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異世界の観察者  作者: 天霧翔
第十四章 次手
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13

 その後数日は魔法印の研究に時間を費やした。


 ミルナやベルに魔法印を確認して貰ったが、記されている模様はこの大陸の古代語ではないそうだ。やはり別大陸か異世界の言語だろう。ただの模様がオリハルコンに魔素を収集させ、魔法術式を起動出来るとは思えない。つまり模様には必ず意味があるし、何かしらの言語である可能性が高いという事だ。


「各魔法印の模様に共通する部分、それが魔素集約に関する記述だろう。」


 3つの魔法印に共通する模様は間違いなく魔素集約に関連する術式のはずだ。全ての魔法発動に必要なのは魔素。つまりこの結論は当然の帰結だ。


 ではこの模様に実際どういう表現で魔素集約術式が記されているかが次に解明しなければならない事だ。


「この短い模様で水上置換法などを表しているわけがない。」


 ミレーで実験した時は、アキはオリハルコンをフラスコに見立てて水上置換法をイメージして大気魔素を集めた。酸素を集める際に使う一般的な方法の一つだ。魔素が酸素と似たような物質と仮定したら上手くいった。ただいくら簡単な原理とはいえ、文字で書き出すとしたらこの模様では短すぎる。原稿用紙数ページは間違いなくいる。それにもしあの原理を文章化して魔法印に組み込んでいるなら、作った本人は魔素集約の現象を理解しているという事になる。よってそれはあり得ない。理解しているのであれば魔法印なんてそもそも作らないで、アキの様にオリハルコンを媒介に直接大気魔素を利用すればいい。


 勿論、アキの根本的な推測が間違っており、この魔法印を作った人物が全てを理解した上で魔法印を作り、この大陸で何かを実験しようとしていたという可能性はある。だがその可能性は非常に低いと考えている。何故ならこれらが300年近く放置されているからだ。魔素原理を理解している者がそんなに長期間、何を確認する必要があるのか。むしろ何もせずにそれだけオリハルコンを放置したら、アキの様な人間が出て来て面倒な事になるだろう。悪意を持った人間なら、完璧に魔法印を解析して召喚元に乗り込んで侵略等をするかもしれない。


 つまり魔法印を作った人物は魔素の原理をあまり理解していないという仮説が成り立つ。よってこの模様に書かれているのは「魔素を大気中から集約せよ」のような簡単な詠唱術式だと推測できる。現象理解の代用として詠唱術式を使ってオリハルコンに大気魔素を集約する事は多分できる。ただオリハルコンを手に持ってそれをやってしまうと、魔素がそのまま体内へと流れ込み、命の危険性がある。アキのようにしっかりオリハルコンだけに集約出来るのであればいいが、おそらくそれは魔素集約の現象を完全に理解していないと難しい。


 ちなみに大気魔素の集約を詠唱で代用出来るかは、この数日の間に既に検証済みだ。ミルナ達には怒られるだろうから言ってはいないが、オリハルコンを持って現象原理を一切イメージせず、「魔素を集約せよ」と唱えたら魔素の集約が出来た。ただオリハルコンによって体内魔素に変換された大気魔素が体に入ってこようとしたので、直ぐにオリハルコンを手放して中断させた。次に「魔素をオリハルコンに集約せよ」との詠唱で試したが、同じように魔素が体内に入ろうとするのが確認できた。つまり詠唱だとオリハルコンに魔素集約させるのは不可能だ。やはり、詠唱はあくまで代替手段であり、現象理解による魔素使用を完璧に補完は出来ない。


 だから魔法印なんてものを作ったのだと考えられる。魔法印に「魔素を集約せよ」と術式を書き込み、オリハルコンを突き刺しておけば魔素の集約は出来る。体内に取り込む事もないので安全だ。よってアキが導き出した結論は「魔素集約の原理がわからないから、オリハルコン単体では安全に魔素を集約する事ができず、魔法印を開発した。」という事になる。


