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異世界の観察者  作者: 天霧翔
第十四章 次手
233/1143

14

「よき耳だ。やはり研究の後はこれに限る。」


 アキはリビングでひたすらセシルの兎耳を愛でている。


「うぅ……通りかかっただけなのに……。やっ……だめっ。もっと優しく。」


 研究を終え、リビングへ向かう途中の廊下でばったりとセシルと出くわしたので、速攻で拉致ってリビングまで連れてきたのだ。


「まあ、アキさんだから別にいいんですけど……。」


 セシルが小さく微笑んで撫でやすいように耳を傾けてくれる。


「ありがとうセシル。」

「いいえ、私はアキさんの女ですから!」


 どうやらこの兎も「俺の女」宣言が大層気に入ってしまったようだ。というよりみんなにしたので、全員が事あるごとに「アキさんの女だから」と付け加えてくる。とりあえず屋敷の外では言わないように口止めしておいた。街中で連呼されたらミスミルドに居づらくなるだろうが。


「アキさん!私も撫でてくださいですー!」


 ソフィーが頬を膨らませて文句を言ってきた。


「兎耳生えたらな。」

「ばかー!アキさんの変態!獣人趣味!」


 酷い言われようだ。


「でもそう言われてもしかたありませんわよ?」


 ミルナが呆れた様子でこちらを見ている。ベルや他の子達も苦笑いだ。


「アキさん、もし獣人が虐げられている国があったらどうするんですか?」


 ベルは冗談で言ったようだが、それはアキにとっては死活問題だ。


「え、どこの国??エスペラルド?滅ぼせばいい?オリハルコン持ってちょっと国家滅亡させてくる。」


 つい本気になってしまったではないか。


「待って!私の国滅ぼさないで!冗談ですから!謝りますから!」


 オリハルコンを持った今のアキならそれが本当に出来ると気付いたベル。慌てて訂正してくる。


「ベルよ!冗談でも言っていい事と悪い事があるんだぞ!」


 アキが声を大にして叫ぶ。


「アキ……あんたね……なんでそこだけいつも本気なのよ。呆れるわよ。」

「獣人の僕としては嬉しいけどね……。」


 エレンに溜息を吐かれた。そしてレオは乾いた声で笑っている。


「安心しろエレン。猛獣だからエレンも指定保護動物だ。」


 エレンもアキ的には獣人枠だ。


「なによそれ!ちーっとも嬉しくないわよ!あと猛獣いうな!」


 綺麗な赤と青のオッドアイでアキを睨みつけてくる。


「うーん、久しぶりにじっくり見たけど、やっぱりエレンの目は綺麗だな。」

「な、な、なによ急に!ばっかじゃないの!この変態!」


 口では文句を言ってくるが、耳まで真っ赤にして嬉しそうだ。苛めた分、適度な飴は大事だ。しかしほんとにこの子はツンデレチョロイン属性だなと苦笑する。まるで物語に出てくる人物のようだ。


「それでアキさん、オリハルコンの研究はどうなんですか?」


 ベルが尋ねてくるので、かなり順調な事を伝える。


「魔法印の解析はかなり終わった。実用化も出来たぞ。」

「凄いですわ……さすがアキさん。」


 ミルナが尊敬の眼差しを向けてくるのがこそばゆい。


「実用化ですか?」


 一方で首を傾げるベル。


 アキは先ほど隠し部屋で理解したことを簡単に説明してやる。魔法印に書かれている模様は言語である事。そしてこの世界の言語でも代用出来る事などだ。


「ただ術式の記述はかなり大変だけどね。それを完璧にするにはまだまだ時間が掛かりそうだ。転送や召喚は特にな。」


 アキは続けて召喚・転送先の指定の難しさを説明する。どうやって文字で表せばいいのか見当もつかない。明日は一応経度や緯度で実験をしてみるつもりだ。まあ彼女達には方位の理解は出来ないだろうから、手掛かりがあるとだけ伝えて割愛する。


「でも俺はオリハルコンで魔法印を使わずに大気魔素を使えるでしょ?つまりだ……ミルナ、わかるか?」

「えーっと……うーん。」


 ミルナは必死に考えているが、わからないようなので解説してやる。


 転送・召喚場所を文字に起こすのは難しいが、脳内でその景色をイメージするのであれば簡単だ。かなり容易に現象理解を魔素に伝達できる。だから召喚も転送もアキならば魔法印無しで可能というわけだ。


「なるほどですわ!」

「せっかくだし召喚魔法みる?」

「はい!見せてくださいませ!」


 ミルナが食い気味に返事をしてくる。他の皆も興味があるようで「見たい見たい」と口を揃えて言う。ならとっておきを見せてやろう。


「じゃあ期待に添えられるように頑張るよ。まずは正確な位置を指定しての召喚ね。」


 アキはオリハルコンの剣を抜刀して構える。先ほどと同じように魔素を集約し、召喚先とリビングを空間歪曲させて繋げる。そして最後に詠唱。


「ミルナの部屋のベッドの上に落ちている純白の下着をリビングに召喚。」

「はっ……?」


 アキが詠唱した瞬間、全員が「今こいつなんていった?」と固まった。特にミルナが。そして彼女達が混乱している間に召喚は無事完了、ミルナの下着が現れ、床にゆっくりと舞い落ちる。


