は、彼女を膝上においているからだ。めちゃくちゃ温かい。


「嫌?」

「ううん、嫌じゃないよ。そのちょっと恥ずかしいけど……。」

「ほら、サルマリアって少し気温低いし。リオナあったかくて気持ちいい。」


 モフモフな彼女の尻尾が絶好の毛布代わりになる。


「そ、そう……でもなんかこういうの久しぶりだから嬉しい。」


 まあ実はそっちが本当の理由だ。レオはいい子だし、説教やお仕置きする事が滅多にない。ミルナやソフィーは汚部屋というアイデンティティを持っているので、何かと構う機会があるが、レオの場合は本当に注意する事がない。だからどうしても構う頻度が減ってしまうのだ。


「そうか。それはよかった。」


 そう言えばルティアと別れてから今日でちょうど2週間だ。そろそろ調査を終えてアキに合流する頃だろう。ルティアの事だから数日後にはアキの事を見つけてきそうだ。とりあえず今はまだ彼女の気配はないので、さすがにまだ追いついてはいないらしい。


 結局ルティアからの手紙はあれ1回のみだった。まあ手紙が届いた数日後にサルマリアへ出立したので、もしかしたら新しい報告書が屋敷に届いているのかもしれない。サルマリアでルティアが合流してくれた時に直接聞けばいいだろう。


 尚、魔法印の研究の方は特に進展はなかった。やはり言語解読は難解だ。それに転送印や召喚印の場所指定方法もまだ確立できていない。そもそもこの世界に経度と緯度が存在していないので、どうやって指定すればいいのかやはりわからない。とにもかくにもルティアから話を聞いて考えた方が効率的だ。






 サルマリアの王都には明日着く。そろそろこの国の情報を頭に入れておく必要があるだろう。


「ソフィー、ベル。サルマリアの事を教えてくれ。ミレーの時のような情報で構わない。」


 ベルは王族として各国の知識はあるはずだ。さらに昨日の昔話でソフィーがサルマリア出身だとわかったので、ベル以上の有益な情報を持っているかもしれない。


「わかりました。」

「いいですよー!」


 2人が快く了承してくれる。


 顔を見合わせてどっちが先に話すか決めているようだ。


「とりあえずベルが知っている一般的な情報を話してくれ。それに補足部分があったら最後に改めてソフィーが説明して欲しい。」


 それがおそらく一番効率的だろう。ベルの説明は分かりやすいし、的確なのでソフィーも補足しやすいはずだ。それにサルマリアのディープな情報はソフィーしか知らないだろうから、基本的な情報を入れてからにしたいというのもある。


「りょーかいです!」


 ソフィーが同意したのでベルが「では」と前置きして説明してくれる。


「サルマリアはご覧の通り高原地帯です。全体的にエスペラルドより標高が高い場所にあります。そのせいで気温が少し低いです。朝や夜はそれが顕著ですね。」


 エスペラルドが関東、ミレーが九州、サルマリアが北海道と考えればわかりやすいかもしれない。まあこの大陸に四季はないので夏の気温差というところだ。


 しかしベルの言う通り、朝と夜は結構肌寒かった。今でもレオを膝において心地いいと思えるくらいだ。夜にはレオを抱き枕にして寝たい。


「そして当然森林や山脈が多いです。」

「もしかして種族構成はエルフが多い?」

「はい、その通りです。アキさんの進化論?ですか?」


 アキの進化論の仮説を正しいとするなら、エルフは森に住み着いた人族が森の民として独自の進化を遂げたと考えられる。そして森林が多いサルマリアだからエルフ族が多い、ということになる。ソフィーもサルマリア出身だし。


「ただエルフが極端に多いというわけでもないです。人族や獣人の方々、他の種族もある程度はいます。そして別にエルフが多いからエルフが優遇され、他の種族が虐げられているということもありません。」


 各種族が誕生してから結構な年月が経っているだろうから、各地に散らばったのだろう。あくまで少し多いという程度だ。その理論でいくと、リオレンドはもしかしたら獣人が多いのかもしれない。そんな事を考えながらレオをそっと撫でる。その意味をちゃんと理解してくれたのか、尻尾を気持ちよさそうに一振りしてレオが教えてくれた。


「うん、リオレンドは獣人が少し多いかも。ミレーもそうだったけどね。」

「はい、でもミレーは猫系が多いですが、リオレンドは狼や犬系が多いです。こちらもあくまで多少という程度ですが。」


 レオの説明にベルが補足する。


 多分その少しの差が、元々暮らしていた故郷を意味しているのだろう。そこで進化したという事は、その地域がその種族にとって環境的に適しているからだ。


 衣食住の文明がある程度発達してしまうと、別にどこでも住まう事が可能だ。でも進化した場所がなんだかんだ過ごしやすいと無意識に理解しているのだろう。だからこそ、その地域の種族比率が高くなるのかもしれない。


