18
無事夕食も終わり、食休みがてらリビングで歓談している。実は女王が来るとわかってから、アキは計画していたことがある。今がそれを実行するチャンスだろう。
「アイリス女王、ひとつ余興を用意しました。」
そう、それがさっきミルナ達に頼んだ事だ。
「あら、なんでしょう?」
「俺の世界の音楽を披露したいと思いまして。」
「それは素敵です、是非お願いします。」
ちなみにエアルとミリーにもアキが異世界から来たという事は話しておいた。勿論このの音楽鑑賞会の為だ。エアル達であれば話しても大丈夫だと思ったし、なによりこの国の音楽を変えるのであれば、その程度の秘密なんてどうでもいい。アキがそう宣言した時、ミルナ達全員が「はぁ……これだからアキは。」と呆れた顔をしていたのを覚えている。まあ結局それがアキらしいと笑ってくれたのだが。
ちなみにエアルとミリーは秘密を明かした際、ちょっとだけ驚いていたが、別にアキはアキだからとすんなり受け入れてくれた。いかにもこの子達らしい。まあさすがに魔獣制度関連の事については伏せてあるが。
とにもかくにもアイリスが音楽に興味を示してくれたのは都合がいい。アキはここぞとばかりに畳み掛ける。
「そう!是非!是非!聴いてください!そしてこの国の音楽を変えてください!ほんとに!ほんとにお願いします!」
「え、ええ。そこまでアキさんが必死になるなんて……この国の音楽になにかご不満が……?」
アイリスが戸惑っている。アキが感情的になったのが珍しいのだろう。ミルナやベル達は「またアキの病気が出た」としょうがない子を見るような目で見てくる。やめろ。そんな目で見るな。それにうちの子達はアキの会話に巻き込まれないようにと遠巻きに様子を伺っているし、非常に癪だ。あとでおもいっきり苛めてやろう。
まあ今は余興の方が先だ。
「不満?不満しかないです!なんですかあれは!音楽ではなく騒音です!公害です!酷すぎてうちの猫が演奏した時、ぶっ叩いたんですからね!」
「そ、そうなんですか?では……是非アキさんのおっしゃる音楽を聴かせてください。」
たじろぎながらも頷くアイリス。ちなみにエリザは、その時の事を思いだしたのか、いつものように丸くなってしまった。ただ羞恥で悶えながらも「だ、誰がアキ君の猫よ!」と文句を言う事を忘れないあたりがエリザらしい。
「それでは始めますね。レオ、ソフィー、まずは2人からだ。頼んだぞ。」
うちの子達にしたお願いとは「第2回カラオケ大会をするから歌って欲しい」という事だ。ここでアイリスを感動させる事が出来れば、きっと音楽改革に力をいれてくれる。だからこそこのチャンスを逃すわけにはいかない。
その為に楽器も山ほど用意した……のだがよく考えれば楽器はいらなかった。アキがいつものようにタブレットから音楽を流せばいいだけだ。どうやら楽器を買いに行った時、アキは相当冷静さを失っていたのだろう。反省だ。
「がんばるね!」
「見ててださいですー!」
レオとソフィーは気合を入れて立ち上がる。
どの曲を歌うかは事前に決めておいたので、アキは早速その曲を再生する。前奏の段階で既にアイリスは目を見開いて驚いていた。まさに計画通り。そしてソフィーとレオの美しい歌声が音に重なると、誰しもが心地よさそうに彼女達の音楽に耳を傾けている。
「さすがレオとソフィー、上手だね。次はセシルとアリア。」
実はアリア達にもこっそり頼んでおいた。最初は恥ずかしいから嫌だと首を横に振っていたが、アキが誠心誠意頼むと快く引き受けてくれた。
そんなアリアとセシルの歌も素晴らしく、全員が心地よく響く彼女達の歌声に聴き入っていたようだった。
「次はミルナ。今度こそ練習の成果を見せるときだぞ。」
「ええ!見ててくださいませ、アキさん!私の勇姿を!」
ミルナがガッツポーズして勢いよく立ち上がる。
