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異世界の観察者  作者: 天霧翔
第十三章 接触
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 予定通り、1時間後にベルの別館を引き払う事が出来た。ミルナとソフィーは大変そうだったが、頑張ってくれたようだ。やれば出来るなんだから最初からやればいいのにと少し呆れたが、頑張った分はしっかり褒めて甘やかしてやった。


 ベルの屋敷から徒歩5分程でアイリスに貰った屋敷へと到着した。おもったより近かい。これならベルも気軽に来れるだろう。魔法学校も近いし、アキにとっては最高の立地だ。


 屋敷の造りはやはりミレー風で、タイの古式木造住宅に似ている。まあここはエスペラルドではないのだから建築様式の違いは仕方ないだろう。それにこの雰囲気は別に嫌いじゃない、むしろ結構好きだ。


 そして屋敷は高い塀で囲まれており、レオにとっても問題なさそうで安心した。やはり自分の趣味趣向より、この子達が平穏無事に過ごせる事が一番大事だ。


 ちなみに屋敷の内装は……凄かった。やはり女王の持ち物だったからだろう。装飾や家具は豪華絢爛で、アイリスの本宅だと言われても疑わないレベルだ。とはいっても決して派手ではない。気品のある豪華さだ。アイリスのセンスのよさが伺える。


 建屋自体は2階建てで、1階にリビング、ダイニング、キッチンなど、いつも通りの部屋構成だ。ただミスミルドの屋敷よりは全体的に1部屋1部屋が少し広い。そして2階には10の個室と主寝室があり、全員にちゃんと部屋を割り当てられる。


 とりあえず屋敷の確認も済んだ事だし、次は部屋割りだ。アキはベルは主寝室がいいと真っ先に提案してみるが、速攻で却下された。


「ダメです。主寝室はアキさんです。」


 ベル曰く、特別扱いはいらないとのこと。あくまで王女ではなくベルとしてアキの側にいたいのだから特別扱いは嫌らしい。


「それにアキさんが私達の主人です。ですから主寝室はアキさんです。」


 そういうものなのだろうか。


 当然のように他の皆も「アキが主寝室」と頑なに譲らなかったので、アキの部屋は毎度のことながら主寝室に決定した。続いてミルナ達、アリア達の部屋割りだが、口を挟ませてすら貰えなかった。悲しい。「ここからは女の意地と欲望にまみれた戦争です。アキさんは黙ってなさい」と意味のわからない事を全員に言われた。なんでも主寝室に出来るだけ近い部屋を獲得しなければならないらしい。もう好きにすればいい……。


 とりあえずアキは先に自室に引き上げて荷物の片付けをする事にした。ミルナ達にも戦争が終わったら各自荷物を片付けるように伝えておく。その後はリビングに集合だ。キーリの事話しておかなければならない。


「じゃあみんな程々にするんだぞ。」






 戦争はその後30分くらいで収束したらしい。まったく……元気な子達だ。とりあえず荷物の片付けも終わったらしく、全員がリビングに戻って来た。早速キーリの一件の真実を話しておこう。


「アキ君ー!来たわよー!」


 玄関の方から元気な猫の鳴き声が聞こえる。


 どうやらエリザが屋敷に到着したようだ。アキが出迎えに行くと、風呂敷を抱えた猫が玄関に突っ立っていた。はたから見ると完全に家出してきた猫だ。


「おう……まあ、いらっしゃい。とりあえずリビングにおいで。」


 あまりにシュールな出で立ちだが……何も言うまい。とにかくミルナ達にエリザの事を説明してあげなければ。まだエリザがここに住むと伝えていない。


「ええ、わかったわ。アキ君、今日からお世話になるわね!」


 ただ玄関先でエリザが放ったこの一言のせいで大変だった。どうやら全員が覗いて盗み聞きしていたらしく、リビングに戻った瞬間、ミルナ達に無言で詰め寄られ、「お話」が始まった。「現地妻ですかそうですか」とベルに言われたのと同じ事を1時間くらい言われ続けた。主にソフィーに。


