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お出掛け最終日の今日はベルと2人きりでの買い物だ。ただうちの王女様はしきりに「デートです!デートって言いなさい!」とアキに強要してきた。言わないといつまでも拗ねてそうだったので、しょうがなくそれに従い「ベルとデートしてくる」と言ったら……今度はうちの子達がぶーぶー文句を言うわ、それに対してベルがさらに煽るわで朝から大騒ぎだった。
「うふふ、いい気分。」
「おい、そのせいで朝から疲れたんだが。」
「その分私がアキさんを癒すからいいもん。」
「よくないだろ、そもそもの原因がベルなんだから……。」
ベルが楽しそうにくすくすと笑う。まったく、自由奔放な王女様だ。
ちなみにベルは先日アキがプレゼントした服を着てきてくれた。予想通りとても似合っており、凄く可愛い。いつもの気品ある王女というよりは、清楚な女の子という感じだ。やはり黒色の服に銀色の髪は映える。アキとしては大満足だ。髪も結って軽く上げているので、受ける印象もガラッと変わる。誰も一目でベルだとはわからないだろう。
どちらにしろ美少女なのに変わりはないが。
当然ちゃんとベルにも可愛いよと伝えておいた。というより言わされたに近い。「どうですか?可愛いですか?」と服をアキに見せつけるようにクルッとターンしたり、無意味な行動を取りまくっていたのだから……呆れた。しかもアキが褒めるまで絶対に止めないという徹底ぶりだ。
「選んでもらった服やっと着られて嬉しい。」
「まあ喜んでもらえてよかったよ。」
ベルが本当に楽しそうだ。屋敷を出たときからずっと腕を絡ませてくるし、もの凄くご機嫌だ。どうやら口調も素のベルで今日は行くらしい。「王女」はお休みだ。ただ最近その「王女」がずっとアキの前では絶賛休暇中なのだが。
まあそんな忙しいはずの王女であるベルが、今日の為に必死に仕事を片付けてくれた。国務もあるはずなのに丸1日開けてくれたのだ。それだけアキとの時間を大切に想ってくれるのはやっぱり嬉しい。だから今日はベルが満足いくまで付き合ってやるつもりだ。王女がこうやって自由に街中を出歩くなんても早々無いだろう。思う存分楽しんで欲しい。
「アキさん、今日はどうするの?」
「ベルはしたいことある?」
「アキさんに全て任せる。ふふ、私を楽しませてね?」
そんなハードルを上げないで欲しいのだが……まあ精一杯頑張ってみよう。
「さてじゃあどこへ行くかな。」
王女様であるベルに服を買っても無駄になる可能性がある。その辺りで売ってる衣服を国務に着ていく訳にもいかないだろう。それに着せ替え人形をして「ベル」だとばれてもいけないので、服屋は今日は行かないほうがいい。
「アキさん……その服は選んでくれないの?」
「俺は選びたいんだけどな。」
ベルは残念そうな顔をするが、アキが理由を説明すると仕方ないと納得してくれた。
「でもいつかは行こうな。」
「うん!行く!」
とりあえず今日もエアル一押しの店を巡ることにした。まあベルには珍しいかもしれないし、大丈夫だろう。
「アキさん!あれ、あれはなに!」
「あれは雑貨屋だな。」
やはり見る物全てが珍しいのか、どこへ行っても目を輝かせるベル。
「可愛い!このぬいぐるみ可愛い!こっちのアクセサリーも!アキさん見て見て!」
本当に楽しそうだ。
しかし「可愛い!綺麗!」と見ているだけでベルは一向に買おうとはしない。王女なんだから金はあるだろう。お小遣いもいっぱい貰っていると言っていたし、好きな物があれば買えばいいのに。
不思議に思ったアキはベルに尋ねる。
「ベル、何も買わないの?」
「だって私だけアキさんにお金もらってないもん。」
口を尖らせそっぽを向くベル。確かにベルには渡してない。まあそれはそもそも必要ないだろうと思っていたからだ。
「王女だし、お金いらないだろ。」
「それとこれとは違うの!」
やれやれ、相変わらず困った王女様だ。でもこれがベルだ。アキもそんな事はわかっている。だからちゃんとベルの分のお金も用意しておいた。平等というのであればベルにも渡すべきだし、こうやって彼女が拗ねるのも容易に想像出来たので、爺さんから予め調達しておいた。
アキはベルに白金貨5枚が入った麻袋を渡す。
「え?……これなに?」
「ベルの分だ。一応用意しておいたんだよ。」