「ほら、成功したぞ、ミルナ。よかったな?」


 ミルナの肩にポンと手を置いて優しく声をかけてやる。するとミルナは我に返ったのか、アキの手を振り払い、床に落ちた自分の下着を光の速度で回収して服に隠してしまった。早い、めっちゃ早い。


「な、な、な何をしてるんですの! バカですかー!」


 ミルナが顔を真っ赤にしながら大声で怒鳴る。何を怒っているのだろうか。召喚魔法だぞ。


「すごいだろ。」

「す、凄い以前の問題ですわ!ばか!変態!」


 今度は涙目だ。だが反省して貰わなければ困る。


「いやでも今の詠唱、ミルナが部屋を散らかしてなければ成功しなかったわけだが?」


 そう、つまりそういうことだ。この暗黒物質は性懲りもなく部屋を散らかしていたのだ。アキが指摘すると、全員がハッとした表情を浮かべる。ミルナも気づいたのか、急に黙り込み、冷や汗を垂らしている。


「相変わらず散らかしているのか……。数日前にも言ったばかりだろうが。いい度胸してるなこの純白。」

「だ、だってー!後、純白言わないで!」


 ダメだこいつ。本当に改善する気のないダメ人間だ。


「ベルのを今の詠唱で召喚してもいいか?」

「え?あ、別にいいですよ。どうぞ。」


 平然と頷くベル。つまり散らかってないから召喚は失敗するという事だ。


「ほら、ベルはちゃんと改善したのに……ミルナ?」


 ミルナは違うんですと必死に首を振っている。何が違うのか。


 ちなみにソフィーの方を見ると「召喚は止めて、何でもするからお願い」と言う目で懇願された。この2人は相変わらずのようだ……。


「まあいい……。それより召喚魔法の方だ。ちなみに今のが場所を細かく指定した召喚。せっかくだから他の方法も見せておこう。」


 アキがそう言うと室内に緊張が走った。何を召喚されるのか心配しているようだ。特にソフィーが。


「わ、私の部屋はやめてくださいですー!」


 ソフィーがごめんなさいしてくる。まあ正直に言ってきたので許してやろう。


 アキはオリハルコンを握り、召喚魔法を行使する。


「屋敷内にある女性の下着を……・。」

「「まって!」」


 アキがいい終わる前に察しのいい2人に詠唱を遮られた。ベルとセシルだ。


「なんで止めるの?」

「アキさん!今のだと私のも召喚されるのではないですか!」

「そうです!ダメです!」


 ベルがちゃんと部屋は片付けているんだからやめてくださいと威圧してきた。そしてセシルが兎耳をぱたぱたさせながらもの凄く睨んでくる。やったら許さないと言われているようだ。


「アキさん、私のでよければどうぞ。」


 アリアがスッと黒い布をアキに差し出してくる。


「アリアの持っている布を屋敷の庭に転送。」


 アキは即座に転送魔法を発動させる。するとアリアが持っていた下着が消え、窓の外に現れるのが見えた。これでよし。


「なにするんですか?」

「黙れ、このど変態メイド。」


 アリアが平然と聞いてくるので、あまりダメージはないようだ。相変わらずうちのメイドは打たれ強いというか変態だ。下着程度じゃ恥ずかしがりもしない。アリアは黒なのかと一瞬考えてしまったのは内緒だ。言っても喜ぶだけだしな……。


「「アキ!」」


 背後から急に名前を呼ばれた。


 声のする方を向くと、エレンとレオが引き攣った笑みを浮かべて突っ立っている。


「そ、それ、私に使ったら許さないわよ!」

「そうだよ!僕のも絶対やめてよね!」


 あまりにも必死な2人がちょっと微笑ましい。


「私のもだ!やるなよ!絶対やるなよ!」


 今度はエリスだ。


「それはつまり逆にやれという事では?」

「「「それはない!」」」


 声を揃えて叫ぶ3人。息がピッタリだ。


「お、恐ろしい魔法ですわ……アキさん、お願いだからそれは封印してくださいませ。二度と使わないで欲しいですわ……。」


 ミルナの懇願に必死に全員が頷いている。それ程かとちょっと可笑しくなる。


「でもアキさんだからこそ……その……し、下着を……召喚するくらいで済んでいるんですよね。悪意を持った人間だったらと考えると恐ろしいです。」


 ベルの言葉に戦々恐々とするミルナ達。確かに彼女の言う通りだ。アキだから皆を揶揄うくらいにしか使ってないが、これの悪用方法なんて誰でも簡単に思いつく。


「細かい原理は誰にも教える気はないから安心しなさい。これは俺が皆の下着を召喚して遊ぶくらいにしか使わない。」

「「「「だからそれはやめなさい!」」」」


 その後、1時間くらい説教された。

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