15
「ところでさっきの召喚魔法、人間は召喚できるんでしょうか?」
ミルナが尋ねてくる。それは実はアキも考えていた事だ。
「出来ると思う、いや正直やってみたい。でも怖くて検証出来ないな。もしイメージが不足していたら人体の1部だけが転送されたりする可能性もある。だから今はやらない。」
アキの言っている意味を理解したのか、ミルナは「下らない事を聞きました」と謝罪する。そう、人体転送は少しでも間違うと大惨事につながる。失敗したら何が起こるかわからない。だから本当にどうしても必要な時が来ない限り使う予定はない。
「そんな時、来ないといいけどな。」
「来ても使わないでくださいね?」
ベルが念を押してくるが、それには同意しかねる。
「ベルや皆を助けるのに必要なら使う。当たり前だろ。言わせるな、恥ずかしい。」
アキはそっぽを向いて窓の外を眺める。
今日も雲一つない晴天だ。青く澄み渡っている空を見上げているとどこか晴れやかな気分になる。
「そうね……逆の立場だったら私は使うわ。」
エレンがいつの間にかアキの隣に座ってアキの袖口をそっと掴んでいる。
「そうだな……。」
アキはそっと呟いてエレンの膝の上に頭を下ろす。
「こら、アキ!な、なにしてんのよ!」
「たまにはいいだろ。」
ちょっとだけ横になりたい気分だ。今日は随分研究で頭を使ったし、昼寝するのもいいかもしれない。
「う、うん……別にいいけど……。」
エレンの許しは貰えたので、アキはそのままエレンの膝の上で目を閉じる。
「そうだ……意識が飛ぶ前に。ベル、サルマリアの事なんか進展ある?」
今日はずっと隠し部屋で研究をしていたので情報が入ってきてない。王との対談から1週間経っているのだからそろそろ連絡が来てもおかしくないだろう。
「はい。報告がすっかり後回しになっていました。」
ベルがすいませんと謝るが、召喚魔法の話をしていたのだから気にするなと伝える。どうやらベルはアキが研究に打ち込んでいる間に王城へ顔を出して確認してきたらしい。さすがベル。言うまでもなく、ちゃんと必要な事をしてくれている。
「冒険者協会長との約束が取れたそうです。今から7日後、場所はサルマリアの王都です。」
「それは重畳。サルマリアの王都までは馬車でどれくらい?」
「4日程です。」
その日数であれば急ぐ必要もないだろう。明後日出立すれば1日前に到着できる。少し早めに到着してサルマリアを観光するのも悪くない。どれくらい滞在する事になるかわからないし、後で爺さんに屋敷の手配をしてもらおう。
「ミルナ達は一緒にくるか?」
来るのはわかっているが、彼女達にちゃんと言わせなければいけない。アキが全部自分で勝手に決めたくないし、彼女達の意見もちゃんと聞きたい。以前ミルナ達には「従うから全て決めていい」と言われたが、皆で決めたい旨を説明すると、納得してくれた。だから今回もちゃんと聞く。
「「「「はい!」」」」
うちの子達が力強く返事をする。
「ベルも来るのか?」
「行ったらダメですか?」
頬を膨らまして拗ねるベル。そういう意味で言ったわけではない。
「国務もないのに王女が他国に物見遊山しに行っても問題ないのかと思っただけだ。ベルが来てくれるならそりゃ当然嬉しい。だから拗ねるな。」
「ふふ、なるほど。そういう事ですね。それなら多分大丈夫です。」
一応両親にも確認しておくとの事だ。明日、ベルはまた王城へ行ってアリアとセシルのサルマリアへの同行許可書を受け取るから、その時に聞くと言ってくれた。
そうか、確かに許可証の発行が必要だ。だがアキは申請した覚えはない。
「あ、代わりに申請しておきました。」
さすがベル。アリアとセシルの主人はアキだが、王女特権でベルが代理でしてくれたらしい。本当に仕事が早い。