「そうなるとこの共通する術式部分だけを書き出せば、魔素集約だけが可能になるということだ。」


 まあ実験するにはちょっと危険だが。魔素集約の術式を記した魔法印を描いて、オリハルコンを突き刺した後、どうしようもなくなる。魔素がオリハルコンに集約されているのだから、掴んだ瞬間に大量の魔素が流れ込んで死ぬ可能性がある。


「集めた魔素をどこかに解放する術式を組み込まないと駄目だな。」


 とりあえず魔素集約部分の術式模様は把握できたのでこれは一旦おいておく。次は他の共通する術式部分についてだ。


 転送印と召喚印のみに共通しており、命令付与印には存在しない模様が確認出来た。ある意味転送と召喚は物を送るという意味では原理が同じなので、当然なのかもしれない。召喚印は物質を他所から持ってくる。転送印は物質を他所へと送る。その違いはあるが「移動」という部分においては共通しているので、2つの印に共通箇所があってもおかしくはない。


「この部分が似ているが少し違う。送還と召喚の違いだろうか。」


 召喚印は魔獣を他所から召喚するので、術式には「呼び寄せる+移動」と書かれているはずだ。転送印は送還になるので「送る+移動」という事になる。


「そう考えると、召喚印の術式構成は『魔素集約+呼び寄せる+移動』。そこに『呼び寄せる場所の指定』を加えれば完成するという事になる。そして転送印は『魔素集約+送還+移動+送り先の場所の指定』で構成されているはずだ。」


 少しずつ魔法印の構成が見えてきた。ちなみに命令付与は「魔素集約+命令内容+条件」になるだろう。オリハルコンを2本しか使わない事を考えると、転送や召喚に比べたら簡単な魔法なのかもしれない。まあ命令内容にもよるだろうが。


「この言語を何としても解読したいが……あまりにもヒントが少なすぎる。」


 どこまでが1文字なのか、模様が何を表しているのか、何かヒントがあればいいが、手元にある情報は魔法印が3つのみ。参考文献などは一切ない。


「これについてはルティアの次の報告を待とう。何かわかるかもしれない。それよりこの魔法印の術式部分を日本語やこの世界の言葉に書き換えたら使えるのかどうかだ。それの確認をしよう。」


 アキは隠し部屋の床に3つの円をチョークで描く。魔法学校で講師をした際にチョークの存在を確認したので、アリアに頼んで購入してもらっておいたのだ。


 描いた円に、日本語で詠唱を書き加えていく。「突き刺したオリハルコンに魔素を集約。その魔素を使用して次の詠唱を発動。大気を燃やせ、ファイア」と印す。ミルナのカッコイイ詠唱を借りることにする。


「うーん……念の為に詠唱を追記しよう。『魔法発動後、オリハルコンから魔素を解放。』……これでオリハルコンを抜けるはずだ。」


 早速ルティアの魔法印の模写を参考に、オリハルコンをアキが描いた魔法印に突き刺す。そして数歩下がって様子を見守る。


「炎が顕現しない。失敗か。」


 数分待っても何も起こらない。ルティアの調査報告書によると、オリハルコンを突き刺したら魔法は即時発動すると書いてある。


 ちなみに立ち入り禁止エリアにある転送印と命令付与印のオリハルコンは突き刺したままになっているようだ。召喚印のみ、抜き差しするらしい。魔獣召喚後、召喚印のオリハルコンを1本抜いて召喚を停止。必要になったら再び突き刺して魔獣を召喚。ルティアのメモに可愛らしい文字でそう書いてある。


 尚少し余談だが、魔獣召喚は冒険者に魔獣が討伐されるタイミングで行われるらしい。先日ベルに確認した。冒険者が魔獣を討伐すると、討伐連絡が冒険者協会を通して王家へ行き、王家が魔獣召喚を指示。そして立ち入り禁止エリアで魔獣を召喚して各地へ転送する。全て流れ作業で行われており、協会も王家も討伐報告をそのまま伝言ゲームのように連絡するだけらしい。そんな適当でいいのかと思うが、それは昔からの流れに手を加えて変化するのを恐れているのと、この制度に王家自身があまり関わりたくないからだ。なんとも無責任な話だが、ベルの悲しそうな顔を見ると責める事なんてできない。そもそも彼女のせいではない。諸悪の根源はこの制度を提案した者と、それを受け入れた当時の国家だからだ。


