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エレンがまだ落ち着かないのでもう少し小休止だ。
「アリア、お茶をくれ。」
「はい、アキさん。」
アリアが淹れてくれたお茶を啜る。
アキが地球から持ってきた水筒はアリアにあげた。彼女に渡しておけばこういう旅の時、有効活用してくれると思ったからだ。実際その通りで、休憩毎に水筒のお茶を淹れ直してくれており、いつでもアキが望むときにお茶を出してくれる。馬車の中だろうが関係ない。
「ほら、エレンも飲みなさい。」
アリアから受け取った紅茶をエレンにも渡してやる。
「うん。」
「落ち着いたか?」
「ええ、もう大丈夫よ。ごめんね。」
それなら話の続きだ。アキはエレンを膝の上に置いたまま話を続ける。
「じゃあ次はRだからリオナかな?」
「うん!僕の番だね!と言っても2人の後だと話にくいな。」
レオは苦笑する。
「気にするな、リオナはリオナだ。」
「う、うん。えっと僕はそんな壮絶な話じゃないんだけどね。」
レオの両親は健在で、特に亡くなったわけでも喧嘩別れしたわけでもない。裕福でも貧乏でもない普通の家庭だ。ただ、1人で生きていく力を身につけなければならない、という狼獣人の掟があるらしい。
「だから13の時に家を出るのが慣例なんだよ。」
もちろん旅立つまでに必要な訓練はしてもらえる。世界で生きていく術などを叩き込まれる。その中には戦闘訓練も含まれており、レオは大剣の扱いに長けていた。
「冒険者になる必要はないんだけど、僕はそれが一番向いていると思ったんだ。」
戦闘以外はからっきしだったのもあるけどねとレオは苦笑しながら付け加える。そして親元にいると甘えてしまうと思い、彼女は国を飛び出したのだと言う。
「そうそう、僕の出身はリオレンドだよ。田舎の小さな村なんだ。」
国を飛び出したレオはエスペラルドに辿り着き、イリテアという街でミルナとエレンと出会った。その頃レオはまだ少年の格好はしておらず、普通に女の子の格好をしていた。そして男に言い寄られていたところにエレンが突撃してきたのが切欠だという。またエレンか。さすが猛獣。
「なんでもない話でしょ?」
「ちなみにリオナはなんでエスペラルドに定住したの?」
「あー、その……えっと……ご飯が……美味しかったから……。」
視線を逸らしながら恥ずかしそうに呟くレオ。なんともレオらしい理由で笑ってしまう。
「わ、笑わないでよ!」
「可愛い理由だなって。リオナらしくていいと思う。」
「むぅー……。」
レオはどこか不満そうだ。尻尾がぱたぱたと納得のいってない揺れ方をしている。
「そういや両親にはそれから会ってないのか?」
アキが尋ねると、レオは少しだけ寂しそうな表情をする。
「少年の姿をしてるからね……でも、手紙は出してるよ。会いに行くのはリオナに戻ってからかなー……?」
レオは両親に男の振りをしている姿を見せたくないのだろう。まあ気持ちは何となくわかる。
「じゃあ早く終わらせるからもう少し待ってね。そしたら皆で行こう。リオレンドを案内してよ。」
「う、うん!」
嬉しそうに微笑むレオ。
「そういやリオナの村って獣人の村なの?」
「えー……っと。」
レオが言っていいのかな……という顔をしている。その表情で全てを悟った。
「リオナ、俺その村の村長になるわ!」
拳を握りしめて宣言する。
「だよね!アキはそう言うとおもったよ!だから言うか迷ったのに!」
「モフパラ王国を俺は作るのだ!」
レオが「言わなきゃよかった……」と後悔した表情を浮かべている。何故だ。
「あの……アキさん?モフパラとは……?」
ベルが恐る恐る尋ねてくる。なんだこの王女はそんな事もわからないのか。
「モフモフパラダイスの事にきまっているだろうが!」
「な、なんで私は今怒られたのでしょうか……。」
納得のいかない顔のベル。ミルナ達も「アキの病気が始まった」と頭に手を当てて呆れている。むしろ何故わからないのか。頭を抱えたいのはアキだ。
「あんたね!そんな獣人の村とあたしのどっちが大事なのよ!」
膝上にいるエレンが振り返ってキッと睨みつけてくる。
「エレンに決まってるだろ。何言ってんだ。」
「あ……え……・そ、そう……。」
アキに即答されて戸惑うエレン。
「考えるまでもない。当然だろ。」
「ず、ずるいわよ……そういう不意打ちは……ばかっ。」
とりあえず納得のいく答えではあったようで、エレンはふんっと短いツインテールを振り回してそっぽを向いてしまう。
まあこの子達の方が大事なのは当然だ。獣人の村はそれはもう夢のような場所なのかもしれないが、彼女達とは到底比べられない。
でももしこの子達に何かを望むとするのであれば……
「セシルの耳があと50本くらい生えて欲しい。」
癒しが増えるのは嬉しい事だ。
「なんでえええ!そんなに生えたら変態だから!邪魔だからあああ!」
「冗談だ。」
急に話題を振られて焦るセシル。耳をぴくぴくさせて可愛い兎だ。