しかしアキが伴侶を増やす度、爺さんに商品のアイデアを提供するので、アキの女性人数に比例してどんどんミレンド商会がでかくなっている気がする。だから爺さんも「早く増やせ、もっと増やせ」と煽ってくるのだろうか。正直あれにはほとほと困っている。
実際のところ、爺さんは「アキは10人くらいは娶るべきだ」と言っている。イリアナから聞いた。彼女の説明によると、優秀な男性は一夫多妻が当然だし、爺さんはアキの価値をそれくらいだと見ているらしい。ちなみに普通は一夫多妻でも2~3人くらいなんだとか。貴族で5~6人。王族で10人くらい。つまり爺さんはアキを王族と同列に見ているという事になる。過分な評価だと思うが、イリアナ曰く「当然です。早く私も娶ってください」とのこと。うん、丁重にお断りした。アリアのような毒舌メイド2人もいらん。それに何よりアリアに殺される。
そんなことを考えていたらベルが目を潤ませてアキを見つめていた。白金貨の入った麻袋を大事そうに両手で抱えている。
「嬉しい……。私だけの特別なお金。これで私は完全にアキさんの物なの?」
「いやまあ……そうだけど、そういう意味で渡したんじゃないから。」
金で女の子を買っているみたいな言い方は辞めなさい。今の発言で何人かこっちを見ただろうが。道端で渡すんじゃなかった。それにこの3日間、毎日違う女の子をつれてレスミアの街を散歩しているのだから、余計に視線が痛い。
「ふふ、わかってる。でもこれは大事に大事にする。」
「大事にしてくれ……とりあえずこっちにこい。」
ちょっと悪目立ちしてしまったので、ベルを人気のない裏通りに引っ張っていく。
「ア、アキさん……!わ、私をこんな人気のないところに連れてきて……何をする気なの……!で、でもアキさんがしたいなら……その……!」
「その変な妄想は今すぐ止めなさい。」
アキは軽くベルの頬を抓る。どっかの駄エルフのような考え方をしないで欲しい。大体ベルだとバレるといけないから裏通りに来ただけだ。
「もう……冗談だもん。」
「はいはい、後これもベルにあげる。」
アキは紙袋をベルに渡す。
「これはなに?」
ベルは不思議そうに受け取ると、中身を確認する。
先ほど雑貨店でベルが見ていた深紅色の石がはめ込まれたペンダントを買っておいたのだ。王女がこんな安物を身に付けてくれるのかは知らないが、ベルに似合うと思った。気に入ってくれるだろうか。
「あ、これさっきの!いいの?」
「王女が身に着けていいものかわからないけど……。」
「ううん、どんな高価な物より嬉しい!ずっとつける!国務の時はこっそりつける!」
そういう時はさすがに外せ。だがまあ嬉しそうなので黙っておこう。
「そんなに気に入ってくれた?」
「うん!私の初めての宝物!」
「そんな大袈裟な。」
「大袈裟じゃないもん!」
ここまで喜んでくれるとあげた甲斐もあるという物だ。少々恥ずかしいが。
「アキさん、つけて?」
「しょうがないな。今日は特別だ。」
「えへへ、やった。」
花が咲いたような満面の笑みを浮かべるベル。ペンダントをアキがつけてやると、今度は「似合う似合う?」とはしゃいでいる。本当に愛らしい王女様だ。
「普段ベルってあんまり装飾品つけないから好きじゃないのかと思ったけど、そうでもないの?」
ベルはプライベートでも、国務でも、豪華なドレスを着ているだけで、装飾品を全くつけてない。偶に髪飾りを付けたりするが、それくらいだ。だからあまりそういうのを好まないのかもしれないと思い、ペンダントをあげるのも実は結構迷ったのだ。
「うん、無駄に着飾るのは嫌い。でもこれは特別。だから嬉しい。アキさんありがとう。こういうのはいくらでも着けたい。」
そう言って優しく微笑むベル。ミルナ達の時もそうだったが、こんなに喜んで貰えるのは本当に贈り側の冥利に尽きる。
ちなみにエリスにも昨日こっそりプレゼントしておいた。出会った順番的にはベルよりエリスが先なので、彼女だけ飛ばすわけにもいかない。エリスには剣士らしく可愛い剣のペンダントトップがついたシルバーのペンダントだ。
ペンダント以外にも色々考えたのだが、結局それ以外の物が思いつかなかった。指輪にしようとしたのだが、屋敷が「女の戦場」とやらになる気がしたので却下した。イヤリングやブレスレットは冒険者にはあまり好まれないだろうと思いこちらも却下。そうなるとペンダントや髪留めくらいしか選択肢が残っていなかった。
