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翌日の昼過ぎ、予定通り王家の馬車が屋敷に到着した。アキはミルナ達を連れてそれに乗り込むが、既にベルが馬車内に座っていたので少し驚いた。
「ベルはお父さん達と一緒に来るのかと思ったよ。」
「私がアキさん達を案内するって我儘言ったんです。」
ベルがうふふと笑う。しょうがない王女様だ。でもアキとしては見知らぬ従者よりはこうしてベルに案内して貰ったほうが助かる。
「ではいきましょう。」
ベルが御者に指示を出すと馬車が走り出す。
「ミルナ達は緊張してないか?」
今まで王族と会う度、緊張していたミルナ達。今回もそうかなと思い声を掛ける。アリア、セシル、エリスは問題なさそうだが、うちの子達はどうだろうか。
「ふふ、さすがにもう慣れましたわ。」
「ですねー。もうなんでもこいです!」
「そうね……アキのせいで非日常にも慣れちゃったわ。」
「ほんとにねー。王と会うのに緊張しなくなっちゃったよ。」
うちの子達が口々に大丈夫だと言う。慣れさせたつもりはなかったのだが、確かにこの子達の言う通りかもしれない。馬鹿な事を聞いたと少し可笑しくなる。
馬車が右左折しながらミスミルドの街をひた走る。窓は閉ざされているのでどこを走っているのかはわからない。だが同じところをぐるぐる走ったりしていると感覚的にわかる。おそらくどこに密会用の屋敷があるのか特定させない為だろう。ベルも場所を知らないと言っていた。到着までどのくらいかかるかもわからないそうだ。
「アキさん、すいません……。」
「謝る必要ないって。のんびり行こうよ。」
この子達と何も考えずにのんびり出来る時間は今となっては貴重だ。だから今はそんな時間を存分に楽しめばいい。
久々にレオの尻尾を触りたくなった。レオに頼むと、彼女は驚いた様子だったが、すぐに嬉しそうに尻尾を差し出してくれた。
「えへへ、久しぶりで嬉しい。」
「リオナの尻尾を触りたくなったからね。」
セシルが少し羨ましそうに見ているので、あの兎耳も後で撫でてやるか。
そんなことをしつつミルナ達と適当な雑談をしていたら馬車が止まった。屋敷を出てから1時間くらい経っただろうか。御者が扉を開け、下りるようにと促してくる。
指定された屋敷は豪華絢爛とは程遠い簡素なもので、アキの屋敷よりも遥かに小さい。一見とても王族が使っているものとは思えない。王族の密会場所として悟られないように敢えて質素にしているのだろうか。
アキ達は御者に案内され、屋敷の奥にある一室に通された。屋敷内の装飾もどこか庶民の家を彷彿とさせるくらいには飾り気がなかった。会談部屋も簡易的なソファーとテーブルのみだ。
その簡素なソファーに座っていた初老の男性と女性がベルに声をかける。
「アイリーン、連れてきたのかい?」
「あら、そちらのお方がアイリーンの夢中になっている人かしら?」
ベルと同じ銀色の髪と立派な髭の男性。エスペラルドの闘技大会でみかけた人物だ。これがベルの父親、つまり国王だろう。そしてその横にいる栗色の髪をした上品な女性が王妃という事か。こちらは雰囲気がベルそのものだ。間違いなくこの2人がベルの両親だというのが直ぐに分かる。
「はい、お父様、お母様。アキさんとその従者、そしてメルシアの面々をご案内致しました。」
ベルが優雅に両親にカーテシーをする。
早速アキも彼女に習い一礼して、挨拶を交わす。
「エルミラ・エスペラルド・5世陛下及びルベルシア・エスペラルド王妃殿下、お初にお目にかかります。Sランク冒険者、メルシアのアキと申します。一介の冒険者故、何かとご無礼があるかと存じますが、何卒ご容赦くださいますようお願い申し上げます。そしてアイリーンベル王女殿下には日頃から大変お世話になっており、謹んでエスペラルド王家のご厚意に御礼申し上げます。」
ベルの両親の名前は事前に聞いておいた。アキは続けて従者であるアリア、セシル、エリスの紹介をする。3人はアキの後ろで丁寧に気品あるカーテシーを行ってくれた。アリアとセシルは当然の事ながらエリスも完璧だ。
「そしてこちらの4人がメルシアとして私と行動を共にしている、ミルナミア、ソフィアルナ、レオンナード、エレイナにございます。私と同じく一介の冒険者故、何かとご無礼があるかと存じますので、先だってお詫び申し上げます。」
