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「……うん……?」
アキは目を開ける。柔らかく心地よい何かに包まれているようだ。そして手には最高の触り心地のモノを握っている。何かはよくわからないが……とりあえず握りしめる。
「にゃああああ!」
エリザの叫ぶ声が聞こえる。なるほど。どうやらこれは彼女の尻尾だったらしい。それならこの触り心地も納得だ。
「おお、俺の尻尾がある。最高だな。」
「アキ君の尻尾じゃないわよ!」
エリザが反論してくるが、アキはどこ吹く風で尻尾を愛で続ける。どうやら今アキはエリザに抱きかかえられているらしい。きっと早く目覚めるようにとエリザが自分の尻尾を握らせてくれたのだろう。さすがうちの猫だなと満足する。
ちなみにミルナ達は何が起こったのかと目を丸くしているようだ。急にエリザが叫び声をあげたかと思えば、アキが何食わぬ顔で尻尾を愛でているのだから当然かもしれないが。
「ア、アキ君?気が付いたのなら尻尾離して……?後、さっさとどきなさい!」
「やだ。エリザいい匂いだし気持ちいい。」
アキはエリザの胸に顔を埋める。彼女に抱きしめられているのはどこか心地いい。
「きゃっ……ちょ……やめなさ……!ばか!」
エリザは抗議の声を上げるが、振りほどいたりはしてこない。やはり優しい猫だ。
「あ、あの、アキさん?目覚めて早々何をしてるんですの?」
ミルナが引き攣った笑顔を浮かべながら声を掛けてくる。
「俺のペットを愛でているだけだ文句あるか。」
「ぺ、ペットじゃないわよ!」
エリザが頬を染め、大声で叫ぶ。
「アキのバカ!僕がいるのに何やってるのさ!」
「耳!耳より尻尾ですか!アキさん!」
アキの発言で不機嫌になったうちの狼と兎が烈火の如く怒る。
「レオはペットじゃない、俺の狼だもん。そしてセシルは俺の兎だもん。エリザは俺の猫で……ペットだ。」
それだけ言うと、アキはエリザの腕の中でそっと目を閉じる。疲れたし、まだ寝れる。
「だからあんたは!自由すぎるでしょうが!」
今度はうちの猛獣だ。どうやら寝かせてもらえないらしい。
「大丈夫。猛獣はエレンだけだから。」
「そういう事言ってるんじゃないわよ!死ね死ね死ねー!」
「もうなんなのさ。今心地いい気分なのに……。」
アキが軽く文句を言うと、うちの暴走エルフがハイライトを消した目で、淡々と呪文のようにぶつぶつと語りかけてきた。
「アキさん?何しているんですかー?やっぱりお話が好きなんですねー。刺されたのをいい事になにしているんですかー?もっかい刺されたいんですかー?刺した方がいいですー?そしたら私に抱きしめられてくれますかー?」
ヤンデレエルフが完全覚醒しそうなので、これは早めに止める必要がありそうだ。
「アリア。」
呼ぶだけで全てを察してくれたアリア。アキの代わりにいつものトレーでおもいっきりソフィーをぶん殴ってくれた。
「ひゃん……痛いです……。」
「暴走ソフィーは禁止だ。」
「だってー!心配したんですー!」
可愛らしく口を尖らせるソフィー。まあ心配させたのはさすがに申し訳ないと思うので全員に謝っておく。
「ごめんね、心配かけて。」
「謝罪などいらん!何があったのだ!説明しろアキ!場合によっては今すぐ復讐してくるのだ!」
エリスが本気で怒ってくれている。他の子達も「殺せ殺せ!」と騒いでいる。そんなに怒って心配してくれるのはありがたいことだ。でも美少女が「殺せ」コールはやめなさい。
とりあえずアキは事の顛末を彼女達に話す。
「王族襲撃の首謀者を見つけた。ちょっと話をしたら決裂した。そして油断して刺された。終わり。」