「リオナ、早く『リオナ』に戻って両親に会わなきゃね?」
「うん!アキを早く紹介したい!」
レオは尻尾をブンブン振って嬉しそうにしている。こちらの狼も可愛い。うちの獣人は2人とも最高だな。
「じゃあ次はメルシーのS。ソフィー。」
「はーい!」
ソフィーが元気よく返事をする。いつも通りの花のような笑顔だ。ソフィーがいるだけでパーティーが明るくなるのは本当に凄い才能だと思う。
「ソフィーはサルマリア出身だったね。」
昔話をする切欠になったのがソフィーの発言だ。
「そうですー!私はサルマリアの田舎にある小さな村から来ました。でもそこで生まれてから外に出た事は一度もありませんでした。ずっと村で過ごしていたです。それがどうしても嫌でした。」
なんでもソフィーは小さい頃から好奇心旺盛で、興味が沸くとそれに集中してしまう猪突猛進な子だったらしい。そして当然小さな村の中だけではその好奇心は満たされず、すぐに興味は村の外への世界へと移る。
「だから私は村を出たかったんですー!外の世界を見たかったんです!」
「そんなことより……暴走ソフィーの原形は既に幼少期からあったと言うのか……。」
アキは頭を抱える。そんな根深いところに原因があるなら改善は容易ではない。
「ちょっとアキさん!なんで悩むですかー!」
ソフィーが頬を膨らませて拗ねている。
「ごめん、ついな。続けて?」
しょうがないですねとソフィー。
「なので冒険者になって外の世界を知りたいと思いました。」
弓の使い方は両親から習ったそうだ。元々村では狩人として生計を立てていたので、ソフィーは幼いころから両親の仕事について行って弓を教えて貰っていた。そして弓の腕が上達してある程度物心がついた頃、村を出たいと両親に告げた。
「反対されました。なので勝手に飛び出してきましたー。」
暴走エルフらしく、決めたら一直線だったのだろう。最初はサルマリアで冒険者として活動していたらしいのだが、ソフィーの人当たりの良さと、可愛い笑顔に釣られて毎日のように男に絡まれた。そんな言い寄られる毎日に嫌気がさして拠点をエスペラルド王国に移したのだという。
「エスペラルドでも変わらなかったんですけどねー……。」
国を移しても状況は変わらず、冒険者として生計を立てるのも難しくなっていた。ソフィーは弓が主要武器なのでソロでの魔獣討伐は難しい。倒せるにしても時間がかかるし、効率が落ちる。つまり依頼達成数が絶対的に少なくなる。ただパーティーを組もうにも男と組みたくはなかったのでソロで頑張っていた。
「冒険者になったけど辛い事や嫌な事ばかりだしやめようかな……と思っていた時にイリテアでエレン達と出会いました!」
そしてミルナ達と行動するようになり、冒険者として生きるのが本当に楽しくなったのだとか。そして今に至るというわけだ。
「念の為に聞くけど、ミルナ達と出会った切欠は?」
「男に絡まれていたらエレンが突撃してきました。」
まさか全員の出会いが同じだとは……。というよりエレンの猛獣ぷりに呆れる。絡まれている女の子がいる度に突撃していたんだろう。
「ほんとに見境のない猛獣だったんだな……。」
「な、なによ!悪い!」
その頃の自分を思い出したのか、耳まで真っ赤にしているエレン。
「いいや、エレンは優しいなって思ったよ。」
目の前にあった彼女の頭をそっと撫でてやる。
「べ、別に優しくないもん。」
そうは言うが、絡まれている女の子をエレンは放っておけなかったのだろう。男をぶちのめすという撃退方法は褒められたものじゃないけど、困っている人を見て見ぬ振りなんて出来なかった。エレンは素直じゃないだけで、人の気持ちがわかる優しい子なのは知っている。
「でもソフィーはミルナ達と出会えてよかったね。」
「それに今はアキさんがいるしさいこーです!私幸せです!」
ソフィーが最高の笑顔を見せてくれる。
「ソフィーの笑顔は癒されるな。」
「はい!アキさんだけの笑顔です!」
ほんとに可愛らしい。暴走さえなければもっといいんだが。
「まあ暴走ソフィーも嫌いじゃないけどね。」
アキは苦笑する。
「とりあえずソフィーの両親にも会いに行かないとね。」
「えー……別にいいですよ?」
飛び出してきたから今更顔を出しづらいのだろう。
「ミルナにも言ったけど、任せとけ……なんならソフィーの為にサルマリア王家も味方につけておくか?」
「じゃあ……アキさんに全て任せますー!」
ソフィーが楽しそうに頷いている。だがうちの王女様は心配そうな表情だ。
「アキさん……世界征服しないでくださいね?」
まあサルマリアやリオレンド王家を味方につければ全国家制覇だしな。ベルの心配もわかる。
「ベルがしろって言わない限りしない。」
アキがそう言うと、今度は一転、嬉しそうにはしゃいでいる。本当に単純な王女様だ。
「とりあえず全てが片付いたら、ミルナ、ソフィー、リオナの故郷巡りだな。」
アキの言葉に全員がそうですねと快く頷いてくれた。




