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異世界の観察者  作者: 天霧翔
第十三章 接触
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17

 そんなこんなで晩餐会の準備は着々と進み、気付いたら夕方になっていた。予定の開始時刻までもう少しだ。料理も全て完成したし、なんとか間に合った。


 エスタートはイリアナを連れて、伝えていた時間より少し早く到着した。エアルとミリーもその後すぐに来てくれ、後はアイリスを待つばかりだ。


 まあアイリスに限って遅れてくるという事はないと思うし、直ぐに来るだろう。とりあえず爺さんやエアル達はリビングで寛いでもらう。


「2人とも、服似合ってるね。凄く可愛い。」


 エアルとミリーはこの前爺さんの店で買った服を着てきてくれた。そしてアキが褒めると、2人は嬉しそうに手を取り合って喜んでいる。まあ褒めたというよりは事実を言っただけだが。


 爺さんも自分の商会の服を着ているエアル達を満足気に見つめている。やっぱり客が喜んでいるのは、商売人として嬉しいのだろう。


 しかしアキがエアルとミリーを褒めちぎった事で、ミルナやベル達が口を膨らませている。


「アキさん!なんですぐに女の人を褒めるんですか!そんな暇あるなら私を褒めてください!私を見てくださいですー!」

「賓客のもてなしはホストの務めだ、この駄エルフが。」


 拗ねるだけならともかく口まで出してくるとは。うちの駄エルフを引っ叩いておく。ちなみにベルやエレンも何かを言おうとしていたみたいだが、ソフィーが殴られ蹲っているのを見て慌てて口を噤んだようだ。まったく。


「ふはは、愉快愉快。」


 爺さんは楽しそうにしているが、毎度この暴走エルフを止める方の身にもなって欲しい。それに見ろ、エアルとミリーが「あはは」と呆れているじゃないか。身内の恥を晒すのは止めて欲しいものだ。


「アキさん、アイリス女王陛下がご到着なされました。」


 丁度その時、アリアがアイリスをリビングへと案内してきた。


 おかしい。さすがにアイリスはアキが自ら出迎えようと思い、到着したら声をかけるようにアリアに言っておいたのだが、何故アリアが案内しているのだろうか。彼女が命令に背く事は絶対にしないはずだ。うちのメイドはアキ絶対主義なのだから。それにアリアが「アイリス女王陛下」と愛称呼びをした事自体があり得ない。そんなミスをするメイドじゃない。


「アリアさんに直接案内してくださるようお願いしました。」


 アキが不思議に思っていたらアイリスが説明してくれた。どうやらアキを呼びに行こうとしたアリアをアイリスが止めたらしい。今日は女王としてではなく「アキの友人」として来ているので、特別扱いはいらないとアリアに言ったのだとか。なるほど、それなら納得がいく。


「ですので、今日はアイリスとして楽しませてください。」

「アイリス女王がそうおっしゃるなら、俺は構いません。」


 つまりいつも通り接して欲しいという事だろう。アイリスも堅苦しいのはあまり好きではないと言っていた。公の場でもない限り、彼女は大抵の無礼も笑って許してくれる。ただうちの子達はアイリスと直接会うのは初めてなので、少し緊張しているようだ。そういう意味でこの配慮は助かる。


「あ、でもアイリス女王。この子達に正式な挨拶だけはさせて頂けませんか?」


 一応挨拶は練習させたのだ。せっかくだしやらせたい。アイリスに頼んでみたところ、それは面白そうですねと彼女も言ってくれた。


「よし、練習の成果を見せる時だ。いけ、エレン。」

「な、なんで私からなのよ!こういうのはいつもミルナからでしょ!」


 まさか自分が1番に指名されるとは思わなかったのか、慌ててアキに食ってかかってくるエレン。だがアキの見立てではミルナやソフィーよりエレンのほうがちゃんと出来る。練習も誰より真面目にしていたから大丈夫だ。エレンに小声でそう伝えてやると「し、しょうがないわね」と恥ずかしそうに頬を染めながらも頷いてくれた。


「イアイリス・ミレー女王陛下、お初にお目にかかります。メルシアのエレイナ・エンフレンと申します。いつもアキがご迷惑をおかけして申し訳ございません。」


 エレンはどもったりすることなく、流暢に挨拶を述べ、綺麗なカーテシーを行った。やはりさすがエレン、一度覚えた事は完璧にこなす。アキは素晴らしいと拍手しておく。ベルやアイリスも感心したようで「おぉー」と小さく拍手している。


 アキやアイリスに褒められたのが嬉しいのか、エレンはやったと小さくガッツポーズしている。エレンはこういうとこが本当に可愛い。口はいつも反抗的だが、行動や感情表現は誰より素直だ。


「よし、次はレオとソフィー。」

「「は、はい!」」

 

