7
「アキさん、そこに座ってください。」
ソフィーに睨まれている。しかもいつもの暴走エルフではなく、もの凄くお怒りモードのソフィーだ。このソフィーは怖い。蛇に睨まれた蛙のようになってしまうくらいには怖い。そしてミルナ、エレン、レオもめちゃくちゃ不機嫌だ。悲しい事にアリア達ですら視線を合わせてくれない。これは寂しい。
まあ原因は明白だ。ベルとのキスだ。
アキの予想通り、朝には全員にバレていた。早すぎる。というよりあのバカ王女がわざわざ言いふらしたのだから当然だ。朝リビングに行ったら、勝ち誇ったベルと絶望したミルナ達がいたので、とりあえずベルをおもいっきり引っ叩いておいたが、手遅れなのは言うまでもなかった。
「アキさん!どういうつもりですかー!今すぐ説明してくださいですー!」
「ベルが夜這いに来た。ちゅーしてって迫られた。」
ソフィーの剣幕に嘘は付けないので、端的に要点だけを正直に伝える。
「そ、そんなはしたない言い方はしていません!」
ベルは必死に弁解するが、重要なのはそんな事ではない。
「つまり……大筋はその通りということですわね?」
ミルナが真っ黒な笑顔でベルを睨む。
「僕も悲しいけど、アキは優しいからね。頼まれたら断れないのは知ってる。だからアキは別にいいんだよね。」
「まあね、私も納得いかないけど……アキはいいわ。そもそも悪いのはそこの腹黒王女よ!」
レオとエレンが怒りの矛先をベルに向ける。というより最初からうちの子達がアキに対して怒ってはいないのはわかっている。アリア達もだ。アキには文句を言いたいだけで、結局は抜け駆けしたベルが気に入らないだけだ。
でもまあ……そうだな。丁度いい。
「俺から一ついい?」
恥ずかしいが、いい機会だ。今、ここではっきりと言ってあげよう。彼女達のアキを想う気持ちは嫌と言うほど伝わってくる。アキは彼女達を受け入れる覚悟はした。後は口に出して伝えてあげなければいけない。いつにしようかとずっと考えていたが、今がその絶好のタイミングだと判断した。
「なんですの?」
ミルナが首を傾げる。アキが口を挟んでくるとは思っていなかったのだろう。ベルを含めた他の子達も「どうしたの?」と不思議そうに見つめてくる。
アキは深呼吸をする。いざ言うとなるとめちゃくちゃ恥ずかしい。でも言ってあげなければこの子達に申し訳ない。これだけ慕ってくれているのだからちゃんと返事をして覚悟を示さなければ男じゃない。
まあ覚悟と言えば聞こえはいいが、アキもこの子達の事が大好きなのだから当然の帰結だ。こんなに可愛くて素直でいい子達が「アキ、アキ」って懐いてくれたら好きにならないわけがない。きっとこの子達が好意を示さなかったとしても、アキがいつかは惚れていただろう。偶々この子達の方が先にアキを慕ってくれたというだけの話だ。
「朝っぱらからする話でもないんだけどな……恥ずかしいから1回しか言わないからよく聞け。俺は皆が俺の事を好きな以上に皆が好きだ。大好きだ。もし皆が望むなら全員を娶りたい。むしろ俺はそうしたい。勿論やる事が全部終わった後にだけどな。」
アキはそっぽを向いて続ける。さすがにこの子達の目を見てこんな話は出来ない。恥ずかしすぎる。
「目的を達成した後、皆が俺とまだ一緒にいたいと言ってくれるなら……是非そうしたい。もし何か他の道に進みたいならそれでもいい。去ってくれても構わない。でも俺は皆が好きだから……その一緒にいたい。」
ミルナ達の方をチラっと見ると、口をバカみたいにパクパクさせて唖然としている。口を閉じなさい、美少女が台無しだ、と突っ込みそうになる。
「あ、一応言っておくけどアリア、セシル、エリスもだからな。従者とか関係なく俺は3人の事が大好きだからな。まあ……3人が良ければだけど。」
自分達は関係ないっていう表情をしていたので、一応ちゃんとアリア達にも宣言しておく。うちの子達やベルだけを娶るつもりはない。そこまでするならアキを慕ってくれている子達全員を受け入れるつもりだ。
