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異世界の観察者  作者: 天霧翔
第十四章 次手
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1

 ミレーからエスペラルドに帰国して数日が経った。


 無事ベルの護衛依頼も完了したという事で、暫く休日とした。ただベルがいないのはどこか落ち着かない。ずっとミレーでは一緒に生活していたから急にいなくなると不思議な感覚になる。まあベルの住まいは王城だし、仕方のない事なのだが。


「王城で荒れてないかな……それが心配だ。」


 アキが居ないところでは常に不機嫌だとベルの側近やメイドが頭を抱えていた。うん、ベルの事だから間違いなく荒れてそうだ。


「うちの王女の事は考えないようにしよう。」


 現実逃避する事にした。


 しかしやはり自分の屋敷は落ち着く。余計な気を遣う必要がないのが素晴らしい。ミレーはレスミアに居た時もそれなりに楽しかったが、訪問自体が仕事だったので、常に気は張っていた。


「自分の屋敷でごろごろするのは落ち着くな……。」


 たまたまリビングを通りかかったセシルを捕獲して兎耳を愛でる。


「きゃっ……!また……!そうやってすぐに触る……!」


 セシルは頬を膨らませる。でもいつも「仕方ないですね」と結局はアキの好きにさせてくれる。優しい兎だ。


「アキさん!またセシルさんの耳触って!いつまでごろごろしてるんですの!」

「そうですー!ダメ人間になります!」


 そんなアキの自堕落生活にミルナとソフィーが文句を言ってきた。


「2人だけは言われたくないんだけど?ここ数日何してたか言ってみなさい。」


 確かにアキは今ぐーたらしているが、毎日この子達に料理を作ってやってるし、オリハルコンの実験だってちゃんと行っている。だがミルナとソフィーが何かしているのを見た覚えがない。そのくせ文句をつけてるのだから見上げた根性だ。


 ちなみにエレンとレオは暇を見つけては料理を覚えようとしたり、アリアのお手伝いをしたりしているのを見かけた。そしてそのアリアは家事全般をやってくれているし、セシルはオリハルコン関連の情報整理を手伝ってくれている。エリスはひたすら訓練だ。日々戦闘技術の研鑽に努めている。


「ダメ人間はどっち?」


 アキはゆっくりと2人に近づく。お仕置きされるとわかったのか、ミルナとソフィーは冷や汗を垂らしながら必死に言い訳をしてくる。


「ま、待って!アキさん、違うんですわ!」

「そ、そうです!私は毎日一生懸命お部屋を綺麗にしてました!だから褒めてくださいですー!」


 問答無用とアキは2人の頬をおもいっきり抓る。


「それは当然の事だ。何が褒めろだ。この駄エルフめ。」

「ひゃってー(だってー)!」


 ソフィーとミルナがやめてくださいと涙ながらに訴えてくる。


 最近この子達は、涙を見せればアキは強く出られないと理解したらしく、涙を武器に応戦してくる。やっかいだ。確かに彼女達の涙には弱い。余計な知恵を身に着けやがって……。


 そんな一幕をエレンとレオは「またやってるよ」とアキの作ったお菓子を食べながら眺めている。この2人は最近色々と頑張っていたので、今日はご褒美にクッキーを作ってやったのだ。その時のエレンとレオの喜びようは微笑ましいくらいに可愛くて和んだ。


