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異世界の観察者  作者: 天霧翔
第十四章 次手
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6

「アイリーンから大体の話は聞いた。魔獣政策に対する改革案。だがアキ君、改めて君の知っている事、考えている事を私に教えて欲しい。」


 エルミラがアキに直接説明するよう要求してくる。まあ当然だろう。ベルの説明に一切の不備はないだろうが、認識合わせの為に一応アキの口からも説明しておくべきだ。


「だが先にわしの結論だけ言っておく。本当にベルから聞いた話の通りなのであれば……わしはアキ君を支持するから安心して話してくれたまえ。」


 エルミラは自分の結論を先出しする事によってアキが話しやすい雰囲気を作ってくれた。さらに隠し事はしなくてもいいと遠回しに釘を刺してきた。さすが国王、会話の主導権を完全に握られている。だがエルミラの気遣いのおかげで変に情報戦をしなくてよくなった。


「わかりました。それでは遠慮なくお話させて頂きます。」


 アキは少し肩の力を抜き、順を追って一から説明する。


 最初に話すべき事、それはアキがこの世界の人間ではないということだ。だからこそこの世界で実地されている魔獣制度に気付く事が出来た。ミルナに世界の説明をされた時、違和感を覚えた。次にイリアの依頼や冒険者制度を知った。それらを知れば知る程、アキは世界の矛盾に気付く事になる。そしてSランクになり、ミスミルド王立図書館でさらなる調査を始めた際、ベルと出会う。話をしているうちに仲良くなり、協力する事になったのだとエルミラ達に告げる。


「そこでアイリーンと運命の邂逅を果たしたのですね!」


 ルベルシアが会話に割って入って来る。それは別にいいのだが、大袈裟に表現するのは是非やめてもらいたい。うちの子達が拗ねるから切実にやめてほしい。ベルにしろルベルシアにしろ、何故揃いも揃ってこの親子は火に油をぶちこむのか。ミルナ達の感情がころころ変わるのを絶対楽しんでいるだろう。


「しかし……一般に流れている情報からそこまで推測可能とは……今後の情報統制の参考になる。」


 エルミラが顎に手を当てて首を唸る。だがこれはアキだからこそ気付けた事だとも言える。この世界の事を一から説明される機会なんて普通の人にはない。何気なく生活していて気づくのは難しいのだろう。ただ確かに少し深堀すればわかる事なので、現在の情報統制には穴があると言わざるを得ない。


 まあそれは今考える事ではないので、とりあえず話を進める。


「では続きです。私はSランクになり、ベルと出会い、閲覧禁止文献に目を通しました。そこで改めて自分の予想が正しかった事、そして例の国家機密を知りました。」


 例の秘密とは、立ち入り禁止エリアでオリハルコンを使い、魔獣を召喚して各地に転送しているという事だ。そしてその魔獣に特殊な命令を施し、街の外に存在する人間を駆逐する。そしてその魔獣の数を調整するのが冒険者の仕事だ。減らすでもなく、増やすでもなく、丁度いいバランスを保つように。手に負えない犯罪者はSランクが駆逐する。


 一見完璧なシステムに見える。だが魔獣制御の原理が分かっていないまま使っているからこそ不安が残る。それに体よく冒険者を騙して魔獣の絶対数調整に利用している。人道的に疑問の制度だ。


 そもそも犯罪者は犯した罪の内容に関係なく、全員が魔獣によって殺害、つまり死刑というのもおかしな話だ。さらに言うならその犯罪を判断するのは魔獣であって、人ではない。まあ魔獣に人間の善悪なんて見分けられないから仕方のない事なのかもしれないが、街中で暮らす人間以外を全て犯罪者と見なすなんてのは横暴だ。何かの間違いで駆逐された真っ当な人間も大勢いただろう。アキの意見を言うなら、これは乱暴なシステムだ。


 だが犠牲も大きい分、メリットも大きい。この世界を見ればわかる通り、戦争も犯罪もなく、平和そのものだ。


 ちなみに以前考察した通り、通行許可証や冒険者証には特殊な魔法がかけられていて、それらを持つ人間を魔獣は襲わない。安全な旅路は「一応」確保されていると言える。間違いがない限りは安全だ。だがその程度の制御しか出来ないという証明でもある。許可証を無くしたりしたら罪なき人でも駆逐されてしまう。


 まあこの部分の制御が完璧なのであればまだなんとか理解も出来る。だがアキが詳細を確認しようとしたところ、ミレーの女王であるアイリスは詳しい事はわからないと言っていた。うちのベルも同様だ。エルミラとルベルシアならと思って確認してみたが……。


「恥ずかしいことですが……冒険者証への魔法付与は協会が行っているので詳しい事はわかりません。そして通行許可証は国がやっていますが、装置を通すだけなのでこちらもよくわからないんです。」


