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異世界の観察者  作者: 天霧翔
第十三章 接触
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10

「アキ先生!お元気で!」

「行かないで!ずっと先生してください!」

「また来てくださいね!むしろ明日にでも!」


 生徒達が口々に声を描けてくる。


 今日で講師生活は終わり。明日からは学園に来る予定はない。だから最後の授業は全力でやろうと意気込んでいたのだが……無駄になった。生徒達が最後だから「アキ先生お別れ会」をすると言って聞かなかったのだ。結局授業ではなくただのお茶会になってしまった。

 

 まあでもそれもいい。一週間だけだったが、楽しかった。

 

 それにどうやらお茶会を生徒達で元々計画していたらしく、それぞれがお菓子を持って来てくれていた。なんでも全部生徒達の手作りなんだとか。ちょっと感動してしまった。エアルやミリーも「食べてください!」と自慢のお菓子を振る舞ってくれた。しかしうちの生徒達は女子力が高い。どっかのミルナやソフィーに見習わせたいくらいだ。


「アキ先生。あの、よかったらその、私のもどうぞ。」

「エリ先生も作ってくださったんですか?」

「は、はい。お世話になったので!」


 エリもこのお茶会計画に1枚噛んでいたようだ。世話になったのはアキの方なのにと少し申し訳なくなる。


「わ、私もそうなんです。アキ先生にはそのずっと……先生してもらいたいです。」


 アキとの毎日は新鮮で楽しかったと言ってくれた。エリにそこまで言ってもらえるのは嬉しい。生徒達も凄く寂しがってくれているし、この子達とお別れするのはどこか感慨深い物がある。本気で講師になろうかなとつい心が揺らいでしまう。


「光栄です。エリ先生。また来ますね。」

「はい!お待ちしてます!そ、それで私のお菓子もどうぞ!」

「はい。ありがとうございます。喜んで頂きますね。」


 ちなみにエリザはお茶会があるのを知らなかったらしい。なんでも学園長はアキのペットだから内緒だったんだとか。どんな理由だ。そしてエリザはエリザで「私だってお菓子くらい作れるのよ!」と悔しそうに喚いていた。悔しがるのそこかよと呆れたが、なんとも彼女らしい。


 それにしてもこんなにおもてなしされたのは人生で初めてかもしれない。蓋を開けてみれば最高の依頼だ。楽しい学園生活だった。これでお金なんて貰えない。でも依頼は依頼だからとエリザは払ってくるだろう……。


 そうだな。この子達に少し恩返しでもしておこう。


「みんな、聞いてくれ。美味しいお菓子のお礼にミレンド商会の服を皆に贈ろう。俺からの餞別だ。」

 

 少しでも喜んでくれたらいいんだが、どうだろうか。


「ほんとー!嬉しい!」

「せんせーすてきー!」

「やったー!アキ先生、愛してるー!」


 大好評のようだ。よかった。依頼料の300金を全てつぎ込めばこの子達に1着ずつプレゼントしてあげられるだろう。足らない分はアキのポケットマネーから出しておけばいい。後で爺さんに手配しておこう。


「エリ先生もですよ?」

「わ、私もですか!?」

「当然です。1週間お世話になりました。受け取ってくださいね?」

「あ……は、はい!ありがとうございます!じ、じゃあその……アキ先生が今度来た時その服を着て来ますね!」

「はい、楽しみにしています。」


 エリが嬉しそうにはしゃいでいる。やはりミレンド商会の服は人気があるようだ。ちなみにエアルとミリーはもう貰ってるので遠慮しますとの事。まあそうだろう、ここは彼女達の気持ちを汲んでやる事にする。 


「ちなみにエリザは無し。」

「な、なんでよ!?なんでおねーさんには無いのよ!」


 自分も貰えると思ってたらしい。傲慢な猫だ。


「お姉さんだからだろ?むしろ俺に買ってよ。」

「そ、そんな……!で、でもおねーさん……!うぅ……。」


 絶望した表情をするエリザ。ほんとこの猫は微笑ましいな。


「冗談に決まってるだろ。というよりエリザのは俺が選びたいから一緒に買い物いくんだよ。わかれよ。」

「あ……うん!わかったわ!」


 表情が一転して尻尾をばったばたとはち切れんばかりに振っている。


「アキせんせー!質問があります!」


 そんなやり取りを見ていた女子生徒が手を挙げる。まあ今日で先生も最後だ。答えられる事であれば喜んで答えよう。


「学園長のどこがいいんですか?」


 またそれかと呆れる。


 毎日の授業でも質問はあるかと聞くと、生徒達が一斉に手を挙げるのだが、まともな質問が来ない。魔法関連の質問とは程遠い質問しか来ない。それがここ1週間の唯一の悩みだった。そして最後の日である今日も例外ではない。一週間色々と一生懸命に教えたのに、全ての質問が色恋関連とはなんとも悲しい。まあ若い女の子達なのでそう言った話が好きなのは仕方のない事なのかもしれないが。


「こらっ!あなたは……な、何を聞いてるの!?」


 そしてその都度生徒達に突っかかっていくエリザ。もうここまでが一連の流れだ。というよりエリザが毎日授業に参加しに来るから生徒達が面白がって彼女を弄るんだが。


 今日のお茶会しかり、アキの授業には欠かさず出席しているエリザ。学園長って暇なのか……と何度突っ込んだことか。だがエリザは「魔法より大事な事はないわ!」と言い切った。きっと全ての仕事を放り出して来ているのだろう。エリが泣きそうになりながら「仕事してください」と言っているのを何回か見た。