「あー!エレンにレオずるいー!私も食べる!」

「私にもくださいませ!」


 反省の色が微塵も見えない駄目人間共を引っ叩く。


「お前らのはない。諦めろ。エレンとリオナのおやつを取るな。」

「「そんなー!」」


 ミルナとソフィーが頬を膨らませて矢継ぎ早に非難を浴びせてくる。


「大体最近アキさんは私とソフィーに冷たいですわ!」

「ですです!エレンとレオばっかり甘やかしてずるいです!」


 自分の事を棚にあげる能力には飛び抜けている2人。さすがだ。だがアキとて成長するのだ。最近はこんな2人の扱い方はちゃんと心得ている。


「どうやらミルナとソフィーは反抗期のようだ。そんな2人には特別に俺から贈り物をしてやろう。」


 プレゼントと聞いて一気に目を輝かせる2人。この流れで本当に貰えると思っている2人の根性が凄い。エレン達やセシル達の冷めた視線をみればわかるだろうに。


「漆黒のソフィーよ。最近は黒だけじゃなく深紅色にも手を出したらしいな。」

「な、な、なんで知ってるんですかー!ばかー!」


 さらっと秘密を暴露され、顔を真っ赤にするソフィー。


「ソフィーは大胆なんだね?」

「ち、ちがうんですー!」


 暴走さえしてなければという注釈はつくが、ソフィーは女の子らしくてとてもお淑やかだ。だが下着の色からして、意外に大胆な一面を持っているのかもしれない。


 まあとりあえずソフィーはこれくらいでいいだろう。


「ミルナ。」

「ま、待ってくださいませ!」


 ソフィーの二の舞にならないようミルナが必死にごめんなさいしてくる。だがもう遅い。ソフィーのを暴露したのだから当然ミルナのもしなければ。


「なんでも『世界の理を持って~』ってエリザの詠唱が気に入ったらしいな。部屋で鏡に向かってポーズを決めながら詠唱しているそうじゃないか。」

「し、してない!してませんわ!」


 根も葉もない嘘ですと否定するミルナ。何とかして誤魔化そうとしてくる。だがアキの情報源は確かだ。そんな弁解は通用しない。往生際の悪い暗黒物質だ。


 ミルナは詠唱を恥ずかしがっているものだとずっと思い込んでいた。だが意外や意外、本人的には自分で考えた詠唱は結構カッコイイと思っているようで、よく部屋で決めポーズと一緒に練習しているそうだ。それを聞いた時少し驚いたが、なんだかんだで「なにそれ可愛い」と苦笑いしたのを覚えている。


「たいきをもやせーふぁいやー。」


 ミルナの決めポーズを真似をしてみた。


「ばかー!アキさんのばかー!やめてよ!」


 自分はカッコイイと思っているが、他人に見られるのは恥ずかしいようだ。だから無詠唱を覚えようとしているのかもしれない。しかし「ちょっと遅れてやってきた厨二病」なミルナが微笑ましい。ミルナは杖を可愛いから持っていると言っていたが、実際はこの決めポーズの為なのかもしれない。


「だ、大体なんでそんな事知ってるんですかー!」


 羞恥で悶えているミルナに代わり、ソフィーがぷんぷん怒りながらアキを問い詰めてくる。


「俺には優秀な影とメイドがいるんだ。」


 そうルティアとアリアだ。まあ今ルティアはいないが。だがミレーにいる時、ルティアにミルナ達の部屋がちゃんと掃除してあるかを調べさせた。その報告を受けた際、頼んでもいないのに、ミルナとソフィーの行動をルティアが詳細に報告してくれたのだ。そしてアリアはアリアでどこから調べてくるのか知らないが、人の秘密を山ほど手に入れてくる。だから正直ルティアとアリアがいる限り、ミルナ達の個人情報は全て筒抜けだ。


「というわけで全部バレバレなんだ。」


 アキの言葉に戦慄したように怯えるミルナとソフィー。エレン達は「大変そうだなぁ」と他人事のようにクッキーを齧っている。小動物みたいで可愛い。


「あら、エレンさんとレオさんのは言って差し上げないんですか?」


 アリアが紅茶を持ってリビングに入って来た。アキが紅茶をくれとお願いしたので淹れてくれたのだ。しかし相変わらずカップを1個しか用意しないアリアが凄い。意地でもアキ以外には淹れる気がないらしい。ミルナ達もアリアの事はわかっているので、もう文句は言わなくなった。ただそのせいで結局アキが他の子達の分を淹れる羽目になっているのだが……。何のためのメイドなのだろうか。


 まあそれはともかく、アリアはどうやら一部始終を聞いていたらしい。


「だってこの2人はなんも悪い事してないし?」


 いい子にしているエレンやレオの秘密をばらす必要はない。アキがそんな2人を横目でチラッと見ると、彼女達のお菓子を食べる手が止まっている。まさかの流れ弾にエレンとレオは冷や汗を垂らしているようだ。


「ア、アキ!あんた何を知ってるのよ!言いなさい!」

「ぼ、僕なんかしたっけ……?」


 言っていいのだろうか。この子達はミルナやソフィーと違い、自堕落な生活を送ってないからお仕置きする必要はない。アキがどうしたものかと迷っていると「早く言え!」とうちの猛獣が急かしてくるので、仕方なく発表してやる。


