19
無事晩餐会も終了だ。後片付けをして明日の準備をしなければ……と思ったが何故か馬車で帰ったはずのアイリスとエスタートがリビングに戻って来た。ミルナ達やアリア達も不思議そうに首を傾げている。
「爺ちゃんにアイリス女王。どうしました?忘れ物ですか?」
「いえ、アキさんにお話がありまして。」
どうやらアイリスとエスタートはいつの間にか打ち合わせしていたらしい。ちなみにエアルとミリーはイリアナが別の馬車で送ってくれたのだが、それもこれが理由だったようだ。この世界の仕組みを知っている人だけ残す為にエアル達を帰らせた。つまりアイリスの話は魔獣政策関連なのだろう。
「はい、アキさんの予想通りです。それ関連の話です。」
アキの考えを読んだのか、アイリスが微笑む。
「ふはは、わしも同席するようにと言われての。」
爺さんがやたらと楽しそうだ。意外に好奇心旺盛な爺さんだからこういう話には興味があるのだろう。
「それでアイリス女王、なんでしょう。」
「ええ、まずはこちらをお渡しします。」
アキはアイリスからカードのような物を2枚受け取る。ミレーの紋章が入っているようだが、なんの役割を果たすものなのかは見ただけではわからない。
「そちらはミレー王国通行許可証です。それを見せれば無条件で入国できます。」
それを聞いたミルナ達は目を見開いて驚いている。彼女達の反応から見るに相当な特別待遇なのだろう。そして2枚というのはセシルとアリアの分だ。アキ達はSランクなので自由に国境を行き来できる。ただアリアとセシルは従者登録しているとはいえ勝手には入国出来ない。アキが国境を渡る度、各国に同行許可証の発行を申請しなければならない。毎回申請していたのでは時間と手間もかかる。それに申請しているの情報が外部に漏れると、アキ達の行動も色々筒抜けになるだろう。
ちなみに今回のミレー訪問もベルに依頼をでっちあげてもらう必要は正直なかった。アキ達はSランクなので自由に行き来できる。ただSランク依頼を冒険者協会から発行されそうになっていたので、ベルに手を回して貰ったのだ。
「今後必要になると思い、特別にアリアさんとセシルさんの分を準備しました。」
「ありがとうございます。アイリス女王。本当に助かります。」
「アキさん、そしてもう1つあります。」
てっきり通行証を渡しに戻って来たんだと思ったが、確かにこれだけのわけがない。通行証であれば別にエアル達の前で渡しても問題ないはずだ。つまり今からアキに渡そうとしているものが今回の目玉だという事になる。
アイリスは脇差くらいの長さの直剣を取り出し、アキに差し出してくる。
「これは?」
「オリハルコンです。」
「「「「なっ!?」」」」
ミルナ達が唖然とする。ベルや爺さんでさえ目を見開いている。つまり本当にあり得ない贈り物なのだろう。さすがのアキもオリハルコンが出てくるとは思わなかったので少し驚いた。
「ふふ……アキさんは本当に表情を読ませませんね。」
「いえいえ、癖ですから。」
アイリスは不敵な笑みを浮かべるが、この程度の事で動揺していたらうちの子達の望みを叶えてやることなんて出来ない。魔獣制度改革なんてもってのほかだ。
「女王陛下……よ、よろしいのですか?」
ベルが恐る恐るアイリスに尋ねている。他国の冒険者であるアキに国宝級宝具を貸与していいのか気になっているようだ。
「ええ、迷いましたがアキさんには研究してもらわないといけませんし、必要なものでしょう。それにアイリーンベル王女殿下はオリハルコンを自由に貸与できませんよね?そうなると私が適任かと思いまして。」
「た、確かにそうです……。」
アイリスの言う通りだ。ベルはあくまで王女であって女王ではない。王と王妃が健在である限り、オリハルコンの管理や所持は王が行う。ベルも見る事くらいは出来るだろうが、自分の物として所持したり、貸与したりする事は難しい。一度貸して貰えないかベルに聞いてみたが、目を盗んで持ち出せばと言っていたのでやめさせた。
だがアイリスであれば女王なので自由にオリハルコンを所持できる。誰に貸与したとしても問題はない。
「イアイリス・ミレー女王陛下。オリハルコン武器、謹んで拝借させて頂きます。」
「はい、エスペラルドSランク冒険者アキ殿。有効に使ってください。」