「次に住居や建物の建築についてですが、ミレーに比べて気温が低いので、熱が籠りやすい造りになっています。見た目はエスペラルドとほぼ同じですね。」


 サルマリアの建物は日光の角度を気にして建てられる場合が多く、日中などは太陽光がふんだんに取り込まれる造りになっているらしい。でも建物の造りがエスペラルドとほぼ同じという事は、アキにとっては普段と同じで過ごしやすいという事だ。


「続いてサルマリアの特産品ですが、家具などの木製品ですね。森林が多いので木材が豊かです。それに関連した商品がやはり主力であり、特徴となっています。」


 素晴らしい。座り心地の良いソファーや使い勝手のいい机などは是非買いたい。さらにベッドなども良い物があれば買い替えてもいいだろう。金はあるが使う暇がない。そのくらいの浪費はしてもいいはずだ。


 そんなアキの様子を見て皆がくすくすと笑っている。


「アキはお買い物好きだよね。ミル姉以上だよ。」


 レオが苦笑している。


「ほんとですわ、アキさんには敵いません。」


 ミルナも困り顔だ。失礼な。


「でもアキさんって自分の物じゃなく私達の買い物する時が一番楽しそうですー!」

「確かにそうね。ほんとしょうがないわね。あ!……でも嫌とかじゃないわよ!」


 ソフィーとエレンが言う通りだ。特に洋服などは自分のよりミルナ達の物を選んでいる時の方が遥かに楽しい。


「私と行った時もそうだったな。」

「ええ、私達の時もそうでした。」


 エリスとアリアも同意する。


「しょうがないだろ……楽しいんだから。」


 何着せても可愛いんだからしょうがない。色々着せたくなるのは当然だ。


「うふふ、アキさんらしくて素敵ですよ?」


 ベルも楽しそうに笑っている。


「でも家具は欲しい。そうだ、なんか俺に買ってよ。前に贈り物くれるっていってたし、家具がいいな。」


 いい案だと思い提案するが、ミルナ達は駄目だと言う。


「ふふ、そうでしたわ。でもそれとこれとは別です。」

「そうよ、家具は一緒に選ぶのよ!贈り物は別よ!覚悟しなさい!」


 それなら楽しみにしておこう。だが何を覚悟しなければならないのだろうか。エレンは自分に何を贈ってくるつもりだ。


「とりあえずサルマリアの特徴としてはこんなところですね。ちなみに我々が向かっているサルマリアの王都はリスルドと言います。場所はサルマリア王国のちょうど中心です。最後に為政について少しお話しておきましょう。と言っても大体一緒ですけど。」


 サルマリアはエスペラルドと同じく国王が治めており、名をイルベルン・サルマリア・6世というらしい。1、2世が短命だったので他の国より世襲が早く、6世が現存の王になっているそうだ。


「王と王妃、そして王女が1人います。これもエスペラルドと似てますね。」

「そうなんだ、ベルと交流はあるの?」

「え……ええまあ。歳は一緒ですので、一応それなりには。」


 同い年の王女であれば色々交流しておいて損はないだろう。だがベルはどこか歯切れの悪い感じだ。あまりそれ以上言いたくなさそうなので追及するのは辞めておく。行けばわかる事だ。


 ベルはサルマリアでついでに国務をすると言っていた。実はその時にアキも王へ謁見しておいて欲しいとエルミラから言われており、ベルに同行して登城する予定だ。さらに「例の話」をしてサルマリアを味方に引き入れても構わないとのこと。エルミラ曰く「話すかどうかの判断は全て一任する。責任はエスペラルド王家が取る。」との事らしい。無駄にプレッシャーなので止めて欲しいが、ベルの為だと割り切って精一杯頑張るつもりだ。


「そして基本的な統治についてはやはりミレーやエスペラルドと一緒です。ミレーの様に女性職に力を入れているとかは特にありませんが。ただ……強いていうなら森林が多い分、狩人特化した国でしょうか。冒険者も魔法職は少なく、森林で有効な遠距離物理職に力を入れている傾向があります。」


 ソフィーのような弓使いが多いという事か。つまりエスペラルドは完全にバランス型、ミレーは魔法特化、サルマリアは弓職特化ということだろう。近接職についてはどこも一定数いるらしく、やはり人気のようだ。


「結局はどこも近接職が優遇されているんだな。」

「そうですね、どうしてもそうなります。」


 弓も魔法も牽制には有効だが、致命傷を与えるのは難しい。そうなると戦闘の花形はやはりエレンやレオのような近接になってしまう。それは国がどれだけ魔法職や遠距離職を優遇しても変わらないようだ。