女性への贈り物というのは本当に難しい。エリスといい、ベルといい、ペンダントばかり贈っている気もするし、もっと凝ったプレゼントを思いつきたいものだ。まあエリス本人は大喜びして抱き着いてきたので、とりあえずは及第点だろう。
その後は少しレスミアの街を観光し、いくつかの店を回ってからカフェに入った。ベルも歩き疲れただろう。普段は馬車移動の彼女だから長時間歩かせたのは失敗だ。
「ごめんね、結構歩かせちゃった。」
「ううん、全然平気。まだまだ大丈夫。」
ベルは気にしないでと言ってくれる。それならいいが……まあいざとなったらおぶってあげればいいか。口には出さないけど。「疲れたら抱っこしてあげるね」とか言ったら間違いなくベルは疲れた振りをして「おぶって!」とか言ってきそうだ。
「ベル、まだ歩ける?一通り買い物したし、明日の夕食会のの買い出しに行っていいかな?もうちょっと付き合って欲しい。」
カフェでケーキを食べ終わり、次はどこに行こうかと考えていたアキはベルに提案する。夕食会を計画はしたものの、準備を何もしてない事を思い出したので、ベルには申し訳ないが食材の買い出しに付き合ってもらいたい。
「うん、まだ歩けるよ。アキさんといると全然疲れないもん。」
「ごめんね、デートなのに買い出しに付き合わせて。」
「大丈夫、もっと連れまわして?」
「でも楽しませろって言われたのに悪い。」
「ふふ……本当はなんでもいいの。アキさんと一緒ならなんでもいい。」
してやったりの笑みを浮かべるベル。まったく……まあそう言って貰えるのは嬉しい。それに悔しいけどうちの王女のこの笑顔は可愛い。
「ありがとう、ベル。じゃあもし歩き疲れたら……おんぶしてあげる。」
つい言ってしまった。この子を甘やかしたくて言ってしまった。
「疲れた!アキさん、私疲れたの!」
くそ、案の定速攻で要求してきやがった。
「嘘を吐くな嘘を。でもまあ……わかった。おいで。」
「うん!」
今日はとことんベルに付き合って甘やかすと決めていたし、偶にはいいだろう。
アキがしゃがむと、背中に飛びつくように乗ってくるベル。軽いな。ちゃんと食べてるのだろうか。王女に限ってそれは無いとは思うが、少し心配になってしまう。
「えへへ、アキさん。」
「なに?」
「ううん、呼んだだけ。」
「なんだそれ。」
ベルが幸せそうにアキにくっついてギュっと抱きしめてくる。そんなに強く抱き着かなくても落とさないからやめてほしい。というよりそんなにくっつかれるとベルの胸が背中に当たる。いやもう当たるというレベルじゃなくて押し付けられている。柔らかくて暖かくて嬉しいけど……さすがに恥ずかしい。
「ベル、当たってるから。」
「い、いいの。あ、当ててるの!」
「恥ずかしがるならやるなよ。」
「いいの!ア、アキさんだからご褒美!」
そもそもなんのご褒美だよ。おんぶしてあげるの早まったかな。しかもよく考えたらこのまま買い出しとか拷問じゃないだろうか。
でも今更下ろすとは言えない。そしたら別の意味で拷問される気がする。こうなったら気合で乗り切るしかなさそうだ。
その後、意地でもベルを下ろさず、食材の買い出しを終わらせた。行く先々の店の店員には怪訝な顔をされたが、それも当然だろう。女の子を背負って食材を買いに来る人間がどこにいる。多分この世界初ではないだろうか。
「なんとか買い出し終わったな。ベルは楽しかったか?」
「うん!店員さんが困惑して、それを見たアキさんが気まずそうにしてたのが特に楽しかった!」
甘やかすんじゃなかった、この腹黒王女め。
「今すぐここに捨ててってやろうか。」
「イ、イヤ!それはイヤ!ちょっと意地悪言いたかっただけなの!ごめんなさい!」
「まったく……よし、帰るぞ。」
アキはそのままベルをおぶって屋敷まで戻った。彼女が楽しそうにしてるからよかったけど、思ったより大変な1日だった。やれやれ、後は屋敷でごろごろしよう。
と、思ったのだが、本当に大変だったのは帰った後だった。
屋敷に戻るなり、「2人で何して、どんな話しをしたのか、全て一字一句漏らさず話しなさい」というミルナ達主催の愉快なイベントの開催が当然のようにあった。面倒くさいって顔をしたら、「私が話しますね」とベルが言ったので全力で止める。この王女、絶対あることないこと言うだろう。そうなるとミルナ達が発狂する未来しか見えない。間違いなく「お話」が倍増しそうだったので、不承不承ながらアキ自身で説明することにした。