その自信満々な様子にベルやエレン達は心配そうな表情でアキを見つめてきたので、大丈夫だと目配せしておく。
そして早速ミルナの歌声が部屋に響き渡る。
必死に練習したおかげか、実はミルナはかなり上達しており、歌ってもらうに差し支えないくらいにはなっているのだ。以前のようにレオやセシル達が耳を塞いでいない。むしろミルナの上達ぶりに目を丸くしている。そしてどこか安堵したような表情を浮かべている。まあ……前回のアレは地獄だったからな。
「うん。上手くなったよ、ミルナ。」
「やった!ほんとですの!?」
まだまだ他の子達に比べると見劣りはするが、それでも以前とは天と地の差だ。なんせ普通に聴いていられるレベルになったのだから。たまに音を外すのは、ミルナの可愛いご愛敬、と思えば何も気にならない。むしろそれが彼女らしくてアキは好きだ。
「じゃあ最後にエレンとエリス。お願い。」
エリスもアキの頼みならば喜んでと引き受けてくれた。ちなみにこの2人を最後に持ってきたのには理由がある。というより誰も彼女達の後に歌いたくはないだろうと思ったからこの順番にしたのだ。この2人は間違いなくプロの歌手レベルだからな。それに彼女達を最後にして親近効果を狙ったというのもある。これでアイリスに地球の音楽が素晴らしいかを確実に印象付ける事が出来るだろう。
「がんばってあげるわ!ま、まあ……アキの頼みだしね!」
「うむ!私も頑張ってみるのだ!」
エレンとエリスの歌が始まると、爺さんやエアル達は今までとは違った反応を見せる。エレンとエリスの透き通った清らかな歌声に酔いしれているようだ。天使の歌声といっても過言ではないだろう。アイリスも唖然とした表情を浮かべているし、これで間違いなくこの国の音楽改革をしてくれるとアキは確信した。計画通りだ。やはりこの子達に歌ってもらってよかった。
「ほんとエレンとエリスは上手いよね。羨ましいよ。」
アキが褒めると、2人は照れ臭そうに赤面する。相変わらずエレンとエリスは褒められるのに弱い。まあエレンはあの性格だし、エリスも過去に色々あった。多分あまり褒められ慣れていないんだろう。
これで余興は一通り終わりだ。そろそろいい時間だし、晩餐会もお開きにした方がいいだろう……と思っていたらエリザが何か気になる事があるようで、手を挙げ、尻尾をぱたぱた揺らして必死にアピールしてくる。可愛い猫だ。
とりあえずエリザに話すように促す。
「ねえ、アキ君だって十分に上手くないかしら?エレンさんやエリスさんに匹敵すると思うわよ?」
そういやそうだった。
ミルナ達は不思議そうな顔をしているが、エアルとミリーはうんうんと頷いている。それもそうだろう。エリザやエアル達はアキの本当の歌声を知らない。あの時はズルしてたしな。
「エリザ、聞け。あれは……。」
もう別に隠しておく必要もないので、うちの猫に全てネタばらしをしてやる。アキが説明を始めると、段々とプルプル震えはじめるエリザ。どうやらうちの猫さんは大層お怒りのご様子だ。
「大丈夫か、我が猫。」
「な、な、なにが『大丈夫か』よ!そんなのずるじゃない!ずるしてたのね!」
尻尾を逆立てて叫ぶエリザ。
「ごめんにゃ?」
とりあえず謝っておく。
「はぁぁああ!?それ謝る気ないわよね!ないわよね!?ばかー!」
エリザはアキの謝罪が気に食わなかったのか、地団駄を踏みながらフシャーと怒っている。やはり感情的になると猫感が圧倒的に増すエリザ。可愛い。
「しょうがないじゃん。」
「な、なにがよ!アキ君のせいで私恥かいたのよ!許さないわ!」
エリザが許してくれないらしいので、ズルした理由を説明するしかないだろう。彼女の名誉の為にあんまり言いたくなかったが……彼女が許さないと言うのであれば声を大にして全員に教えてやろう。
「だって負けたらエリザが『私の足を舐めなさい』とかいうからだろ。」