「そう考えると、うちのパーティーは良いバランスだな。」

「はい。エレンさん、レオさん、エリスさんが近接。ミルナさんが魔法、ソフィーさんが弓。そしてアキさんがオールラウンダーでしょうか。」

「将来的にはそうなる予定。今は完全に魔法と防御特化した肉壁だ。」


 アキの言葉を聞いてベルがくすくす笑う。


「私からはこれくらいです。ミレーがある意味特殊過ぎましたね。女王、学校制度など。エスペラルドを含む他3国は力を入れている職が少し違うだけで基本的な為政については一緒ですから。」

「俺としては覚えやすいから助かるけどね。国によって政体が違ったり、法が違うとややこしい。俺の世界ではそうだったから。」


 アキ的にはこの世界は本当に楽だ。特産品や地域の違いだけを純粋に楽しめる。面倒な為政の違いによる制限が入ってこない。そういう意味では現行の魔獣制度には感謝だ。


 だからそれをアキ達が廃止に追い込んだら国は色々と大変だろう。でもミレーもエスペラルドも、今の政策が廃止できるならなんでも来いの姿勢だ。サルマリアやリオレンド王家もそうだろうとエルミラが言っていた。やはり得体のしれない仕組みに頼るより、四苦八苦して作り上げる国のほうが何十倍もいいのだろう。堕落した政治家とは違う本当に立派な統治者達だ、と尊敬の念を抱くほどに素晴らしい。きっとこれも長い年月施行されているこの魔獣政策の意図しない副産物なのかもしれない。これが無ければ今でも人の醜い争いは続いていただろう。だからこのシステムが100%よくない物だったとはアキには言い切れない。ただ統治者達の意識も変わり、真面目で平和な国を作る心構えを各国がもっている今、このシステムはもう必要ない。時代は変わる時が来た。ミルナ達の為にも、ベルの為にも、その手助けをしてやらなければならない。現行の平和を崩壊させる可能性がある限り、統治者達にこの重要な決断をするのは無理だ。だから現行制度を廃止に追い込めるのはアキ達だけ。異世界の知識を持った自分が先陣を切る必要がある。






「じゃあソフィー、補足説明はあるか?」


 サルマリアの基本的な情報は大体把握した。あとはサルマリアに住んでいたからこそ知っているソフィーのディープな情報があるのであれば聞いておきたい。


「うーん、そうですね。サルマリアはものづくりの国です!」

「あ……そうでしたね、さすがサルマリア出身のソフィーさんです。」


 ソフィーの言葉にベルが思い出したかのように頷く。


 木材の産出量が多く、木製品が特産品であるサルマリア。自然と他のものづくり職人も集まってくるようになり、木製品だけでなく様々な生産技術や製造技術が発達していったらしい。木材加工、機械設計、日用品製造、金属加工。そう考えるとガランがついてきたのは正解だ。本人はサルマリアがものづくりに特化している事は知らなかっただろうが、金属加工技術を見て刀鍛冶の何かしらのヒントを得られるかもしれない。


「ソフィーはなんか作れるの?」

「えー……っと……えへへ?」


 可愛い笑顔で誤魔化そうとしているうちのエルフ。


「この不器用娘。」

「だ、だってー!」


 この子は家事が壊滅的だし、すぐに暴走する猪突猛進な性格だし……まあしょうがない。


「それを含めてソフィーという人間だからそれでいいんだよ。」

「ですよねー!」


 このポジティブ思考というか能天気さはどうかと思うが。落ち込んで反省してもすぐに復活するので、自堕落生活が一向に改善しない。もうわざとアキに説教させる為にダメエルフを演じているのではないのかと思うくらいだ。


「とりあえず後は行って見てだな。ベルありがとう。」

「うふふ、どういたしまして。」


 ベルが役に立てましたと嬉しそうだ。


「アキさん私も!私もですよー!」


 手を挙げて必死にアピールしてくるソフィー。


「そうだな、ありがとう汚部屋のソフィー。」

「ち、ちゃんと褒めてください!ばかー!アキさん嫌い!」


 昨日のミルナの真似をして、拗ねた後にチラチラ横目でこちらを見てくる。こうすればアキがちやほやしてくれると知ったのだろう。こういう学習能力は無駄に高いんだからと呆れる。だからこそ無視してやることにする。


「じゃあサルマリアはリスルドまでのんびりしようね。」

「なんで無視ですか!私を慰めてくださいですー!」


 ソフィーが地団駄を踏むように駄々をこねる。そんなソフィーをミルナ達は「相変わらずのバカエルフだな」と生暖かい目で見守っている。


「ソフィーはいい子だねー。可愛いねー。」

「えへへ!いい子です!」


 仕方なく半ば棒読みで褒めたのだが、それでいいらしい。周りもそれでいいのかと全員が呆れ顔だ。ほんと可愛いエルフだ。

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