流石に正式な返礼が必要だろうとアキは丁寧に礼をする。それに対しアイリスはくすくすと優しく微笑んでアキに返事をしてくれた。
「それで何かわかります?」
アイリスが期待を込めた目で尋ねてくるが、オリハルコンを持っただけでは特に何もわからない。
「どうなの、アキ君!何かわかる!わかるなら教えなさい!」
「落ち着け、バカ猫。」
エリザは居ても立っても居られないようで、身を乗り出して聞いてくる。さっきまで拗ねて怒っていたのはどうしたと呆れる。でもまあエリザの気持ちもわかる。オリハルコンが手元にあるという事は、大気魔素に関する研究が出来るという事だ。
ただこんなもの普段から持ち歩くことはできないので、屋敷で厳重に管理しなければならないだろう。今の屋敷では保管に一抹の不安が残るので、早速爺さんに相談してみる。
「爺ちゃん、さすがに今の屋敷に置くのは不安だ。金庫とか隠し部屋とか作れないかな?」
「うむ……それはわしも思っておった。手配しよう。エスペラルドの屋敷でよいか?もしサルマリアに行くのであればそういった設備がある屋敷も手配しよう。」
もちろんそれで構わない。さすが爺さんだ。
とりあえずこれで保管の目途は立った。所持している事は絶対にバレてはいけない。ミルナ達にも口外しないように注意したところ、激しく頷いていたので大丈夫だろう。
続いてはいよいよオリハルコンの確認だ。
「ちょっと抜刀してみるか……。」
アキはオリハルコンの剣を鞘から抜く。やはり地球に転送された遺物と一緒で、くすんだ刀身をしている。
「エリス、前にみたのはこれか?」
「うむ、それなのだ!」
エリスにも確認するが、間違いないらしい。
一応斬れ味も見ておきたいので庭にでる。まあアキの月時雨の方が遥かに輝きを放っているくらいだから武器としての性能は期待出来ないが。
全員、アキの実験が気になるようで、ぞろぞろと庭へついてきた。
とりあえずアキは庭にあった低木めがけてオリハルコンの剣を振るう。だが少し傷が入った程度で、斬ったというより「切った」感じだ。やはり武器としては機能しない。アキの剣閃が鈍かったわけじゃない。念の為に月時雨でやったら普通に低木は真っ二つになった。
「俺の月時雨の方が斬れ味は格段にいい。つまりこれは武器じゃない。」
エリスもエリザも同意見のようで、うんうんと頷いている。
「ということはやはり魔素利用に関するものという事でいいのか?」
アキは顎に手を当て、頭を回転させる。
「とりあえずオリハルコンで大気魔素が利用出来ると仮定するとして……そもそもどうやってそれを利用しているかだ。」
オリハルコンを見た感じ、何か特殊な機械が埋め込まれているわけでもなさそうだ。刀身を確認しても、未知の金属で出来ているだけで、中に空洞などは存在していない。つまり大気魔素の利用が出来るのだとしたら、この金属自体に大気魔素を体内魔素へ変換出来る作用があるということになる。
「オリハルコンが……魔素を強制的に集め変換する?」
ふと思い浮かんだ。まあこの世界の知識では魔素集約なんて現象理解は不可能だろう。ただもし魔素が酸素のような原子物質だと仮定した場合、魔素集約は地球の化学知識を応用すれば可能だ。酸素であれば、水に溶けにくい性質を利用して、水上置換法で集める事ができる。中学校の理科の実験レベルだ。
そうと分かれば早速実験だ。まず魔素が空気より重いのか軽いのか、水に溶けやすいのか溶けにくいのかなど、魔素の性質を判断する。そうすれば集約方法は自ずと見えてくる。
「ただ集めて大丈夫か?」
集めた魔素はどこへ行く?オリハルコンの剣から体内に入ってくるのであれば危険な気がしなくもない。体内に蓄積できる魔素の量は決まっているわけで、それを強制的に過剰摂取したらどうなるかわからない。酸素の過剰摂取も酸素中毒となり命の危険性がある。
「ベル、オリハルコンを所持していた人間で、謎の死を遂げた者はいる?」
「いえ、私の知識にはありません。」
ベル同様、アイリスも知りませんと首を振っている。
実例がないからと安心は出来ない。どうしたものかと悩んでいたら、虚空から声が響く。キーリだ。
「アキ。」
「どうした?」
何となくキーリがいるのはわかっていたので、驚きはしない。エリスやエレンは又気づかなかったと悔しそうに地団駄を踏んでいるが。
「いる。私みた。」
「詳しく。」