「ふぅ……満足しましたー!許してあげますー!」


 無駄に偉そうなのがムカついたので、とりあえず無言でソフィーを引っ叩く。


「いたっ……!アキさん!暴力!暴力反対ですー!」


 ソフィーは文句を言ってくるが、彼女も他の子達もひとしきり文句を言って満足したらしく、憎たらしいくらいに晴れ晴れとした表情だ。もう明らかにただのストレス解消に使われている気がする。まあこの子達の焼きもちと言う名のストレスを作っているのもアキなので、完全にマッチポンプなだけだが。






「やれやれ……とにかく全員揃った。今後の予定の事で話がある。」


 エリザが合流してくれたのでこれで全員だ。この9人が今のアキの心強い仲間達。


「その予定を話す前に言っておくことがある。先日の外套の人物への接触の件だ。」


 まあベルとエリザは既に全て知っている。この2人はあくまで見学だ。


「アキさんが……さ、刺されて、情報を得られなかった……ですわよね?」


 ミルナが不思議そうに首を傾げる。


「ああ、それは全部嘘だ。」


 ベルとエリザ以外の全員が「え?」と唖然としている。まあ当然の反応だろう。

 

「はあああああ!?アキ!ど、どういうことよ!」


 アキの言葉を一早く飲み込んだエレンが反応する。


「まず逃げられてない。情報は聞き出せた。そして協力も取り付けた。」


 アキが淡々と語る真実に愕然として誰も言葉が出ないようだ。おかげでこの子達が静かで助かる。余計な邪魔が入らないので話を進めやすい。


 アキはキーリと接触するまでの一連の流れを続けて説明する。


「そしてキーリは俺の予想通りの人物だった。だから協力してもらう事にしたんだよね。」


 アキはキーリと話した内容の全てをミルナ達に伝える。そしてアキ達が取るべき今後の行動を説明しやった。


「何か質問はある?」

「情報が多すぎて頭がいたいですー……。」


 ソフィーが「難しいですー」と頭を抱えている。


「とりあえずイリアじゃなくてよかったと喜んだらいいんじゃないかな。そしてイリアに関する新しい情報も得られた。」

「ええ!アキさんのおかげですわ!」


 ありがとうございますとミルナが嬉しそうに微笑む。


「それでセシル。」

「はい、お母さんですね。先日手紙は既に出したので、お返事もすぐに来ると思います。」

「ありがとう。その連絡を待ってサルマリアに向かう。ベル、サルマリアに行く際は適当な依頼をでっちあげてくれ。」


 アキ達はSランクなので別に依頼が無くとも自由にサルマリアへ行けるが、依頼遂行の為に国境を跨ぐと見せかけておきたい。アキやうちの子達だけで行くならそんな面倒な事はしなくてもいいが、アリアとセシルを連れて行く場合、従者同行許可書を国に申請する必要がある。そしてそんな申請をすれば敵対勢力にアキ達の行動が漏れるかもしれない。彼女達を留守番させるという案もある。だがアリアとセシルは絶対に一緒に行くというだろう。それなら指名依頼を理由にすればいいだろうと思い、ベルに依頼操作をお願いしたのだ。