「一応確認だけどアリア、セシルも来るよね?」
「「もちろんです。」」
勝手に話を進めてしまっていたので、アリアとセシルにも念の為に確認したが、当然ですと頷いている。
「私もだぞ!」
「ああ、わかってる。エリス、無理矢理にでも連れて行くつもりだ。」
忘れるなと拗ねていたが、アキの言葉を聞いて嬉しそうにはしゃいでいる。可愛い剣士だ。
「シャルちゃんは屋敷の事頼むね。」
「はい!お任せください!」
元気よく頷くシャル。でもあまり1人でおいておくのは可哀そうだ。なるべく早く帰ってきてあげたい。
そんなアキの気持ちを察したのか、シャルは静かに首を横に振る。
「アキさんのおかげで今、私は十分幸せです。お姉ちゃんと何の心配もせず優しいご主人様の下で働けます。それだけで十分です。お屋敷は私が守ってます。寂しくもないです。だからアキさんがしたい観光や旅を好きなだけしていいんです。」
シャルは屈託のない笑顔をアキに向けてくる。
「うん、わかった。ありがとう、シャルちゃん。」
本当にいい子だ。チラッとアリアを見ると、誇らしげに「そうでしょうそうでしょう」という顔をしているのが微笑ましい。
「じゃあ明後日、サルマリアに出発するから各自準備を整えておくように。ベル、馬車の手配お願いできる?」
「ええ、もうしてあります。私の馬車を使いましょう。あ、もちろん前回のような派手な装飾などはありませんのでご安心を。今回はお忍びですので。」
本当にうちの王女様は優秀だ。アキが要求する事を先読みして手配してくれているだけでなく、その一歩先の対応まで完璧にこなす。
「ありがとう。でもいつも俺の為にそこまで完璧にしなくていいよ。少しは肩の力抜いてね。無茶はするなよ?」
ベルはいつもアキの役に立とうと必死だ。でも無理や無茶はして欲しくない。適度に肩の力を抜いて欲しい。別に完璧でなくてもいい。ベルは誰が見ても一目瞭然なくらいに十分にやってくれているのだから。
「で、でも!」
もっとアキの為に頑張らないといけないとベルが必死に訴えてくる。
「俺にはベルがいてくれるだけで十分なんだから。ね?」
「う、うん……。」
アキが諭すとベルは頬を赤らめて小さく頷く。
後、あまりベルが頑張り過ぎると、ミルナ達の食って寝が余計に目立つからという理由もちょっとある。まさに今も冷や汗をかいて「何かしなきゃ」と気まずそうな顔をしている。アキとしては別に一緒にいてくれるだけでいいので、「無理して何かをしてくれる必要はないんだよ」と常々言っているのだが、どうもうちの子達は少しでもアキの役に立って、ベルやアリアより優位に立ちたいようだ。
まあこうやってお互いが刺激し合っていい影響を与えるのは悪い事ではないので、好きにさせている。ミルナやソフィーの自堕落生活もおかげで少しはマシになっているのだから。しかしそんなに優位に立ちたいのなら、まずはその自堕落生活を改善しろと思うが、言ったら多分凹むので言わないでおく。
「よし、じゃあ俺は爺さんに屋敷の手配をお願いしてくる。皆は旅の準備、必要な物があるなら街で買ってくるように。そしてミルナ、ソフィー?言わなくてもわかってるよね?」
アキが笑顔で睨むと、2人はコクコクと必死に頷いている。今回は大丈夫そうだ。
「あ、でもその前にこのままエレンの膝枕で昼寝する。エレンの太もも気持ちいい。」
「ばっ、ばかじゃないの!?っていうかそもそも私の膝に寝ころびながら話してんじゃないわよ!……で、でもまあ、眠たいっていうのならしょうがないわね!」
エレン素直じゃないエレンだ。わかりやすいツンデレ過ぎてちょっと和む。
しかしせっかくエレンが膝枕してくれているのだから、このまま少し昼寝したい。これから忙しくなるし、このくらいの休息はとっても許されるはずだ。




