12
「もうこんな時間か……。ちょっと没頭し過ぎた。」
魔法印解析をしていたら何時の間にか結構な時間がたっており、夕飯の準備しないと不味い時間だ。うちの子達に怒られる。レオとエレンの食い意地は言わずもがな、ミルナとソフィーもかなり食べるので、夕食が遅いと拗ねるのだ。アキは急いで隠し部屋を出てリビングへと向かう。
「何があった。」
ミルナ達にお腹空いたと文句を言われるかと思ったが、全員がリビングで屍と化していた。まさに死屍累々。しかもミルナ達だけでなく、アリア、エリス、セシル、ベルまでも魂が抜けたような状態だ。
「アキさんー!お仕事お疲れ様です!」
唯一元気なシャル。おそらく、いや間違いなくこの子がこれの元凶なんだろう。
「シャルちゃん、お姉ちゃん達に何したの?」
話を聞けそうな相手がシャルしかいないので、とりあえず聞いてみる。
「うーん?ミルナさん達が『お腹すいたー!アキさんのばかー!』って言っていたから『お姉ちゃん達はなんで食って寝しかしないの?ダメ人間なの?』って言ったらああなりました。」
素晴らしくピンポイントで的確な攻撃をしたようだ。ミルナ達、主にミルナとソフィーは特にそこが弱い。エレンとレオもなんだかんだまだ1人では料理出来ないのでシャルの言葉は効いたのだろう。
「アリアとエリスとセシルは?」
「えっと、3人はお部屋でアキさん人形で遊んでいたからその真似をしました!『アキさん、私の王子様。さぁ私を食べてください!』『アキ……まだ……まだダメなのだ』『アキさん……触っていいのは……み、耳だけですから!』どうですか?似てますか?」
それは……やめてあげなさい。醜態がアキにバレたことでさらに落ち込んでいるじゃないか。しかしアリアとセシルまで何やっているんだ。
まあこの子達がプライベートの時間に何をしていても文句はないが……そんな黒歴史をあっさりと暴露してしまうシャルが恐ろしい。
「えっと、ベルは?」
「王女様は部屋に散らかっていた下着を皆の前で見せたらなんか倒れました!ちなみに色は白、水色、ピンク、薄い緑と縞々がありました!」
ベルらしい可愛い色のチョイスだ。それはいい情報だとシャルを褒める。そのせいで復活しかけたベルがまた死んだが。
しかしベルも片付けられない子だったのか……。でも王女は自分で部屋を片付けたりしないだろうからしょうがないのかもしれない。料理の手際を見る限り、要領はいいので、教えたらすぐに覚えるだろう。
「まあ……どこから手を付けようか……。」
この惨状を見て諦めたくなってくるが、毎日これでは皆がさすがに可哀そうなので、とりあえずシャルに注意する事から始めてみる。
「シャルちゃん。ミルナ達は家事は得意じゃないけど俺の役に立っているんだよ。沢山助けてくれている。だからミルナ達はあれでいいんだ。」
「「「「アキさーん!」」」」
無事復活したようだ。しかし相変わらず単純な子達だ。ちょっと慰めるだけで元気になる。
「そうなんですか?」
「うん。そしてアリア、セシル、エリスのああいう事は見ても言っちゃダメなんだよ?」
「何でですか?」
「1人の時間ってのは大切だから。何をするのも自由なんだよ。だから見るのはマナー違反だ。まあ3人に想われているんだなってわかって嬉しかったけどさ……。」
「「「アキさん!」」」
結構無理のある慰め方だったのに復活してくれた。自分の妄想をバラされたんだから相当恥ずかしいと思うのだが。まあ大丈夫ならいいか。これに関しては深く考えるのは止めよう。
「なるほど、勉強になります。気を付けますね。」
「うん、シャルちゃんはいい子だね。よしご飯作ろうか。」
