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異世界の観察者  作者: 天霧翔
第十三章 接触
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11

 魔法学校での最後の授業が終わった。いざ去るとなると名残惜しい。だがやる事はまだまだ山積みなのでここでのんびり先生を続けるわけにもいかない。アキは後ろ髪を引かれる思いで学園を後にした。少し散歩したい気分だったので、爺さんとガランの所へ顔を出してから屋敷へと戻る。生徒達との別れで少しセンチメンタルになっていたのかもしれない。


 「らしくないな。」


 アキは苦笑しつつ、足早に屋敷へと戻る。






 屋敷に到着するとアキは真っ先にリビングへ向かう。というより、帰ったらまずリビングに顔を出さないと怒られるのだ。前に一度自室に直接戻ってごろごろしていたら、うちの子達が突撃してきて「お話」された。なんでも「私達におかえりと言わせなかったから」という理不尽極まりない理由で説教してきやがった。アリアやセシルにも「お仕え出来ないので困ります。お世話したいのでちゃんとおかえりを言われに来てください」と30分くらいねちねち言われた。それ以来、ちゃんとリビングに顔を出すように心がけている。あの時の彼女達の剣幕は五指に入るレベルで怖かった。


 相変わらず本気になるところがズレている。でもあの子達が本気になるのはいつでもアキの事に対してだけだ。勿論その気持ちは嬉しい。でも馬鹿だ。


 「しょうがない子達だ。」


 アキは苦笑しつつリビングの扉を開ける。今日も既にみんないるのだろうか。


 「「「「おかえりなさい!」」」」


 元気よく出迎えてくれるうちの子達。アリア、セシル、エリスも口々におかえりと言ってくれる。


 「おかえりなさい、アキさん。」


 そしてベル。今日もちゃんと全員揃っているようだ。


 ベルだけは国務でまだ帰ってないと思ったのだが、既にリビングで優雅に寛いでいた。というよりこの王女、屋敷にいる時は基本的にアキ達が借りているこの別館にずっといる。本館にいなくていいのかと思ったが「プライベートは私の自由です!」と言い切った。自由奔放な王女様にメイドや執事が頭を悩ましていそうだ。いや間違いなく悩ましているだろう。


 まあそれはいいとして、これからアイリスに貰った屋敷への引っ越しだ。


「じゃあみんな、急で悪いけど屋敷を移動するから各自荷物をまとめてくれ。」


 ミルナ達にアイリスから貰った屋敷の事を説明する。ただどうやら既にある程度ベルが伝えておいてくれたらしく、円滑に話が進んだ。さすがベル、抜かりない。


 しかしそんなうちの王女様は引っ越しにあまり納得がいってない様子だ。


「何も今日いかなくても……。今はこっちにいればいいのに……。」

「それでもいいんだけど、やっぱりベルのメイドや執事に気を遣ってしまうからな。」


 自分達の屋敷があるのであればそっちに行くべきだ。いくらここが別館とはいえ、会話の内容には気を付けなければいけないし、王家所有の屋敷だから色々と気を遣う。それに自分の屋敷にいた方が、キーリの忍び込む手間も省けるだろう。