アキがそう言った瞬間、ミルナ達が氷のような目でエリザを睨みつける。そしてエアルとミリーも「あれは、確かにないよね。」とぼそぼそ話している。さすがに氷点下まで急降下した部屋の空気に気づいたのか、エリザが必死に言い訳を始めた。
「あ、あれはアキ君のせいよ!わ、私は悪くないわよ!」
「エリザ……そんな趣味があったのだな……。」
「ち、違います!女王陛下!これは違うんです!」
あのアイリスでさえドン引きしている。エリザの弁解に説得力は当然なく、全員から冷ややかな視線を浴びせられ、涙目になって部屋の隅っこで丸まってしまった。やはり彼女の本質は猫なのだろう。
さすがに少し可哀そうになって来たので、近づいてそっと声をかけてやる。
「エリザごめんて。」
「ふんっ、しらないんだから!」
アキは撫でようかと手を伸ばしたのだが、エリザが尻尾で引っ叩いてくる。触るなという事だろう。なんか癪だ。とりあえずこの生意気な猫の尻尾を掴んで引っ張ってやる。
「にゃあああああ!」
急に尻尾を握られて驚いたのか、いつもの叫び声をあげるエリザ。
「やっぱり『にゃ』っていったよね?」
「い、言ってないわよ!なんで尻尾引っ張るのよ!」
「こっち見てくれないから。」
「怒ってるからよ!察しなさいよね!」
エリザの怒りがいい加減収まらないので、しばらく放置することにしよう。とりあえずアキはアイリスに話を振る。うちの猫のご機嫌取りは後回しだ。
「どうでしょう、音楽の改革。」
「え、ええ……コホン。そうですね。」
急にアキが話題が変えたのでアイリスは一瞬困惑したようだったが、直ぐに頭を切り替えたようで、アキの問いかけに答えてくれる。
「確かにあれを聞いた後だと我が国の音楽は騒音……と言えます。悔しいですが本当にそれくらいの差はあります。」
さすがアイリス。事実はちゃんと事実として認めてくれる。立派な統治者だ。
「そしてアキさんの世界の音楽には感銘を受けたので、是非改革したいと思います。つきましては提案があります。」
「なんでしょうか。」
「私の力では限界があります。近々ミレーで音楽祭があるのでそれに参加して頂くというのはどうでしょうか?そこで披露して頂ければレスミア民の音楽への認識も変わるでしょう。」
アイリスの提案は妥当なものだ。音楽を聴かせて、これが出来るようにしてね、とはあまりにも横暴だ。アイリスが改革を認めてくれただけでも喜ぶべきだろう。つまりこれ以上は望めないし、望むなら自分でしろというわけだ。
「いいでしょう。うちの子達に歌わせましょう。」
アキは力強く丸投げ宣言をする。
「「「「ちょっとまって!」」」」
速攻でミルナ達から物言いが入る。なんで私達がと口々に文句を言われた。要約すると「アキに聴かせるのはいいけど、他人には絶対嫌」だそうだ。今日は特別に了承したけどそんな目立つことは絶対に嫌だと。
まあさすがに冗談だ。アキだって嫌だ。
「まあ正直俺も皆を見世物にするのは絶対嫌だよ。ちゃんと別の方法を考える。」
アキがそう言うと、皆満足したように頷く。
「アイリス女王、音楽祭の事は問題ありません。何か考えます。」
「わかりました。それでは参加して頂くという事で。是非アキさんの世界の音楽を流行らせてください。楽しみにしてます。」
晩餐会はここでお開きとなった。アキ達は明日ミレーを発つので、エアル達に別れをと思ったが、わざわざ見送りに来てくれるらしいので、挨拶はまた明日でいいだろう。さすがにアイリスは見送りには来られないので、挨拶を済ませておく。
「では、アキさん。楽しい時間をありがとうございました。またすぐお会いすることになると思いますが。お体にお気をつけて。」
「はい、アイリス女王もお元気で。色々とご迷惑おかけしました。」
楽しんで貰えたようでなによりだ。爺さんやエアル達も満足してくれたようだし、晩餐会は大成功と言えるだろう。