アキはシャルの手を引いてキッチンに向かおうとするが、ベルが急に立ち上がって文句を言ってくる。さっきまで落ち込んでいたのはどうした。
「ちょっとアキさん!私も!私は!忘れてませんか!」
どうせ「次は私が慰められる番です!」とかウキウキしながら落ち込んだ振りをしていたんだろう。この腹黒王女め、そうはいくか。
「自業自得だ、パステルカラーのベルよ。部屋を散らかすのを俺が嫌いなのは知っているだろうが。」
「やめて!その名前は絶対嫌!お願い!」
ベルが涙ながらにしがみついてくる。
「冗談だ。ベルは王女だし掃除経験なくてもしょうがない。今度教えるから一緒にやろう。ベルならすぐに覚えられるよ。」
そう言って撫でてやると、小さくコクコクと頷くベル。彼女は言った事はちゃんと守るエレン・レオタイプなので問題ないだろう。どっかの暗黒物質と駄エルフとは出来が違う。
「じゃあ夕飯作るか。」
アキがそう言うと、皆が手伝うと手を挙げてくれた。素晴らしい、これはシャル効果だろう。まあミルナとソフィー以外の皆だが……。
「ねえシャルちゃん、あの2人のお部屋は綺麗だったかな?」
ミルナとソフィーはまさかアキがその確認をすると思っていなかったらしく、慌てふためいている。またか。こいつらはまたなのか。
「うーん……ゴミ箱でした!」
シャルが元気よく宣言する。それにしても酷い表現だ。
「「まってー!違うのー!」」
ミルナとソフィーが必死に叫ぶ。
「このダメ人間どもが。何度目だと思ってる。根性叩きなおしてくれる。」
「「そんなー!」」
涙目で許してと叫ぶ2人だがダメだ。今日は趣向を変えた罰にしてやろう。
「特別に今日は軽めにしてやる。」
アキがそう言うと、2人はほっとした表情を浮かべる。
「そこに正座しなさい。」
ミルナとソフィーは不思議そうに首を傾げる。
正座という座り方がこの世界に無いのは知っていたので、罰としてはちょうどいい。早速2人に座り方を説明する。
「こ、これだけでいいですの?」
「アキさん優しいですー!」
とりあえず30分そうしているだけでいいと伝え、エリスに見張りをお願いした。アキはその間にさっさと夕飯の準備をする事にする。これだけ手伝いがいればすぐに終わるはずだ。
「エリス。ちゃんと2人は正座してたか?」
アキは夕食を作り終え、リビングに戻って来た。
特別な日でもない限り、夕食はリビングで食べる事にしている。のんびりできるし、なんだかんだこの部屋が一番落ち着くからだ。
「うむ!見張っていたのだ!でもこれが罰なのか?」
エリスが不思議そうに聞いてくる。アリア達も「本当にこれだけ?」という表情を浮かべている。
「ミルナ、ソフィー大丈夫?」
「え、ええ、大丈夫ですわよ?」
「もう終わりでいいですー?」
アキが尋ねると、ミルナとソフィーは平然と返事をする。
「うん、もう立っていいよ。」
正座をした事が無い人間が30分もすれば、間違いなく足は痺れる。多分足が痺れる感覚が2人はわかってないのだろう。
「はー……ひゃっ……あ、足が……」
「ふぇえええええ、た、立てない……うぅ……びりびりする……。」
立とうとして前方に転倒するミルナとソフィー。やはり足が痺れているようで、足を押さえて悶えている。ちょっと可愛い。
アキはそんな2人にそっと近づいて、ふくらはぎや足の裏をつっついてやる。まあこれがしたくて正座させたようなものだ。
「ほれほれ。」
「ひっ……ちょ……まっ……アキ……さんっ!」
「ぁあぁあぁあああ!や、やめてぇえええ!」
ミルナがエロい。そしてソフィーはなんかよくわからない声を出している。
「アキさん、どういうことです?」