 アキのそんな説明を聞いても、ベルの機嫌が直らない。口を尖らせ、ずっと拗ねている。多分、寂しいのだろう。しょうがない王女様だ。


「ベルはいつでも来ていいし、好きなだけいていいから。あとよかったらベルの部屋もいる?王女様に提供するような広さじゃないと思うけどさ。」

「え……!欲しいです!狭くてもどんな部屋でもいいです!私の部屋が欲しいです!」


 両手を胸の前で握りながら嬉しそうに微笑む。今まで拗ねていたのはどうしたと言いたくなるくらいの眩しい笑顔だ。


「ベルも一緒に住めればいいのにね。まあそれは無理か……。」

「アキさんもその……寂しいって思うんですか?」

「もちろん。ベルがいないのは寂しいよ。」

「わ、わかりました!なんとかします!」


 ベルが「任せてください」とガッツポーズする。この子なら本気で何とかしそうで怖い。まあ何とかなるなら一緒にいられるから嬉しいけど。


「でも無理はしなくていいよ。」

「えー……無理してでも一緒にいたいのに。」

「ほら、会えない時間が愛を育むとも言うだろ?」

「……!それもそうですね!」


 ほんとうちの王女様単純だな……と苦笑する。


「とりあえず今日は一緒においで。夜までこっちにいなさい」


 アキがそう言うと、ベルはやったやったと喜んでいる。


 ただベルばかりを構っていたからか、うちの子達がすっかり仏頂面だ。でもそれは仕方がない。何故ならうちの子達やアリア達はアキと一緒の屋敷に住んでいる。この中で衣食住が別なのはベルだけだ。だからその分彼女の事は多めに構ってあげないと可哀そうだろう。


「じゃあ1時間後に出発でいいね?元々短期滞在だしそんなに荷物ないよね?」


 1ヶ月程度の旅なので、ある程度の荷物はあるが、1時間もあれば十分に荷造り出来るだろう。アキの予想通り、全員が問題ないと頷いてくれた。


 いつもの2人を除いて。


 ミルナとソフィーは気まずそうな顔でアキから視線を逸らしてくる。


「優秀な俺のメイド、アリアよ。ミルナとソフィーの部屋はどうなってる?まさか汚しているわけないよな?ここはベルに借りている屋敷だぞ。それにもし今度あの状況ならベルに頼んで二つ名を『汚部屋の純白と漆黒』するって言ったよな?」

「あらあら、アキさん面白そうなお話ですね。私も混ぜてください。」


 真っ黒な笑顔を浮かべながらベルが会話に入って来た。さすが腹黒王女、こういう話題への反応が早い。


 とりあえずアリアに早く報告するようにと促す。


 次の瞬間、そうはさせまいと、ミルナとソフィーがアリアに飛び掛かろうとする……のが見えたので、エリスに押えつけてもらう。


 さすがエリス、あっさりとミルナとソフィーを制圧してくれた。


「エリスさん離すのですわ!今!まさに!私の名誉がかかっているんですの!」

「離してくださいー!とめなきゃ、とめなきゃいけないのですー!」


 ミルナとソフィーが必死に抵抗をしている。もうこの状況を見ればアリアの報告を聞くまでもないと溜息を吐く。エレンとレオは完全にドン引きだ。あれだけ言われたのに改善してない姉2人を目の当たりにしたのだから当然だろう。


「さあ、アリア言いなさい。」


 アキは容赦なくアリアに告げる。


「はい、喜んで。今日は本物をもってきました。」


 アリアは白と黒の布をみんなに見えるように高々と掲げる。今回はそれが本当に自分の物だと瞬時にわかったようで、ミルナとソフィーの顔が青ざめる。


「アキさんダメ!見ないでくださいませ!お願いだからっ!」

「やだやだ!やめてよおおおおお!」


 さすがにエリスの事は振り解けないようで、子供用にジタバタしながらアキに懇願してくる。さすがにちょっと可哀そうになってしまう。


 とりあえず2人の下着を返すようアリアに指示する。アリアがアキの命令通り彼女達に下着を差し出すと、ソフィーとミルナは奪い取るようにして服の中に隠してしまった。相当恥ずかしかったのだろう。今度は顔を真っ赤にして涙目になっている。


 まあでも今回は本物だったからか、アリアはアキに渡そうとはしなかった。彼女なりの慈悲なのだろう。なんだかんだで優しいメイドだ。


 ただこの汚部屋美少女達を許すつもりはないが。


「この駄エルフに暗黒物質が。ここはベルの屋敷だぞ?人様の屋敷を昨日の今日で派手に汚すとは本当にいい度胸をしているな。」


 彼女達を軽く威圧してやる。


「待って、アキさん聞いて!」

「ですです、理由を聞いてくださいー!」


 言い訳させてくださいとほざくミルナとソフィー。そんなもの聞くまでもないとは思うが、いつもアキには弁解の時間を与えてくれる。だから彼女達にも平等にその時間は与えるべきだろう。