「さて、魔法印が失敗したのはどこが原因なのだろう。」


 アキが描いた魔法印ではオリハルコンを突き刺しても何も起こらない。このよくわからない模様の言語でないと駄目なのだろうか。だがそれはあり得ない。何故ならアキが現象理解や詠唱に使用している言語は日本語、ミルナが使用している言語はこの大陸の物だ。まあ詠唱した際は自動翻訳で何故か相互理解できるので、アキとミルナの詠唱言語が違うとは誰も思っていないだろうが。ただ確実に使用言語は違うはずなのに、2人とも詠唱すると魔法はそれぞれ発動する。つまり魔法印であってもそれは同じ。魔法は発動するはずだ。


「言葉では通じるけど文字にすると通じない。この辺りに何かあるのか?」


 ミルナ達と出会った当初は何故言葉が通じるのかわからなかった。この世界の言語は日本語とは間違いなく違う。それはアキが当初は文字を理解出来なかった事からも言える。文字だと通じないのに会話だと通じる理由。あれから色々考察したところ、アキは魔法による物だと考えた。ただ意識して発動している物ではない。無意識に通訳魔法を使っているのではないか。


 全ての生物は体内に魔素を持っている。そして会話というのは相手に物を伝える意思を持って行われる。聞く側も理解しようという意思を持って聞く。これが無意識に魔素を使用して通訳魔法を発動させているのではないか。だから魔素を介さない文字には通訳魔法が適用されず、ミルナ達は日本語を理解出来なかったし、アキもこの世界の文字が最初は読めなかった。


「でも魔法印は誰かに理解させるわけではないし、通訳なんて必要ない。特定の言語でないと発動しないのは理由にはならない。」


 世界の理を司る神でもいて、その神が理解できる言語でないと駄目だというのか。そんな事はありえない。そんな非理論的な結論はあってはならない。何事にも説明できる理由が存在しているはずだし、それを解明するのが研究だ。神の悪戯等という結論はただの逃げだし、研究者として一番してはならない結論だ。だからアキを含め、研究者には無宗教者が多いのかもしれない。


 それにこの模様の言語でないと駄目だというのであれば、魔法水晶が存在するわけがない。エリザに教えて貰ったのだが、あれの仕組みは、水晶の中に自分の体内魔素を送り込んで、溜められるようにしているらしい。溜められるのは微々たる量だから使える魔法は生活魔法レベルが限界らしいが。まあミルナの説明通りだ。


 魔法水晶に溜めた魔素は、刻まれた術式を経由して魔法を発動させている。それに対して魔法印は、オリハルコンを媒体に大気魔素を体内魔素へと変換し、印に刻まれた術式を経由して魔法を発動。つまり基本的な原理は一緒だ。そして魔法水晶の言語はこの大陸の物で書かれているので、言語による制限がないのは、水晶の存在で裏付けが取れる。


「だから間違えているのはもっと基本的なことだ。」


 意外に基本的な部分を間違えている場合は多い。研究者という生き物は理屈屋で、無駄に難しく考えすぎてしまう。


「もしかして詠唱の記述が不十分なのか?」


 アキは先ほど印した術式を書き出す。「オリハルコンに魔素を集約。その魔素を使用して次の詠唱を発動。大気を燃やせ、ファイア。魔法発動後、オリハルコンから魔素を解放。」と印した。アキは自分の術式を改めて考える。


 もっと詳細に、正確に記述する必要があるのかもしれない。


「イメージを使えない文字で発動させるのだからそういうことか?」


 アキは術式を書き換える。「大気中の魔素を魔方印の中心から真左に1.35Mの場所に突き刺してあるオリハルコンに集約。尚、魔方陣の頂点は☆とする。オリハルコンに集約した魔素を使用して後述の『』内に記した術式で魔法を発動。『大気を燃やせ、ファイア。そしてファイアを頂点の方向に時速100kmで発射。』前述の魔法の発動後、オリハルコンに蓄積された魔素を大気に解放。」と詳細な術式に修正した。「あれ、それ、これ」等の不明確な指示詞は使わず、プログラミング言語の様に記述。