キーリの話によると、サルマリアの立ち入り禁止エリアで、オリハルコンを握った男性が倒れて死んだそうだ。どうやら魔獣が転送されている最中、オリハルコンを抜こうとしてそのまま倒れたらしい。
「ちょっとは役に立てた?」
「ああ。かなり。」
「そう、よかった。」
キーリはそう言うと再び気配を消す。
何故その男が魔獣の転送中にオリハルコンを抜こうとしたのかはわからない。何か手順を間違えでもしたのだろうか。まあそこはどうでもいい。大事なのは、魔獣が転送されている際、つまりオリハルコンが魔素を大気中から集めている際にオリハルコンに触れたという点だ。考えられる可能性としては、オリハルコンに触れた事で大量の魔素が体内に流れ込み、魔素中毒の状態になって死亡したということだろうか。
とにもかくにも、キーリの情報のおかげで危険性を理解出来た。
「ということは体内に入ってこないように魔素を集約すればいいか?」
オリハルコンを媒介に、水上置換法などで魔素集約したら、魔素が体内に侵入し、その男と同じ事になる可能性が高い。だが酸素をフラスコに集める実験のように、魔素をオリハルコンの剣に集約するように現象理解すれば魔素は体内に入ってこないのではないか。
やってみる価値はあるだろう。それにもし体内に魔素が入ってきたらすぐにわかるはずだ。その時は即座に魔素集約を止めればいい。
「ちょっとやってみる。」
「アキ君、だ、大丈夫なの!」
エリザだけでなく、全員が心配そうな表情をしているが、問題ないと伝える。アキの知識であればある程度は対応可能だ。何もわからずに集約するとかなり不味いが、魔素の使い方を大分理解してきている今なら大丈夫だろう。
アキは改めてオリハルコンを抜刀する。そしてオリハルコンをフラスコのような物に見立て、水上置換法で、大気中にある魔素を集約するイメージをオリハルコンに通達。これでダメなら下方置換法等を試せばいいと思ったが……どうやらその必要はなさそうだ。
「集まっている……のか?」
魔素のような物が集約されている感覚がある。体内まで取り込むイメージはしていないのではっきりとはわからないが、おそらくこの感覚は魔素で間違いないだろう。
よし、魔素集約は出来たと仮定しよう。
あとはこれを体内魔素に変換する必要があるが、その方法は思いつかない。大気魔素と体内魔素の違いがわからないので、現象理解できる術はアキにはない。ただ……もしかしたらオリハルコンが勝手にその役割を果たしてくれているのかもしれない。そうであるならこのまま魔法が使えるはずだ。もし使えたのであれば、オリハルコンは大気魔素を集約し、体内魔素へと変換してくれる物質ということになる。
「今まで魔素不足で不可能だった魔法を試しに使ってみるか。」
超高温の炎や絶対零度の氷魔法などは周りに被害が出る可能性があるので却下だ。現実的に考えて、いつもの火球を超高速で打ち出すという実験でいいだろう。今までは200kmくらいが限界だったが、大気魔素を使えば音速以上は余裕で出せるのではないか。
「魔法を使う。あの木を狙うからエリスとエリザは特によく見ておいて。」
「任せておくのだ。」
「わかったわ。」
アキは1000℃くらいで拳大の炎を剣先に顕現させる。するとアキの想像通り、炎が剣先に顕現した。これが自身の体内魔素によるものなのか、大気魔素で集約した魔素による発動なのかはわからない。だがそれも次で全て判明する。
アキは早速高速で火球を撃ち出す。さすがに光速だと街ごと壊滅しそうな気もするので、銃弾ぐらいの速さにとどめる。銃弾は物にもよるが、マッハ3くらいは出るそうなので、検証には十分だろう。アキは銃の構造をイメージし、その情報をオリハルコンに集約させた大気魔素に通達。そして次の瞬間……
ドンッ
剣の先に浮かんでいた炎がいつの間にか木に着弾して燃えている。マッハ3だと人の目では到底追えないので、エリスやエリザには火球が消えたように見えただろう。実際アキにも見えなかったし。
「エリス、見えたか?」
「い、いや……無理だ。早すぎる。人間が反応できる速度を超えているのだ。今は炎を生成して溜めてから放ったが、いつものように即発射されたらまず不可避なのだ……。」
いつもより少し饒舌になっているエリス。見たものが信じられないのか興奮しているのだろう。そしてエリザはポカンと口を開いて、完全にアホの子になっている。