 アキは理由を話すように促す。


「「忙しかったんです!」」


 2人は必死に忙しさをアピールしてくるが、絶対にそんなことはない。一応レオとエレンに確認しておく。


「えー……僕達結構時間あったと思うんだよね。」

「そ、そうよね……。アキは忙しかったと思うわ。でも私達はそんなに忙しくなかったし暇な時間もあったわ……。」


 レオとエレンが呆れた表情でばっさりと2人を切り捨てた。そして擁護して貰えると思っていたらしいミルナとソフィーが絶望している。何故この状況で擁護して貰えると思ったのだろうか……。


 とりあえずこの駄目人間とエルフを殴ろう。


 そう思い、アキは拳を握りしめて2人にゆっくりと近づく。エリスが押さえつけてくれているので殴りやすい。


 ただアキの行動をいち早く察知したソフィーが必死に哀願してくる。


「それグーです!アキさんグーはダメですー!」

「うるさい黙れ、この駄エルフ、あと暗黒物質。嘘まで吐くとは本当にいい度胸だ。覚悟しろ。」


 たまにはグーでお仕置きしておかないとこの2人は反省しないだろう。


「許してくださいませ、アキさん……!」

「です、許してくださいですー……!」


 すると今度はミルナとソフィーが目を潤ませながら「ごめんなさい」と上目遣いで訴えてきた。女の涙を使うとは卑怯な連中だ。


 仕方ない。許してやろう。


「わかった、許す。」


 あっさり許されるとは思ってなかったのか、ミルナとソフィーは目を丸くして驚いている。数発くらい殴られるのは覚悟していたようだ。周りの子達も「え?本当に?」と訝しげな表情を浮かべている。


「え……?許してくださるんですの?」

「アキさん?本当に?許してくれるのですー?」


 アキの言葉が信じられないのか、ミルナとソフィーが何度も確認してくる。


 当然だ。男に二言はない。エリスにも2人を離すように言う。


 まあ許すと言っても殴るのを許すというだけだ。この2人をいくら殴っても改善しないことはもう分かりきっているので、今回は別の方法でお仕置きする。当然お仕置きはある。


「ベルの屋敷なのにミルナとソフィーが汚してごめんね。」


 先ずはベルに謝罪する。


「い、いえ。そのくらいは別に大丈夫ですけど……。」

「でもやっぱり申し訳ないよ。だからベルにお詫びをさせて?それにミレーではベルにいっぱい助けられたしね。向こう3日間でどこかで1日時間作れる?午後だけでもいいけど。」


 時間を空けられるのであれば一緒に買い物に行こうとベルを誘う。


「1日、1日空けます!なんとしてでも!アキさんとお買い物デートがしたいです!」

「デートなのか?」

「デートです!だってアキさんは今朝、私を娶るって言ってくださいましたよね!だから私とアキさんは恋人同士です!だからお出掛けはデートです!」

  

 ベルがものすごい勢いで宣言してくる。ちょっと怖い。


 でもまあ確かにベルの言う通りだ。この子達に気持ちを伝え、「はい!」と返事をもらったという事は、恋人になったという事だ。あまり意識してなかったけど、確かにそういう事になる。


「そうだな、うん。みんなとデートに行こうと思う。」


 講師依頼も終わりミレーでの用事は全て片付いたので、向こう3日間でみんなと買い物に行こうと考えている。ミレー出立は5日後。前日は世話になった人達を呼んで夕食会をしたい。つまりこの子達とのお出かけに使える時間は明日から3日間だ。


 アキがそう言うと、ミルナ達は「やったー!」と嬉しそうにはしゃいでいる。やっとアキとゆっくりお出掛け出来るのが嬉しいのだろう。まあそこまで喜ばれるとさすがにちょっと照れ臭いが。


「で、今からくじをします。」


 突如アキが意味不明な宣言をしたからか、不思議そうに首を傾げるミルナ達。アキは説明などは一切せず、とりあえず見てろ皆に言い、全員の名前を紙に書いていく。セシルやアリアも含む全員だ。