そしてうちの子達に合図して同じくカーテシーを行わせる。エレンは相変わらず完璧だし、ソフィーとレオも大丈夫だ。不器用娘のミルナもスパルタしたのでかなりマシになった。これならば問題ないだろう。
そんなアキの挨拶を受け、国王が口を開く。
「アキ君、丁寧な挨拶をありがとう。非公式の場であるし、それほど気にしないでくれたまえ。エルミラ王とでも呼んでくれれば結構。」
アイリスと同じで堅苦しいのは苦手なようだ。無礼がないようにだけしておけば大丈夫そうだ。
「わかりました、エルミラ陛下。これでご勘弁を。」
少しだけ口調を崩す。そんなアキの様子をみてミルナ達は少しほっとしたようだ。確かに彼女達にずっとあのお堅いモードは辛いだろう。ミルナあたりがボロを出すことは間違いないからな……。
「ええ、アキさん、この人の言う通り気軽に接してください。なんなら私の事は『お義母さん』と呼んでくださってもいいですわよ?」
ベルの母親であるルベルシアがうふふと笑う。お茶目な王妃だ……さすがベルの母親。しかしその呼び方は勘弁して欲しい。ベルは是非是非と目を輝かせているが、その隣でうちの子達がハイライトを消した目で睨んでくる。呼んだら「お話です」と無言の圧力を放ってくるから怖い。
「なんだ、お前はアキ君をもう気にったのか。」
「ええ、気に入りましたわ。貴方もでしょう?」
さすが王と王妃。少し会話しただけでアキの人となりを見抜いて来た。まあ気に入ってもらえたのであれば幸いだが。
「アキさん、ちなみに普段はアイリーンの事をなんて呼んでるんですか?」
ルベルシアが尋ねてくる。言っていいものかと逡巡するが、ベルが大丈夫ですよと目で合図して来たので、正直に答える。
「はい。ベルさんと呼ばせて頂いております。」
「あら、それはアイリーンがそう呼べと?」
「ええ、そうですね。そう呼ばないと拗ねられてしまいます。」
「ちょっと!アキさん!」
両親の前で痴態を暴露されたのが恥ずかしいのか、ベルが顔を赤くして怒る。
「うふふ、この人が私を呼ぶ時と同じなんですね。」
「そうだな、わしも妻の事はベルと呼んでおるからな。両親を真似るとか可愛い娘だ。そう思わんかね?」
聞かないでくれと思うが、仕方ないのでアキは率直な感想を述べる。
「ええ……ベルさんはご両親の事をとても大切に思っています。今のお話を聞いてさらにそう感じました。」
アキの言葉を聞いて2人は満足そうに微笑む。やはり娘に大事に想われているのは親としては何より嬉しいだろう。ベルが人間として素晴らしいのも、きっとこの両親ありきだ。
「ベル!『さん』はいらないです!べーる!」
しかしこんな時でも敬称を付けた事でベルに拗ねられる。両親の前で呼び捨てはどうかと思ったのだがベルとしては気に入らないようだ。
「あらあら、アイリーンは本当にアキさんがお気に入りなんですね。」
「しかしアキ君の周りには別嬪さんが多いようだ。アイリーンも大変だな。多分みんな彼を慕っているのだろう。」
この数分で既にミルナ達のとの関係性までしっかり見抜いたようだ。まあこの子達の場合は単純で感情をすぐ顔に出すし、大体見ればわかるのだが。
「それでアキ君は全員を娶るつもりなのかね?」
エルミラが尋ねてくるが、別に今更隠す必要もないので普通に答える。
「勿論です。ただ……彼女達がそれを望めばですが。」
「なるほどなるほど。覚悟は決めているようだな。ちなみにわが娘は何番目なのだ?」
いやな質問だ。だがまあ答えるしかないだろう。
「それぞれに長所と短所があり、違った素晴らしさを持っています。順位をつけるなんてとんでもないですし、私にそんな資格はありませんよ。」
王がアキの深層心理を読むために色々と試しているのはわかっている。アキも彼の質問に答えつつ観察させてもらってるのでお互い様だが。
「120点の答えだな……アイリーンの父親としては娘を一番と言わなかったから10点くらいにしてやりたいが。ふはは。」
楽しそうに笑うエルミラ。おそらく今ので読み合いは終わりにしようという彼なりの合図だろう。
「それでアキさん、私たちは合格ですか?」
ルベルシアがアキに微笑みながら尋ねてくる。アキが2人を観察していた事も見抜かれているようだ。さすが王と王妃。うちの子達程チョロくない。
「そうですね。王と王妃としての姿は見ていないので為政についてはわかりませんが、ベルのご両親としては素晴らしい人だと思いました。そしてベルのお相手として及第点を頂けたことに感謝してます。陛下は娘を取られたのがちょっと気に入らないようですが。」
