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エルミラとの謁見も終わり、帰りの馬車に揺られながら優雅な昼下がりと洒落こむ……つもりだった。だがどうやらそんなものは幻想だったらしい。
現在、アキはミルナ達にお説教されている。まあ「お話」されると予想はしていたが。うちの子達曰く、今日は「ベルばっかり甘やかされてずるい」らしい。毎度毎度よく拗ねるネタを思いつくなと感心する。
「アキさん!王女様ばっかりずるいですー!私も!私も甘やかしてくださいです!」
今日もうちの暴走エルフは絶好調だ。だが最近は不貞やら浮気やら言う事は無くなって、「ずるい」に変わったのでちょっと安心だ。多少はお互いを仲間として認めるようになったという事だろう。
「そ、そうよ!私の事も構いたいんでしょ!」
そしてエレン。素直じゃないのが彼女らしい。
「ごめん、エレン。悩殺ポーズみてやるから許せ。」
「な、なんのことよ!?そんなの知らないわよ!ばか!変態!」
エレンは顔を真っ赤にして叫ぶ。だが小声で「こ、今度ね」と最後に付け加えたのをアキは聞き逃さなかった。やっぱりエレンはこういうところが可愛いと思う。
「で、世界の理さんはなんか言いたいのか?とりあえず新しい決めポーズを見せてくれ。」
「その呼び名はやめてくださいませ!そ、それにそんなの……な、な、ないですわ!ばかー!」
あるのか。
ミルナも何か文句があったようだが、恥ずかしの方が勝ったらしく、必死に黒歴史を作るまいと新しい詠唱や決めポーズは無いと否定してくる。そんなに恥ずかしがるのなら決めポーズなんて開発しなければいいのに。
「リオナは相変わらずいい子だね。」
レオはあまり拗ねていない。そんな聞き分けの良いうちの狼を撫でてやる。
「ちょっとは拗ねてるよ?でも僕の事も大事にしてくれているのは知ってるから……。うぅ……恥ずかしい。」
自分で言った事に照れて悶えるレオ。尻尾がブンブン左右に揺れている。
「兎耳と妄想剣士と乙女メイドは大丈夫か?」
「兎耳いわないでってば!セシル!セシルだから!」
「ち、違うのだ!そんな渾名はいやなのだー!」
「アキさん……そのことは忘れて……お願いですから……。」
セシル、エリス、アリアは三者三様の反応を見せる。特にアリアの反応は新鮮で面白い。シャルのおかげだ。
「そしてベルはなんでまだいるの?」
「夫をお見送りするのは妻の役目です!」
ベルは両親と王城へ帰るのかと思ったが、普通にアキ達の馬車に乗り込んできた。そしてアキの隣に座って嬉しそうにくっついてくる。うちの子達がさっきからやたら不機嫌な理由がこれだ。
「というよりしばらく帰ってくるなと言われました。」
何でも国務は自分達でなんとかするから、アキの手伝いをしろとの事らしい。少しでも早く魔獣制度を廃止する為、ベルもこっちにいたほうが効率がいいとの判断だ。でもあの両親の本心は絶対違う。どうせ娘がそれを望んでいたから適当な理由をつけて送り出しただけだろう。そしてあわよくば「早く孫の顔をみせろ」ということだ。あの王妃なら間違いなくそう画策している。それに不機嫌な状態でベルに王城にいられるよりも、アキに押し付けておいたほうが何かと都合いいのだろう。気苦労が減って喜ぶ側近達の姿が目に浮かぶ。
「だからその……アキさん、お屋敷においてください。ダ、ダメ?」
ベルが上目遣いでおねだりしてくる。さすがベル、ずるい。アキが断れないようにこういう表情をするのだから。まあそんな事しなくても断らないけど。
「ベルと一緒に居られるのは嬉しいよ。ベルの部屋を決めないとね?」
「う、うん!……えへへ。私も一緒にいられて幸せ。」
嬉しそうに微笑むベル。そして殺気立つ馬車内。王城は平和になったかもしれないが、どうやら今度はアキの屋敷が毎日戦場になりそうだ。
とりあえず、今は他にすべき話があるので、この問題は先送りにしよう。
「さっきの説明をしないとね。」
アキはエルミラとのやり取りを分かりやすいようにミルナ達に説明してやる。