 彼女達の名前がそれぞれ書かれた8枚の紙を机の上に並べる。


「さて買い物に使える3日のうち、最初の1日目は3人、2日目は2人、3日目は1人とお出掛けする。それを誰と行くか今からくじで決める。」


 つまり最終日はアキと2人きりでデート出来るという事だ。彼女達も当然それをわかっているようで、真剣な面持ちで見つめてくる。完全に「女の戦い」と言わんばかりの緊張感だ。そんな必死になる程にアキとの買い物に価値は無いとは思うが……まあこの子達にとっては何より価値がある事なのだろう。素直に喜んでおこう。


「あの……アキさん?それだと6人ですよ?2人いけないですー。」


 人数が合わない事に気づいたソフィーが手を挙げて「なんで?」と尋ねてくる。


「まあとりあえず聞いてくれ。」


 アキの言葉に全員が素直に頷く。


「まず最終日の1人を決める。」


 だがセシル、アリアの2人はもうミレーで一緒にお出掛けしているから最終日の抽選からは除外。アキがそう告げると、2人は少し寂しそうな顔をする。でも直ぐに仕方がないと理解を示してくれた。相変わらずいい子達だ。そして当然ミルナとソフィーも除外だ。エレン、レオ、エリス、ベルから決めるとアキは宣言する。


「「そんなー!!!」」


 ミルナとソフィーは涙目で叫ぶが、譲るつもりはない。というか少しはアリア達の物分かりの良さを見習って欲しいのもだ。


「部屋を汚していた罰だ。文句は言わせない。」


 こういった罰の方が間違いなく反省するだろうと思い、今回は趣向を変えてみたのだが、効果は覿面だったようだ。いや、覿面過ぎた。ミルナとソフィーの落ち込みようが半端じゃない。この世の終わりを見たような表情をしている。そこまで凹まれるともの凄く心が痛い。ちょっとだけ反省させたかっただけなのに……。


 危ない、本気で許してしまうとこだった。


 とりあえず心を鬼にして4人の名前が書かれた紙を裏返し、適当に1枚引く。


「えーっと……ベルだね。」

「やった!私です!アキさん独り占めです!」


 ベルがぴょんぴょんと飛び跳ねて可愛らしく喜んでいる。


「ミレーではベルにいっぱい頑張ってもらったしね。俺もベルで嬉しいよ。じゃあ次は2日目な。ここから少し抽選方法を変える。」


 アキは新しい紙にさらに名前を書いていく。出来上がったのはセシルとアリアの名前が書かれた紙が2枚ずつ。エレン、レオ、エリスのが4枚ずつだ。そしてミルナとソフィーは……罰として1枚ずつのまま。


「セシルとアリアもいっぱいお仕事してくれたしね。ただ1回行ってるからエレン達を優遇した。ミルナとソフィーは罰だ。1枚だけだ。自分の運に祈りなさい。」


 お出掛けの抽選に名前を入れて貰えるだけでもありがたいとセシルとアリアは文句の1つも言わない。いい子過ぎて涙が出てくる。それに比べてうちのダメ人間2人はさっきからぶーぶー文句を言ってくる。情けなさ過ぎて涙が出てきた。


「そんな!ずるいですわ!お買い物なのに!」

「そうです!そうです!アキさんとお買い物ですー!」


 そもそも部屋を汚していなかったらこんなことにはなっていない。つまりミルナとソフィーの自業自得だ。


「文句言うなら名前すらいれないからな。」


 アキの一言で態度を一変させ、それだけはと涙目で懇願してくるミルナとソフィー。くそ、ムカつくくらいに可愛い。これはずるい。やはりミルナとソフィーを見ているとどうしても許してしまいそうになる。甘やかしてあげたいという衝動に駆られる。手のかかる子程可愛いとはこういう事なのだろうか……。