 やはりエルミラ達もわかっていない。わからないのにこんな制度に頼り切ってるのだ。おかしいと思わないのだろうか。いや、思っているからこそアキに賛同したベルが隣にいる。わかっているからこそアイリスは協力を申し出てくれたし、エルミラはこうしてアキの話を聞いているのだ。以前ベルが「変化が怖くて変えられない。今は平和だから」と言っていたのを思い出す。つまりそういう事なのだろう。


「ちなみにアキ君、冒険者協会も魔法を付与する特殊な装置の上に冒険者証を置くだけで、詳しくは何もわかっていないそうだ。」


 ルベルシアの言葉にエルミアが補足する。


 まあ2人の話から言えるのは、王族は通行許可証などに施される魔法の原理は把握していない。協会も表面上は把握していないという事になっている。受付嬢であったセシルですらわからないと言っていたので、もし何か知っているとしても協会の上層部だけなのだろう。 


 これもこれ以上今考える事ではないので、とりあえずおいておく。

 

「続きです。ベルの情報と図書館の資料だけでは手詰まりとなったので、イリアの情報を追ってミレーへ渡りました。私達のそもそもの目的はイリアを探す事ですからね。まあ今となっては改革もしなきゃいけませんが。ベルの為に。」


 アキが隣に座っているベルをぽんぽんと撫でてやると、満面の笑顔で「はい!」と頷くベル。


 「そういう意味では魔法組合の依頼『魔法学校の講師』はある意味好都合でしたね。おかげで情報収集が色々と捗りました。それに強い味方も出来ました。」


 ミレー魔法組合長であるエリザと懇意になり、味方についてくれた旨を説明する。そしてエリザだけでなく、ミレー王国女王のアイリスも、アキを支持する約束をしてくれた。


「ところでアイリスとベルが襲われた話は聞きましたか?」


 アキは念の為に尋ねる。ベルが両親に心配かけたくないからと話していない可能性もあったからだ。だがエルミラとルベルシアは頷いて、アキの問いに肯定を示す。どうやらベルはちゃんと伝えていたようだ。


「アイリーンを守ってくれた事感謝する。そして王族が不甲斐ない事を謝罪する。」

「ええ、娘を襲った事は許せないですが、そのキーリさんという人に恨みはありません。むしろ各国の王族が自分達で蒔いた種です。」


 ルティアが協力者になった事もベルからちゃんと聞いているらしく、エルミラとルベルシアは全て彼女の行動を不問にする考えらしい。アイリスと同じで、自分達が何もしなかったからルティアのような人間を生み出してしまったと考えているようだ。正直その考え方が出来るだけでも立派な統治者ではないだろうか。国のトップが自分の過ちをちゃんと認められるというのは素晴らしい事だと思う。


「それを聞けて安心しました。キーリはいい子です。真面目でまっすぐで。そして彼は私の影となって今も動いてくれています。」


 アキは最後にルティアから知りえた情報を伝える。彼女はサルマリアでイリアの後任として依頼を受けた。そしてその依頼が切欠となり、立ち入り禁止エリアで国の真実を知る事となる。どうしても世界の在り方が許せなかったルティアはこの世界を変えようと思い立った。そんな時、アキと出会い、協力してくれる事となる。


「一連の流れはこんなところです。ここからは私の予想を含めたお話をしますね。」


 そう前置きしてアキはオリハルコンを2人に見せる。エルミラ達は少し驚いた表情を浮かべるが、アキがアイリスから貸与されたと言うと納得したようだ。ルベルシアなんか「女王にそれだけ信用されているのですね」と感心したように頷いている。


「それでこのオリハルコンなんですが、面白い事が分かりました。」


 立ち入り禁止エリア内にある魔法印とオリハルコンの関係性を説明する。


 オリハルコンが大気魔素の利用を可能にする事については先日実証済みなので、これは予測ではなく確証に近い。ただし魔法印の仕組みについてはまだわからない。こっちはルティアからの情報待ちだ。


 それを解析してさらに原理を解明し、このシステムを廃止にする足掛かりに出来ればと考えている。さらに可能であるなら、オリハルコンや魔法印をただ破壊するのではなく、その裏側にいる何者かを調べ上げたい。もし本当にこの大陸が魔法印やオリハルコンの実験場なのであれば、それらを提供した黒幕と交渉しておかないと同じ歴史が繰り返される可能性があるからだ。