 緊張した声色で返事をしてアイリスへ挨拶を行う2人。

 

 エレンより少しぎこちなかったが、十分に及第点だ。ベルも「これなら問題ないでしょう」と王女のお墨付きをくれた。レオは言わずもがな、ソフィーも意外に器用だ。よかった。


 さて……最後はメルシア一番の不器用さを誇るポンコツお姉さんの出番だ。


「ミルナ……わかってるな。オチだぞ。」

「なんでですの!そこは頑張れっていってください!この私が見事な挨拶しますのでアキさんはそこでしっかりと見ていてくださいませ!」


 人はそれをフラグという。ミルナは自分でハードルを上げて自爆するタイプだからな。どっかの猫と一緒だ。エリザとは仲良くなれそうだ……と、うちの猫の方をついついチラッと見てしまう。その視線に反応して尻尾を逆立てるエリザ。どうやらアキの思考を読んだのか「一緒にしないで!」と睨んでくる。


「コホン。イアイリス・ミレー様、女王陛下様、お初にかかります、いえお目にかかります。メルシアのミルナ、いえミルナミア・レインバースといいま……申します。……えっと……。」


 これは酷い。見るに見かねてミルナの襟を引っ張り、無理やり挨拶を止めさせた。アイリスとベルが感想を言いずらいと苦笑いしている。


「こほっ……急に引っ張らないでくださいませ!」


 襟を引っ張られて首が締まったらしい。ミルナがぶーぶー文句を言ってくる。


「ミルナ、練習の成果が行方不明なんだが?」

「ち、違うんですわ!」

「敢えて3人に先にやらせたのに、あの子達の何を見てたんだ。」


 呆れた表情でミルナを見つめる。ミルナは「だってー」と可愛らしく頬を膨らませる。ただ彼女が真剣にやっているのは知っているからあんまり怒れない。相変わらず本当に不器用な子だ。


「まあ、よく頑張った。」


 アキがそう言って撫でてやると、嬉しそうにコクコクと頷くミルナ。






「では全員揃ったので、食事にしましょう。口に合うかはわかりませんが、頑張って作ったので是非楽しんでください。」


 アキは皆をダイニングルームへと案内する。アイリス、ベル、爺さんには上座に座って貰い、その隣にエアルとミリー。そして下座にエリスやうちの子達を座らせた。今日は皆に楽しんで貰う為、アキは裏方だ。アリアとセシルもアキのお手伝いなので食事は後回し。さらにイリアナも手伝うと言ってくれたので、配膳を任せた。


「アキ……な、なんでこんなにフォークとかあるのよ!わ、私こういうのわからないわ!」


 エレンが小声でアキに泣きついてくる。だがわかってないのは彼女だけじゃないので気にするなと伝える。ベルもアイリスも不思議そうな顔でテーブルを眺めているくらいだ。


「アイリス女王が来るという事でコース料理を作ってみました。まずは前菜から。」


 アキがそう言うと、アリア、セシル、そしてイリアナが料理を運んできてくれる。美しい。料理を運んで配膳しているだけなのに、この3人は絵になる。まるで本物のメイドのようだ。まあ2人は本物なのだが。


 ただフルコースとは言ったが、本格的なフルコース料理なんて素人のアキには作れない。いつもより料理の種類が多いくらいのなんちゃってコース料理だ。でも盛り付けだけは頑張った。主にうちのメイドが。アキはひたすらレシピを見ながら料理を作り、アリアに盛り付けて貰った。さすが有能メイド。盛り付けセンスも抜群だ。アキの料理は男の料理なので、盛り付けは適当だし、これは本当に助かった。


「アキさん、あの……コース料理ってなんですか?」


 ベルがどうやって食べていいのかわからないようで、アキに尋ねてくる。


「順番に料理が出てくるだけだよ。前菜が終わったら次という感じ。そして料理に合わせたカトラリーが並べてある。外側から使っていってくれ。」


 使い終わったらカトラリー類はそのままお皿に乗せておくようにと付け加える。ベルもアイリスもこういった食事は初めてのようで、興味津々に食器やカトラリー類を眺めている。


「細かいテーブルマナーは抜きにして、みんな好きに食べて。上品に食べるより美味しく食べるのが大事だから。」


 そう言って、エレンにも目配せしておく。彼女も「うん、わかったわ!」と安心した様子で早速前菜を食べている。それでいい。あくまでコース料理の形式上、色々用意しただけで、彼女達には好きに食べて貰いたい。その方が絶対に美味しい。マナーを気にし過ぎて食事を楽しめないなら本末転倒だ。


 アキが好きにしろと言った事で気が楽になったのか、エレンに続いてアイリスやベル達も食事を始めてくれた。アキはアリア、セシル、イリアナに皆が食べ終わったら食器を下げるように指示しておく。


