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それから数日はのんびりと変わらぬ日々を過ごした。
シャルが新しい住人として屋敷に住むようになった事以外、目新しい事は特に何も起こらなかった。まあ珍事事件が毎日起こって貰っても困るのだが。
そんなシャルは爺さんの言う通り、とても優秀だった。アリアやアキが指示するまでもなく、屋敷内の家事を一通りこなしてくれている。イリアナ達が絶賛するわけだと舌を巻いた。
「アキさん、また優秀なメイドを1人雇ったんですね。」
ベルがリビングで紅茶を優雅に啜りながらシャルの仕事ぶりを眺めている。なんかとても機嫌がよさそうだ。
今日は数日ぶりにベルが屋敷に遊びに来ている。彼女がうちに来るのはミレーから戻って以来だ。なんでも国務がずっと忙しかったらしく、アキに会えなくて寂しかったとさっきまでずっと愚痴っていた。屋敷に来るなり抱き着いてきたし、今もアキの隣に座ったまま動こうとしない。
「アリアの妹のシャルだな。爺さんが気を利かしてくれてね。やっぱり家族は一緒にいたほうがいい。」
「ええ、もちろんです。」
ベルが優しい目でシャルを見つめている。ミルナ達もシャルが加わった事では一切不機嫌にならなかった。また「お話」されるのかなと思ったが、皆不満は一切ないようだ。アリアの妹という事でシャルを大歓迎している。なんだかんだちゃんと拗ねる時と場所をわきまえているようで安心した。
「でもベル、どうせ王城で荒れてたんだろ。」
「あれ?なんでわかるんですか?」
そんなの屋敷に到着した際に連れていた側近の疲れ切った顔をみれば大体察せる。アキに会えなかったベルはさぞかし不機嫌で、ご機嫌取りが大変だったんだろう。予想通り王城で暴れていたに違いない。
「だってー……しょうがないです。」
「気持ちは嬉しいけど……あまり側仕えに迷惑かけるなよな。」
ベルがちょっとシュンとしていたので、そっと撫でてやる。
「今日は会いに来てくれただけか?」
「勿論そうです。あ、でも少し大事なお話もあります。」
ベルはアキから離れ、対面のソファーに座り直す。真面目な話をするときはベルは必ず正面に座ってくれる。アキはアリアに全員を呼んでくるようにと声をかける。
程なくして、シャルを含む全員がリビングに集合してくれた。
シャルには必要な事を話しておくようにアリアに指示しておいた。理解出来るかはわからないが、シャルは屋敷を守ってくれる大事なメイドの1人だ。最低限の事は話しておくべきだろう。
「全員揃いましたね。」
ベルが確認する。大事な話というからには、魔獣政策関連の新情報が手に入ったのかもしれない。それかイリア関連で何か重大な動きがあったのだろう。ベルが全員を集めて話をするなんてそれくらいしか思いつかない。
「あ、あの……いいですかー?」
ベルがいざ話そうとしたら、幼い声がそれを遮る。
「こら、シャル。邪魔をしてはいけないでしょ。」
主人の話し合いに口を挟もうとしたシャルを一喝するアリア。
「アリア、いいから。シャルちゃんどうしたの?」
シャルはとても優秀なメイドだ。わざわざ口を挟むという事は、何か大事な話があるという事だ。
「アキさん、ありがとうございます!えっと皆が揃っているので……えっと……はい、これ!」
シャルは持っていた袋の中から大量のアキ人形を取り出す。まさかの出来事に全員が固まる。流石のアキもこれは予想外過ぎた。青天の霹靂どころではない。
「みんなに頼まれてた分できましたー!」
「「「「何で今出すの!?」」」」
ミルナ達が声を揃えて叫ぶ。
「ほう……お前らシャルちゃんに何頼んでるんだ……?」
こいつら本当に何をしてんだとミルナ達を睨む。必死に違うんですと言い訳してくるが、問答無用だ。アリアが無言で差し出した銀トレーを受け取り、一発ずつぶん殴る。
「リオナにエレンまでなにしてんの。」
「だって欲しかったんだもん……。ごめんね?」
「そうよ!欲しかったのよ!」
レオは自慢の尻尾をシュンとさせ、謝ってくる。エレンも口では素直じゃないが、目が「ごめんね」と謝っているので1発で勘弁してやる。しかしエレンとレオを殴るのは相当珍しい。前に1回あったかどうかだろう。だから真面目な2人までシャルにお願いしているのは正直ちょっと驚いた。