「アイリーンの説明ではいまいちピンとこなかったが……なるほど。290年前に何者かがこの大陸に接触したというのは頷ける。アキ君のような別世界の者なのかね?」


 エルミラが尋ねてくるが、正直それはわからない。魔法印を調べれば何かわかるかもしれないが、現段階ではわからない。


「可能性としては2つかと。別世界か別大陸です。」

「別大陸ですか?」


 ルベルシアが不思議そうに首を傾げる。そう言えば別大陸の可能性の話は2人にしてなかった。アキは早速世界地図を広げ、海の先に広がるかもしれない未知の世界の話をする。


「言われてみれば……確かに。この国の事でいっぱいいっぱいでそこまで考えませんでしたわ。というより小さいころからそう教えられている固定概念のせいかもしれませんね。」


 ルベルシアが興味深い説だと地図をまじまじと見つめている。


「なんにせよ、情報が足りません。全てはキーリの調査報告待ちです。」


 何か新情報があればいいが。まあ無ければ無かったでそれに応じた行動を取るだけだ。でもきっとルティアなら何か見つけて来てくれる気がする。なんとなくだがそう思う。


「それと待ってる間、冒険者協会とサルマリアを調べます。キーリやイリアの依頼を見る限り何か怪しい気もしますので。」


 アキがそう言うと、エルミアは難しい顔をする。どうしたのだろうか。


「アキ君……いや、とりあえず最後まで話を聞かせてくれ。」


 もしかしたら何か懸念点があるのかもしれない。だがエルミラは今はこれ以上何も言うつもりはなさそうだ。多分話が混乱しないように、まずはアキの情報を全て聞いた上で判断したいのだろう。


「わかりました。それでは最後にベルにも見せた現在の犯罪政策に代わる代案、そして私の世界の為政や政体についてまとめた書類をお見せします。」


 アキはベルやアイリスに見せたのと同じ書類を再度複製しておいた。毎回毎回この量を書きだすのは正直骨が折れるが、紛失盗難のリスクを考えるのであれば仕方のない事だ。


 エルミラとルベルシアはアキから書類を受け取ると、早速目を通し始める。


 これは暫くかかるだろう。手持無沙汰になってしまった。


「セシル。」

「は、はい!わ、私、でしょうか?」


 とりあえずセシルを呼び寄せ、癒しを補充する事にする。不用意に近づいてきたセシルを強引に隣に座らせ、兎耳を思いのままに愛でる。


「な、な、なんでええええ!?い、いまはおかしいからああああ!」


 セシルはまさかアキが国王の前でそんな行動に出るとは思ってなかったようで、慌てふためく。取り乱している兎が可愛い。


「兎耳に時と場所など関係ない。セシルは何をいっているんだ?なあ、ベル。」

「バカですか!アキさんは!そこで私が『そうですね、兎耳は世界の宝ですからね』とでも言うと思ってるんですか!」

「え?」


 ベルは兎耳を世界の宝だと思ってないらしい。何故だろうか。


「なんで『思わないの?ありえなくない?』的な反応なんですか!私がおかしいみたいな顔しないで!私はおかしくないです!普通ですから!」


 両親の前だという事をすっかり忘れてアキに噛みついてくるベル。


 ただ、絶好のタイミングでエルミラとルベルシアは書類を読み終わったようで、ベルの様子をにやにやしながら見つめている。当然ベル本人は気づいていない。


「ベル?」

「なんですか!まだ何かあるんですか!」


 まだ気づかないみたいなので、ベルに両親の方を見るように言ってやる。するとベルが「まさか」と言った表情を浮かべ、石のように固まり、ギギギと首をゆっくりとエルミラ達の方へと向ける。


「アイリーンのそんな姿がみられるとは。お淑やかな娘はどこいったんだ、我が妻よ。」

「ええ……どこいったんでしょうね、あなた。悲しい事ですわ。」


 わざとらしい演技でベルを煽る。この2人も結構腹黒い性格しているな。さすがベルの両親だ。


「ち、ちがいます!お父様!お母様!こ、これには理由が!」


 ベルが必死に両親に言い訳を始めた。


 そしてアキはそんなやり取りを満たされた気持ちで眺める。


「家族団欒っていいね。」

「だからいい加減はなしてええええ!」


 まあ満たされているのはセシルの耳を撫でているからだが。


 セシルもなんだかんだ気持ちよさそうにはしているが、さすがにこの場所では居心地が悪いのか、「後にして?ね?」と目で必死に懇願してくる。名残惜しいが仕方ない。そろそろリリースしてやる。


「もぉ……せめて屋敷の中にして……恥ずかしいんだから……。」


 セシルが頬を膨らませてそっぽを向く。だがこれは決して嫌がっているわけではなく、単純に恥ずかしいだけなのは知っている。実はセシルはすっかりアキに撫でられるのが気に入ったようで、屋敷だと最近はよく耳をぴくぴくさせながら自分から撫でられにくるくらいだ。なんとも愛らしい兎だ。

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