アキは2人を観察して感じた事をエルミラとルベルシアに告げる。こうやって敢えて明かす事でアキも観察は終わりだと相手に伝える。
「ふはは、まあ、その通りだな。否定はできん。」
「ふふ、そうですね。ただアキさんは及第点じゃなく私としては高評価ですよ?」
挨拶がてらの観察と雑談はこれで終わりだ。このように少し日常会話をして、歓談するのには重要な意味がある。お互いが「これで初対面でなくなったから深い話も出来るよね」と認識し合う儀式だ。本当に心を許したとかは関係ない。会って早々に国家機密を話すのはおかしい。こういった雑談はいわゆるアイスブレイクで、コミュニケーションをとりやすい雰囲気を作るのを目的としている。
まあ2人を良い両親だと思ったのも事実だし、向こうもアキの事を気にってくれたのは本当だ。いつもこれ程アイスブレイキングが上手くいくわけではない。勿論ベルの両親だから表面上の慣れ合いではなく、ちゃんと打ち解けれるに越したことはない。だからこそ想像以上の結果にアキは満足している。
ただミルナ達は今の一連の会話の意味を理解してないようで、アキがベルの両親と仲良く話していた事にちょっと拗ねている。この子達らしくて可愛いが。ちなみにアリアやセシルはちゃんと理解している。当然ベルもだ。
「アキ君、今の会話の意味を後ろの拗ねている子達にも説明してやったらどうだ?」
エルミラが楽しそうに笑いながらアキに告げる。ルベルシアもふふふと笑っているし、うちの子達はやはり分かりやすいのだろう。まあ普通に頬を膨らませてそっぽを向いているのだから誰が見ても丸分かりだ。あれで感情を隠しているつもりらしいから呆れる。
「まったく……ミルナ達は色々顔に出し過ぎだ。エリスもな。ミルナくらいはちゃんと理解しないと駄目だぞ?」
「だ、だってー!あの……その……教えてくださいませ。」
照れながらも素直に分からない事を認めるミルナ。
とりあえずアキは一連の会話の必要性を皆に説明する。すると話を聞いて納得したらくし、ミルナ達は「おおー」とアキを尊敬の眼差しで見つめてくる。そこまで絶賛されると逆に恥ずかしくなるのでやめて欲しい。さらにエリスなんかは「さすがアキなのだ!」と無駄にはしゃいでいる始末だ。相変わらず戦闘以外はからきしな金髪剣士だ。
「ミルナ、俺の代理をする時はきっとくる。だから頼りにしているんだよ?」
「え……あ……はい!もっともっとお姉さんします!しっかりしますわ!」
ガッツポーズして気合を入れるミルナ。
だが口では注意したものの、別に心配はしていない。空回りしてポンコツに見えるけど、ミルナはしっかりしている。彼女はいつも一生懸命で、真面目で、頼りになるお姉さんだ。それにアキがいなかった時、ソフィー達を1人で引っ張ってきたのはミルナだ……と正直に伝えてやる。
ソフィー達もアキの言葉を聞いてうんうんと頷いている。彼女達もミルナがしっかりしている事なんてちゃんとわかっているのだ。あまりにも普段がだらしないからついつい忘れてしまいがちだが。
「なんで今なんですの!?いつもは意地悪ばっかりするくせに……!そんなにいきなり褒めないでください!恥ずかしいですわ……!」
すっかり赤面して俯いてしまうミルナ。
目を離すと直ぐに無理して頑張りすぎちゃうどうしようもないお姉さんだからこそちょっとポンコツくらいのほうがいいとアキは思っている。初めて会った時のミルナは凛としていただけでなく、どこかピリピリしていた。多分1人で色々背負っていたからかもしれない。でも今はとても穏やかな雰囲気だ。だらしなくて、どこか抜けていて、すぐに拗ねるお姉さん。いい傾向だ、大分心に余裕が出来たのだろう。それにアキとしてもこちらのミルナのほうが可愛くて好きだ……と全て口に出してミルナに解説してやった。
「も、もうやめてくださいませ……!ばかっ!」
「いやでも事実だし。」
「し、しりませんわ……!ふんっ!」
すっかり羞恥に悶えているミルナだが、とりあえず機嫌は直ったようなのでいいだろう。ソフィー達もいつのまにかくすくす笑っているし、これなら本題に戻ってもよさそうだ。
「アキ君、無事説明できたようだからそろそろ本題にはいろうか。」
エルミラも同じことを思ったようで、声を掛けてくる。
「ええ、お手数おかけしました。」




