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異世界の観察者  作者: 天霧翔
第十四章 次手
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11

 リビングに戻ると既にレイアの姿はなかった。今日はもう宿に引き上げたそうだ。明日までミスミルドに滞在するらしい。セシルも一緒に行けばいいのに「私はアキさんといます」との事だ。何度行けと言っても頑なに首を縦に振らなかった。頑固な兎だ。せっかく母親が来ているのにそれでいいのかと思ったが、まあ本人がそう決めたならこれ以上言う事はない。ただ明日はレイアとの時間を作れと強制しておいたが。


 時刻は夕方。まだ夕飯まで少しある。リビングでだらだらしようかとも思ったが、アキは早々に自室に引き上げてきた。うちの子達はもっと構えとぶーぶー文句を言ってきたが、やる事があったので我慢してもらった。


 「今日も色々あったな。」


 アキは自室のソファーで軽く伸びをしながら呟く。今日はベルの両親である王や王妃との謁見。その後にレイアの訪問があった。



 



  しかし皆が自分の昔話であそこ迄泣くとは正直思わなかった。自分にとってはたいした事ではなかったのだが、どうやら彼女達にとっては泣くほど辛くて寂しい話に思えたらしい。なんせあの後しきりに「アキさんはもう1人じゃないから!」とずっとアキの側から離れようとしなかった。風呂やトイレにまでついて来ようとしたので叩き出したけど。


「うちの子達は極端なんだから……。」


 まあ気持ちは嬉しかった。


「俺は恵まれてるな。」


 アキは改めて感謝の気持ちを胸に刻み込む。


「よし、一仕事するか。」


 アキは気合を入れなおして立ち上がる。する事があるからと言って構え構えと騒ぐうちの子達を振り払ってきたのだ。これでごろごろしていたら何を言われるかわかない。ちゃんとやる事はやらねば。






 実は少し前にアイリスの使者が来て、手紙を受け取っている。返事を書くから数時間後に又来てくれと伝えてあるので、まずはこれの処理からだ。まあアイリスからといっても、中身はルティアの報告書だ。読むのは後回しでいいだろう。


 とりあえずアイリスへの連絡が先だ。手紙を読まずに返事を書くというのも変な話だが、使者を待たせる訳にも行かない。アイリスにはエルミラと話した内容を連絡する必要がある。協会の方を調べる手筈になっていたからそれが不要になった旨を記し、サルマリアで国王や冒険者協会長と会合する事になったと知らせておく。最後に我が猫によろしくと追伸を書いて終わりだ。


 アリアを自室に呼んで、使者が来たら渡しておくようにお願いした。これでアイリスへの連絡は大丈夫だ。


「よし次。」


 アキは自室の本棚の一角を押す。すると隠し部屋への通路が開いた。これが爺さんが手配してくれた隠し部屋だ。2階のアキの部屋から直接地下に通じており、入り口はここ1つ。爺さん曰く、2階から直接地下への通路を作る事により、地下室があるとは誰も思わないだろうとの事。確かに地下室への入り口は普通1階に作られる。その先入観を利用した隠し部屋だ。相当金をばらまいたのか、ほんの数日で改築がすんだのには呆れたが。


「これだから成金ジジイは……感謝はしてるけど。」


 そして肝心の地下室はかなりの広さになっている。そんなだだっ広い地下室には机と本棚、そして打ち合わせ用のソファーが数対ほど隅においてあるだけだ。あとはオリハルコンの魔法を実験する為のスペース。これだけの広さがあれば様々な検証が可能だろう。最近はうちの子達との訓練もここでしていたりする。


 尚この部屋に来るには、必ずアキの部屋を通らなければならない。そのせいか、アキが居ないときは決して誰も入らない。あの子達はアキが居ない限り、絶対にアキの自室には入らない。


「ほんと真面目だよな……。」


 暴走癖のあるソフィーや猪突猛進のエレンでさえ決して入らない。誰も忍び込もうとすらしない。ただアキがいる時はアリア、セシル、シャル以外はノックもせずに突入してくるのだが。


 アキは隠し部屋の執務机に腰掛け、アイリスから届いたルティアの報告書を確認する。


「さすがルティア、問題なく侵入したんだな。で、これが魔方印の写しか。」


 ルティアが模写したのだろう。報告書にはぎこちない線で3つの魔法印が描かれている。一生懸命に描いてくれたのがわかる。しかしルティアがこれを必死に描いている姿を思い浮かべたらついつい可笑しなってしまう。なんか彼女は小動物のようで、一挙一動が和む。


「しかし魔法印を見れば色々わかると思ったけど駄目だな。」


 文字のような詠唱が書いてあるのであれば、その文字から召喚元を特定出来ると思っていた。だが魔法印に書いてあるのは不思議な模様。それが文字なのか、絵なのか、アキにはわからない。


 魔法印は3重の円で描かれている。外側から1,2,3とナンバリングしておく。1は外周円で、2はその少し内に入ったところに一回り小さく描かれている。その1,2の円の間に沢山の模様が描かれていた。これが何かしらの詠唱を表しているのだとは予想がつくが、それ以上はわからない。


 そして3番目の円は中心に小さく描かれているだけ。魔法印は2つの円で構成されていると言っても差し支えないレベルで3の円は小さい。召喚印、命令付与印、転送印、全て同じような3重の円の構成で、違いは1,2の円の間に描かれている模様だ。あとは使用するオリハルコンの数が違う。ルティアのメモによると、召喚印は4本、命令付与印は2本、転送印は3本のオリハルコンが必要とのこと。オリハルコンを刺す場所は1,2の円の間に等間隔に刺すらしい。ちょうど模様の切れ目があるところがそうだ。ルティアの可愛いらしい字で「ここ!」って書いてあるのが微笑ましい。


「ルティアらしい報告書で和むな。」


 オリハルコンの数の違いは、おそらく各魔法印で使用する魔素量が違うからだと推測できる。召喚印がおそらく一番魔素を使う。別大陸や異世界からの召喚なら当然だろう。次に転送印。この大陸の各地にランダムで転送するのでそこそこ魔素は使うが召喚印程ではない。最後に命令付与が一番魔素の使用量が少ない。この方向でおそらく間違いないはずだ。


「あとはこの模様の意味だな。おそらく詠唱だが、これを理解しない事には始まらない。」


 古代語だと思って解読していくしかないだろう。


 魔法印が3種類、そして各々の使用用途はわかっているのでヒントはある。まずは実際に自分で書き出して共通する部分を見つける。その後、異なっている箇所を見つけ、徐々に解析していく。


「じっくり考察するしかないか……。そうだ、あとでミルナやベルに模様を見せて見覚えがあるか聞いてみよう。この大陸にも古代語があると言っていたし、彼女達なら古代語かどうかの判断くらいは出来るかも。」

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