分かりやすく端的に説明してやる。まあほぼ嘘だが。
ちなみに月時雨は最後の力を振り絞り、腹から抜いて納刀しておいた。自分で刺したと気づかれない為だ。ただいつの間にか血が綺麗に拭き取ってある。あの時アキにそこまでの余裕はなかったので、きっとエリザがさり気なくしてくれたのだろう。
「アキさんが油断するとは思えないんですが……?」
アリアが鋭い目で指摘してくる。
「元々俺からは攻撃する気がなかったからね。情報を引き出したかったからさ。」
上手く話が繋がるように説明する。
王族襲撃の首謀者に遭遇したから情報を聞き出す為に対話を試みた。相手を警戒させない為、アキから攻撃する気は一切なく、もし相手が攻撃してきたらある程度の怪我は覚悟していたのだと皆に伝える。その結果、攻撃を腹部に受けたので、最低限の治癒だけして死んだふりをした。そのまま意識を失い、倒れていたところをベルに発見された。黒幕はアキが死んだと勘違いしてそのまま姿を消した。
正直、苦しい言い訳だが、筋は通っているから大丈夫だ。そしてエリザは絶対に黙っていてくれる。その証拠に先ほどからアキを抱きしめる手に力が入っている。色々言いたいのを必死に我慢してくれているのだろう。
「アキさん?なんでそんな危ない真似したんですか?ねえ、アキさん?」
ベルが恐ろしく冷たい目で見つめてくる。もの凄く怒っている。そしてミルナ達も同様の目付きだ。めっちゃ怖い。アキに本気で怒る事がない彼女達だから、余計に怖い。
それにいつもは会話に入ってこないエアルとミリーでさえもで説教してくる。
「なんでそんな無茶したんですか!」
「そうだよ!どういうつもりなの!」
さすがに言い訳できない。とりあえず1人1人に謝ろう。先ずはベルからだ。
「ベル、ごめん。ドレス汚しちゃったね。その真っ白なドレス凄く似合ってて可愛いのに。ごめんね?」
「ばか!そんなのはどうでもいいんです!そういう事じゃありません!」
やっぱり謝っても駄目らしい。彼女達曰く「心配させた罪は重い」らしい。もう彼女達に言いたいことを言わせるしかなさそうだ。大人しくこの子達の説教に付き合うことにしよう。
とりあえずエリザの尻尾で遊びながら時間を潰すアキ。
「ほんといつまで抱きしめているんですかー!この泥棒猫ー!」
ソフィーが叫ぶ。
どうやらある程度アキへの文句は言い切ったらしく、標的がエリザに変わった。まあ1時間も言っていたらそりゃ言う事もなくなるだろう。
そして今度はエリザらしい。
「え!?私なの!?なんで私!?」
「理不尽だろ?でも諦めろ。うちの子達はあのモードに入ったら30分は終わらん。」
エリザの尻尾を手でくるくる回す。
「アキ君のせいでしょ!あと尻尾で遊ぶのやめなさいよ!」
「えー、楽しいのに。」
「いいからやめなさい!あとさっさとどきなさいよ!」
エリザに抱かれるのは気持ちよかったが、渋々体を起こす。その際に耳元で礼を囁いておく。今回は本当にエリザに助けられた。
「ありがとう、エリザお姉さん。」
「ふふ、任せなさいって言ったでしょ。」
アキはエリザと見つめ合う。彼女の綺麗な青色の瞳が「大丈夫でよかった」と優しく微笑んでくれているかのようだ。
ただミルナ達には、そんな2人の雰囲気は仲睦まじくイチャイチャしているカップルにしか見えなかったらしい。そしてもちろんうちの暴走エルフや腹黒王女がそれを黙っているわけがない。
「王女様。猫狩りです。」
「ええ、猫鍋にしましょう。」
ソフィーとベルが目から氷のような目でエリザを睨む。アキは静かにソファーから立ち上がり、エリザからそっと距離を取る。
「ち、ちょっと!何で離れてるのよ!こら!助けなさい!アキ君!」
今夜は猫鍋になるかもしれない。