「はい、私に全てお任せください!」


 アキの役に立てると嬉しそうなベル。


「キーリのおかげで色々捗りそうだな。よし、お話終わり。」


 アキは満足気に頷く。


 ただエレンが険しい表情でアキを見つめてくる。


「じゃあそのキーリってやつがアキを……アキを刺したのね……?」


 エレンの目に殺気を感じる。やはり誤魔化せないか。


「エレン、それも嘘だ。あれは自分で自分を刺した。」


 キーリに信用して貰う為の行動だったと自傷計画の一部始終を伝える。


「うん、みんな怖いから。その目やめなさい。落ち着こうね?」


 うちの子達が説明を終えたアキに対してもの凄い怒気を放ってくる。どうやらこの子達は大層ご立腹のようだ。まあこうなるよな……。


「アキさん……ふざけないで!私、もの凄く怒ってますのよ!」

「なんでそんなことするんですか!何考えてるんですかー!」

「はああああ!?ふざけんじゃないわよ!」

「アキ。僕だって怒るんだからね?自己犠牲好きじゃないっていったよね!」


 うちの子達に加え、アリア、セシル、エリスも「何考えてるんですか?」と静かに威圧してくる。キーリの事を話す時点で怒られるのはわかっていたから覚悟はしていた。していたが……めっちゃ怖い。殺されると思ってしまうくらいに怖い。


 彼女達が怒るなんてこんな時くらいなので、嬉しい事ではある。これがミルナ達の優しさなのはわかっている。


 ちなみにベルとエリザは当然だといわんばかりのすまし顔だ。しっかり怒られなさいと助けてくれる気はないらしい。酷い猫と王女様だ。


「違うんだ……ベルとエリザにこの方法がいいと言われたから……俺は仕方なく……やったんだ。」


 アキがそう言った瞬間、全員の殺気がベルとエリザに降り注ぐ。この子達のアキに対する威圧は基本的にお説教オーラだが、アキ以外だと本気の殺気になるのだ。


 面白いそうなので2人を巻き込んでみたのだが……そのせいですっかりエリザとベルが怯えてしまった。


「ア、アキさん!何平然と嘘を言ってるんですか!?私はむしろ知りませんでしたからね!何も知らなかったの!」


 必死に言い訳しているベルが微笑ましい。


「すまん、ベルの言う通り、ベルにも内緒だった。だからその殺気をベルに向けるのはやめなさい。ちなみにエリザは全部知ってたけどね?」

「アキ君!何さらっと裏切ってるのよ!?待ちなさいよ!私は止めたわよ!そう言うのはよくないって止めたんだから!だから私は悪くないの!」


 エリザが「私の事も助けなさい!」と睨んでくる。ああ怖い怖い。でもまあエリザは本当に悪くない。全部アキの責任だ。


「全部俺の独断でやった事だ。ごめんね。」

「私達が許すと思うのですか!ものすごく怒っているのですわよ!」


ミルナがバンッとテーブルを叩いて立ち上がる。


「ベルにも怒られたよ。次の日、俺の頬が腫れてただろ。」


 あれ痛かったんだよなと苦笑するアキ。


 叩いた張本人のベルは隣で恥ずかしそうに俯いている。ミルナ達もその時の事を思い出したのか、「ああ、なるほど」と納得した表情を浮かべる。あの時、アキは適当に頬が腫れている理由を誤魔化したのだが、今思えば不自然だった事に気づいたのだろう。


「話したら止められるのは分かってた。だから言わなかったんだ。怒るのは当然だ。逆の事をしたら俺もミルナ達を怒るからな。とりあえず……みんなも俺の事殴っていいよ?」


 アキは頬を差し出すが、誰一人として殴ってこない。


「アキさんはずるいですわ!そ、そんな言い方されて……殴れると思ってるんですか!……ばか。」


 ミルナが可愛らしく頬を膨らませる。他の子達も拗ねてそっぽを向いてしまった。結局アキには甘いミルナ達なのだ。


「ごめんな。」

「もうしないでくれますよね?よね?」


 ソフィーが問い詰めてくる。何か答えなければみんな納得しないだろう。アキは慎重に言葉を選んで自分の考えを伝える。


「気を付ける。でもしないとは言えない。お前達の為に必要な事なら俺は何回でもやる。」

「納得いかないわ……でもまあ、許してあげるわ……。アキのバカ。」


 エレンが心配したんだからねと抱き着いてきたのでそっと撫でてやる。


「僕も許すけど、あんまり無茶しないで。アキは大切なんだよ?わかった?」

「ありがとうリオナ。」


 レオも涙目で抱き着いてくる。可愛い2人だ。


「アキさん、もう1人では出かけられると思わないでくださいね?」

「そうです、1人で外出は禁止です。」

「二度と単独行動は出来ないぞ!覚悟するのだ!」


 そしてアリア、セシル、エリスに釘を刺される。どうやらこの子達の監視の目がさらに厳しくなるようだ。相変わらず過保護だなと呆れる。抜け出すにはまた何か言い訳を考えなければいけないようだ。まあ自業自得だから仕方ない。