 前菜の次にスープ、魚料理、肉料理、そして最後にデザートと食後の紅茶を出す。どうやら料理は概ね好評のようだ。エリザの尻尾を見ていればわかる。


「いつもいつも尻尾で判断しないでよね!もう!」


 見ていただけで反論してくるとは察しの良い猫だ。まあ他の皆も美味しそうに食べてくれてるから気に入ってくれただろう。


「これは……なんですか?……あ、これは美味しいです。」


 アイリス以外はアキの料理を食べた事があるのでそんな驚きはしていないが、アイリスだけはやはり驚いていた。見た事もない料理、食べた事のない味に興味津々のようだ。


「アキさん、その……私のシェフになりませんか?」


 アイリスから斜め上の感想をが飛んできた。料理を残すことなく全部平らげてくれたので気に入ったのはわかったが……そうくるか。


「だめです。」


 それに即答するベル。そして口を尖らせている。何故うちの王女が答えるんだか。


「ベルが答えるのかよ。」

「べーっだ!」


 アイリスのシェフになる事を了承すらしてないのに、何故ベルや

ミルナ達に「お話!」という目を向けられているのだろうか。最近うちの子達の嫉妬基準のハードルががんがん下がっている気がする。そのうち「女性と同じ空気を吸った」と言う程度の理由でお説教されそうな勢いだ。


「冗談です。とても美味しかったです。あの……こういうお願いはちょっと恥ずかしいのですが……うちのメイドにも料理教えてもらえませんか……?」


 アイリスが少し恥ずかしそうに頼んでくる。そんなアイリスの姿にエリザが驚いている。彼女がこう言った事を言うのは珍しいのだろう。まあそれほどアキの料理を気に入ってくれたのであれば嬉しい事だ。もちろんメイドに教えるくらいなら構わないので、アイリスには了承しておいたのだが……うちの子達が「お話」追加と睨んでくる。おかしくないだろうか。理不尽だ。


「これを食べたら……もういつもの料理は食べられないです。」

「ほほほ、女王陛下もですか。わしもそうじゃったのですわ。なのでイリアナ達に覚えてもらいましての……。」


 アイリスの呟きに爺さんが苦笑しつつ同意する。


「胃袋でも完全に掴まれているのが悔しいです……。」


 ベルが拗ねてそっぽを向く。ミルナ達も同じなのか、静かに頬を膨らませている。


 本当に直ぐに拗ねる子達だ。ちょっとしたことで直ぐに口を尖らせる。まあそれが可愛いとも言えるのでアキもあまり怒れない。それに不機嫌になるのが全部アキに関する事だけなのだから、嬉しい気持ちの方が大きい。


 とりあえず全員料理には満足してくれたようなのでいいだろう。


「ところでアキさんは食べないんですか?」

「ねー。アキさんとアリアさん達はいいの?」


 エアルとミリーがずっと配膳していたアキ達の心配をしてくれる。


「ああ、みんなが食後の休憩してる間に食べるよ。賄いつくってあるし。」


 アキは気にするなという意味で言っただけなのだが、「賄い」と付け加えたのが不味かった。


 それを聞いたエレンやレオが賄いを見せろと執拗に迫ってくる。ベルやアイリス、他の子達も興味があったらしく、誰も止めてくれない。アキの夕食がピンチだ。だがダメだと言っても納得しそうにない。仕方がないので、アキ達が食べる予定だったあまりもので作った肉丼を見せてやる。


「アキ、アキ!ちょっとだけ食べていい?ちょっとだけ!いい?」


 レオが尻尾をぶんぶん振りながら聞いてくる。当然そんなレオを断れるはずもなく……いつの間にか他の子達も賄いを食べている始末だ。


 数分後には全て綺麗に無くなっていた。この子達の胃袋どうなってるんだか。


「ごめんね?アキごめんね?」


 自分のせいだと思ったレオが落ち込んでいる。


 まあこうなる事は予想していたので、こっそりまだ作ってある。まだある事は絶対に言わないけど。アリア達もそれをわかっているようで「もうないです、諦めてください。」とソフィーやミルナに言っている。というかこの駄エルフと暗黒物質は「アキさん!まかないおかわり!」とか言っている……まだ食べ足りないのか。今日1日ごろごろしてただけなのに。


「一番食っているのがミルナとソフィーとか……さすが食って寝担当。」

「「違うんです!」」

「太るよ?」

「乙女になんて事言うんですの!?アキさんのばか!」

「そうです!太ったらアキさんのせいですー!」


 どの口が乙女とか言ってるんだ。肉を口に含んだまま言われても説得力がない。駄エルフに関しては相変わらずいい度胸をしている。


 そして食いながらしゃべるな。ミルナとソフィーの頭をおもいっきりいつもの銀のトレーで引っ叩く。

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