「とりあえず名前が入ってるならいいだろ?」

「「……はい。」」


 頬を膨らませて渋々頷くミルナとソフィー。名前さえ入っていれば可能性はあるから、とりあえず結果を待とうと一応納得してくれたらしい。


「では続いて2日目は……エレンとリオナだ。やったね。」

「ほ、ほんと!……じゃなくて!し、しょうがないから行ってあげるわ!」

「エレン……そこは素直に喜ぼうよ……。アキ!よろしくね!」


 相変らずのツンデレエレンに苦笑するレオ。まあでもレオと「やったー!」とこっそりはしゃいでいるので、なんだかんだエレンも素直な子だ。


 これで残りはエリスが4枚、セシルとアリアが2枚ずつ、ミルナとソフィーが1枚。


 ミルナとソフィーは祈るように手を合わせて必死に拝んでいる。


「じゃあ最後だ。明日俺とお出掛けする3人。まず1人目は……エリス。」

「わ、私か!いいのか!」

「当たり前だろ?楽しもうな。」

「うん!」


 エリスが溢れんばかりの笑顔を向けてくる。


 これで買い物に行ってない子達は全員当選した。確率的には順当だろう。あとはミルナとソフィーが最後の確率をひっくり返すことが出来るかどうかだ。


「どうする?ソフィー、ミルナ、自分でひくか?」


 自分の運命を本人に託すと言う残酷な手段を提案してみた。2人はしばし逡巡した後、「自分でひきます」と宣言した。自分達の運に自信があるのか、それとも人任せにしたくないのか。


「じゃあここに6枚ある。1枚ずつ指を差せ。」


 セシルとアリアで4枚ある。つまりミルナとソフィーが選ばれる確率は約30%。


 ミルナとソフィーは意を決して1枚ずつ指差す。鬼気迫る表情だ。指先も少し震えている気がする。


「じゃあ捲るぞ?」


 ミルナとソフィーがゴクリと唾を飲み込む音が聞こえる。アキはみんなに見えるように2枚捲る。


 無慈悲にも出てきた名前はセシルとアリア。


「じゃあ明日はエリス、アリア、セシルだな。ソフィーとミルナはお留守番。」


 これで反省してくれるだろう。可哀そうだがこのくらいしないとこの2人は生活態度を改めない。


 だがアキの予想は外れた。


 ミルナとソフィーは落ち込んで反省するどころか……泣き始めてしまった。


「ぐすっ……やだ……やだよー……ひくっ……アキさんとお買い物いきたいよ……・。」

「うっ……アキさん……とお出かけ……ぐすっえっく……ひっく……。」


 本気で泣いているのでさすがのアキも焦る。ベルやアリアでさえ焦って戸惑っているくらいだ。ミルナのお姉さんキャラは完全に見る影もないし、ソフィーのいつもの弾けんばかりの笑顔もすっかり消えている。


 さすがに泣かせるつもりはなかった。一気に罪悪感が襲ってきた。少し前に「心が痛いからミルナ達を甘やかしたい」と既に音を上げていたのに……これでは心が痛いどころではない。むしろアキが絶望の表情を浮かべてしまいそうだ。


「……アリア、セシル。相談があるんだが。」

「ええ……譲ってもいいです。」

「私も……。」


 アキがお願いする前に、アリア達は自らの権利を2人に譲ると言ってくれた。


「それだと2人の罰にならない。エリス、アリア、セシル、明日この2人を同行させていいか?」


 アリア、セシル、エリスは「勿論なのだ」と快く承諾してくれた。


「よかったな、ミルナ、ソフィー。」


 話はちゃんと聞いていたようで、2人が何回も頭を縦に振っている。まだ泣いているが、少しだけ嬉しそうだ。行けるとわかって安心したのだろう。


 ただし同行する条件として今後部屋を綺麗に保つ事、そして今すぐに部屋を片付けてくる事をミルナとソフィーに約束させた。


「アリア達にはあとでご褒美あげるね。」


 アリア、セシル、エリスは「そんなのいりません」と遠慮してくるが、文句の1つも言わず、快くミルナ達の帯同を許してくれたのだから、ご褒美は当然だ。


 さて……もういいだろう。


「ミルナ、ソフィー。」


 アキは2人を優しく撫でてやる。


「ごめんね、ちょっと意地悪しすぎたよ。」


 やっと甘やかせる。泣いてる2人を見たときから全力で甘やかしたいのを必死に我慢していた。もういいだろう。


「「アキさーん!」」


 アキに撫でられたミルナとソフィーはまた目に大粒の涙を浮かべ、おもいっきり抱き着いて来た。安心したら涙が溢れ出て来たのだろう。ああもう、どうしようもなく可愛い子達だ。アキも彼女達をそっと抱き返してやる。