 そんな事を考えながらエリザや生徒達の様子を見守っていたら、矢継ぎ早に色んな所からアキに声が掛かる。


「アキさん!年上の学園長より私達のほうがぴちぴちですよ!乗り換えませんか!」

「ですです。素直じゃない年増より私達のほうがお得ですよー!」

「先生、私を養ってください!学園長よりいいお嫁さんになるから!」


 言いたい放題だ。まあ生徒達がすっかりエリザと打ち解けた証拠だろう。見ての通り今ではすっかりお友達感覚だ。ただエリザもそのくらいのほうが気楽なのか、最近は肩の力が抜け、毎日楽しそうに学園長をしている。


「なんですって!?今、年増って言った子出てきなさい!よくもおねーさんの事を年増って言ったわね!許さないんだから!お仕置きよ!いいえ、退学よ!」

「ええい、落ち着け。このバカ猫。」


 とりあえずエリザを引っ叩く。


 エリザが暴走する前に止めるのが、すっかりアキの役目となってしまっている。明日からはアキがいなくなるのに大丈夫かと心配したが「アキという火種がいなくなるのでむしろ大丈夫です」とエアルが教えてくれた。そんなものなのか。


「だって!アキ君!あの子達が!」

「エリザはまだ若くてぴちぴちだから安心しろ。それにこんな綺麗で可愛いお姉さんそうはいないぞ?」

「ほ、ほんと?……やった……それならいいわ……。」


 エリザが赤面して嬉しそうに微笑む。そして生徒達はキャーキャー騒いでいる。


 どうやら生徒達はアキにエリザを褒めさせたいらしい。その為に煽っているのが丸分かりだ。嬉しそうに乙女の顔をする学園長を見るのが生徒達は楽しいのだろう。よくわからんが程々にしてやって欲しい。エリザがそのうち羞恥で死にそうだ。


「ほんとなんで最後の授業がこれなんだか。」


 アキが軽く溜息を吐く。


「まあ、いいんじゃないですか?私は楽しいですよ。」

「そうそう、最後くらい大目にみてよ。」


 いつの間にか隣にいたエアルとミリーが楽しそうに話しかけてくる。


「そうだな、これはこれで悪くない。俺も楽しいよ。それよりエアル、ミリー。2人には特に世話になった。俺がミレーを発つ前日、うちに来い。世話になった人達を呼んで夕食会でも開こうかと思ってな。」


 Sランクの彼女達とはこれからも交流していきたい。それにエアル達にはうちの子達の事でも迷惑をかけた。


「パーティですか!やった!」

「私達が行ってもいいの?」


 アイリスに貰った屋敷の事はこの子達には伝えた。いつでも遊びに来いとも言っておいた。そして予定通り、最終日にはその屋敷で夕食会を開くつもりだ。


「勿論。2人が来てくれないと困る。だからあの服着て来てくれないかな?」


 ミレーでお世話になった人達を呼ぶつもりなのでエアル達を呼ぶのは当然だ。そして何よりまだ買ってあげた服を見せてもらってない。


「あ……はい!着て行きますね!」

「うん!まだ見せてないもんね!絶対行くよ!」


 来てくれるならよかった。


 勿論爺さんも呼ぶ。ガランにも声をかけよう。ただあいつは多分鍛冶があるとか言って来なさそうだ。他に呼べそうな人は……アイリスくらいだろうか。


「アキ君、いつ屋敷に移るの?」


 エアル達との話を聞いていたのか、エリザが会話に入って来る。そうだ、エリザも呼ばなければ。まあ彼女の場合はあそこに住むから呼ぶまでもないだろうが。


「今日の午後には移る予定。エリザはいつから来る?」

「うーん……私も今夜には荷物まとめて行くわ。そんなに私物ないからすぐ引っ越せるのよ。」


 なら今晩からはエリザもアキ達と一緒だ。それなら誘うまでもない。夕食会には強制参加だ。


「待ってる。エリザが来てくれるのは楽しみだ。」


 毎日この猫がアキの癒しに加わるのだ。兎、狼、猫、最強の布陣じゃないか。


 それに屋敷で気軽にエリザと魔法談義が出来るのもありがたい。彼女の知識は勉強になる事も多い。それに同じ魔法職としてミルナにもいい影響を与えてくれるだろう。まあミレーに居る時だけという制限はつくが。


「そ、そう?……その……私もよ。」


 少しだけ頬を染め、嬉しそうに微笑むエリザ。


「ねえねえ今の聞いた!?学園長、アキ先生と同棲だって!」

「え!?ほんとに!?」

「キャー!学園長がお嫁さんになるのね!」

「夜な夜なアキ先生に愛でられるのよ!」


 教室でこんな会話をしたものだから生徒達が騒ぎ始めた。ちょっと迂闊だったか。でもまあ事実だし仕方ない。反応するのも癪なので放っておこう。


「そ、そんなんじゃないわ!勘違いしないでよ!あなた達は退学!退学よ!」


 それにアキが反応するまでもない。うちの猫が既に光の速度で突進してったので放っておこう。あの猫にはスルースキルという概念が存在してないらしいからな。


 そんな騒がしいお茶会と言う名の授業も無事終わった。アキはエリや他の生徒達1人1人に挨拶をし、別れを告げた。ほとんどの生徒が泣いて別れを惜しんでくれたのにはちょっと込み上げてくるものがあった。だがまたすぐに会えるだろう。この子達の為にもちょくちょくミレーには来るつもりだ。ここにはうちの猫もいるしな。

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