「シャルちゃん?ちなみにあそこの兎と金髪剣士は依頼したのかな?」
「はい!」
シャルが元気よく返事をして教えてくれた。とりあえずうちの兎の耳を無言で引っ張る。
「だってええええ!耳!耳を引っ張らないでええええ!」
そしてエリスのほうを見ると、冷や汗をダラダラと流しているようだ。そんな彼女にはこの一言をくれてやる。
「なるほど、これで妄想が捗るわけだな、エリス。」
「ち、違うのだー!」
顔を真っ赤にして蹲るエリス。エリスの妄想癖は変わらず健在のようだ。まあこれである程度お仕置き出来たからいいだろう。
「シャルちゃん、あんまり俺の人形量産しないでね……?」
「ダ、ダメでした?ごめんなさい!」
目を潤ませて上目遣いで謝ってくるシャル。これは卑怯だ。こんなの可愛すぎて怒れない。
「ううん、全然だめじゃないよ。お姉ちゃん達を喜ばしてくれてありがとうね。」
それに人形を受けとったうちの子達は凄く嬉しそうにしている。だからシャルを責める事はできない。悪いのはそもそもシャルに人形を作らせたあいつらだ。
しかしミルナ達はアキがあっさりと白旗を上げたことに唖然としているようだ。ベルまでもが口に手をあてて驚いている。だが仕方ないだろう。こんな可愛いシャルを怒る事なんて出来ない。
「アキさん、部屋汚してしまいましたー!」
「私も!少し散らかしてしまいましたわ!」
何故かこのタイミングでソフィーとミルナが堂々と汚部屋宣言をする。エレンやレオは「馬鹿じゃないの?」と呆れているが、ミルナとソフィーは何か計画があるようで、悪いにやけ顔をしている。
嫌な予感しかしない。だがまずは説教だ。このダメ人間共の根性を叩き直さねば。
「自ら罪を告白するとは。お仕置きは軽めにしてやる。」
アリアから再び銀のトレーを受け取る。3発くらいで許してやろう。
「シャルちゃん!アキさん酷くないですかー?やめるようにいってくださいです!」
「そうですわよ!女の子を殴ろうとしてるアキさん、最低ですわよね?」
どうやらさっきのやり取りを見て、アキはシャルに弱いと察したらしい。そしてここぞとばかりにシャルを使ってお仕置きを逃れようとしている。さすがミルナとソフィー。碌な事を考えない。
しかしアキとしては正直痛いところを突かれてしまった。ここでシャルに「やめてあげて?」と言われたら確かにこれ以上手出し出来ない。悪知恵の働く暗黒物質と駄エルフだと2人を睨みつけるが、彼女達は勝ち誇ったようなドヤ顔だ。ちょっと……いやかなりイラっとした。
「え、なんで?」
シャルが真顔で返事をする。そのまさかの反応に部屋が静まり返った。
「あれ?シャルちゃん?」
ソフィーが恐る恐るシャルにどういう意味か尋ねる。
「アキさんがする事は全部正しいんだよ?早く殴られたら?それに私はアキさんのメイドだもん。お姉ちゃん達のメイドじゃないし。」
言ってる事がアリアそっくりだ……。なにこれ、アリアの生き写しか。しかしまさかシャルがあっさりとミルナ達を見捨てるとは思わなかった。
「当然です。アキさんが正義ですと教え込みました。」
アリアが誇らしげに告げる。人はそれを洗脳という。どうやら元凶はやはりうちの腹黒メイドらしい。妹になに教えているんだ……。
「で、でもお人形は快く作って下さりましたわよね?」
ミルナがおずおずとシャルに聞く。なんとかシャルを味方につけようと必死だ。
「仲間だもん。アキさんは仲間を大事にする人だってお姉ちゃんから聞いているし、仲間はそんちょーしないといけないから!」
シャルが胸を張って言い切る。偉い。
「シャルちゃんはいい子だねー。」
シャルを撫でてやる。アキに褒められたのが嬉しいのか、シャルが「えへへ」と可愛らしく笑う。まだ幼気な少女なのに仲間を貶しては駄目だとちゃんと分かっている。少しはミルナやベル達にも見習って欲しいものだ。
「それに比べてこの自堕落エルフと腐れ巨乳魔法使い。部屋を汚しただけでなく、シャルちゃんまで使って言い逃れしようとは。その腐った根性叩きなおしてくれる。」
「「ま、まってえええええ!」」
トレー30発分で勘弁してやった。ミルナとソフィーは床で伸びているが、自業自得だ。まあこの子達の防御力だったら大したダメージではないだろう。結構痛いとは思うけど。エレンやレオは完全に呆れ果てた目で床に転がっているミルナとソフィーを見つめている。