「さて、これでどうだろうか。」


 アキは術式で指定した場所にオリハルコンを突き刺す。


 すると魔法印の中心に炎が顕現した。そして☆で記した頂点方向に向かって射出される。一応消火の為に、☆の前方にはアキの魔法で水の壁を作っておいたが、無事それに着弾した。


「おー、成功した。」


 やはり術式はある程度明確に記載しないと駄目なようだ。


「さて……オリハルコンを触っても大丈夫かな。」


 魔法印に突き刺したオリハルコンを回収するかどうか一瞬躊躇してしまう。まあすぐに手を離せば大丈夫だろうとアキはオリハルコンを握る。


「うん、魔素は解放されたようだ。さすがにちょっと怖かったけど。」


 ミルナ達にこんな実験をしたのがバレたら数時間お説教だろう。しかし魔方印を独自に作れるようになったことは大きい。立ち入り禁止エリア内の魔法印の事がわかったとしても、それ自体を理解していないなら結局何もできない。イリアや魔獣政策関連の事を解決する為、魔法印とオリハルコンのさらなる理解は急務だったので、この結果には大満足だ。


「じゃあ次だ。転送印と召喚印の場所指定の方法。」


 正直これがやっかいだ。何をどうやって指定すれば、異世界やこの大陸の他所に物を転送できるのか。この大陸であれば経度と緯度でいけるのだろうか。異世界なら次元軸も併せて指定すればいいのだろうか。だが異世界がどの次元軸にあるのかなんてわからないし、調べる方法もない。


「あれ、でもオリハルコンを握って地球をイメージすればいけたりする……?」


 アキにしか出来ない方法だが、魔法印を使わないで大気魔素を直接使用したらどうだろうか。地球をイメージして魔法を行使すれば次元間の物質転送が可能かもしれない。ただその場合、成功したかどうかの判断はつかないが。


「だが召喚なら成功可否は判断できる。」


 召喚なら目の前に物質が現れれば成功と言える。アキ自身が次元に断層を作りこの世界に移動しているので、理論上は可能のはずだ。あれは地球の化学と物理、そして機械技術の結晶があったから成功しただけとも言えるが。ただあの機械をイメージして魔素を発動させれば異世界間の次元移動は可能かもしれない。


「とりあえずはこの世界間での転送を検証しよう。」


 何事も一歩ずつの精神だ。


 魔法発動のイメージには一般的に知られている瞬間移動の方法を使ってみるのがいいだろう。空間を歪曲させて2つの地点の距離を物理的に接近させるイメージだ。アキはオリハルコンを握り、魔素をオリハルコンに集約させる。そして空間を歪曲させるイメージでこの隠し部屋とアキの自室を表裏一体になるように繋げる。確かテーブルの上にコップが置いてあったはずだ。それをこの隠し部屋に移動させるよう意識を集中させる。


 念の為に補助として詠唱も加える。


「コップを自室から隠し部屋に瞬間移動。」


 詠唱すると同時に、オリハルコンにイメージを伝える。オリハルコンの剣先から膨大な魔素が消費されているのがわかる。そして次の瞬間……。


 ガシャーン。


 ガラスが割れる音が響き渡る。


「おお、成功はしたか。」


 ただコップが地面に落ちて砕け散っている。転送されたと同時に自然落下して地面に落ちたからだ。転送の際は出現場所の正確なイメージも加えたほうがよさそうだ。これでとりあえず転送は空間歪曲を想像すれば可能な事がわかった。


「召喚の指定先を曖昧にしたらどうなるのだろう。」


 転送印のように、大陸のどこかにランダム転送はまだわかる。送還だからある程度適当な場所指定でもなんとかなるのかもしれない。ただ逆に「この大陸のどこかから何かを召喚」が果たしてできるのか。


