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「細かい種族考察は俺が勝手にするからおいておこう。それよりせっかくだし、アリアやセシルの昔話も聞かせてよ。」
うちの子達の昔話をしたのだから、うちの従者達の話も聞いておきたい。
「いいですよー?」
「はい、別に構いませんよ。」
2人とも快諾してくれる。
「じゃあアリアから。」
「はい。面白い物でもないですが。」
コホンと咳払いをしてアリアが話し始める。
彼女の出身はエスペラルド。両親は今でも健在。ただ碌でもない親で、借金まみれだし、仕事もしないという。だからアリアが必死に仕事をしつつ、生活費をまかなっていたのだが、当然すぐに借金の返済が出来なくなった。そしてそんな時、例の貴族から借金を肩代わりするから娘たちをメイドにくれと申し出があり、喜んで差し出されたらしい。
「そしてアキさんに助けて頂いたのです。両親には二度と会いたくないですね。」
アリアが淡々と話す。
「ついでにその連中も殺しておこうか?」
うちのメイドに対する仕打ちにちょっとムカついたので、エスペラルドに戻ったら本気で始末しようかと考えてしまった。
だがアリアは首をそっと横に振って微笑む。
「そのお気持ちだけで。私は今本当に満たされていますので、大丈夫です。」
まだまだ聞いてみたいが、これ以上聞くのは無粋だろう。アリアは気にしていない様子だし、こんなに嬉しそうに微笑まれたら何も言えない。アキもその毒親の事は忘れる事にする。
「そうか、これからも頼りにしているからな。」
「はい、お任せください。」
車内なので座ったままではあるが、アリアは大事な主人に最大限の敬意を表すように、丁寧なお辞儀をしてくれた。
「じゃあ次はセシルか。」
「はいー。私はー……。」
セシルが語ろうとしたところでアキは待てと彼女を制する。
「いや、セシルの半生はわかっている。」
「え?」
「レイアのババアから耳が生まれて立派な触り心地の耳に成長した。以上だ。」
セシルの半生を力強く語ってやる。これで間違いない。
「それは耳の半生だからあああ!私の半生じゃないからああああ!」
「冗談だ。」
セシルが頬を膨らませ、兎耳をぱたぱたと不機嫌そうに揺らしている。そして「どうせ半分は本気ですよね」という目で睨んできた。
「もぉ……でも、私の昔話もたいしたことですよ。寧ろ平凡です。」
ただ父親は知らないんですとセシルが昔話を始める。
あのババアは昔から自由な性格で、若い頃は冒険者として相当やんちゃをしていたそうだ。なので父親はよくわからないらしい。気づいたらセシルを身籠っていて、それを機に冒険者を引退して協会に就職。レイアは冒険者としては実力者だったこともあり、すぐに支部長に就任。そしてセシルを生んで、女手1つで育てあげたらしい。
「大事に育ててもらいました。」
そして数年前に母親の伝手で受付嬢として働き始める。
特に波乱もない平凡な半生ですと苦笑するセシル。
「父親が分からない事を除けば普通です。ちょっと寂しかったですけどね……?でもアキさんと出会って、今は毎日が本当に楽しいです。感謝してます。」
セシルが微笑む。この子達はアキと居れる事に対して本当に嬉しそうにしてくれる。それがアキにとっては何より光栄な事だ。
「でもその境遇にいるとわからないともうけど、平凡って素敵なことなんだよ?」
「はい、それは私も皆さんの話を聞いていて思いました。私って恵まれていたんだなって。」
セシルは普通がどれだけ素晴らしい事かちゃんと理解しているようだ。
「うん、さすがセシル。ちゃんとわかっているね。それにベルもそうじゃない?皆の話を聞いて色々思うところがあっただろ?」
おそらくこの中で一番恵まれているのはベルだろう。だからこそ皆の話を静かに聞いていたし、難しい顔をしていたのだ。