アリア達は従者という意味でいつも一歩引いているが、ミルナ達と同じくらい自分を好いてくれているのはわかっている。いつもアキを一番に考え、大事にしてくれているのだから。
ちなみにそんなアキの言葉を聞いたアリア達は、やはりミルナ達と同じように口を半開きにしてアホみたいな顔になった。そんなに驚く事だろうか。
とりあえず言うべき事は言った。これ以上は無理。
「文句あるか!ないだろ!はい、この話終わり。俺は学園に行く。」
つい声が大きくなってしまう。女性に気持ちを伝える事がこれ程に恥ずかしい事だとは思わなかった。この子達はいつもこんな恥ずかしい思いをしながら「好き」って言ってくれていたのかと思うと頭が下がる。本当に凄い。
さらに付け加えて感想を言うなら、初めての告白が「女性に」じゃなくて「女性達に」なるとはさすがに想像もしてなかった。屑人間だと罵られても言い訳出来ない。愛を叫ぶどころか叫びまくってるレベルだ。自分ってこんなに節操がなかったんだなと軽く落ち込む。
アキは羞恥と自己嫌悪で足早にリビングから退出しようとするが、両腕をミルナとベルにしっかり掴まれた。どうやら逃がして貰えないらしい。
「ふふ、何を逃げしようとしているんですの?」
「ええ、そうですよ。言い逃げは駄目です。」
「ええい、離せ。」
抵抗はしたものの、この子達から逃げられないのはわかっている。
「アキさんは今、ここにいる8人を娶るとおっしゃったんですわよね?」
おいミルナ、言い直さなくていい。恥ずかしいんだから。やめろ。
「前代未聞の愛の告白ですね。複数人同時とはさすがアキさんです。」
ベルもやめろ。そう言うと本気で屑で外道にしか聞こえないからやめろ。
「で、でも……私を娶ると王にならないといけないかもしれませんよ?」
心配そうな表情で聞いてくるベル。アキを握りしめる彼女の手が少し震えている。
「ベルを娶るのにそれが必要なら王にでもなんでもなってやるわ。文句あるか。」
そっぽを向いたまま宣言してやる。だが彼女はその言葉をアキから聞きたかったのだろう。心から嬉しそうに微笑むベルが傍目に写る。
「ここまで照れて恥ずかしそうにしているアキさん初めてですー!」
「確かに貴重ね!」
「僕も見たい!」
ソフィー、エレン、レオが嬉しそうに顔を覗き込んでくる。やめてくれ、黒歴史なんだからそんなに見ないで欲しい。まあ……うちの子達やベルが嬉しそうな顔をしているのなら別になんでもいいんだが。
ただアリア達はちょっと戸惑っているようだ。少し複雑そうな表情を浮かべている。
「あの、アキさん……私はアキさんの従者ですが……。」
「私もですか……?」
「わ、私もか!いいのか!」
アリア、セシル、エリスが口々に尋ねてくる。自分達がアキとそういう関係になっていいのかと心配しているようだ。どこまでも遠慮しがちな従者達だと苦笑する。
だからはっきりと言ってやる。
「そんなに嫌か?」
「「「嫌じゃない!」」」
「ならよし。黙って俺に娶られろ。」
恥ずかしさを誤魔化す為、つい偉そうに答えてしまった。
「「「はい!」」」
だがそんな言葉でも嬉しかったのか、アリア達は花が咲いたような笑顔で返事をしてくれた。
よかったよかった。
でも本当に早く学園に行きたい。ここから逃げ出したい。むしろ3日くらい家出したい。
「早く離せ。」
「うふふ、ダメです。」
ベルが笑顔で「まだです」と言ってくる。
「そうですわよ、私達の返事ちゃんと聞いてくださいませ。」
お願いしますとミルナが優しく微笑む。
「くるしゅうない、言うがよい。」
「ふふ、そんな恥ずかしがらないでくださいませ。皆、嬉しかったんですのよ?そして私達の答えなんて決まっていますわ。ねえ、王女様?」
「はい、ミルナさん。そうですよね、皆さん?」
ミルナとベルがそう言うと、全員が力強く頷く。そして「こちらこそよろしくお願いします」と8人が声を揃えて丁寧にアキにお辞儀してくれた。
こうしてアキは8人のお嫁さんを獲得した。嬉しいけど恥ずかしくて死にたい。この今の感情が「くっ殺せ」状態というものなのだろうか……。
「くっ、殺せ。」