「うぅ・・アキさんは悪くないですわ……ぐすっ……ごめんなさい……。」

「です……ぐすっ……私が悪いんですー……。」

 

 まあ反省しているようだし、この子達の気が済むまで甘やかしてあげよう。それにミルナ達はこれからは絶対にちゃんと掃除すると言ってくれた。心を鬼にしてお仕置きした甲斐があったというものだ。精神的に辛いので二度とやりたくないが。






 2人が落ち着くまで少しかかったが、無事泣き止んでくれた。よかった。この子達の泣き顔はあまり見たくない。とりあえずこれで一件落着だろう。


「アキさん、まだですわ。」

「はい、まだですー。」


 だがミルナとソフィーはまだやらなきゃいけない事があると言う。なんだろうと首を傾げるアキ。


 すると2人はアリアの前に立ち……頭を下げた。


「アリアさん、掃除教えてくださいませ。」

「私もお願いしますー。」


 アリアに掃除の仕方を教わろうとしているミルナとソフィー。やらなきゃいけない事ってそれか。そもそも掃除って教わるものだっけ……と頭を抱えるアキ。だがまあこの2人が自主的に掃除しようしているのだから格段の進歩と言えよう。


 アリアが「どうします?」と首を傾げて来たのでアキからもお願いしておいた。


「教えてあげなさい。」

「はい、アキさんがおっしゃるなら喜んで。」


 あれ。もしかして最初からこうすればよかったのではないだろうか。アリアはアキの命令なら大喜びで従ってくれる。なら彼女に「ミルナとソフィーが掃除出来るようになるまでスパルタで教え込め」と指示すればよかったのでは……。


 まあそれは考えないようにしよう。とりあえず無駄に疲れた。 


「まったく……頼むからこんなことに時間を使わせないでくれ。2人を娶ると言ったの早まったかな……。ポイする?」


 なんだかんだで可愛い2人なのでそんな事出来るわけないんだが。ただミルナとソフィーは慌てて「やめて、それだけはお願いだからやめてください」と土下座する勢いで懇願してきた。やれやれ、手のかかる子達だ。


「よし、じゃあ今から1時間後出立するから各自準備を始めなさい。ミルナとソフィーは必要なら手を貸そう。ただし手伝うのは俺だけどな。」


 アキがそう言うと、ミルナとソフィーは「だ、大丈夫です!」と一目散に部屋へ飛んで行った。また下着がばら撒いてあるのか……。相変わらずだなと苦笑する。


 2人が慌ててリビングから飛び出していく様子を楽し気に眺めていたら、アリアがそっと耳打ちしてきた。


「アキさん……あのくじインチキですね。最後だけしょうか?」

「さすがアリア。よく見ているね。最後だけちょっと細工した。」


 手の中に握っている紙をアリアに見せる。捲る振りをしてセシルとアリアになるように紙をすり替えた。つまりミルナとソフィーはどれを選んでも同じだったという事だ。ちなみに手の中にあるすり替えた紙は「ミルナ」と「ソフィー」だった。ちゃんと自分自身をしっかり引き当てるあたり流石あの2人だ。強運というか恐ろしい執念というか……。もうなんか凄い。


「元から連れて行くつもりだったのですね?」

「うん。あんな子達だけど可愛くて仕方ないんだ。甘やかしたくもなるさ。でもまあいい薬にはなっただろ。」

「確かにあれくらいしないとあの2人は反省しないでしょう。」


 アリアと顔を見合わせて苦笑する。


 とにもかくにも引っ越しだ。アキもさっさと荷造りを済ませる事にしよう。


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