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ミレー王国滞在最終日前日。
アキ達は明日ミレーを発つ。長かった旅ももうすぐ終わりだ。
今日は予定通り、ミレーで世話になった人達を呼んで晩餐会をする。爺さん、エアル、ミリー、アイリスを招待した。それと当然エリザもだ。まあ彼女は同じ屋敷に住んでいるので、誘うまでもないが。ちなみにガランにも声を掛けてはみたものの、やはりアキの予想通り、行かないと言われた。あの鍛冶中毒は相変わらずだ。
さすがにアイリスにだけは直接伝える事が出来なかったので、ベルがレスミア王城へ国務で出向いた際、招待してくれとお願いしておいた。まあ果たして女王が本当に来てくれるのかは疑問だが。
「来るらしいです。」
先日ベルが国務から戻ってきた時に教えてくれた。なんでもアイリスはベルのお誘いに「いきます」と即答したらしい。そんなあっさり決めていいのかよと心の中で突っ込んだが、来てくれるのであればそれに越したことはない。アイリスにも色々迷惑をかけたし、少しくらいはお礼をしたい。
しかし女王が来るとなればある程度の料理を出す必要がある。それもあって昨日ベルに買い出しを色々付き合ってもらったわけだ。
結局晩餐会にはガラン以外の全員が参加してくれる事になった。アイリスは勿論、爺さん、エアルやミリーも喜んで行くと言ってくれた。嬉しい限りだ。
ただそうなると結構な大人数になる。うちの子やベル達も当然参加するから、総勢13人にもなってしまう。おかげで朝から晩餐会で出す料理の準備に追われている。アリア、セシル、エリス、そしてエリザが手伝ってくれているので、かなり助かってはいるが、それでも大忙しだ。ちなみにうちの王女様も手伝うと言ってくれたので、ベルには簡単な下ごしらえをお願いした。
「エリザも家庭的なんだね。頼りになるよ。」
「ふふ、おねーさんだもの!当然よ!」
誇らしげに尻尾を揺らすエリザ。
エリザは意外にも手際がよくて驚いた。聞いたところ、彼女は家事関連はなんでも出来るそうだ。魔法一筋だったと言っていたからてっきりそういうのは疎いのかと思っていたが、そうでもないらしい。これは本当に頼りになるお姉さんだ。
ただそのせいでうちの子達がリビングで死んでいる。アリア達は基本的に家事は万能だし、ベルもやる気があって覚えが早い。それに比べるとミルナ達4人は本当に何も出来ない。戦闘なら優秀だが、家事となると壊滅的だ。一応エリザやベルが手伝うのを見て、自分達もと対抗心を燃やし手伝いに来てくれたまでよかったが、やはり何をさせても邪魔にしかならなかったので追い出した。
相変わらずうちの子達の女子力が果てしなく迷子だ。
だがあのままあの子達を放っておくと、晩餐会に差し支えそうなので、頃合いをみてリビングで屍と化しているミルナ達を慰めに来た。
「ミルナ、ソフィー、エレン、リオナは別にいいんだよ。気にするなっていつも言ってるだろ。そんな不器用なみんなが俺は好きなんだよ。」
ミルナ達は「でもでも」と涙目で見つめてくる。落ち込むくらいなら普段からもう少し家事をやればいいのに……と言いそうになったが言葉を飲み込む。多分それを言ったら完全に灰になってしまいそうだ。
「いいって。むしろ元気がないミルナ達を見ているほうが嫌だよ。」
「覚える!そのうち絶対覚えるわ!だ、だからアキ、教えてよね!」
「僕も!アキに料理つくるから!頑張るからね!」
アキの慰めが功を奏したのか、エレンとレオがやる気を出してくれた。まあこの2人は真面目だし、やる気さえあればすぐに覚えるだろう。
いい子だな……エレンとレオは。
それに比べてうちのダメ姉のミルナとソフィーときたらやる気すら出さない。さっきから視線を合わせようともしてこない。一人前に落ち込むくせに改善の兆しすら見せないとはさすがのダメ人間だ。
「ミルナとソフィーは食って寝担当ってことか。」
「「ち、違います!」」
「女子力って知ってる?」
「アキさん!そ、そんなものは幻想ですわ!幻想に惑わされてわいけません!」
「ですです!女子力なんて夢みたいなものですー!」
まあそりゃ女子力が家出しているこの2人にとっては幻想で夢みたいなものだろう。少しは努力してからいいなさい。
「ひ、人には向き不向きがあるんですわ!」
ミルナが何故家事を覚えられないのかを必死に言い訳してくる。そもそもその考え方をしてる時点でダメだ。エレンとレオをちょっとは見習え……。
「アキさん!無理強い反対です!優しくしてください!甘やかしてくださいですー!」
そしてこのエルフは相変わらず面の皮が厚い。この状況で甘やかせとまで抜かすとは。