「リオナは部屋で俺が選んだ女性物の服を着て楽しそうにしてる。」

「べ、別にいいよね!なにかおかしいかな!?」


 レオの言う通り、何も恥ずかしい事はない。大体レオは女の子なんだから女性物を着て当然だ。彼女のそんな行動もとても可愛いと思う。


「こ、今度アキに見てもらおうと思って……せっかく買ってもらったのにまだ見せてないから……。」


 確かに選んであげた服を着たところはまだ見てない。レオに楽しみにしておくと伝えてやる。


「わ、私はどうなのよ!何を知ってるのか吐きなさい!」

「いいの?」

「い、いいから早くしなさい!」


 絶対に言わない方がいいと思うのだが……エレン本人が言えというならしょうがない。


「ミルナに教わった悩殺ポーズとやらを鏡の前で練習して満足そうに頷いているんだってね。で、それはいつ見せてくれるの?」

「は、はぁぁぁぁ!?し、知らないわよ!なによそれ!」


 そんな事実は無いと頑なに認めようとしないエレン。だが顔が真っ赤だし、目が泳いでいるし、軽く涙目だ。間違いなく事実なのだろう。


「ところでセシル、エリスのは何かないのか、アリア?」

「はい。聞かれると思い、ちゃんと用意しております。」


 基本的にアリアはうちの子達の事しか報告してこない。ただアリアの事だから残りの子達の事も調べ上げているだろうと思い、聞いてみたのだが、やはり知っているらしい。アキは残りの2人の秘密も話すようアリアに促す。


「ま、待つのだ!アキ!」

「なんでえええ!私関係ないよおお!」


 エリスとセシルはアキを止めようと必死だ。まあ彼女達の言う通り確かに関係ない。だがここまできたら聞くしかないだろう。それが世の常だ。


「一蓮托生という言葉があってだな。諦めろ。」

「では僭越ながら。セシルさんはいつアキさんに耳を触られてもいいように手入れを欠かしておりません。特に寝る前は念入りにして翌日に備えるという徹底ぶりです。」


 さすがセシルとつい拍手してしまう。なるほど。彼女の兎耳の触り心地がいつも最高な理由がやっと解けた。


「ありがとう、セシル。」


 セシルが恥ずかしそうに「だってええええ」と蹲ってしまったので、彼女の自慢の兎耳を撫でて落ち着かせてやる。


「うぅぅ……・もぉ……・。」


 それにセシルの秘密はレオと一緒で別に恥ずかしくもなんともない。アキの為にやってくれているのだから感謝しかない。


「ではエリスさんですが……毎晩毎晩枕をアキさんに見立てて『ア、アキ、ダメなのだ……!』と妄想して悶えております。」

「……そ、そうか。」


 うん、これは恥ずかしい。流石のアキもどう反応していいのかわからない。気まずい。ついエリスから視線を逸らしてしまった。


「アキ、違うのだー!」

「エリス……そのごめん。」

「ばかぁぁぁぁ!」


 エリスが叫びながらリビングを飛び出していった。なんか泣いていた気がしなくもない。戦闘以外だとやはりメンタルもダメダメらしい。しかしあれは暫く戻って来ないだろう。自分の妄想癖を暴露されたのだから仕方ない。あれが自分だったら普通に死にたくなる。


「見事に死屍累々だな。うちの影とメイド怖い。」


 気づいたら全員が多大なるダメージを受けているのだから凄い。きっとこれからもアリアとルティアがいる限りはこれが繰り返されるのだろう。


「わ、私達だけ秘密を暴露されるなんてずるいですわ!アリアさんのは何かないんですの!?」


 羞恥で悶えていたミルナだが、復活したらしい。アキの胸倉を掴んで「言ってくださいませ」と揺すってくる。だが残念ながら今ルティアはいない。そしてアリア自身がもう1つの情報源だ。つまりアリアの秘密なんてアキが知っているわけがない。


「そ、そんな……何か!何かないんですの!」


 ミルナが食い下がってくるが、もしあったらもう言っている。アキとしてもアリアの別の一面があるなら是非見てみたい。


「ふはは、相変わらずアキのところは賑やかじゃの。」

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