「ふむ……試してみるか。」


 アキは再度オリハルコンを握る。先ほどと同じように大気魔素を集約し、空間歪曲をイメージ。ただし今回は「この屋敷のどこか」という曖昧な場所指定だ。


「この屋敷のどこかにある銀のトレーを隠し部屋に召喚。」


 カラーン。


 銀のトレーが転がる音が聞こえる。


「こんな曖昧な指定でも行けるのか。ただ先ほどより魔素使用量が増えた気がする。」


 だがそれは当然なのかもしれない。非現実的な現象を起こそうとすればするほど、魔素の使用量は増えるのだから。しかしこれで転送の原理は大体理解できた。


「さていよいよ異世界間の次元移動だな。」


 送還は成功が確認できないので、もちろん召喚だ。とりあえずはアキが使っていた家の台所に置いてあるスプーンでいいだろう。誰の迷惑にもならないし、無くなったところで誰も気づきはしない。


 早速アキはオリハルコンに魔素を集約し、次元間移動装置を想像する。装置の仕組みは完璧に理解している。まあ自分で作ったのだから当然だ。さらに次元断層を作るのに必要な条件も併せて想像。気温、湿度、照度などなど。そして最後に詠唱を加える。


「地球の自分の屋敷の台所に置いてあるスプーンを召喚。大まかな経度と緯度は……。」


 そして全てをオリハルコンに伝達。今までにないくらいの膨大な魔素が大気中から集約されているのを感じる。集中力を下手に途切れさせたら全て体内に吸収されかねない。アキは目を閉じ、魔素集約と次元移動のイメージに全神経を集中させる。


 すると突如オリハルコンの剣先にスプーンが現れる。


 アキは反射的にオリハルコンを手放し、スプーンをキャッチする。


「成功した。素晴らしい。それにこれを使えば地球からなんでも取り寄せられる。通販みたいだ。」


 まさにお急ぎ配達便。というより勝手に召喚しているからただの窃盗だろう。いや、それは今はどうでもいい。大事なのは成功した事だ。魔素の使用量はかなり膨大だったが無事成功した。やはりある程度現象理解を組み込めばオリハルコン1本でも十分に発動できる。転送印や召喚印で複数本オリハルコンを使っているのは、魔法印の術式に無駄があるからだろう。魔素集約の効率が悪いからこそ、複数本使ってなんとか魔素を集めているという事で間違いないはずだ。


「しかしここ数日で大分色々わかった。それにやっぱり研究は最高だな。」


 ミルナ達との時間も勿論最高だが、1人でひたすら仮説・検証を繰り返すこの時間がアキは好きだ。


「とりあえずこれで立ち入り禁止エリアを何とかできるだろう。引き続きこの模様の言語について研究は必要だが、それはサルマリアでの情報収集をしてからでもいい。」


 どのみちこの言語について今結論が出る事はない。だからそれよりも魔獣召喚に関わる人間の調査とイリアの捜索だ。


 ただ……イリアの正体について実は推測がある。何の確証もないが、案外間違っていないのではとアキは考えている。まあまだ根拠もないので、ミルナやアリア達、には絶対言わないが。


「しかしこのオリハルコンは凄い物質だな。」


 大気魔素を体内魔素に強制変換できる。どうやって生成されているのかもの凄く気になる。そしてこれを提供した者は誰なのか。アキはその文明が滅んでいるのではと以前推測したが、間違っている事を祈っている。滅んでなければ話も聞ける。滅んでいたらその文明の知識や技術は闇の中だ。それは悲しい。


 だが滅んでいる可能性は結構高いと予想している。何故なら魔法印やオリハルコンが長期間放置されているだけでなく、なんの変化もなく、同じ状態で稼働し続けているからだ。普通、継続して研究しているのであれば、何かしらの環境変化を与え、それに対する影響を調査していく。だから何の変化もないのはおかしい。それに何百年単位での研究だったとしても、研究であるなら適度なデータ収集は必要だ。そんな事が行われている様子もない。不自然な人間の動きがあったら各国が気づいているだろう。それにそんな不審な出来事があったのであれば、ベルがアキに報告しているはずだ。


「これも今考えても分かる事じゃないか。まあ推測はあるけど。」


 それよりお腹すいたし、ちょっと疲れた。


 今のアキにはセシルの兎耳成分が圧倒的に足りないので、補充しに行かねばならない。アキはさっさと隠し部屋を後にする。うちの兎はどこだ。

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