「そこのアホ丸出しの我が猫よ。」
「だ、誰がアホ丸出しよ!」
あ、ちゃんと悪口には反応した。
「今の魔法、理解できた部分はあるか?」
「はぁ……ないわ。わかるわけがないわ。」
エリザは両手を挙げ、お手上げだと呟く。
「そうか。よし、念の為にもう1つ実験する。」
今度は月時雨で同じことを行う。オリハルコンは大気魔素を集約して体内魔素へ変換してくれるものだと先ほど予想したが、集約は別にオリハルコンである必要はないかもしれない。もし月時雨でも集約が可能ならば、オリハルコンの役目は大気魔素を体内魔素へと変換する為の物質だと断定できる。
「予想通り魔素は集約できてるっぽいな……。でも魔法は使える気がしない。」
月時雨で大気魔素を集約してみたところ、集約されているような感覚を感じる。ただその魔素を利用出来る気はしない。体内へ取り込もうともしてみたが、無理だった。やはり体内魔素へ変換してからでないと体内へ取り込むことも出来ないようだ。つまりアキの想像通り、この未知の金属であるオリハルコンの役割は、大気魔素を体内魔素へ変換する事なのだろう。
「なるほどなるほど。」
アキが納得して1人で頷いていると、ミルナ達が「説明してください」と文句を言ってきた。とりあえず彼女達には後でちゃんと教えるからと宥めておく。相当噛み砕いて説明しないと理解出来ないだろうから後回しだ。
それよりベルやアイリス、そして爺さんの方だ。この3人は先程から難しい表情を浮かべて考え込んでいる。おそらく、オリハルコンが使えたという事実より、その影響力を危惧しているのだろう。
「ベル、アイリス女王。さっきの魔法は正直かなり手を抜きました。おそらくこの数百倍の威力はゆうに出せるでしょう。レスミアを一瞬で焦土と化すくらいは余裕ですね。」
「そうですか……。これはアキさんの言う通りでしたね。オリハルコン、これはあってはならないものです。世界征服どころか滅亡すら余裕でしょう。」
アイリスが困った表情で返事をする。
「アキさん、アキさん、今のこの世界の人にはそれ……使えそうですか?」
今度はベルが不安そうな顔で尋ねてくる。まあ彼女の心配はもっともなので、安心させてやろう。
「無理だな。俺の世界の知識を理解している人であれば出来るが、この世界の人にはそれを理解する事すら難しいだろう。」
アキは魔素を集約した方法を掻い摘んで説明する。
集約した魔素を体内にいれてしまうと多分死ぬので、的確な現象理解が出来ないと、オリハルコンがあったところで大気魔素の直接利用は難しい。まず大前提として、ある程度原子論を理解している事、そして化学知識に精通している事が絶対だ。それがあって初めて大気魔素の集約が安全にできる。さらに、先ほどのような魔法を使うのであれば、的確な燃焼の現象理解に加え、銃の構造理解も必要不可欠だ。銃の構造なんて地球の人間でさえ理解していない者もいるだろう。つまりこの世界の人間にはおそらく、いや間違いなく不可能だ。
「詠唱を加えれば可能かもしれない。ただそれで果たして魔素集約が的確にコントロールできるかと言われれば疑問でしかないな。」
そもそも詠唱が何故現象理解の代用になるのか。何故詠唱で魔素を利用出来るか自体が不明だ。そんな不明確なものを実験に使うのは危険すぎる。
「大体このオリハルコンってなんだ?なにで出来ているんだ?何故この金属は大気魔素を体内魔素へ変換する事が出来るんだ。」
これについては調べる事は不可能だろう。地球の研究施設でもわからなかったものが、この世界の技術で解明できるわけがない。今のところはオリハルコンに関してはそういう物質として理解しておくしかないだろう。
「うーん……とりあえず簡単に言うと世界征服はアキさんにしか無理ってことでいいんでしょうか?」
アリアが首を傾げながら尋ねてくる。
まあ確かに簡単に総括してしまえばそう言う事なのかもしれない。
「そうかも?」
「いつしますか?」
何故か目を輝かせて世界征服を勧めてくるアリア。
「なんでだよ。」
やめなさい。ベルとアイリスが本気で心配しているからやめなさい。
「しかしこんなすぐに出来るとは思わなかった。でもおかげでわかった事がある。」