「ところでキーリさんを私達に紹介してくださらないんですの?」


 ミルナが尋ねてくる。


 アキは顎に手をあて首を傾げる。うん、いる。なんかいる気がする。


「キーリ。」


 アキは虚空に向かって呼びかける。


「なに?アキ。」


 やっぱりいた。アキの背中に隠れるようにして姿を覗かせるキーリ。外套をいつも通り深くかぶっており、顔は一切見えない。


 急に現れた怪しい人物に、ミルナ達は慌てふためく。さすがにベルとエリザは2度目なのでさほど驚いてはいないが。


「だ、誰だ!」

「一体どこからきたのよ!」


 特にエリスとエレンはかなり警戒心を抱いたようで、武器を抜刀して臨戦態勢だ。アキは2人を手で制し、とりあえず武器をしまわせる。


「彼が俺の影、キーリ。見ての通りの隠密能力だ。」

「そ、そうなのね……凄い、全く気づかなかったわ。」


 エレンが悔しそうに呟く。


「ああ……全くわからなかったのだ。」


 エリスは悔しいを通り越して凹んでいる。多分アキの騎士として不覚を取った事に自己嫌悪しているのだろう。特訓を増やさねばとしきりに呟いている。相変わらず真面目な騎士様だ。


「キーリの紹介をしておきたくてな。急に呼び出してごめんね。」

「ううん、いい。」


 キーリはアキにしか興味がないのか、一切ミルナ達の方を見ない。


「キーリさんですわよね?私達にはお姿を見せてくださらないんですの?」

「みせない。信用してない。オレはアキの影。」


 ミルナの質問に一応返答したキーリ。だがそれ以上は答えないと言わんばかりの雰囲気を漂わせている。


「俺も見た事ないからな。」

「あ、そうなんですねー。」

「まあ……アキだけを信用するってのもわかるわ。わ、私もそうだし……!」


 ソフィーが納得したように呟き、エレンは頬を染める。何故か微妙なデレを混ぜてくるエレン。何故ここでデレるんだ。まあソフィーもエレンもこれ以上キーリを追及する気はないようだ。


「キーリもういいよ、ありがとう。」

「うん、またね。」


 いつもの別れのセリフを言い、キーリは初めからいなかったかのように姿を消した。うちの影やっぱり凄い。


「凄いな。私でも全く気づけないのだ……・。」

「頼りになるだろ?」


 エリスは黙って頷く。キーリの隠密能力はアキ達にとって有用だ。他の子達も心強い味方が出来たと喜んでくれた。


 ソフィーを除いて。


「わ、私にもあの能力があれば……アキさんの部屋にしのび……」

「この駄エルフが。」


 相変わらず碌な事しか考えないソフィーを引っ叩き、頬をおもいっきり抓る。


「ひゃってー(だってー)!」


 そしてソフィーだけじゃなく、エレンもソフィーの一言に対して「確かに」と呟いていた。勿論アキがそれを聞き逃すわけがない。


「エレンも殴られたいようだな。」

「ち、違うわ!ご、誤解よ!アキ、待って!」


 まあエレンはソフィーに言われて気づいただけのようだから許してやろう。慌てふためくエレンはなんか可愛いし、特別だ。


 だがこの駄エルフは駄目だ。


「いいはへん(いい加減)、はなひてー(はなしてー)!」

「ダメだ、今日は当分許しません。諦めなさい。」


 ソフィーが涙目で「ふぇぇ」と叫ぶが自業自得だ。ミルナ達も助ける気はさすがにないらしく、呆れた表情を浮かべている。

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