大体この子達に無理矢理料理や家事をやれと言った覚えなどさらさらない。他の子達がアキを手伝うのを見て勝手に凹んでいるだけだろうが。
ちょっと苛めてやろう。
「じゃあ……そもそもミルナとソフィーが向いていることってなんなの?」
アキの問いかけに即答出来ずに口籠る2人。エレンとレオはそんなしょうがない姉2人の姿を呆れた様子で眺めている。よく兄弟や姉妹でも下の子のほうがしっかりしていると言うが、これがまさにそのパターンではないだろうか。
「まあ……なんだかんだそんな2人が可愛いって思っちゃう俺も俺なんだけどね。」
そう言ってアキは苦笑する。
ポンコツお姉さんのミルナ、自堕落エルフのソフィーがアキはなんだかんで大好きだ。こんな2人だからこそ甘やかして面倒みてあげたくなる。彼女達は確かに家庭的な面では壊滅的だが、戦闘では優秀だし、仲間想いでとても優しい。それに素直でアキの事をいつも大切に想ってくれる。
「ほら、ミルナとソフィーの良いところなんていっぱいあるだろ?だから別に今のままでいいと思うよ。意地悪はしちゃうけどね?」
アキの言葉を聞いて安心したのか「私達このままでもいいんです!」と喜んでいるミルナとソフィーが微笑ましい。本当に単純な子達だなと呆れるが。
「アキが甘いからあの2人はつけあがるのよ。まったく。」
「厳しくしてもミル姉とソフィーのあの性格は直らないとおもうけどね……。」
エレンとレオが溜息を吐く。だが口ではそうは言いつつも、優しい目でミルナ達を見つめている。なんだかんだこのミルナとソフィーが2人も結局は好きなんだろう。
「気長に付き合ってやろう。」
「そうね、それしかないわね。」
「いつかは直る日が来るといいね。」
きっとこれからもミルナとソフィーには振り回されるんだろう。やれやれ本当に手のかかる子達だ。
「それでアキはそんなこと言う為にわざわざ来てくれたの?」
レオが尋ねてくるのでアキは頭を振る。
「それもある。でも本題は別。今日の夜、お願いしたいことがあってね。」
「そうなの?私は何すればいいのかしら?」
エレンが口に指をあて、可愛らしく首を傾げる。彼女がこんな仕草をするなんて天変地異で世界が滅亡しそうな勢いだが、何故か最近エレンはミルナに「男がグッっと来るポーズ」とやらを教えて貰っているらしい。なんだそれ。エレンに余計な事を教えるなとミルナを鉄拳制裁しようかとも思ったのだが、エレンが自ら望んで教えて貰っているらしいので、とりあえず成り行きを見守っている。
どうやら今のポーズも最近教わったものらしく、ミルナの方をみて「どう?どう?」と確認している。ミルナはミルナでばっちりですわと褒め称えているのだが……エレンは根本的に間違っている。
だからエレンにはこのアドバイスを贈ろう。
「エレン……。そのポーズだけど……。」
「な、なによ!文句あるわけ!」
エレンが顔を真っ赤にしながら叫ぶ。いや、文句などはない。むしろアキを悩殺しようと頑張ってるエレンが可愛いと思っているくらいだ。
「文句なんてないよ。でも教わる人、そもそも間違えてない?誘惑が下手なミルナにそんな事を教わってどうするのさ。」
「はっ!?……た、確かに……そうね……。」
アキに言われて気づいたのか、納得したように頷くエレン。
「ア、アキさん!なんでですの!さりげなく私を貶さないでください!へ、下手じゃないですわ!私、もの凄く誘惑は得意なんですの!異議を申し立てますわ!今すぐ訂正してくださいませ!」
どの口が得意とか言っているんだ。よくそこまで堂々と宣言出来るものだと呆れる。まあミルナの事はとりあえず無視しよう。
「エレン、参考にするならソフィーにしたほうがいいんじゃないか?わざとらしいミルナより何気ないソフィー仕草の方が可愛いと思うぞ。」
「わ、わかったわ!」
「まあでも……さっきのエレンは結構可愛かったよ。」
「う、うるさい!ばか!変態!死ね!」
嬉しそうに怒りながら罵ってくるエレン。怒りながら喜ぶとかツンデレという人種は総じて器用な感情表現が出来ものなのだろうか。表情がころころ変わって見てる方としては面白いが。
ちなみにミルナは後ろでなんかギャーギャー騒いでいる。まあ嬉しそうな笑顔のソフィーが羽交い絞めにして止めてくれているので平和だ。
「ねえねえアキ、結局のところ僕達は何すればいいのかな。」
レオが話を進めてくれる。さすがレオ。うちの狼はいい子だ。
「うん、今日の晩餐会でして欲しい事があるんだけど……。」
アキは考えている計画をミルナ達に伝える。それを聞いた彼女達はちょっと恥ずかしそうにしていたが、アキが真摯に頼むと、快く引き受けてくれた。よかった。彼女達が計画の主役なのだから、これで実行出来る目途が立った。