まったくこの2人は……と溜息を吐きつつ振り返ると、今後はうちの王女様が暴走を始めていた。
「シャルさん!さっきのお人形!私にもください!何万金でも出します!」
「はい!タダでいいです!王女様!」
シャルが余分に作っていたであろうアキ人形をベルに渡していたので、手に持っていた銀のトレーをベルめがけておもいっきりぶん投げる。目を離した隙に何をやってるんだ、あの王女。
「きゃっ!うぅ……アキさん!王女に物投げないでください!」
「うるさい、この馬鹿ベル。」
アキが睨みつけるとだってだってと駄々をこねるベル。ちょっと可愛い。
だが次の瞬間、全ての雰囲気をぶち壊すかの如く、シャルがまさかの行動に出た。
「えぃ!」
ベルのドレスの裾を一気に捲り上げるシャル。しゃがんで何をしてるのかと思ったら……この子の行動は予想外過ぎて全く読めない。
ただ絶景かな。ベルの真っ白で綺麗な足、そして太ももが露わになった。素晴らしくエロい。ついつい視線を奪われてしまう。よくやったシャル。
「きゃああああああああ!」
乙女らしい悲鳴を上げ、ベルがドレスの裾を抑えて蹲る。
「ところで……シャルちゃん何やってるの?」
「王女様の色の確認です!」
「おい、アリア?」
シャルの事は一旦おいておく。こんな碌でもない教育する人間は1人しかいない。洗脳を通り越して何を教えているんだ。シャルの前で悪いとは思うが、差し出されたトレーを受け取り、思いっきりアリアぶん殴る。このど変態メイドが喜ぶだけなのはわかっているが、とりあえず殴っておくべきだと思った。
「ってあれ?俺さっきトレー投げたよな?今俺は誰からトレーを受け取ったんだ?」
うちのメイドは目の前にいる。アキに殴られた喜びに浸ってはいるが、目の前にいる。ならアキは誰からこのトレイを受け取ったのか。不思議に思い、トレーが差し出された方向に顔を向ける。
「違います!アキさん!お姉ちゃんを殴るときはこうもっと斜めからです!」
まさかのシャル。そしてアリアが喜ぶ殴り方を力説してくる。
「俺……早まったのか……?」
この子絶対アリア以上の存在になる気がする。下手したら最凶じゃないか……と頭を抱える。アキに絶対服従していて、すぐに下着の色を確認しようとする。それでいて毒舌で容赦がない。さらに一番質が悪いのが、悪気がない事だ。こんな健気で無邪気な子供を怒ることなんて出来ない。
「アキさん……ポイしてくださいですー。」
「ええ、手遅れになる前にポイしましょう。」
ソフィーとミルナが真顔で提案してくる。
「アキさん、シャルの事ポイするですか?」
さっきのように目を潤ませ、懇願してくるシャル。卑怯だ。アキにはやはりこれを断る術はない。
「しないよー。シャルちゃんいい子だからね。」
「やった!じゃあミルナさんとソフィーさんポイしましょう?」
「うん、わかった。ポイするね。」
シャルのお願いについ無意識に同意してしまった。
「「ちょっとアキさん!!!」」
ミルナとソフィーが今度は泣きそうになっているので、冗談だと撫でてやる。
「アリアまともに教育しろ。」
「はい……さすがにちょっと自分でも怖くなりましたので今後は気を付けます。」
アリアとアキ以外の全員がシャルに一瞬で殺られるとは思ってもみなかっただろう。さすがにアリアも反省して教育の方向性を考え直してくれるようだ。それで少しはましになればいいが……アリアと血が繋がってる時点で先が思いやられる。
「ベル、大丈夫か……?」
とりあえず一番の被害者であるベルを慰めてやる。うちの王女様はまだ顔を真っ赤にして涙目だ。
「うぅ……不敬……極刑にするー……。」
「許してやりなさい。もうやらないようにちゃんと言っておくから。」
そっとベルを撫でてやると、コクコクと小さく頷く。
「シャルちゃん?もうやっちゃ駄目だよ?」
「ダメですか?うーん、わかりました!アキさんが言うなら!」
一瞬シャルが何を悩んだのかもの凄く気になるが、とりあえずちゃんとアキの指示には従ってくれるようだ。
「ちなみに王女様の今日の色は水色でした!」
「うん、知ってる。見えたからね。」
「ア、ア、アキさんのばかあああああ!!!」
結局ベルにとどめを刺したのはアキの一言だったようだ。