細かい理論はおいておいて、オリハルコンがあれば大気魔素を直接利用出来る事は確定した。つまり立ち入り禁止エリアの魔法印はオリハルコンを媒介にして、大気魔素を集約、魔法を発動させている。この線で間違いないだろう。
「そしてオリハルコンをこの大陸に提供した何者かは使い方がわかっていない可能性が高い。」
いや……使い方はわかっているが、魔素集約の方法を理解出来ないので使えない、と言うのが正しいのだろう。魔獣召喚元の文明は地球程ではなく、この世界と同等か少し進んでいるくらいのはずだ。だからこそ魔法印なんて面倒な媒介を使っているのだ。もしアキのように魔素集約できる知識があるのならそうしない理由がない。だから実験と研究の為にこの大陸の各所に魔法印を設置したのではないだろうか。
「あとこれは俺の予想だけど、召喚元の文明は滅んでいるんじゃないか?」
こんな300年近くも魔法印とオリハルコンを提供したまま放置している意味がわからない。何かしらの長期運用実験とも考えたが可能性は低い。使い方さえわかれば大陸ごと滅ぼせそうな物を長期間放っておくわけがない。アキのような人物が現れ、召喚元へ乗り込んで暴れまわったら大災害になると普通は考える。魔法印の実験の為に短期で設置する予定だったが、召喚元が何かしらの理由で滅びた。そうしてこの大陸のオリハルコンや魔法印を回収する者がいなくなり、現在に至る……という推測が成り立つ。
「あくまで1つの予想だけどな。根拠もない。」
「なるほど、でも可能性としては大いにありますね。」
アイリスが納得したように頷く。
「これ以上は推測だけで話すことになるからやはり月夜の森の情報収集が急務かな。キーリ、頼んだよ。」
アキは虚空に向かって声をかける。
「うん、わかった。任せて。」
これでミレー側の調査は問題ないだろう。
「爺ちゃん、例の隠し部屋の件は任せた。」
「そうじゃの、最優先事項で手配しておこう。」
そしてアキの仕事はオリハルコンの理解を深める事だ。無限に大気魔素を集めることが出来るのか、それとも何かしらの制約があるのかなど、オリハルコンの使い方は色々調べておく必要がある。それに加えて立ち入り禁止エリアの魔法印がどういう構造でどういう役割を果たしているのかの解明も必要だ。
「では最後にまとめる。」
キーリは月夜の森の調査、アキはオリハルコンの研究。2つの情報が集まったらそれを統合して情報を整理。同時にセシルの母親からの連絡を待つ。アイリスとベルは冒険者協会の調査。そしてエリザは魔法組合に何か有用な情報がないかを確認。
「その後、サルマリアに行くのかを決める。イリアとキーリの依頼の件を考えると、サルマリアへ行く可能性が高そうだが……。何か質問は?」
アイリス、ベル、エリザは問題ないとのこと。爺さんも特にないが、独自の情報網で協会やサルマリアの事を調べてくれると言ってくれた。それは助かる。影にいるキーリからも「大丈夫、頑張る」と聞こえてきたし、とりあえず方向性としてはこれでいいだろう。
「あ、あのアキさん……?」
ミルナがおずおずと手を挙げる。どうしたのだろうか。
「なに?」
「あの……私達は……?」
「食って寝しとけ。」
「嫌ですわ!もうそれは嫌!せめてなにか!なにかさせてくださいませ!」
ソフィー、エレン、レオも必死に頷いているので冗談だと慰めておく。まあこの子達にはアキを守るという大事な役目があるので、側にいて貰わないと困る。とりあえずミルナのおかげで無事オチもついたし、今度こそ解散とする。
「それではアイリス女王、今度こそ本当にお別れですね。色々とご配慮ありがとうございます。」
アキは改めて女王に挨拶をする。
「はい、アキさん。この世界をいい方へ導いて頂けると期待しています。これからもよろしくお願いします。いつでもミレーに遊びに来てくださいね。そして音楽祭、楽しみにしていますから。」
アイリスは少しだけ微笑む。遠回しに「音楽祭までに何とかしてくださいね」とプレッシャーを掛けられているようだ。まあアキとしても音楽祭までにはかたをつけたい。暫くは休む暇もないだろう。でもきっとこれだけの人材が揃っているし大丈夫だ、と希望的観測を胸に抱く。
それよりアキには今やらなければならない重要な事が残っているので、アイリスと爺さんが帰ったのを見届け、全員に屋敷に入るように指示する。