「冒険者協会や国が本当に何も隠してないのなら、イリアはきっと何かを知っている。それを調べる事が魔獣制度廃止、そしてイリアを見つける事に繋がると思う。」
「アキ!あんたイリアを疑ってるの!」
エレンが真っ先に声を上げる。だがすぐに両手を口に当て、ハッとした表情を浮かべている。そして少し涙目だ。失言したとでも思っているのだろう。
「ごめん……そんなわけないわね……ご、ごめんね?」
そんな彼女を撫でて落ち着かせ、アキは話を続ける。
「それに疑うってのはなにも悪い意味でじゃない。例えばミルナ達を危険な目に合わせない為、本当の情報を隠して嘘を吐いていたとかね。イリアの性格は皆の方がよく知っているだろ?」
「ええ、私たちの知るイリアは優しくて、可愛くて、いい子ですわ……。でも……今はよくわかりません。もしかしたら私達は騙されていただけかもしれませんわ……。」
さすがのミルナも少し自信がなくなってきたようだ。だがそれも仕方がない。王が協会や国の潔白を保障したのだ。そしてその王はベルの父親。ベルがアキに不利益な事をしないというのはミルナ達はわかっているだろう。そんな情報を目の当たりにしているのだから、イリアの本心がわからなくなっても当然だ。
「うーん、個人的な意見を言っていい?」
「は、はい。」
ミルナが緊張した面持ちで頷く。
「イリアはもしかしたら最初は自分を偽っていたのかもしれない。でもミルナ達が見ていた姿はきっと彼女の本当の姿だろうね。ミルナ達といると自然と笑顔になって素の自分が出てしまう。みんなにはそんな不思議な魅力があるんだよ。」
「そ、そんなことは……。」
「俺がそうだからな。ほら、説得力あるだろ?」
アキがそう言うと、みんな納得したのか、どこか安心そうな表情を浮かべる。
「うふふ……ええ、確かに。そうですわね。」
「俺を信じろ。なんとかしてやる。」
「はい。疑ってなどおりませんわ。」
両手を胸の前で合わせて嬉しそうに微笑むミルナ。
「セシル。ババアからの連絡は一応待つが、おそらく意味はない。」
「はい、私もそう思います。王様の言葉が十分な裏付けです。」
セシルが兎耳をぴょこぴょこさせながら頷く。今すぐ掴みたいが……我慢しよう。
「では準備が出来次第サルマリアへ行く。冒険者協会の長や向こうの王家と会えるのは好都合だ。それにもし協会に協力をお願いする事が出来ればイリアへも近づけるだろう。」
全員がそれで問題ないですと頷いてくれた。
ただ、皆はそう言ってくれるが、正直申し訳ない。先日ミレーから戻って来たばかりなのにもう出立する事になってしまった。特にアリアには本当に悪いと思う。シャルに早速留守番してもらう事になってしまう。
「アリア、ごめんね。シャルちゃんと再会したばかりなのにまたすぐ旅になって。アリアは残るか?」
アリアには残るか提案してみたのだが、彼女は首をゆっくりと横に振った。
「何を言っているのですか。怒りますよ、アキさん?私は貴方と共にと言いました。シャルもわかってくれています。だからどこまでもお供させてください。」
「そっか。……俺はアリアの王子様なんだっけ?」
シャルの言葉を思い出したので言ってみた。
「そ、それはいい加減忘れてください!」
いい雰囲気になった瞬間、全てをぶち壊すアキ。また始まったよとミルナ達は苦笑いしている。
だがこうしてアリアを弄れるようになったのは嬉しい。素のアリアが見える機会が増えたのだから。全部シャルのおかげだ。無事アキのおもちゃリストにアリアを加える事が出来た。
「アキさんの……ばか。もう知りませんから。」
アリアはそっぽを向いてしまう。でもどこか楽しそうだ。
ちなみにうちの子達は「これであの腹黒メイドも大人しくなる!」と大喜びだ。だがアキがアリアを弄るようになったからといって、自分達への被害が減るわけではないのをわかっているのだろうか。いや、多分わかっていない。アリアの性格上間違いなくミルナ達が知られたくない秘密をさらに調べてくるようになるだろう。