「まぁ……アキさんにはバレてますよね。」
ベルはちょっと辛そうな表情を浮かべる。
「エレンさんの話は特に。あ、でも決して同情とかではないです。ただエレンさんのような人がいるという現実を聞いてしまうと王族としてちょっと……。その。」
ベルが言いたい事はわかる。今の王家が諸悪の根源という訳ではないが、やはり為政者として力不足だと感じてしまうのだろう。
「気にするな。エレンも別にこのことでベルに対して怒りはないだろ?」
「うん、ないわ。」
アキの問いに素直に頷くエレン。
しかしずっと膝の上に置いているので、重くなってくるかと思ったのだが、エレンは軽いので全く気にならない。むしろサルマリアは肌寒いからエレンの温もりが心地いい。
明日はレオでも膝に乗せようか。
「だからベル、わかったな?それにこれから変えていけばいいんだ。俺も手伝うから大丈夫だ。」
「は、はい。頼りにしてます、アキさん。」
少し落ち着いたのか、穏やかな表情で頷くベル。
「でも両親がいると言う意味でも、愛されていると言う意味でも、私は幸せですね。」
「そうだな、それは感謝するといい。」
両親にいつでも会えて、愛を注がれているのはベルだけだ。
「でも私だけなのね、家族がいないの。」
エレンが少し寂しそうに呟く。
確かに彼女の言う通り、ミルナ達の中で家族がいないのはエレンだけだ。レオは気軽に会える場所にはいないだけで、両親からは愛されている。ミルナやソフィーは喧嘩別れしているが親は健在だ。単純に会いに行って和解すればいいだけ。アリアは最愛の妹がいるし、セシルは母親に大事にされている。
エレン以外は家族に会おうと思えば会えるし、誰かしら身内がいる。ただエレンだけはもういない。
だから特別にこうやってずっと膝の上で抱きしめてやっているのだ。
彼女の話を聞いて、少しでも近くにいてあげたいと思った。勿論、他の子達もそういう境遇だったら順番に膝に乗せようかと思っていた。ただエレンほど壮絶ではなかった。彼女達もそれをわかっているのか、エレンに代われとは一切言わない。
「違うぞエレン。」
アキがそう言うと、エレンは不思議そうに首を傾げる。
「俺もいないんだ。知ってるだろ。」
そう、アキも身内がいない。両親は死んでいるし、兄弟もいない。だからエレンと同じ天涯孤独の身だ。
「あ……うん。そうね。」
エレンが綺麗なオッドアイで見つめてくる。大事な人を、大切な人を見るような目で見つめてくる。エレンのこの表情がアキは大好きだ。
「あのね、アキ……えっと……その……。」
エレンは急に赤面してモジモジし始める。どうしたのかと思っていたら、エレンが手をぎゅっと握りしめ、何かを決意をしたように口を開く。
「わ、私がアキの家族になってあげるから!だから一人じゃないから!」
彼女の言葉に一瞬キョトンとしてしまうが、すぐに言われた意味を理解する。
「ありがとう。それなら俺もエレンの家族だからエレンも1人じゃないね?」
アキの言葉にエレンは嬉しそうに破顔する。そしてそんな彼女の様子をミルナ達が優しい目で見つめている。
よかった。アキはみんなの昔話を聞いて本当によかったと思う。また少しお互いの距離が縮まった気がするから。
そう言えばセシルとアリアの家名を聞きそびれた。他の子達のは聞いたけど、この2人のは知らない。せっかく昔話をしたのだからいい機会だったのに。まあ……そんな空気じゃなかったし、また今度でいいか。無理に知る必要はない。アリアはアリアだし、セシルはセシルだ。
「もう今日はゆっくりしようか。」
「はい。賛成ですわ。」
アキの提案にミルナが頷く。他の子達も異論はないようだ。
この子達の昔話を聞いたら、もうサルマリアでの活動についての話をする気になれなかった。今日はもうだらだらと過ごす事にしよう。馬車での移動もまだまだあるし、今後の話は明日でいいだろう。