ベルが興味深そうに聞いてくるので、正座の理屈を説明してやる。あの座り方は屈膝座法といって膝や足首に体重がかかる。そして神経や血管が圧迫され、足が痺れるというわけだ。まあ神経の話をしてもわからないだろうから、そこは割愛する。
「なるほど……!つまり体重がかかるから足が痺れるんですね!」
「簡単に言えばそう言う事だ。」
ベルが感心したように手を叩きながら驚く。
「アキさん……もうやめて……ごめん……謝るから……・っ!」
ソフィーが涙目で懇願してくる。
当然アキはベルに解説しながらも2人の足を突き続けていたわけだが。
「いやっ……ぁん……ぅん……・」
「おいミルナ、エロい声だすな。」
「そ、そんなこと……ぁん……言われて……も……んっ。」
なぜこの暗黒物質はいちいち扇情的になるのかが不思議だ。狙ってやってるんじゃないかと思う程だ。
「ソフィーはもういいや。あとはミルナで遊ぶ。すぐエロい声だすから面白い。」
「いやっ……許して……お願いだから……。」
ミルナが本当に泣きそうになってきた。そろそろ止めてやるか。
ただまだ痺れが収まらないようで、2人は涙目になりながら蹲っている。そしてエレン達は、いつもの罰より遥かに恐ろしいと、戦慄したらしく、怯えた表情でアキを見つめてくる。ほんとこの子達はアキに弱い。実力は彼女達の方が上なのに。まあそこが可愛いところではあるが。
「アキさん!私!部屋はもう二度と汚しません!」
ベルが力強く宣言してくる。エレンとレオもうんうんと必死に頷いている。一向に改善しないダメ人間の2人には呆れるが、それがある意味いい影響を周囲に与えているようだ。この2人はいい反面教師となっているのかもしれない。
「「こらーっ!アキさんのばかーっ!」」
そんな事を考えていたら、復活したらしい2人が罵ってくる。
「エ、エッチな声とか出してませんわ!」
「アキさんの意地悪!ばか!おに!あくま!」
自業自得なのに酷い言われようだ。
「2人とも綺麗な足だから触っていて興奮したぞ?」
とりあえず率直な感想を言ってみた。文面だけ見ればただの変態だ。だが事実だ。何故女性の足はこれ程柔らかくて気持ちいいのだろうか。
「そんな感想を聞いて喜ぶとでも思ってるんですの!?バカですか!!!」
ミルナが顔を真っ赤にして怒鳴ってくる。
「え?ほら、喜んでるけど?」
アキが指を差した先に目を向けるミルナ。
「ふふ、アキさん……私で興奮してくれた……嬉しいですー。えへへー……。」
ソフィーが両手を頬に当ててにやにやしながらトリップしている。
「あれと一緒にしないでくださいませ!お願いですから!ほんとに!」
ミルナが悲痛な叫びをあげる。まあ気持ちはわかる。あの駄エルフと一緒にされるのは不名誉だろう。エレン達もいつも以上にドン引きしているしな。
「アリア。」
「はい、どうぞ。」
とりあえずいつもトレーでソフィーを引っ叩いて正気に戻す。
「暴走すんな、この駄エルフが。」
「うぅ……だってー……。つい……。」
「まったく、しょうがないなソフィーは。」
どうしようもないくらいに手がかかるソフィー。だがそれがいい。そんなこの子達といると楽しい気分になる。彼女達とのなんでもないやり取りは何事にも代え難い大切な時間だ。
「2人のおかげで毎日楽しいよ。」
「……!うふふ、ええ。アキさんのおかげで毎日楽しいですわ。」
「……!?……はい!アキさんさいこーです!」
そんなアキの言葉を聞いてミルナとソフィーは満面の笑顔を浮かべる。本当に切り替えの早い2人だ。さっきまでぶーぶー文句を言ってたくせに、もう笑っている。
まあいいか。これがアキ達の日常だ。
「よし、夕飯にしよう。」




